インフィニット・ストラトス~ギャグとネタに塗れた世界で~   作:黄衛門

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第二話 高出力こそ乙女の夢

 せまっ苦しい体育館の中に詰め込まれた、一年生一同。ざわめき合うのは、これから何が起こるのか解らないからか。従来ならば無い筈の始業式、突然のイベントにざわめく生徒。噎せ返るような女の臭いが充満し、一夏のSAN値を削っていく。やはり一夏は男、こういった状況に慣れろというのがどだい無理な話なのだ。

 しかし、会場の上にある一人の女子生徒が現れてから、皆は一斉にざわめくのを止め、そちらに集中する。外にハネた癖のある水色の髪、凜とした佇まい。ISに関して少しでも知っている者であればすぐにそれが誰か合点が生き、ISを全く知らないでいた一夏もただ者ではないと悟る。

 ゆっくりと、威風堂々という言葉の似合いそうな歩き方で壇上の上に立つ。

 一秒、二秒だろうか。しばらくの間何も言わないでいたが、それがまるで十分も経ったように感じ取れた。しかし、まるで意を付くようにいきなり息を吸い、そして大声で言い放った。

 

「私がIS学園生徒会会長、更識楯無である!!」

 

 その一言で解る人の腹筋にかなりダイレクトなダメージが通った。勿論、教員も笑っている。一夏含む解っていない一般生徒はぽかーんとしているが、満足げにうんうん頷く会長はそんなのどこ吹く風。

 

「以上!」

 

 その二文字で一気に体育館に集められた人たちはずっこけ、会長は『男塾』と書かれた扇子を広げてから教壇を後にした。

 結局名乗っただけで、生徒会会長更識楯無は始業式を終わらせた。だが皆の脳内に刻み込まれただろう、生徒会長の名を。

 

 

 (´神`)

 

 

 昨日より割とダウンした様子で、一夏はぼんやりとアリーナの席に座っていた。朝によく解らない出来事に巻き込まれ、更に解らない単語と略語と専門用語のオンパレードである授業を受けた後、放課後に開催されたクラス代表を決める戦い。本来であれば一夏もピットの方でスタンバイしている筈なのだが、昨日色々ゴタゴタがあった後、メールで『お前専用機持ちになるから、対戦は一か月後な(意訳)』的なメールを実の姉である千冬から送られてきたのだ。

 なので今日はぼんやりゆっくりと、ISの戦闘を見る事が出来る。空はあんなに青いのに、その下で行うのはドンパチ合戦。とはいえ死ぬ事も無いし、軍事用ではないので何か大きな事件が起こる事も無い。実に平和な光景だ。我が身を痛めぬ戦争に意味は無い的な事をどこぞのアジアチャンプが言っていた気がするが、きっと気のせいだと一夏は思い直し、今日はゆっくり何も考えず観戦しようと思う。

 一夏の隣では、どういう訳かニンジャらしく改造し、胸の北半球を大きく露出させた制服を着た箒がベンチの上で正座をしながらスシを食べている。曰く、スシは一般的なニンジャフードらしく、カラテの補充に最適らしい。カラテっていったい何なのさ、と一夏が尋ねると、無駄にどやっという効果音が似合いそうな顔で「カラテはカラテ、ISにおける全てだ。いいね?」と言われたので「アッハイ」とした答え様が無かった。

 ちなみにISを操るのに色々とトレーニングは必要になってくるが、別に空手をしなくての十分使える。というか箒がやった事があるのは剣道ぐらいなのだが、もう一夏は色々と面倒くさくなったので難しい事を考えるのをやめた。

 

「しっかし、俺が専用機持ちねえ……何か、実感わかないな」

 

「何処ぞの平行世界とは違い手に入れやすくはなっているが、それでも専用機持ちは実際珍しいぞ? よかったではないか、ブッダオハギだ」

 

「なんでオハギ? というかブッダってなんだよ。つーかどういう意味だよ」

 

 一夏はニンジャヘッズではなくモータルなので、剣豪哲学者ミヤモト・マサシのコトワザを知らないのである。というか、知らないのが普通で、それで会話が続いていた前話が可笑しいのだ。

 箒は「コトワザは自分で知らねば実際身に付かない」とだけ言うと、タマゴ重点のスシを食べる。一夏も箒に買ってもらったスシ(マグロ重点)の包みを開き、それをお茶請けにしながら食べる。ワサビが来ないのは、箒が苦手だからだ。一夏はワサビが好きなので少々不満があるが、奢ってもらった手前そんな不満は口には出せない。それに無くても美味いものは美味いのだ。流石IS学園。

 三つほどマグロスシを食べ終え、お茶を飲むと、丁度同時にピットからセシリアと永理が出てきた。

 永理が姿を露わしたと同時に、会場がどよめく。

 

「なっ、なんですのその機体は!?」

 

 セシリアが装着している専用機、ブルー・ティアーズは、一言で説明するなら武装神姫といった感じだ。名前通りの鮮やかな青色、背中には破壊天使を思わせるフィン・アーマー。そして手に持っているレーザー銃は、異様の一言だ。

 中心に大きな筒状の銃に、それをまるで囲むようにつけられた、一回り程小さな銃口。イギリスが産んだ変態兵器、シューティングスターmkⅡ試作機。中距離からでも火力を維持出来るレーザーショットガンである。自身の機体より長く、取り回しにくいが、ISは基本空中に浮いてるので、自身より大きな武器はさして珍しくない。それに近付けなければいいのだ。いいのだが、いくら機能性を重視したとしても、ここまで異形なのは流石に珍しい。

 

「これがオレの専用機、フロムマジックだ。オルコット、派手に行こう!」

 

 しかし、その変態兵器も永理の纏う専用機の前では霞んでしまう。カラーリングは薄い灰色の、中量二脚といった様子の装甲。両腕にはナタのような形のブレードが、手の代わりに取り付けられている。それはまだいい、それより問題なのは、その隣、肩の方で浮いている非固定武装(アンロックユニット)である。

 それは、まるで初代ACのオープニングの序盤でやるアセンのように浮いている腕だった。ガトリング、グレネード、ミサイル、それらの武器腕がすぐ近くで、まるで亡霊のように浮いている。

 武器腕、それは人が操る強化スーツという都合上実現出来ない筈の、男のロマン。それをキサラギは見事、無駄な技術力で形にしたのだ。してしまったのだ。

 フロムマジック、AC好きのキサラギ社長である月影葛龍が自らの願望を叶える為に徹夜で創り上げたゲテモノ兵器である。

 ちなみに永理は普通ではないので、そのロマンに対してかなりの理解を持っている。

 

「というか、お前の持つその銃も十分可笑しいけどな」

 

「それは自覚しておりますので、指摘しないでいただきたいですわ!」

 

 声を荒げながらも決して否定しない辺り、自分の持つ銃がかなりの変態兵器である事は自覚しているのだろう。そもそもイギリスという国自体、変態兵器の王者というイメージを軽いミリタリー好きであれば知っているであろう。何せ、英国面という言葉すらあるのだから。

 

「……まあ、いいですわ。貴女の場合初心者という訳でも無いでしょうし、本気でいかせてもらいますわよ」

 

「当然、遊びこそ本気で打ち込まねば面白くない」

 

 互いに不敵に笑い合い、両者同時にIS装着時に現れるハイパーセンサーからのロックオン警告。セシリアはシューティングスターmkⅡの引き金を引き、永理はISの基本システムであるPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)で機体を浮かせ、瞬時加速で一気に最高速度となり、セシリアに突っ込む。

 シューティングスターmkⅡから放たれた青いレーザービームは銃口から数センチほど離れた所で、太いレーザーから子離れするようにカクンと直角に曲がり、複数に分裂し花火のように広がる。

 開発者は面の制圧の為にはこの方が良いと言っていたが、明らかにただやりたいから、である事は明白であった。そのせいで開発がかなり遅れたのだが、開発者の大義名分通り、そのレーザーを見て永理は少し顔を歪め、瞬間的に最高速と停止の身体に負担のかかる加減速を行い、レーザーをすり抜け、ブルー・ティアーズに一閃。永理に当たらなかったビームがアリーナを覆う遮断シールドに当たり、バリアを一瞬赤く染める。

 それも読めていたセシリアは瞬間加速で後ろに下がると、非固定武装のフィン・アーマーの銃口が永理の方へ向き、一気に放たれた四本のレーザーで一気に、フロムマジックのシールドエネルギーを削り、煙が機体を隠す。

 更に、そこへ駄目押しにすぐさまシューティングスターmkⅡの引き金を弾き、レーザー光線を当てる。今度はシューティングスターmkⅡの反動を殺さず、攻撃も兼ねてそれで後ろに距離を取る。

 

「……瞬間火力は凄まじいですが、やはりかなりエネルギーを消費しますわね。これ」

 

「ああ、凄まじい火力だ」

 

 煙の中から、ナタのような剣をクロスで防御しながら永理が姿を現す。どういう訳か刃が青く輝いている。まるで、シューティングスターmkⅡのエネルギーを吸収したかのように。

 思わず、セシリアの顔が驚愕に歪む。それは一瞬だが、永理にとっては十分すぎる隙だった。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に懐へと入り込み、左腕の武装を解除しながら右腕の武器で袈裟斬り、セシリアのエネルギーを削る。それに一瞬遅れて距離を取るが、それは悪手。

 左腕の装甲が解除され、代わりにハメこまれた武器腕のグレネードが火を噴いた。爆熱だけでもエネルギーを削る弾を直撃させられたらただでは済まない。結局セシリアのエネルギーは、永理を削ったエネルギー以上に削られてしまう。

 

「なっ、なんで無事ですの!? シューティングスターmkⅡはカスるだけでもかなりのエネルギーを削るというのに!」

 

「なに、剣がエネルギーを吸収し、シールドエネルギーに変換するという特性を持っているだけだ。最も、現段階じゃ相殺が精々だけどな」

 

 永理の持つ剣、名を『エネルギー吸収装置・クエンサン』。ダサい名称ことこの上ないが、その性能は折り紙付きだ。予備動作として刃を重ねなければならないので、片方の腕が別のに移り変わっていたり、片方の剣が破壊されていたら使用する事は不可能になってしまうという欠点を持ってはいるが、欠点の無い武器なぞこの世には存在しないのだ。

 ちゃっかりと右腕をブレードからミサイルへウェポンチェンジする永理に、セシリアはニヤリと不敵な笑みを向ける。

 嫌な予感がした瞬間、永理のハイパーセンサーから警告音。しかもそれは四方から。右腕にミサイル腕が装着された瞬間、上や下、左右から青い閃光が降り注ぐ。自立兵器、永理は一瞬でそれを悟り、回避に専念する。しかし、それらに気をやると、その隙を狙うようにシューティングスターmkⅡを放たれる。再度花火のように広がる閃光。武器剣に切り替えるには三秒ほどの時間が必要、展開している間に撃ち抜かれてしまう。太い光線も、四方から連射される光線もかなり不味い。下手をすれば一瞬でエネルギーを削り取られてしまうだろう。

 どちらにせよ、無傷では済まない。で、あれば一番被害の少ないであろう場所を行くのは自然の道理。シューティングスターmkⅡの連動光線の方に向けて、スラスターで加速。それと同時に適当な狙いで、右腕のミサイルを発射。

 ブルー・ティアーズに放たれたミサイルはひどくゆっくりで、撃墜されるのも時間の問題だろう。しかし、撃墜しようとするとどんな人間でも、代表生でない以上必ず隙が産まれる。

 セシリアもその狙いに気付いてはいるが、既にシューティングスターmkⅡは発射されており、銃口を動かすという荒業は不可能、自立兵器を動かそうとしても、既に間に合わない距離にまで接近されている。

 永理は左腕のグレネードをありったけセシリアにぶち込む。が、セシリアは驚く事にシューティングスターmkⅡを捨て

 

「インターセプト!」

 

 セシリアが叫び、脚部装甲の一部から一振りの剣が現れる。

 音声認識、武器を上手くイメージ化出来ない初心者向けのシステム。それに頼るという事は、邪魔なプライドを捨てて貪欲に勝利を掴みとろうとしているという事。自立兵器で永理が腕から出したミサイルを迎撃しながら、セシリアは慣れぬ手つきで剣を薙ぎ払う。

 乱雑に撃たれたビームは、しかし数うちゃ当たるという言葉通り、弾速も遅い事と相まって容易に迎撃する事は出来た。しかし、ここで想定外の事態が起きる。ミサイルの爆発が予想以上に大きかったのだ。

 その火力を永理も想定していなかったのだろう。爆風をまともに受け、姿勢を崩してしまった一瞬。薙ぎ払った剣は永理の胴体に吸い込まれるように近付き、エネルギーを削る。

 またしても現れた隙、今のうちに仕留めなければ、負けるのは目に見えている。しかし、格納されているあの兵器を──名前だけかもしれないが、あの変態兵器の名前がついているものを使うのには、どうしても抵抗があった。

 だが、負けたくない。その一心から、意識せずに言葉が、認識させる為の言葉が飛び出す。

 

「パンジャンドラム!」

 

 ──そして現れたのは、BTエネルギーを出力として荒ぶるように回転するボビンだった。

 

「えっ」

 

 永理の眼が点になると同時に、回転しながら勢いよく突っ込んでくる荒ぶるボビン。ブルー・ティアーズと同じく青く塗られているが、その形状はどう見てもあの変態兵器、キサラギが現代に蘇らせたパンジャンドラムそのものである。

 勢いよく激突するパンジャンドラムによって、永理の意識は持っていかれた。最後に見たのは、勢いよく永理の方へと加速してきたセシリアの姿であった。

 

 

 (´神`)ガッチターン

 

 

 セシリアが永理にパンジャンドラムをぶち当てたと同時に、セシリアが勝利した事を報告するアナウンスが流れる。しかし、今セシリアの頭の中にあるのは、混乱であった。

 ついこの前、入学するほんの数日前にブルー・ティアーズへ導入された新兵器、とだけ聞かされていたのだが、それがどんな兵器なのかまでは聞かされないでいた。しかし急きょ導入する事となったのだから強力な兵器なのであろう、という確証は持っていた。持っていたが……

 実際その期待は裏切られてはいない。永理は今、セシリアの腕の中で気絶している。その事からしてそれは間違いでは無かった。

 しかし、その形状が問題だ。ISに関わる事となると自然にミリタリー関連の知識も身に着けられ、そこから興味が湧いたセシリアは母国の兵器について調べた事がある。その中に乗っていた『変態兵器』という、お世辞にも褒められたものではない称号を持つ兵器の代表として挙げられていたのが、これだ。

 最初は名前が同じだけの別物かと思っていた。いや、そう思い込ませていたのだろう。自分に、イギリス代表候補生という物凄く重要な立場に変態兵器なんぞ持たせる訳が無いと。それでも使用を躊躇っていたのは、無意識のうちにそれが変態兵器だと察したからだ。だが、心のどこかで、変態兵器ではない可能性を信じていた。

 しかし結果はこの様だ。地面で荒ぶるボビンを眺めながら、セシリアは諦めたように溜息をつく。

 ちなみに、フロムマジックの非固定武装は、セシリアが永理を抱きかかえるのに邪魔にならないように距離を開けて浮いている。理論上は別に装着し直さなくても撃てる筈なのだが、やはりお約束というものなのだろう。努力の方向性間違ってますわよ、と声を大にして叫びたいセシリアではあったが、別に叫んでも現状が回復する訳でも無いし、荒ぶるボビンが鎮まる訳でも無い。

 

『……オルコット、色々言いたいだろうが一先ずパンジャンドラムを戻し、ピットに戻れ』

 

 千冬の呆れた様子の声が聞こえてきた。一先ずパンジャンドラムを粒子化で格納し、ピットへと入る。ISを立ったまま固定させる機械や、脇に置いてある大量の重火器。酷く殺風景だが、それはピット以上の動きは必要ないからだろう。

 

「一先ず、お疲れ様とだけ言っておこうか。それと月影、そろそろ起きろ」

 

「はいはい、解りましたよ先生」

 

 ピットでセシリアの担任である千冬先生が労わりの言葉をかけてきたのに嬉しさを感じつつも、永理を落とさないようにゆっくりと床へと下ろす。相も変わらず、千冬は黒いビジネススーツ姿だ。ピシッと決まっており、大人な女性という雰囲気。対してよく似た容姿の永理は、ISスーツという水着にも見える奴だが、その眼はまるで酔ったようにまどろんでいて、二人が並んでいる様子はまるで姉妹のようだ。そしてそれを眺める担任の山田は、何か嬉しそうだ。

 ISを待機形態に戻し、イヤースカーフを元の場所に付けてから、副担任の山田先生が差し出してくれたタオルで首の汗を拭う。永理は拡張領域からよく冷えたミネラルウォーターを取り出してから、ISを待機形態に戻した。

 

「色々と言いたい事はあるだろうが、愚痴ならいつでも聞いてやる。色々と苦労しているようだしな」

 

 何処か労わるような、同情するような眼差しを向けられ少し困惑するセシリア。とはいえ、その心遣いは嬉しいし、限界になったら相談に行こうと心に誓う。

 

「あの、月影さん。それ……なんですか?」

 

 山田先生が永理の待機形態となっているISを指差しながら尋ねる。永理のISの待機形態、それはちょっと昔──そう、世はバブル景気でディスコとか流行っていた時代、たまごっちが出回っていた時代に携帯の代わりに広く流通していた、ポケベルに似た形をしている。というか、ポケベルそのものだ。

 セシリアも千冬先生も解らず首を傾げ、永理は「ジェネレーションギャップかぁ……」と嘆く。

 

「ポケベルですよ、ポケットベル。まあ、もう世代じゃないから解らないでしょうけど」

 

「いや、貴様も世代じゃないだろ。嘆くな、何歳なんだ貴様は」

 

「平成生まれ昭和育ちですが、何か?」

 

 腰に手を当て、無駄に腹立つドヤ顔でそう言い切る永理。何故か様になっている。ちなみにこの学園に努めている教師は、用務員と学園長以外全員平成生まれだ。だというのに男塾のネタが解ったり、色々と腑に落ちない所はあるが、永理はあえて追求しない。藪蛇だと解りきっているのに好んでつつくほど、永理はMではないのだ。

 

 

 (´鍋`)

 

 

 女子寮のバルコニー、綺麗に世話をされた色とりどりの花が月明かりに照らされ、神秘的な雰囲気を出している。永理は椅子に腰かけ、手元で黒い小さなボタンを弄りながら、夜空を見渡す。

 本来であれば永理も他の女子生徒と同じように、同室の生徒と喋っている頃だ。普段であれば永理もその中に入っていただろう。だが、今日は気分が乗らない。

 

(セシリアに負けたせいか……)

 

 らしくないな、と永理は自嘲気味に笑いながら、キンキンに冷えた麦茶をストローで吸う。あの時、確かに自分は嬉しさを覚えた筈だ。自社製品がトドメとなって負け、新型ISの性能テストも出来た。それ以上、何を望むのか。勝つに越した事は無いが、負けたとしてもここまで引っ張るのはらしくないし面倒だ。それが、永理の本来の思考の筈。

 グラスの中の氷が、からんと音を立てる。

 

「あら、こんなところに居ましたの?」

 

「ああ、ここは夜空が綺麗だからな」

 

 後ろから声をかけてきたセシリアは、夜空を見渡し感激の声を洩らす。

 イギリスではそう珍しくないだろうに、と永理は薄く笑いながら、麦茶を飲む。キンキンに冷えた水が、春の夜風で冷えた身体をさらに冷やす。

 

「わたくし住んでいたのは都会の方でしたので、こんな夜空を見るのは初めてですわ」

 

 くつくつと笑いながらボタンを押すと、途端に星は見えなくなった。セシリアが慌てて辺りを見渡すも、星々のダイヤモンドは、まるで最初からなかったかのように消え去ってしまった。

 慌てふためくセシリアに、永理はくつくつと笑う。

 

「ど、どうして見えなくなってしまいましたの!? まっ、まさか世界が終わりになって──」

 

「タネはこいつさ」

 

 手元のボタンを見せつけながら、もう一度ボタンを押す。するとまるでテレビの電源を入れたように、また宝石箱をひっくり返したような星空が現れる。

 

「ハイパーセンサーを薄く張って都会でも満天の星空を楽しめるって商品、の試作品だ」

 

「まあ、そうでしたの……イジワルですわね、貴女」

 

 腰に手を当てぷりぷり怒るセシリアに、くつくつと笑う永理。まるで旧友のようなやり取り。一度戦い合った奴らは仲間になる、それはIS学園で必ず実現するジンクスだ。要するに、喧嘩とかそんなのをしていたら模擬戦で互いに全力を出し合えば、いつの間にか仲良しになっているというもの。別に永理とセシリアは仲が悪かったとか、そういうのではないのだが。交友関係を広げるのもまた、IS戦の醍醐味と言えるだろう。

 

「身体、冷えますわよ? まだ春とはいえ、夜は肌寒いですわ」

 

「火照った身体を冷ますには丁度いいさ、どうもあの時の熱が取れ切っていない」

 

 くつくつと笑いながら、永理はグラスを傾ける。喉を冷たい液体が流れ込み、身体を冷やす。

 

「オルコット」

 

「セシリアでいいですわよ、わたくしも永理さんと呼びますので」

 

「……セシリア、次は負けないぞ」

 

 永理の言葉に目をぱちくちさせ、そしてクスリと笑う。

 消灯時間まで二人は、他愛ない雑談を交わし合いながら夜空を楽しんでいた。セシリアが、此処に来た理由を忘れるほどに楽しいひと時を楽しんだ。




◆IS◆
 IS名鑑#02
【フロムマジック】
 キサラギイギリス支部が開発した最新機能『武器腕』を取り入れた、全く新しいタイプの機体。実験機・試作機としての色合いが強く、塗装もろくにされていない(これは搭乗者の趣味によるものが大きい)。IS適正が高くなるにつれ機体を扱うのが難しくなるという欠点に眼を瞑れば、カタログスペックは最高といっていいだろう。
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