誠司(勇者)はやっとの事で魔王ルシファーを自室まで運んだ。
気を失っている女の子を自室まで運び込む。その事だけを取るとえらく背徳的な事をしている気分になる。実際のところは卑猥な目的で連れ込んだというわけではないのだが。
しかし。本当にこの華奢な少女が魔王なのか。今でも半信半疑ではある。
「うっ・・・・うっ・・・・・・」
どうやら魔王は目を覚ましたようだ。
「こ、ここはっ・・・・・・・」
「目を覚ましたか」
「そうだ・・・・・・余は確か、勇者の目の前で気を失ってーーはっ」
そして、途端に身構える。
「くっ、卑劣なやつめ」
「いや、なにがだ?」
「余が力を失っている事をいい事に、余の体を好き放題」
「いや待て、誤解だ」
「かつての恨みつらみを、余が気を失っているからといって発散させたのだろう? なんて卑しい奴。とても勇者だった男とは思えん」
「待て、だから、俺は何もしてない」
「なに? 本当か?」
「ああ。本当だ。俺にはそういう興味はない」
「ふむ。そなたはそっちの趣味があったのか。アブノーマルな趣味じゃの。余が男の体でなくてよかった」
そう安堵のため息をつかれる。
「だから、違う! そうでもない! そして、手を出していた方が健全だったみたいな物言いだな」
・・・・・・・・さて、戯れ言はこれくらいでいい。本題に入ろう。
まず本題①だ。
「魔王、どうしてお前がここにいる?」
より正確に言うならば、どうしてこの世界にいる、という事だ。これは勇者にとっても同じ問題である。
「余も詳しくはわからん。しかし、余と貴様との最終決戦が引き起こしたと考えるのが妥当だろう。余と貴様のすさまじい衝突の結果、次元の狭間に亀裂が入ったのだろう。そして、余と貴様はその亀裂に巻き込まれた」
ーーまあ、そう考えるのが妥当といったところか。
さて。次に。
「かつての魔力はどうした?」
「わからん。恐らくこの世界には魔素がないのだろう。だから、力を使う事ができない。例えるならここには酸素がない状態。酸素がなければ火は起こせないのだろう。魔力自体を失ったというよりはエネルギーがない状態だから、魔力を使えない、といったところじゃろう」
「・・・・・・・そうか」
この世界において、もはや魔王は無力だ。そうであるならば闘う理由もまたない。恐らくは元の世界ユグドラシルは平和になったのだ。だとすると当初の目的は達成したとも言える。
「これからどうするつもりだ?」
「わからん。元の世界に戻る方法もない。魔力が封じられている以上、次元の狭間に亀裂を生じさせる方法もないだろう。八方ふさがりと言える」
ーーさて。身よりもないこの少女(魔王ではあるが)をどうするべきか。身よりと言えるものはもはやかつて敵だった勇者しかいないわけではあるが。
ぐーっ。
その時、魔王の腹から音がした。
「むぅ。余は腹が減った。もう何日もまともに食事をしていない」
「・・・・・そうか。待ってろ。今から何か作ってやるから」
とはいっても冷蔵庫の中にあるのは残り物くらいしかないのではあるが。
「敵に施しを受けるとはしゃくだが。かたじけない」
魔王は渋々、勇者の申し出を受ける事になった。
「ーーなんじゃこれは?」
魔王はそう聞いてきた。
「卵かけご飯だ」
「よくわからんが、貧相な食事じゃのう」
「いいから食べて見ろ」
「ふんーー余にこのような貧相なものをーーうまい! 存外いけるではないか」
魔王は凄い勢いでかき込み始めた。
腹が減っている、というのが最高のスパイスかもしれない。腹が減っていれば何でも美味いものだ。
「ふむ。なんだ、この四角い箱は」
魔王はテレビに興味を持ったようだ。
「ああ、それはテレビっていうんだ」
「テレビ? なんじゃそれは」
戸惑うのも無理はない。勇者もこの世界にきた時は戸惑った。
「みてろ」
そう勇者はいい、リモコンをおす。
ーーすると、映像が流れる。
「この箱に世界中の色々な映像が流されるんだ」
「ふーむ。便利なものじゃな」
魔王もまた関心した様子だった。その時流れていたのはニュースだった。
それは高校生が何人か行方不明になっているというニュースだった。なんでも誘拐の可能性もあるとして警察が調査をしているらしい。場所はーー。
「って、これ家の近くじゃないか!」
「なに、本当か」
「そうなんだよ。うちの大家さんの娘さんが通っている高校だ」
「ふむ。物騒なものだのう。どの世界も変わらん」
魔王がいう事ではないとも思うが。
「存外、人間というものは魔物みたいなものかもしれんな」
そうしみじみと言われる。
この世界もまた、元の世界と同じように平和な世界ではないのかもしれない。ただ、魔王というわかりやすい悪が存在しないというだけで。
毎日更新といいながら二日ばかりサボってしまいました。すみません。
これからはできるだけ毎日書いて更新するようにします。