「くっ! ちっ! 何をやっておる! 回復呪文が二秒遅い! ああもう、余が死にそうではないか!」
「・・・・・・・・・」
それは何でもない平日の事だった。魔王はネットゲーム、略称ネトゲをしていた。家にはパソコンがある。当然のように備え付けられているわけではない。買ったに決まっている。パソコンというものは当然のようにインターネットを接続しなければただの箱のようなものだ。
いつの間にかインターネットの接続工事が行われていたらしい。
何でもない事のように、当然のようにネトゲをしていたので、勇者は怒るタイミングを逸していた。
そして魔王も勇者の事などお構いなしといった様子だった。
「な、なぁ。何をやってるんだ?」
「見てわからんか。余はネトゲで忙しいんじゃ。話しかけるな」
「いや、それはわかる。そのパソコンはどうしたんだ?」
「買ったに決まってるだろうが」
「金はどうした?」
「テーブルの上に封筒があって、そこに入ってた」
それは誠司(勇者)の給料である。
「・・・・・・・・」
「あっ、くそ。あとちょっとだというのに、この愚図め。使えないやつ、余の下僕失格じゃ!」
問答無用でコントローラーとキーボードを取り上げる。
「なっ、なにをするか! この無礼者!」
「それはこっちの台詞だこの馬鹿魔王! 働きもしないくせに人の給料勝手に使いやがって!」
「い、いいではないか。それにこれからの時代パソコンは必須だとテレビでも言っていたぞ」
魔王はそう抗弁してきた。確かに一理はある。テレビとは違いパソコンは情報を能動的に集められる。それで仕事をしている人も世の中にはいる事はいる。だが問題はそういう事ではない。
「俺に何も言わずに決めた、そこが問題だ」
「うっ、それはそうだが。申し訳ない。つい出来心で」
魔王はそう言って反省する。
「まあいい。もうやってしまったものは仕方ない」
とはいえ痛い出費だった。パソコンの購入費用、インターネットの接続工事、及び通信費。通信費は月々かかるコストだ。
それだけ家計が圧迫される。誠司の給料はそう多くない。これは痛い出費だ。
「ーーそれより、ヤ○ーという検索サイトに、あの誘拐事件の事が乗っておった」
「ーーそれがどうかしたのか?」
「これを見てみろ」
インターネットに掲載されていた画像を指す。そこには大きな爪痕のようなものが残っていた。
「女子生徒の帰り道に、大きな爪痕が残っていたらしい」
「・・・・・・・どういう事なんだ? それが誘拐事件と関係があるっていうのか?」
「察しが悪いな勇者よ。恐らくはこれは余達がいた世界の生物がつけたもの。魔物のものじゃ」
「魔物のものーー」
それでは誘拐事件というものは人間が起こしたものではなく、魔物が起こしたもの。そう考えるのが筋か。
「そうであるならば余達にも責任の一旦はある。次元の狭間に亀裂を発生させたのは余達であるからな」
「ーーだとすると」
行方不明者の家族には申し訳ない、もしかしたら彼ら彼女らは生きている可能性というものは非常に低くなった。
「こ、これは・・・・・・行くぞ勇者よ!」
突如、魔王はそう言って立ち上がる。
「行くってどこに?」
「魔素(マナ)を感じた。この近くに魔物がいるかもしれん」
「なっ」
「とにかく急ぐぞ」
勇者と魔王の二人はアパートを出た。