ーーさて。その頃の魔王ルシファーではあるが。
「全く、勇者のやつめ。まるで余をただの穀潰しみたいにいいおって」
そうぶつくさ言いながら歩く。
「ん?」
目についたのはコンビニだった。そしてそこには求人情報が書いてあった。時給780円~ その他色々条件が書いてある。流石の魔王もこの国の通貨単位が『円』である事は知っていた。
つまるところ、これは雇用条件を指しているのだろう、その程度の認識はあった。店内を見れば、そこには客が数名。会計をし、商品を渡す。
「なんじゃ。あの程度の事であるならば、余でも、いや、余ならば余裕でこなせるだろう」
そう認識し、高をくくった。意を決し、コンビニに入る。
「いらっしゃいませー」と、店員。
「たのもー!」
どう考えてもコンビニに入る台詞ではない。まるで道場破りか何かである。
「は、はぁ」
そしてカウンターに詰め寄る。さらには胸を張った。
「喜べ愚民」
「へ?」
「余がこの場ーーこのせせこましい惨めな空間で働いてやる。なんという、光栄だろうか。感極まり、むせび泣いてしまっても致し方ないというもの」
「えーっと」
「なんだ。どうした?」
騒ぎを聞きつけたのか、奥から初老の男性が出てくる。
「店長、この女の子が変な事言っていて」
「ふっ。貴様がこいつの主か」
「主? 何を言ってるんだ。私はここの店長だが」
「喜べ。余がこのようなちんけな店で働いてやると言っているのだ。どうだ? これ以上ない程魅力的な提案だろう。なんという名誉な事であろうか。感激のあまり涙すら流してしまう事だろう。だが遠慮をする事はない。さぁ、余を雇うがいい!」
笑みすら浮かべ、手をさしのべるようなポーズで胸を張った。
沈黙が支配をする。
もはや返答は聞くまでもなかった。
勇者ーー表向きは誠司と名乗っているは新聞配達のバイトを終え、帰宅してきた。
「わっ、どうしたんだお前?」
どんよりとした表情の魔王が部屋の隅で座っていた。
「・・・・・・・勇者か。ありえない事が起きたのだ」
「ありえない事、なんだ?」
「実はなーー」
魔王はコンビニで起こったいきさつを話す。
「あのな。それはお前の自業自得ってものだ」
「な、なぜじゃ。余は魔王であるぞ。人間に対して、平服せねばならん?」
「そもそも、その認識が間違ってるんだよ。あのな、この世界には魔王も勇者も存在しないんだ。表向き、特にこの国は階級というものも存在しない。それなのにさっきみたいな態度をとってみろ、そんなの不採用されるに決まってるだろ」
「そ、そうか。言われてみればその通りだ。余が間違っておった」
「・・・・・・・わかれば別にいい」
ぐぅ~。
またもや魔王は腹の音を慣らす。
「腹減ったのか?」
「う、うむ。卑しいかもしれないが、その通りだ」
「何か買い出しに行くか」
「食料の調達に行くのか、ならば余も行こう」
元より魔王の好みなどわからないのでその方が好ましい。
そうして、勇者と魔王は出かける事になった。
ーーそして、その様子を遠くから見守る二人の人影がある事を誰もが知る由もなかった。
そこには一人の少女と男がいた。一人はフランス人形のような洋服をきた少女。
造形もまた作り物めいている。年齢は少女と幼女の中間といったところか。もう一人の男はタキシードのような格好をした美男子だった。どことなく執事のような印象を受ける。どことなく奇っ怪な二人組だった。
二人の立っている場所が普通の道だったのならば、奇っ怪な二人組というだけで済んだであろう。しかし、事情は異なっている。そこは電柱の上だった。足場などろくにない事から、浮遊をしているのかもしれない。
明らかに人間技ではない事が知れた。
「レヴィアタン様。魔王ルシファー様を見つけました」
「・・・・・・・そうですか。お姉さまは生きていましたか」
「どうやら、その通りです」
「それで魔力の確保の方はできているんですか?」
「はい。この世界には魔素(マナ)は存在しません。ですが、別の方法で確保が可能です」
「力を使えないお姉さまが相手では十分だとは思いますが、念の為バックアップは必要です。できるだけ表立たないようにおねがいします」
「はっ。このベルゼブブ。全身全霊で職務にあたります」
そう、執事の男ーーベルゼブブは敬礼をした。
「待っていてください。お姉さま、もうすぐ私達は再会します。そして、それが恐らく根性の別れになることでしょう」
そう、少女ーーレヴィアタンは笑った。
結構コメディタッチからシリアス展開に落とし込みたがる傾向がありまして。
この作品もその傾向からは外れなさそうです。
一種の癖ですね。特徴というか。