インフィニット・ストラトス~ギャグとネタに塗れた世界で~   作:黄衛門

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第三話 シャアは来ない

「……来ないな」

 

「いざとなれば訓練機でやればいい。何、第二世代ならゲルググくらいの戦力にはなる」

 

「それ、どの時代基準で言ってる?」

 

 永理とセシリアの対決から約一週間後、ついに一夏の専用機が完成したとの報告が入った。なので急きょ半ば無理矢理やらされる決闘の予定が入ってしまったのだが、その専用機というものが一向に届かないのだ。

 オイルと鉄と火薬の臭いが染み込んだピット内、茫然と立ち尽くす一夏と、文庫本片手にのんびりと待っている箒。

 今待っているのは、織斑一夏の専用機。今日中に届くとの話なのだが、どういう訳か未だに届かない。

 

「……ところでさ、箒」

 

「どうした一夏=サン」

 

「ISの訓練、やった記憶無いんだけど」

 

 やったのは前日、永理に瞬時加速(イグニッション・ブースト)というテクニックを教えてもらったくらいだ。少なくとも、箒から何かISに関する事を教えてもらった記憶は無い。

 

「ISでの戦局を決めるのはカラテだ。兎に角カラテを鍛えるのだ」

 

「いや絶対違うと思うぞ、というかお前がやってるの剣道じゃん」

 

 そう、一週間の間一夏は、箒と共に来るべき決闘の為に訓練に明け暮れていた。ブリュンヒルデの弟として、無様な試合を見せる事は出来ないので、ISの創造者で(一夏は知らなかったが)IS登場のきっかけである箒に訓練を頼んだ。頼んだのだが……やった事と言えば剣道と茶道だけ。どう考えてもISの訓練ではないし、まず茶道がどう役に立つんだよという話ではあるが、本人曰く「チャドー呼吸法はISのシールドエネルギーを回復させる必須テクニック、古事記にもそう書かれている」らしい。後で姉の千冬に聞いてみたら、困り気味の表情で首を傾げられたので多分箒の気のせいである。

 というかカラテは何処に行ったんだという話だが、本人曰く「鍛えるの全部カラテ」との事。訳が解らないという表情をすると馬鹿にしたようにフッ、と笑う。

 

「言っても解らぬか、ならば身体に覚え込ませるまで!」

 

「証明してやる、お前の特訓が無意味だった事を!」

 

 箒が鷹の構えをし、一夏はそれと相対するように虎の構えをする。

 一触即発という雰囲気、その空気をぶち壊したのは1組の担任二人組だった。

 

「お待たせしました! これが一夏君のIS──って何やってるんですか!?」

 

「……貴様ら、悪ふざけなら終わってからにしろ」

 

 千冬先生の苦言もそこそこに、箒と一夏は構えを解く。箒の悪ふざけの仕方が男子高校生のそれで、千冬は女っぽさを全く出さない箒に対し思わず頭を抱えたくなる。

 最も、そんなのをボヤく時間も無い。臨戦態勢を解いた二人に対しほっとしている山田先生に、眼で催促する。

 

「一夏君の専用機が届きました。……所で、さっきのは」

 

「鷹の構え」

 

「虎の構え」

 

 二人の応えに頭に疑問符を浮かべながら、山田先生はぴっとエアコンのリモコンみたいなのを押す。するとスライド式のピット搬入口が開き、一夏の専用機が姿を現す。

 羽のような非固定武装のスラスター、白いプロテクターが工業的雰囲気を持つIS。それが膝をつき、まるで使えるべき主を待つ騎士のよう。

 

「これが一夏君のIS、百色です!」

 

「……百色?」

 

 使われている色は基盤となっているであろう白と、グレーのプロテクター。どう見ても白には見えない。しかし、ISの名前はそれに関する機能が組み込まれている。永理のフロムマジックなんかは、あからさまにフロムだった。そして今回の敵、三人目の友達であるセシリア・オルコットの操るブルー・ティアーズも、自立兵器の名前からそう命名されているらしい。

 一夏は恐る恐る、もたれるように百色に身体を預ける。

 すると視界がクリアになり、様々なデータが現れては流れていく。

 

「最適化は実戦で行え、大体二十分程で終る筈だ」

 

「……一夏、帰って来たら金色に塗るぞ」

 

 腕を組みながら、箒に対しだろう呆れの様子を含んだ感じのトーンでそう説明する千冬と、子供のように興奮した様子で、しかも何処からか取り出した金色のペンキ片手に上目づかいで言う箒。思わず呆れた笑いが出る。

 

《カラーを選択してください》

 

 いきなり眼の前にそんな表示が現れるが、取りあえず基本色である白を選択。すると次の選択肢が出る。一夏の横で箒が「金だ、金にしろ!」と催促してくるが、それは思考から除外する。

 

《サブカラーを選択してください》

 

 サブカラーは、一夏も好きな水色。こんなコマンドが出るなんて聞いてないと一夏は首を傾げる。

 

《メロディーを選択してください》

 

 もうここで普通のISではないと悟り、どうせだから普段聞いている古い曲を入れる事にした。映画『パルプ・フィクション』や『TAXi』のメインテーマである『Misirlou』を入力。するとやっぱり出てきた。取りあえずそれを選択。

 するとメロディーが程よい音量で耳から流れる。

 

《名前を入力してください》

 

 一夏は取りあえず白式と入力する。昔ゲームで使っていた愛機の名前だ。別に名前が決まっている訳でも無いゲームなのだが、初めてクリアしたゲームなので、取りあえず最初にストーリーを進める際はその名前を入力する事にしているのだ。

 

「……なあ、織斑先生」

 

「どうした?」

 

「……普通ISでさ、曲聞く事って普通出来るの?」

 

 ISのハイパーセンサー越しだからだろうか、表には出していないが「何言ってんだこいつ」的な眼を向けてきた。やはり一夏のISも普通ではないらしい。改めて自分のイレギュラーさを振り返り、溜息をつく。

 

「まあ、取りあえず行ってくるよ」

 

「ご武運を、織斑君」

 

 山田先生は一夏に軽く敬礼をしながら言う。気を紛らわすかわいらしいおふざけに、思わず一夏の頬が緩む。

 

「精々負けてこい。相手は代表候補生だ、負けて学べ」

 

 優しい笑みを浮かべながら、千冬先生は千冬姉としての表情で一夏を煽る。一夏も「勝てるとは思っていないが、でも食いついて見せるさ」と返す。

 

「負けたら赤く塗るからな、勝ったら金色だ!」

 

「どうしてもシャアにしたいのか箒は」

 

 

 (´神`)

 

 

 一夏を待っている間、セシリアはずっと永理の事を考えていた。あの夜に聞こうと思い声をかけて見たものの、あまりの夜空の絶景に心奪われてしまい、そして一度機会を逃したらどういう訳かずるずると聞きづらくなり、結局聞く事は出来なかった。瞬時加速、技術難易度で言えば二年生で学ぶ、出来ない者は出来ないそこそこの技術。キサラギというISの第一人社社長の娘であれば出来るのには疑問は出てこない。しかし、瞬時加速の連続使用は並の人間では到底出来ない。何せ搭乗者保護機能でも相殺しきれないGが身体にかかり、下手をすれば内臓破裂で死んでしまう事もあるのだから。

 だが、そのもやもやとした疑問も一旦停止させる。ビットから今回の対戦相手が出てきたからだ。

 

「あら、遅かったですわね。レディーを待たせるのはマナー違反でしてよ?」

 

「紳士も準備に手間取るのさ」

 

 セシリアの軽口に、一夏は軽口で返す。緊張感は、無いと言えば嘘になる。一夏にとってこれは、二度目のIS操縦。若干ぎこちない動きなのはご愛嬌。

 セシリアの手には、対永理戦の時に使っていたシューティングスターmkⅡ。対し一夏のISの手には、一本のブレード。

 

「一夏さん、クラス代表になるつもりはありまして?」

 

 セシリアが開放回線(オープンチャネル)で話しかけてくる。それは、今は心変わりしていないか。という意味だ。あの時姉の千冬に、彼が上手く乗せられたのは誰もが知っている事。当然、セシリアも知っている。

 

「……正直、今はなってもいいかと思っている」

 

「そう……でしたら、わたくしを越えなければなりませんわね。手加減は致しません──」

 

 セシリアは言葉を途中で切ると同時に、一夏のISからロック警告の音が鳴る。それからコンマ数秒ほど遅れて降り注ぐレーザーの雨。一夏はそれを事前に察知し、射程外へと命からがら移動。

 

「全力でやらせていただきます」

 

 にっこりと高潔そうな笑みを浮かべ、初心者だからという油断も手加減も無くシューティングスターmkⅡを発射。再度撃つのに数秒とかからず、次弾が放たれる。銃口から一定距離離れてから、花火のように広がる、IS一機がやっと通れる程度の隙間。偶然だろうが、全く被弾せずセシリアに左側から接近しブレードを振るう。袈裟斬りはブルー・ティアーズの装甲を少し剥がす程度。しかし初心者にしては十分な成果と言えるだろう。

 だが、それでも、セシリアの天使砲の射程圏内に入った事には変わりない。

 

「やべっ」

 

「遅いですわ!」

 

 一夏は慌てて右後ろに下がるも、数発ほど当たってしまう。シューティングスターmkⅡに比べれば軽いダメージではあるが、それでもエネルギー兵器によるシールドエネルギー減衰は馬鹿にならない。

 慌ててスラスターをふかし、セシリアの後ろに回り込もうとする。しかし、非固定武装が自律的に動き、乱雑にセシリアの背後を守る。セシリアはその隙に素早く距離を取り、追撃とばかりにシューティングスターmkⅡのトリガーを引く。エネルギー充填に時間がかかるのか連射は不可能だが、その威力は折り紙付きだ。太いレーザーとそれにコバンザメのように付いてくる一回り細いレーザー。僅かな隙間を潜り抜け、ビットからの攻撃をも避けながらセシリアの方へと突っ込む。

 

──後五分

 

 剣を袈裟に振るうもそれを裂けられ、白式の背後からビットが乱雑にビームを撃つ。当たるのはせいぜい一本や二本だが、それでも痛いのには変わりない。そしてそちらに意識を向けた瞬間襲い掛かってくるシューティングスターmkⅡの光線。

 

──後三分

 

 一夏は好機とばかりにスラスターをふかし、相手に接近。ビット内には撃てるエネルギーは既に無く、白式を撃とうともせずにブルー・ティアーズへと戻っていく。

 シューティングスターmkⅡの光線も紙一重で回避し、剣を薙ぎ払うも相手は降下し幾つかの非固定浮遊武装に繋げられたビットを破壊するだけ。

 

「この隙を狙ったのはいい判断ですが、しかしまだ爪が甘くてよ!」

 

──後一分

 

 そしてセシリアは、上に向けてシューティングスターmkⅡを放つ。ニヤリと、勝ちを確信した笑みと共に、光線の青い花が咲き乱れる。一夏は前日永理に教えてもらった、ここまで温存していた瞬時加速(イグニッション・ブースト)で急降下。搭乗者保護機能でも殺し切れないGが一気に身体にかかる。

 愚直に、真っ直ぐに突っ込むのはスナイパーからすれば愚の骨頂。まるっきり的だ。だが、一夏にも秘策がある。今回、この瞬間、今日しか使えない秘策。

 ビームが一夏の機体にぶち当たり、黒い煙を上げる。セシリアは外面は勝利を確信した笑みを浮かべ、内心は(ちょっとやりすぎたかな)と相手を心配していた。

 

──零

 

 なので、一瞬だがISにとっては永遠に等しい時間、判断が遅れた。

 光に包まれ、工業めいた装甲が完全に剥がれ、白い翼のような非固定のスラスターをふかし、全力で迫ってくる一夏に。手には無骨な量産ブレードからまるで雪のように白いブレードに変化した、最愛の姉──織斑千冬が現役時代に使っていたのと同じ名を持つ雪片弐型(ゆきひらにがた)。更に覚醒した白式の単一能力(ワンオフ・アビュリティ)の零落白夜を刃に薄らと白く纏わせ、ブルー・ティアーズに突き立てらんとする。

 セシリアも咄嗟に、特訓で使えるようにしたインターセプターを展開しカウンターを決めようとするも、そこに腕の差は明らかに現れてしまう。

 スラスターを少し傷つけそれを逸らし、肩目がけて一気に袈裟に斬る。

 

「……わたくしの負け、ですわね」

 

 シールドエネルギーが一気に零になり、丁度BGMも掻き消えた。

 

「ああ、俺の勝ちだ」

 

 勝利を告げるアナウンスがスピーカーから流れ、セシリアは少し悔しそうに、一夏はやりきったように互いに笑みを浮かべ合った。

 

 

 (´神`)ガッチターン

 

 

「織斑君、クラス代表おめでとう!」

 

 広く清潔な食堂を態々貸し切って巻き起こされた、クラス代表決定パーティ。クラッカーが鳴らされ、その中心部分に居る一夏は照れ臭そうに頭をかく。

 円状のソファに座るは、一年一組の専用機持ちが四人。月影永理、セシリア・オルコット、織斑一夏、そして篠ノ之箒の四人だ。

 

「いやー、うちに専用機持ちが四人とは。これからの1組は安泰だねー」

 

「いや、クラスに平均四人だからね。専用機持ち」

 

「あれ、箒。お前専用機なんて持ってたのか?」

 

「うむ、一昨年拾った」

 

「ISは、拾うものではないと思いますが……」

 

 セシリアの控えめなツッコみは、しかしボケキャラと化した箒には届かない。それに箒は事実しか言ってないのだ。姉曰くISではないらしいが、ISと互角に戦えるのでISという事にしている。それで押し通している。

 ちなみに永理はセシリアの隣で一心不乱にカツ丼を食べている。箒の前にはやはりスシ、カラテを補充するにはこれが一番効率がいいらしい。一夏の中でカラテは消費するものではないのだが、多分見ている世界観が違うのでツッコみはしない。したら負けである。

 そしてテーブルの上に並んでいる料理の量も明らかに乙女離れしているのも、気にしたら負けである。

 

「所で永理、本当に俺がクラス代表でいいのか? お前、なりたいんじゃなかったっけ」

 

「目立つにはクラス代表より、広告塔が必要となる。そしてオレよりお前の方が注目を集めやすい、稼がせてもらうぞ。一夏」

 

 ニタリ、と悪どい笑みを浮かべながら、永理はカツ丼の米をカツで掬い取り、丼を空にする。

 暗に客寄せパンダとして利用してやると言っているが、彼女には彼女の立場があるのだ。そもそもの話し彼女が学園に来た理由は、要はマーケティング。自社製品の為である。

 

「どーも新聞部でーす、話題の織斑一夏君がクラス代表に任命されたそうで! さっそく、インタビューしに参りましたー!」

 

 人の波をかき分けて、サイドポニーの眼鏡っ子が少々アンティークなカメラを首にぶら下げながら現れる。

 

「インタビューだと!?」

 

「篠ノ之や、忍殺のインタビューとは別物だぞ。拷問じゃないから座れ」

 

 永理が箒を鎮めながら、オニオンリングに塩を振りぱくりと食べる。ほのかな甘みに塩が程よいアクセントとなっており、大変美味。当然カロリーはかなり高いが、二次元世界ではそのエピソードを主軸にした話でもない限り太る事は無い。

 

「あっ、私二年の新聞部副部長で整備課の黛薫子(まゆずみかおるこ)。はいこれ名刺ね」

 

「イイッ、眼鏡っ子!」

 

 永理が静かにサムズアップする中、とんとんと専用機持ちの前に名刺を置いていく薫子。手にメモ帳とペンを持ち、インタビューの体制は万全となった。

 

「それじゃあ本題行ってみよう! 織斑君、実際クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

「えーっと……がっ、頑張ります」

 

「緊張してるねー初々しいねー、でもそれじゃ面白くないから適当に脚色しとくね。俺より強い奴に会いに行くとかそんなんでいいよね」

 

「良くありません、俺波動拳も昇竜拳も使えません」

 

 そんな一夏の抗議は華麗にスルーされ、次の矛先はセシリアの方へと向いた。

 

「次、イギリス代表候補生のセシリアさん。コメントお願いしますねー」

 

「あら、このわたくしからのコメントは高くつきま「面倒だからいいや適当で、篠ノ之さんお願いしまーす」貴女それでもジャーナリストですの!?」

 

 セシリアの台詞は華麗にスルーされ、刺さる事も無く矛先は箒へと向かった。

 箒は目を瞑り腕を組み、しばしの間押し黙る。数秒、時間で言えばたった数秒だが、溜めが妙に長く感じられる時間。カッと目を見開き、ついにコメントを残す。

 

「織斑一夏は私が育てた!」

 

「はい解りました、んじゃ最後に月影永理さん。コメントお願いしてもいいですか?」

 

「オレと戦った際にセシリアが使ったパンジャンドラムは我がキサラギの製品です。火力・安定性・ロマン、全てを兼ね備えた我が社の製品、ぜひ一度ご購入をご検討いただければ幸いです。

 キサラギは貴女方に、とてつもないロマンと火力を齎すでしょう。どうか今後とも、我がキサラギをよろしくお願いします」

 

「わー、すっごい隠す気の無いマーケティングありがとうございます。では最後に写真を一枚」

 

 そう言い薫子は首にぶら下げていたカメラを手に取り、構える。

 

「はいはいもっと詰めて、腕に胸当てるような感じで……そうそう、いいよいいよ~えっちぃよ~ぐへへへ」

 

 何やらどこかの校長が乗り移ったような気色の悪い笑い方をする薫子だが、セシリアと箒はそんなの気にせず一夏に詰め寄り、一夏は顔を赤くする。そしてそれを面白そうに笑いながら見る永理。

 

「よーしんじゃ撮るよー。はいチー──」

 

 「ズ」と言う前に、眼にも止まらぬ速さでフレーム内に入るクラスメイト達。どことなくのほほんとした短いツインテールの女の子は、ちゃっかりテーブルのポテトを口に咥えている。

 

「ああっ、折角のフォーショットが!」

 

「はっはっはっはっ、抜け駆けなんぞさせてなるものかよ!」

 

「我ら1組愚連隊が居る限り!」

 

「この世にラブコメはあり得ない!」

 

 何処からか持ってきた嫉妬マスクを被った、乙女とは言えない三人が代表してそう叫ぶ。ちなみに愚連隊とは名ばかりで基本この三人で行動しているのだ。ちなみにこの三人、どこぞの国の代表候補生候補になった事のある、割と実力者なお人である。

 

「先輩、後で写真焼き増しお願いしますね!」

 

 結局この夜会は夜十時の、織斑千冬が見回りに来るまで続いたという……乙女のエネルギーは凄い、後に一夏はこの日の事をそう語ったという。

 

 

 ❾

 

 

「疲れましたわ……」

 

 どさり、と天幕まで用意されている、三人程度なら並んで眠れそうなベッドに、風呂にも入らず制服のまま倒れるセシリア・オルコット。比較的広めの部屋でも少し狭く感じるくらいに大きなベッドだが、たまに同居人もそれで寝る事を許しているし、いつ使ってもいいのでwin-winな関係を築き上げている。そもそもの話、同室の者は大きなベッドの隣にあるベッドで寝る事も無い変わり者なのだが。

 

「お帰り、随分と遅かったな」

 

 そのベッドの上でゆるゆるとタンクトップを着、薄いピンクの下着だけという薄いにも程がある服装の少女は、本を読みながら目線だけを上げ、セシリアに声をかける。

 

「途中で織斑先生に捕まってしまい、説教が……足が痛いですわ……」

 

「随分と大変だったのだな」

 

 赤いポニーテールを揺らし、少女に言葉をかける。しかしその顔は、まるで感情が欠落したかのように無表情だ。

 だが最近、彼女の感情がなんとなく解って来た……ような気が、セシリアはしてきた。

 

「全くですわ。……ですが、とても楽しかったですわ。ニールセンさんもご一緒したらよろしかったですのに」

 

「私は3組だ、水を差すような真似はしないさ。特に初恋相手との祝い事はね」

 

 少女、ニールセンは本にしおりを挟み、ベッドの上に置く。

 エクシア・ニールセン、それが少女の名前だ。デンマーク代表、世界ランク9位の地位に居続ける人間。たった数週間で世界ランクを塗り替えた、織斑千冬さえ認める化け物。

 その操縦技術は大胆かつ機械的、人間らしさと機械らしさが両立しており、恐れというものが存在しない。代わりに自分に対しても他人に対してもとても淡泊であり、両親が亡くなった際も悲しむ様子すら見せなかったという。

 

「なっ、べっ別に!? そっそんな邪まな事は考えて……」

 

「別に隠さずともいいぞ、私は全て知っている」

 

 さらり、と途轍もない事を言ってのけるニールセン。セシリアは拗ねたように枕に顔を埋める。

 

「意地悪……」

 

「誘拐された際に必死に護ってくれた、だったか。なんともまあ、魅力的な出会いだな」

 

「言ーわーなーいーでーくーだーさーいー!!」

 足をバタバタさせ、照れたように更に顔を枕に埋め、更にごろごろとベッドの上を転がる。彼女にとってあの記憶はとても甘美ではあるが、思い出すだけで恥ずかしいものなのだ。

 ニールセンはそれを、何の感情も無い瞳で見届けると、定位置である自分の寝床──セシリアのベッドの下に潜り込んだ。

 

「さて、ノルマも達成した事だし。では寝るとしよう」

 

「あの……ニールセンさん、毎回思うのですが、何故わたくしのベッドの下に潜り込みますの?」

 

 ごそごそとセシリアのベッドの下に潜り込んだニールセンは、顔だけを出しキョトンと首を傾げる。

 

「前に説明した筈だぞ。私は暗い所が好きだと」

 

 そう、ニールセンはどういう訳か、この一週間の間セシリアのベッドの下で寝ているのだ。奇怪ではあるが、本人はそれが一番落ち着くらしい。しかし、そのベッドの持ち主であるセシリアはそれではどうも寝付けず、しかしこのように大きなベッドを置く事に文句を言わない生徒はニールセン以外ではゴキブリを飼っている生徒しか居ないと来たものだ。

 最近はようやく慣れてきたのだが、やはり不思議に思わずにはいられない。

 

「寝る前に風呂入って歯を磨くのだぞ、おやすみ」

 

「ええ、おやすみなさいませ……」

 

 セシリアは何故自分の周りには変人しか集まらないのだろうと一抹の不安を覚えながら、セシリアはシャワーを浴びる為腰を浮かすのだった。




◆IS◆
 IS名鑑#03
【ブルー・ティアーズ】
 イギリス、ウェンズディ機関が開発したBT兵器運用試作型第三世代IS。ロングレーザーショットガンと脳波コントロールが可能なビットが主な兵装。扱うにはIS適正だけではなくBTシステム適正も重要で、これが低ければBT兵器はただのライトへと成り下がってしまう。
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