インフィニット・ストラトス~ギャグとネタに塗れた世界で~   作:黄衛門

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第一話 幼馴染はニュービーニンジャ

 IS──正式名称、インフィニット・ストラトス。それは突如、一人の天才によって生み出された強力な力を持つ兵器の名称だ。

 その性能は凄まじく、ACで言うならネクストレベルの代物である。汚染は無いけど。まあとにかく、そのせいで世界のミリタリーバランスがかなり崩れてしまったのだ

 そして、それを規制する為、一応アラスカ条約で競技としてでしか用いる事が出来なくなってしまっている。なので、兵器という意味に疑問を持つ者は少なくない。まあどこの国も平気でそれを破っているので、建前上のものにすぎないが。

 それ以外にも、女性にしか操れないという欠点を持っていたり、持久力で言えば零戦にも負けたり、実戦で使える性能のは数がたったの三桁しか無いのにミリタリーバランスが崩壊するなんておかしくね? と思うが、そういう世界なのだ。そして、女性なら操れるかもしれないという理由で、それが原因で今の世界では女尊男卑となっているのだが、ぶっちゃけ日本はあんまり変わってなかったりする。精々勘違いブスとババアが付け上がる程度である。

 まあそんな兵器の操りかたを覚え、ISに関する正しい知識を学ぶ為アメリカによって半ば強制的に日本に設立されたのが、IS学園である。一応少しは支援貰ってはいるが。

 

「キサラギ所属、社長令嬢。月影永理だ」

 

 少しだぼっとした、マガジン一本分は入るだろう袖。無駄に長いくせに重力に反逆したかのように、針金でも入っているのではと疑わしくなるくらいなんか尖って床に付かないようになっているコート。黒い瞳は少々とろんとしている。そんな、胸も巨乳な女子生徒が自己紹介をする。

 そんなIS学園の1年1組の教室。谷本癒子という少女の後に自己紹介をした娘の顔を、織斑一夏は思わず振り返って見てしまった。

 先ほど起きた織斑千冬の登場によって巻き起こった黄色い歓声に若干耳を痛めながら、永理は何事も無かったかのように自己紹介する。

 最愛の姉、織斑千冬によく似た凜とした顔立ち、切れ長だが何処かふんにゃりとした眼。そして長い髪。長年織斑千冬の弟をやってきた一夏は、思わずその顔を見て、酔った千冬姉に似てると思った。

 一瞬の沈黙の後、谷本癒子がおずおずと訪ねる。

 

「えっと……もしかして、あのキサラギ?」

 

「多分、そのキサラギだ」

 

 キサラギ……ISに関わる者であれば誰もが知る企業名である。ISの産みの親である篠ノ之束に、最初に出資し研究施設まで与えた、所謂ISの元祖企業。そして、決して軍事用に転用出来ないコアを生産している唯一の企業でもある。そして名高き変態企業でもあり、今は失われた変態兵器(ロストクレイジーウェポン)計画という、どうしようもない企画を実施中である。

 

「キサラギの社長の娘、という立場だな」

 

 永理の一言に、一瞬しんと静まりかえるが、すぐにまるで爆発したかのようにキンキン喧しい驚きの声が上がり、寝不足な永理の頭にダメージを与える。

 

「……織斑先生、これなんとかなんないですか?」

 

「どうしようもないから諦めろ」

 

 永理の容姿をそのままに眼だけを鋭くさせたような、黒いスーツを着たこのクラスの担任、織斑千冬はうんざりとしたように、しかし何処か面白そうに、すっぱりと切り捨てた。

 

「あれっ、でも名字如月じゃないんじゃ……」

 

「良い質問だ、青年。キサラギはオレの父が好きなゲームの企業から取った社名だ」

 世の中には物凄い発見に好きなキャラクターの名前を付ける学者も居るのだ、不思議な話ではないと永理は思うのだが、一般から見たらそれは異常とされているのだ。最も、キサラギ自体変な会社な訳だが。

 篠ノ之束量産会社と呼ばれたりもするのだ。実際に束がその会社で好き勝手やってる辺り、割りと的外れな例えではない。

 

「さて、学生の間はネタまみれでいかせてもらおう。それしか脳が無いのでな」

 

「……その喋り方は、そのネタの為か」

 

「ふっ、その通りだ青年。ついでに少々寝不足でな、テンションがおかしい」

 

 不敵に笑い合う永理と一夏、そのやり取りは今日会ったばかりだというのに悪友そのものである。副担人の山田先生がどうすればいいのかおろおろとしており、千冬はパンパンと手を叩く。

 

「はい、次行くぞ次。とっとと終わらせて授業を始めるぞ」

 

「織斑先生、始業式は無いんですか?」

 

「今は生徒会長が不在なので、明日執り行う。本来は無いのだが、どうしても生徒会長がやりたいらしいからな。勿論、通常授業もやるぞ」

 

 担任の織斑先生はそう言い閉めると、手を叩き自己紹介の続きを急かす。間に数人ほど置いてから、黒髪のポニーテールが特徴的な凛とした美人がゆっくりと立ち上がり、手を合わせ奥ゆかしくお辞儀をする。その胸は豊満であった。

 

「ドーモ皆さん、初めまして。篠ノ之箒です」

 その言葉に、生徒はともかくとして担任である千冬さえも固まった。山田先生はどうすればいいのかおろおろとしており、胸が揺れる。これでは青少年のなんかが危ない!

 

「ほ……箒ちゃん? 一体どうしたんだ?」

 

 いきなりの奇っ怪な挨拶に、思わず千冬が昔の呼び方をする。

 それほどまでに衝撃的だったのだ。そりゃあ。昔は文武両道、という四字熟語を擬人化させたような人間だったのに、いきなりヘッズになってたら誰だってびっくりするだろう。

 

「……そういや箒、昔から影響を受けやすかったな」

 

 一夏は何処か遠くを眺めながらそう呟く。これは千冬と束しか知らぬ話だが、そもそもの話、ISが造られた切っ掛けは箒がフォーミュラフロントをやっている時に「企業同士のメカバトルを生で見たい」という願望を束が叶える為に開発されたものなのだ。馬鹿馬鹿しい話ではあるが。

 宇宙開発用というのも、兵器開発とか言ってたら日本では取り合ってくれないかもと束が危惧したせいででっち上げた名目のものである。

 

「好きなものは寿司です、特に玉子が好きです。以上です」

 

「アッハイ」

 

 思わず千冬の口から、気の無い肯定の返事が出てしまう。それを箒は一瞥し、ぺこりと奥ゆかしくお辞儀をしてから着席した。

 教室が、シンと静まり返る。篠ノ之という苗字とか、忍殺語とか、何かもう色々と混じり合って脳内がオーバーロード寸前なのだ。

 半ばフリーズしかけている担任のサポートをするのは、箒とまだ出会って間もないので比較的ダメージの少ない山田先生だった。

 

「ハッ。つっ、次の人。お願いします!」

 

 

 (´神`)

 

 

 織斑一夏はぐったりとしていた。二時間目から始まった授業に全く付いて行けず、グロッキーな状態となっていたのだ。全く知らぬ単語と数式のオンパレード。ちなみに永理は寝ていたというのに寝言で完璧に答えるという妙に高等な技術で乗り切っていた。馬鹿と天才は紙一重とはよく言った者である。と一夏は若干の嫉妬も交えてそう思う。

 一夜漬けという付け焼刃の予習では、やはり色々と限界があったようだ。

 

「青年、ゲームは好きか?」

 

 そして、そんな若干の嫉妬の感情を向けた相手がいきなり話しかけてきた。

 女だらけの空間、付かず離れずな周りの女子生徒を出し抜くように、永理が一夏に話しかける。男にしては少々長い髪、整った顔……女殺しだな、と永理は一目見て思った。

 そして、周りから避けられているという状況の中突然話しかけられた一夏は、こちらに視線を向けるばかりで話しかけてこない女子に対し少々不満を持っていたものの、いざ話しかけられたとなったら上手く答えられずにいる。そして、数年ぶりに再会した幼馴染は──相変わらず、馬鹿みたいに大きな文庫本を読んでいる。

 

「えっと……月影永理、さんだっけ?」

 

「覚えていたか、気軽にえーりんとでも呼んでくれたまえ。──で、ゲームは好きか?」

 

 永理の眼はまるでキラキラ遠征でもしたかのように輝いている。男=ゲーム好きという脳内方程式が、永理の中に組み込まれているのだ。一夏は思わずたじろぐ。最愛の姉によく似た容姿の女が、身を乗り出して尋ねてきているのだ。しかも、酔ってキャラが可笑しくなっている状態の。

 

「気軽に一夏でいいぜ。えっと、ゲームに関してだけど、まあ……それなりかな」

 

「ほう……では、一緒に電脳研究部をやらないか」

 

 それは部の勧誘であった。まだ入学して一日も経っていないというのに、いきなり何言ってんだこいつ、という眼を思わず向けてしまう。当然、永理もまだ正式な部員ではない。だが、既に入る事を決めていたのだ。何せ電脳研究部、名前からしてダメ人間が集まりそうな部活である。そしてそういう部活というのは、大抵永理の同族が集まる。

 話の合う友人を作る。クラスに無いのなら洗脳する、それが永理の目論見であった。

 

「……悪いけど、人並み程度にしか嗜まないからな」

 

「やったゲームは?」

 

「バーガーバーガーとたけしの挑戦状」

 

「歓迎しよう、盛大にな!」

 

 一夏のやった事のあるゲームを聞き、すぐに永理はそう答える。バーガーバーガーは初代プレイステーションの隠れた名作、たけしの挑戦状はファミコンという低容量で詰め込めるだけのネタを詰め込んだ製作者の愛と狂気が詰まったバカゲーにして嗜好のクソゲー。それらをやった事がある、それだけで部員としての高いポテンシャルを、永理は見出した。まだ部活に入ってもいないのに。

 

「──わたくしはよくニンジャコマンドーをやっていましたわね」

 

「ニンジャ!?」

 

 箒の後ろらへんに座っていた、見るからに貴族といった感じの、パツキンでボインな女子生徒が永理と一夏に声をかけ、そして何故か箒がニンジャという単語に反応する。永理と一夏は、二人して声をかけてきた方を見る。

 滑らかで長い金髪、アズライトのように青い瞳、制服の上から解る胸の大きさはそこそこだが、その恵まれた美貌と非常にマッチしている、恵まれたスタイル。そしてそんな少女の口から出てきた、予想外のゲーム名。

 

「えっと、君は……」

 

「自己紹介、聞いていませんでしたの? そして篠ノ之さん、なんでニンジャに反応しましたの?」

 

「いっ、いや、何でもない……何でもないんだ、ナンシー=サン」

 

「セ・シ・リ・ア! セシリア・オルコットですわ! ヤバイ級ハッカーじゃありませんわ!」

 

 忍殺ネタに反応する辺り、セシリアには素質ありと永理は見極めた。一夏は(なんで俺の所に集まるんだ)と訝しんだ。

 というより、箒のあまりの変わりように若干一夏は驚いていたのだ。外見こそ昔のまま大きくした感じなのだが、いつの間にか中身が侍から忍者になって──「一夏、忍者ではなくニンジャだ。いいね?」「アッハイ」どういう訳か読心術まで会得したらしい。幼馴染が何処か遠くに行ってしまった事に、一抹の寂しさを覚える一夏であった。

 

「で、えっと……」

 

「重巡洋艦、愛宕だ」

 

「ぱんぱかぱーん! って、艦娘じゃありませんわ! セシリア・オルコットですわ! 愛宕でもナンシー=サンでもありませんわ!」

 

 声を荒げ、肩で息をするセシリアを一夏は「どうどう」と宥める。完全に馬のそれであるが、そこに気が付かないほどツッコみに疲れていたのだ。しかし割とノリに乗ってくれる人である、この人は。

 軽く深呼吸をしてから、元々一夏に話しかけた目的を放し始める。

 

「当然、代表候補生という、ものが、ど、どういうものかわ、解ってい、ますわよ、ね?」

 

「うん、何となく解るから一度水飲んで落ち着け。なっ?」

 

 そう一夏に鎮められると、永理から手渡されたミネラル飲料水を一気に半分ほど飲み、一息付く。そして永理はすぐにペットボトルの蓋を閉め──悪巧みをしている時特有の滅茶苦茶邪悪な笑みを一瞬浮かべ、鞄の中にしまった。

 

「ふぅ……代表候補生というのは──」

 

「ISの世界大会、モンド・グロッソに出れるかもしれない人って事だ。解りやすく言うと」

 

「わたくしの台詞が!?」

 

 台詞を横取りされた事にショックを受けているが、すぐに立ち直る。セシリアは僅か数分でメンタルがかなり強化されたようだ。女は成長するのが早いらしい。

 

「……まあ、とにかく。ISに関して解らないのであれば、わたくしが教えてさしあげますわ。これも代表候補生の務めですもの」

 

「ああ、今の所は大丈夫だ。何となく付いて行けてる」

 

「まだ初歩の初歩しかやっておりませんわよ?」

 

 セシリアの言葉に、今度は一夏ががっくりと肩を落とす。二時間目の授業でさえ付いて行くのに精いっぱいだというのに、それはまだ初歩、ゲームでいうチュートリアルに値する段階だというのに、一夏の心は既に挫けそうだ。

 いざとなったら、頼らざる得ないかもしれない。一夏は未だに、女の子に頼る男はカッコ悪いという偏見を持っているのだが、この際プライドは抜きにしなければ、授業に付いていく事すら出来ないかもしれない。

 

「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、というのがこの国の諺にありましたわね。頼らずにその場で立ち尽くすより、一時の恥を忍んで聞いた方がよっぽどかっこいいですわよ」

 

「何か、カッケーなあんた」

 

 一夏がぼそりと呟くと、それに満足げに腰に手を当てふふんと笑う。それとほぼ同時に、授業開始のチャイムが鳴った。

 

 

 (´神`)ガッチターン

 

 

 既に日も落ち始めた放課後、HRの時間に、千冬が教卓に立つ。一夏は解らない授業や、周りが女子しか居ないという教室で向けられる好奇の眼。昔パンダに「寝転がってるだけで飯食べる事が出来るなんていいな」と思ってしまいごめんなさい、と心の中で謝る。想像以上にそういう眼で見られるというのは、精神がすり減らされるのだと実感した。

 

「さて、ではクラス代表を決める。自薦他薦は問わんが、辞退は認めないぞ」

 

「はい、織斑君がいいと思います」

 

「私もいいと思うな」

 

「ちくわ大明神」

 

「えっ……えっ!?」

 

 とんとん拍子に話が進み、一夏がいきなりそんなのに指名され戸惑っている。そりゃそうだろう、ISの事を何も知らない人間に、そんな話を振られたら誰だってそうなる。

 クラスが一夏押しになる気配を感じ、セシリアは千冬に異議を申し立てた。

 

「ミス織斑、クラス代表というのは即ちクラスの顔、という認識でよろしいでしょうか」

 

「ああ、それで構わんぞ。それと私の事は織斑先生と呼べ」

 

「でしたら、ISに関して素人である織斑一夏をクラス代表にするのはいかがなものかと。何せこれまでやってこなかったISに関する知識、ただでさえそれらで他の生徒より遅れている分を取り戻すのに手いっぱいである一夏さんにクラス代表をさせるというのは、少し彼に負担がかかりすぎるとわたくしは思います。それに、クラス代表であればそれなりの力を示さねばクラス全体の恥。他のクラスでも、おそらく企業代表や国の代表候補生を選ぶ事は明白。ですのでここは、審査員に勝ったわたくし、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットが自薦しますわ」

 

 確かに、セシリアの言う事は理に適っている。一夏はセシリアにアイコンタクトで感謝すると、セシリアはウィンクで返した。助け舟を出してくれたのだ、地獄に仏とはまさにこの事である。

 しかし、出て来てもここは地獄。千冬は少々意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「しかし、一夏も実技試験の際試験官に勝利した。このクラスには三人も居る。クラス代表とは顔である依然に、力だ。力を示すというのは古今東西、何処でも権利を勝ち取る方法だ。それが、当人が望もうが望むまいがな。それに、私はこう言ったぞ。自薦他薦は問わんが、辞退は認めない……。

 オルコット、それと織斑、……貴様らが決闘し、そのどちらか勝った方をクラス代表とする。それで異存はないか?」

 

「いいや、オレ──キサラギ代表、月影永理も自薦しよう。クラス代表というのはつまり、目立つ事が出来るという事だ。で、あればそのチャンスを逃す理由は無い」

 

 セシリアが一夏に手で謝るジェスチャーをしている際に、永理も自薦し始めた。彼女の目的は、まず目立つ事。これ一つに尽きる。何せ学園に来た理由は、自社製品の宣伝なのだから。

 新兵器、それのお披露目としてクラス代表というのは持って来いなフィールドである。

 

「……あの、先生。辞退は」

 

「クラス代表ともなれば、後に就活に有利にな「やらせていただきます」よく言った」

 

 計画通り、という感じの悪い笑みを浮かべ、千冬はHRを終わらせた。千冬は教師である前に姉なのだ、弟の扱い方はよく解っている。

 しかし一年生という時期から就職に関する事に気を向ける一夏に、一抹の不安を覚える千冬であった。

 

 

 (´鍋`)

 

 

「お力になれず、申し訳ありませんわ……」

 

「いや、大丈夫だよ。むしろありがとう、俺の為に言ってくれて」

 

 しょぼんと落ち込むセシリアを励ますように、一夏が元気づける。ここはIS学園の寮内、無駄に豪勢な廊下にふかふかの絨毯を、二人が肩を並べて歩く。

 寮、という事はつまり同室は女性という事になっているのだが、姉である千冬に抗議しても「朴念仁なのだから丁度いいだろう」と言って話を聞かない。何が丁度いいのだ、と不満を覚えたがそれを抗議しても暖簾に腕押しなのは目に見えている。

 はぁ、と溜息を吐きながら、一夏は扉の前で立ち止まる。『1027室』というプレートが付いた部屋。食事前に最低限の荷物整理は終わらせたいのだ。

 

「んじゃ、俺この部屋だから」

 

「ええ、また後で……あ、それと、同室の女の子に手を出しちゃ、いけませんわよ?」

 

「出さないから!」

 

 朝にからかわれた仕返しとばかり、割とシャレにならないジョークを一夏に投げかける。一夏はそれを必死で否定するが、セシリアはうふふと笑うだけ。

 ひらひらと手を振りながら自分へ割り当てられた部屋へと向かうセシリアの背中を見送って、一夏は部屋の扉を開けた。

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

 

 そしてすぐ閉じた。

 ありのまま今起こった事を放すと、久しぶりに会った幼馴染がサラシ一枚で真剣を素振りしているのだ。そう、真剣である。真剣という事はつまり、真剣である。この時一夏の脳内はかなり混乱していた。

 久しぶりの幼馴染がサラシ一枚で素振りをし、しかもそれが真剣。更に一夏は聞きなれていないニンジャシャウト。訳の分からない出来事があまりにも起きすぎていて、頭がどうにかなりそうなのだ。

 

「……どうした青年、扉の前で頭抱えて」

 

 永理が、訝しげな面持ちで扉の前で頭を抱えている一夏に尋ねる。

 

「えっ、永理。久しぶりに会った幼馴染みがニンジャで、サラシで真剣を素振りして、もう訳が解らないよ」

 

 ありのまま起こった事を話す一夏。その眼は若干涙眼である。

 一夏の説明は何の不足も無いが、だがそれは理解してもらえるとは同意味ではない。

 

「ふむ、しかしそこでは注目を集めてしまうぞ? オレも含めて、服装はこんなんだしな。かなりヤバいのではないか?」

 

永理の今の服装は、男物のYシャツ。それだけだ。下はズボンを履いていない、下着一丁である。一夏が慌てて眼をそらすと、そこには割りと際どいホットパンツ。そして屈む姿勢なので胸が強調されている、所謂だっちゅーの状態の女の子。

 

「一夏君? こんなところでどうしたの?」

 

 一夏が突然眼に飛び込んできた毒にすっとんきょんな声をあげると同時に、バタバタと、まるで音に群がるゾンビのように、女子がラフな格好で出てきた。

 

「あれ、どうしたの一夏君?」

 

「私が見たところ、あれは痴話喧嘩ね」

 

「というか永理さん、その格好……」

 

「オレは気にしないのでノーマンダイだぜ」

 

「えっ、一夏君はホモじゃなかったの!?」

 

「違うから! 痴話喧嘩じゃないから! あと俺の事ホモって言った奴後で覚えてろよ!?」

 

 眼の毒から必死に眼を背ける様子を、永理はしばらくの間面白そうに眺めていたが、数十秒もしたらそれにも飽きたので、一夏の言葉の真偽を確かめる事にした。

 

「どうせ見間違いだろ、乙女がそんな事する訳」

 

「イヤーっ!!」

 

 箒が空中に浮かぶ空き缶に向けてスリケンを投げる。カカカンッ、という軽快な音と共に、空き缶に三個ほどのスリケンが貫通する。

 そして、着地した際に胸を隠していたサラシが激しい運動をした事によって緩み、ポロリと胸が露になる。永理はその瞬間「眼福」と呟いた。

 

「むっ、外れたか。まあい……い……!?」

 

 扉の向こう側から覗く永理と一夏に気付き、一瞬表情が硬直したかと思うと、すぐにトマトのように真っ赤になり慌ててベッドのシーツで身体を隠す。その様はまるで事後のようだ。

 

「……い、いつから見てた……?」

 

「素振りの時から」

 

「……何故貴様がこの学園に居るのだ」

 

「えっ、今更?」

 

 何と箒は、昔からの幼馴染である一夏が女しか居ない筈のIS学園に居た事を知らなかったらしい。気を取られ過ぎだろ、と一夏は久しぶりに会った幼馴染のあんまりな残念さに軽く頭痛を覚える。

 

「一夏……服を着たいから、扉、締めてくれないか?」

 

「あっ、わっ悪い!」

 

「チッ!」

 

 一夏が慌てて扉を閉める。どういう訳か一夏の隣で部屋を覗いていた永理は大きく舌打ちをしていたが、今は関係の無い事だ。

 それよりも、これからどうするか。同室で、しかも胸を見てしまったとなれば、しばらくの間はお互いにしばらく気まずい雰囲気になってしまうだろう。

 居心地の悪い予想未来に対し、一夏は深く溜息を吐いた。




 この作品では多数のオリジナルISが出ます。
 感想とか割とほんわりと返します。
 それと別作品「月影永理の暴走」はPCの方で、こちらの作品は携帯の方で執筆しているので、執筆速度はそれほど下がらないと思います。
 この作品におけるISはニンジャです。

◆IS◆
 IS名鑑#01
【白騎士】
 十年前、世界中から放たれたミサイル二〇〇〇発以上と戦闘機を全て刀一本で切り払った、第零世代型にして世界最初のIS。
 なおハッキングに使われた機材と共に、キサラギ製との噂があるものの、その真偽のほどは疑わしい都市伝説扱いである。
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