六畳一間に魔王と勇者   作:ゲキガンガー

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第一章「勇者、六畳一間から旅立つ」⑧

「うっ・・・・・・・」

 六畳一間のアパートの一室。そこで田村美咲は目を覚ます。

「・・・・・・・ここは」

「気づいたか」

「頭が・・・・・・」

 頭痛がするのか、美咲は頭を抱える。

「夢を見ていたんです」

「夢?」

「怖い夢です。現実ではありえない化け物に襲われて、私死ぬかと思って」

 それは夢ではないのだが、夢だと言うわけにもいかない。

「うむ。貴様は夢をみたいたんじゃ。だが安心しろ。そして、夢は醒めた。もう大丈夫じゃ」そう、魔王は言った。

「は、はぁ・・・・・・そうですか。そういえば、菊池さんの妹さんですよね」

「妹? 何をいってるんじゃ。余はーー」

 ぐっ。勇者は魔王の口を押さえる。そして小声で囁くように言う。

「本当の事言えるわけないだろうが馬鹿。察しろ」

「そ、それもそうじゃなーーこほん」

「そ、そうじゃ。余はこの愚図な勇者ーーいや、愚兄の妹じゃ。愚兄が世話になっておるな」

「誰が愚兄だ! 誰が!」

 ぐりぐり。頭をぐりぐりとする。

「や、やめんか! 痛いではないか。と、ともかくそういう事じゃ」

「は、はい。お世話になります。私はこのアパートの大家の娘で、田村美咲ともうします。よろしくお願いします」

「そ、それより美咲ちゃん。今日はもう夜も遅いし、親御さんも心配してるんじゃないか?」

 誠司はそう言った。それに行方不明者の件もある。実際、美咲も行方不明者の仲間入りをしていたところだ。実際、そうなっていても不思議ではなかった。行方不明者が紛れ込んできたモンスターの仕業だとすると、残念ながら生存は絶望的に近い。

「そ、そうですね。心配させてるかもしれません。夜遅くに失礼しました」

 そういって美咲は帰る。

 ーーさて。これで言えない事はもうないわけだが。

「どう思う?」

「何がじゃ?」

「俺たちの元いた世界、ユグドラシルのモンスターが出てきた。出てきたって事は亀裂が発生しているという事だ。つまりはーー」

 元の世界に戻る事もできるかもしれない。

「そう、もしかしたら元の世界に戻る事も可能かもしれん。だが、もしかしたらあのようにして、この世界に紛れてる化け物が他にもいるかもしれない。そやつらを放っておくわけにもいかんだろう」

「ーーまあ、それもそうだが」

 帰ったところでどうなるというのか。また敵同士になるのか。それはそれで今となっては嫌なものではあるが。

「ーーそれに、紛れ込んでいるのは知性のないモンスターだけではないかもしれん」

「どういう事だ?」

「推測ではあるが、もしかしたら余達のような者も、この世界に紛れ込んでいるかもしれん」

 魔王はどこか遠くを見つめつつ、そう言った。

 

「・・・・・・・本当にこんなところに来て大丈夫なの?」

「ええ。問題ないわよ」

 ーー彼女はある高校の女子生徒だ。名を美島五月という。取り立てて特徴もない、普通の女学生としか言いようがない。そして、隣にいるのは無二の親友である。クラスでも風紀委員を勤め、成績も優秀。素行にも問題ない。そんな彼女に連れられて、五月は人気のない場所にきた。何でも二人でしか話せないような重要な話があるらしい。だから、場所を移したいそうだ。その申し出を断る理由を五月は持ち合わせていなかった。

「け、けど、最近行方不明者が多いから気をつけろって学校でも」

「行方不明者・・・・・・・ええ、問題ないわよ」

 いったい、なにが問題ないというのか。今日の彼女はどこか様子がおかしい気がした。

「さて、この位で大丈夫かしら」

 彼女は周りをみてそう言った。そこは住宅街から離れた丘だった。人気のない場所だ。不審な事件が起きている中、一人ではとてもこられないような場所だ。

 ・・・・・・・そんな場所に連れ込んでおいて、いったい何が大丈夫なのだろうか。

「そ、それで私に用って何?」

「用? ・・・・・・・」

「まさか、忘れたの? 私に大事な用事があるって」

「ああーー、それならもういいの」

「いい? ど、どういう事?」

「用ならもう、済んだから。ううん、正確にはこれから済むんだけど」

 笑った。彼女はそう言って笑う。

「え? なに?」

 彼女の目が赤く光る。それは人の目ではなかった。心臓の奥底をつかまれそうな目。

「き、きゃああああああああああ!」

 誰にも聞こえない断末魔が響いた。

 こうして美島五月は行方不明者の仲間入りを果たした。

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