「うっ・・・・・・・」
六畳一間のアパートの一室。そこで田村美咲は目を覚ます。
「・・・・・・・ここは」
「気づいたか」
「頭が・・・・・・」
頭痛がするのか、美咲は頭を抱える。
「夢を見ていたんです」
「夢?」
「怖い夢です。現実ではありえない化け物に襲われて、私死ぬかと思って」
それは夢ではないのだが、夢だと言うわけにもいかない。
「うむ。貴様は夢をみたいたんじゃ。だが安心しろ。そして、夢は醒めた。もう大丈夫じゃ」そう、魔王は言った。
「は、はぁ・・・・・・そうですか。そういえば、菊池さんの妹さんですよね」
「妹? 何をいってるんじゃ。余はーー」
ぐっ。勇者は魔王の口を押さえる。そして小声で囁くように言う。
「本当の事言えるわけないだろうが馬鹿。察しろ」
「そ、それもそうじゃなーーこほん」
「そ、そうじゃ。余はこの愚図な勇者ーーいや、愚兄の妹じゃ。愚兄が世話になっておるな」
「誰が愚兄だ! 誰が!」
ぐりぐり。頭をぐりぐりとする。
「や、やめんか! 痛いではないか。と、ともかくそういう事じゃ」
「は、はい。お世話になります。私はこのアパートの大家の娘で、田村美咲ともうします。よろしくお願いします」
「そ、それより美咲ちゃん。今日はもう夜も遅いし、親御さんも心配してるんじゃないか?」
誠司はそう言った。それに行方不明者の件もある。実際、美咲も行方不明者の仲間入りをしていたところだ。実際、そうなっていても不思議ではなかった。行方不明者が紛れ込んできたモンスターの仕業だとすると、残念ながら生存は絶望的に近い。
「そ、そうですね。心配させてるかもしれません。夜遅くに失礼しました」
そういって美咲は帰る。
ーーさて。これで言えない事はもうないわけだが。
「どう思う?」
「何がじゃ?」
「俺たちの元いた世界、ユグドラシルのモンスターが出てきた。出てきたって事は亀裂が発生しているという事だ。つまりはーー」
元の世界に戻る事もできるかもしれない。
「そう、もしかしたら元の世界に戻る事も可能かもしれん。だが、もしかしたらあのようにして、この世界に紛れてる化け物が他にもいるかもしれない。そやつらを放っておくわけにもいかんだろう」
「ーーまあ、それもそうだが」
帰ったところでどうなるというのか。また敵同士になるのか。それはそれで今となっては嫌なものではあるが。
「ーーそれに、紛れ込んでいるのは知性のないモンスターだけではないかもしれん」
「どういう事だ?」
「推測ではあるが、もしかしたら余達のような者も、この世界に紛れ込んでいるかもしれん」
魔王はどこか遠くを見つめつつ、そう言った。
「・・・・・・・本当にこんなところに来て大丈夫なの?」
「ええ。問題ないわよ」
ーー彼女はある高校の女子生徒だ。名を美島五月という。取り立てて特徴もない、普通の女学生としか言いようがない。そして、隣にいるのは無二の親友である。クラスでも風紀委員を勤め、成績も優秀。素行にも問題ない。そんな彼女に連れられて、五月は人気のない場所にきた。何でも二人でしか話せないような重要な話があるらしい。だから、場所を移したいそうだ。その申し出を断る理由を五月は持ち合わせていなかった。
「け、けど、最近行方不明者が多いから気をつけろって学校でも」
「行方不明者・・・・・・・ええ、問題ないわよ」
いったい、なにが問題ないというのか。今日の彼女はどこか様子がおかしい気がした。
「さて、この位で大丈夫かしら」
彼女は周りをみてそう言った。そこは住宅街から離れた丘だった。人気のない場所だ。不審な事件が起きている中、一人ではとてもこられないような場所だ。
・・・・・・・そんな場所に連れ込んでおいて、いったい何が大丈夫なのだろうか。
「そ、それで私に用って何?」
「用? ・・・・・・・」
「まさか、忘れたの? 私に大事な用事があるって」
「ああーー、それならもういいの」
「いい? ど、どういう事?」
「用ならもう、済んだから。ううん、正確にはこれから済むんだけど」
笑った。彼女はそう言って笑う。
「え? なに?」
彼女の目が赤く光る。それは人の目ではなかった。心臓の奥底をつかまれそうな目。
「き、きゃああああああああああ!」
誰にも聞こえない断末魔が響いた。
こうして美島五月は行方不明者の仲間入りを果たした。