インフィニット・ストラトス~ギャグとネタに塗れた世界で~ 作:黄衛門
時刻は午後八時、寮の廊下をがしがし歩く鈴音は、噂で一夏が、箒とかいう女と同棲しているとの情報を得た。告白(された本人は気付いていないが)もして、一夏から同意を得たというのに、だ。既に鈴音の頭の中から一夏が昔ホモではないかと疑われたほど女心に鈍感だという事実はすっぽ抜けていた。
「一夏ァッ!!」
「なんだ、騒々しいぞ鈴」
「……あれ?」
部屋に入るとそこには、タンクトップに短パンというラフな格好の箒が、ベッドの上で漫画から目線を上げて、鈴の方を見ていた。
鋭い眼だが、中身は駄目でちょっと馬鹿な人だと鈴は何となく理解しているので、少しビビったがすぐに気を持ち直し、辺りを見渡す。
「えっと、一夏は……?」
「風呂だ、あいつに何か用か?なら伝えておこう」
「そっ、そうじゃなくて! いや、そうなんだけど……あんたにも話があるの」
箒は頭に疑問符を浮かべるが、鈴の眼差しが割りと本気だったので、一先ず漫画にしおりを差し込み、ベッドの上に座り直す。
少しの間、部屋が静まり返り、鈴の左手側にあるシャワー室の音が鈴の思春期特有のピンクなあれがモヤモヤと出てくるが、それを打ち消し、口を開く。
「単刀直入に言うわ。あんたと部屋を変わってほしいの」
「なるほど私に死ねと申すか」
「なんでそうなるのよ!?」
何か色々と飛躍して解釈したと思い、思わずツッコむ。しかし今度は箒が真面目な眼になりながら、その言葉の意味を伝えた。
「最近は着替えの用意してもらったり、朝に起こしてもらったり、マッサージしてもらったり……私はもう駄目になっているんだ! 私の面倒を見てくれる生徒となら話は別だが、もし面倒を見てくれなかったら私は千冬さんによってオタッシャ重点サヨラナしてしまう!まだ俳句詠みたくない!」
「自立しなさいよ!」
ただのノロケ話にも聞こえたが、本人の眼はいたって真剣だ。まるでどこぞの軍用ISが暴走した時に一夏合宿落とされてしまった時のように。なので鈴音は心の底から思い切りツッコんだ。
「一夏はあれだな、女を駄目にする男だな」
腕を組みうんうんと頷き、勝手に結論を出す箒。
明らかに当人の自業自得なのだが、本人は気付いていない。というか気付いてもきっと開き直るだろう。
「あれ、鈴? どうしたんだ?」
「いっ、一夏!?」
突然鈴の隣の扉が開き、そこから頭をタオルで拭きながら一夏が出てくる。
半袖半ズボンという、思春期真っ盛りな鈴にとっては少々刺激の強い格好。そこに恋する乙女フィルターと久しぶりに会ったら格好よくなってた効果の相乗によって鈴の脳内がオーバーヒート。
顔からプスプスと煙を上げながら、鈴音の膝から力が抜ける。倒れる鈴音を、一夏は慌てて支えた。
「おっと、大丈夫か?」
「むう……面白くない」
箒が若干やきもちをやくが、それよりも大変な事になっているのは鈴だ。
好きな人に支えてもらっている。よく遊んでいた時もあまり嗅ぐ事の無かった一夏の匂い。風呂上がりだからか、ほのかに石鹸の香りが……、と思ったところで、鈴音は意識を失った。
「……これ、どうすりゃいいんだ?」
「知らん、自分で考えろ」
(´神`)
普段よりちょっと早起きしたセシリアの機嫌は晴れやかだった。長い間待ち焦がれていた思い人の晴れ舞台、クラス対抗戦。それが今日、開始されるのだから。
活躍出来たのならその勇姿を目に押さえ、ろくに活躍出来なかったら慰める。想像しただけでニヨニヨと笑みが止まらない。
それに、プロと一緒に観る事が出来るかもしれない。プロと並べて観るだけでも、威圧感というか、プレッシャー的なのを感じ、一人で意識して観るよりも頭に入ってきやすいものだ。
それに何より、友達と観るという体験はこれで二度目になる。純粋に楽しみという気持ちも勿論ある。何せセシリアは、まだ年端も行かぬ女子高生なのだから。
「ニールセンさん、わたくしと一緒に観戦しましょう!」
大きなベッドの下をのぞき込みながら、セシリアは下の住人を誘う。時刻は午前六時半、ニールセンは既に起きている筈。
だというのに、下に敷かれている布団はビクともしない。本当に人が居るのか、そう疑わずにはいられないが、元々ニールセンの呼吸は浅く、遠目から見たら死んでるようにも見える。
なのでセシリアはいつものように話しかけようとするが
「まあ構わないが、何だその体制は」
「ひゅいっ!?」
シャワーを浴びたのか、濡れた髪を拭きながら後ろから声を、半ば不意打ち気味にかけられセシリアの口から変な声が漏れた。
いつも纏めている髪は大きく広がり、さらりと揺れる。風呂上がりのため一糸纏わぬ姿、大きな胸の間に水滴が流れ落ちる。
ちなみに今のセシリアの格好は、ベッドの下に頭を突っ込んでいる状態。自然とお尻が上がっているので、男が見たら目福ものだろう。
「淑女の格好ではないな」
「……そう仰るのでしたら、服を着てください」
セシリアはベッドの下に突っ込んでいた頭を出して、ジト目でニールセンを睨み付ける。
「別に構わんだろ、同性同士だ」
それに私は淑女ではない、と小声で付け足し、パソコン置いている場所に設置した小型冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、封を開け、中の水を流し込む。シャワーだけとはいえ、火照った身体を冷水で一気に冷やす感覚というのは辞めがたい。
「しかし、観戦な……私と観ても面白くないと思うぞ」
「いえ、現役の代表生と一緒に観られるのでしたら、色々と参考になるやもしれません」
ニールセンは依然と全裸のまま顎を触り少々考える。不思議な緊張感が二人の間に生まれる。その静寂を産み出したのはニールセンだが、同時にそれを破ったのもニールセンだった。
「あまり期待はしてくれるなよ?」
何時ものように無表情に、ニールセンは提案を受け入れてくれた。その事に対しセシリアは安堵し、そして未だに全裸なニールセンに、ベッドの上に畳まれていた制服を押し付けるように渡した。
(´神`)ガッチターン
第三アリーナの中は休日だというのに、いや休日だからこそ人で溢れかえっていた。IS学園は休日でも、少々面倒な手続きをしなければ外に出歩く事は出来ない。故に普段は、大抵漫画や小説を読むか、ネットサーフィンするかという生活を過ごす。だが、今日は違う。専用機同士の戦い。これまで新入生の中では、平行世界よりも手に入りやすくなったとはいえやはり高級なものに代わり無いISは、テレビの中だけの存在だった。それの戦闘が、しかも専用機同士ともなれば、この盛り上がりも納得である。
そして、ニールセンの隣で観戦しているセシリアも同じように興奮していた。愛しき人の晴れ舞台、そして自分より遥か高みに居る友人と一緒に観る。興奮するなというのも無理な話だ。
「……やっぱ人が多いな」
凄く良い笑顔で手を振るセシリアに少々苦笑しながら、一夏は改めてアリーナ全体を見渡す。
席を埋め尽くさんばかりの人、人、人。しかもその全てが女と来たものだ。
そして向かい合う相手も女の子、久しぶりに合った一夏の二号(幼馴染み)凰鈴音。ワイン色のIS、甲龍に乗っている。
鈴音のISは独特だ。まるでジオンのモビルスーツのような赤い刺々が付いた非固定浮遊武装は、おおよそ女の子が乗るべきISの武装には相応しくない、と一夏は思う。
そして両手に持つ、山賊刀のように反り上がった刀。なんというか、女盗賊の頭というイメージである。
「緊張してんの? 注目されるなんて、今に始まった事じゃ無いでしょうに」
「あれの視線とはまた別なんだよ……」
ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべながら鈴音は、三日月のように反れた青竜刀で甲龍の肩を叩く。
確かに鈴音の言うように、注目されるのは今に始まった事ではない。この学園に入学し、セシリアとの模擬戦。それらでいやというほど味わっている。が、だとしても視線の種類が違うのだ。それに、元々一夏は案外小心者で、こういった舞台に立つよりは裏方の方が精神的に楽な性分なのである。
「ふーん……で、あんたは負けたい? それとも勝ちたい?」
「まあ……出来る事なら勝ちたいけど」
「また目立つ事になるわよ?」
「うぐっ……でも俺、男だからな」
「あっ、そう。なら後腐れなく──お互い、本気でいこうか!」
そう言い鈴音は左手の青竜刀を逆手に持ち直し、一気に甲龍のスラスターを吹かせ、さながら荒ぶるバッファローのように突撃する。瞬時加速は代表者にとっては当然の技術のようだ。とはいえ一夏は嫌となるほど使い、これ一本に限って言えば極めたと言ってもいい。
「へー、これ防ぐんだ……大体の奴らはスッといってドスン! とやれるんだけど」
いとも容易く、一夏は右側に回り込みつばぜり合いに持ち込まれ、少しばかり一夏への評価を上方修正する鈴音。別に嘗めてたつもりはないのだが、これを防ぐとは思っていなかったのだ。
何せ、同年代の代表候補生はこれで決まったのだから。
「生憎だが、瞬時加速は飽きるほどやってるんでな!」
「んじゃ二刀流の方はどうなの!?」
そう、甲龍の左手側は未だ空いており、そして白式に剣は一本しかない。左手の青竜刀が逆袈裟に振り上げられるが、一夏の白式は後ろへ下がりそれを回避した。だというのに、どういう訳か白式に衝撃が走り、シールドエネルギーを削られる。
「なっ、なんで!?避けた筈なのに!」
「あたしの剣は目に見えぬ斬劇を飛ばすのよ、名付けてソニックブレード!」
何故英語なのかというと、その方がなんか良いからだ。
鈴音は距離を開けた一夏の方に向き直り、期待を浮かせる。
そのまま甲龍は瞬時加速の連続仕様で身体を切りもみ回転させ、青竜刀を動きの残像によってドリルのように見せながら、一夏に突っ込んだ。
一夏はそれを零落白夜を起動させた雪片弐型で一刀両断しようと降り下ろそうとしたが、これまた謎の衝撃によって、剣が手元から吹き飛ばされてしまう。
一夏は慌てて白式を上昇させるが、先程まで居た場所が、まるでアイスを掬ったかのように地面が抉れてる事に軽く冷や汗を流しながら、落下する雪片弐型をキャッチ。
「こっわ……」
甲龍の通った後を見下ろし、一夏は思わず呟く。
そちらの方に意識が集中している一夏に、甲龍の持っていた青竜刀が二本、回転しながら飛んできた。一夏は咄嗟にそれに気付き、雪片弐型で打ち払う。落下していく青竜刀。
しかし、意識がそちらへ向いていた。下から例の、鈴音曰くブソニックレードがいくつも直撃し、シールドエネルギーを失い、衝撃で動きがしばし止まる。
「ぐうっ!」
「注意一秒恥一生ってね!」
そして、落下途中の青竜刀二本をキャッチし、そのまま斬り上げる。
しかし鈴音の一撃は宙を斬り、代わりに今度は甲龍のシールドエネルギーが大きく失われ、地面に落下する。
「なっ!?」
「居合い斬り、初めてやったけど割りと上手くいくもんだな」
土煙を手で振り払い、体制を立て直す鈴音。してやられた、と歯噛みし、そして一夏の適応力の速さに驚愕する。
そして、思わず好戦的な笑みを浮かべる。相手も同じだ。
「ねえ、一夏。私達が使うISは競技用だって事知ってるわよね?」
「ああ、当たり前だろ?」
「……ならさ、専用機持ちは観客を盛り上げるのが、義務だと思わない?」
一夏は鈴音の言葉に合点がいき、頷く。
競技用となれば、盛り上げねばそれは義務の放棄ともいえる。何より鈴音は、全力でぶつかり合いたい。
鈴音は青竜刀を、拡張領域から新たに取り出した四本纏めて空中に投げ、左側に浮いてあった非固定浮遊武装が地面に落ち、右側よ非浮遊武装が半分に開き、上に向ける。
すると六本の青竜刀がそのスペースに収まり、ガコンッと固定する音が響き渡った。女が乗るISだというのに男のロマンをこれでもかと積み込んだギミック、一夏は密かにBGM機能とカラーリング変更程度しか自由度の無い白式を呪った。
一夏も零落白夜を発動させる。相手はチェーンソーのような音を立て回転する化け物刃。正直相対していると物凄く怖い。シュレッダーにかけられるヒヨコのような気持ちだ。
しかし、ここで退いては男が廃る!
「行くわよ一夏!」
「ああ、来い!」
けたたましい爆音轟かせ、軌跡に摩擦炎を灯しながら直進する六刃回転青竜刀。一夏は零落白夜を纏わせた剣を振りかぶる。
さて、車は急には止まれないという言葉をご存知だろうか。勢いのついたモノは慣性の法則に縛られ、それに抗う事が出来ない的な感じの言葉だ。
それは今の一夏達にも当てはまる。プロであれば急停止も容易であろうが、未だアマチュアの域を出ない二人には不可能だ。
例え彼らの目の前に、空中のシールドバリアを打ち破るほどの極太のビームが、地面に直撃したとしても。
そして間初入れず、落下するように突入してきた謎の物体。それらは丁度二人の直進線。
まず土煙に紛れ姿の見えない謎の物体に、少しばかり力の抜けた雪片弐型が降り下ろされ、何かが掻き消える音が響き渡る。そしてその直後──
まるで芝刈機の事を大音量スピーカーで膨大にしたような音と、金属がぐちゃぐちゃになる音が響き渡った。
金属片が辺りに飛び散り、ISを動かす粒子が巻き飛ぶ。
土煙と摩擦熱による白い煙、そしてIS粒子が、鈴音の姿を消した。
「りっ、鈴!」
「……一夏ぁ、どうしよう」
様々な粉状の壁の中から、何故か鈴音が、一夏の呼び声に泣きそうな声で応えた。
何があったのな、全くもって理解出来ない。だが、鈴音が無事なようでそっと胸を撫で下ろす一夏。
しかし、ならば何故、鈴音は涙声なのだろう? 当然の疑問だ。
しかしその疑問は、すぐに答えられる事となる。
「……あたし、人、殺しちゃった」
「……えっ」
かといって、それがどういう意味か理解出来るものではなかったが。
(´鍋`)
泣きじゃくる鈴音を慰めながら、一夏は謎の落下物体を観察する。
かろうじて人形を保っているが、まるで野球選手かまプラモデルを壁に叩き付けたように崩壊している。 胴体が真っ二つに割れたそれは、かなりの異形をしていた。
全体的に灰色なカラーリング、二メートルはあっただろう全長。今時珍しい全身装甲。そこまではいい、そこまでならただ珍しいISで片付く。しかし頭と肩が一体化しており、明らかに身に余る長い腕。過剰なまでに取り付けられたスラスターは同乗者保護機能でも抑えきれない程だと容易に想像させる。
そしてまるで血のように噴き出すオイルと、バチバチと舞う緑色の粒子。人の肉片は見受けられない。
「……鈴、安心しろ。無人機だ」
「グスッ、そんなのっ、あり得ないわよ!ISは人が乗らなきゃ……」
そうとだけ言い終えると、またしても泣きはじめる鈴音。
確かに、ISは本来、人が乗らなきゃ動かない機械だ。女でないと動かせないという事は即ち、機械にも不可能という意味と同意味。
しかし一夏の眼から見た謎の機体は、どうもそれにしか見えなかった。が、かといってそれを言ってもまた泣きはじめるだろう。
「大丈夫、大丈夫」
子供をあやすように、背中をぽんぽんと叩く。ISの装甲は分厚いのでそれに効果があるのかは不明だが、一夏はこれしか方法を知らない。
『織斑、凰、一先ずピットに戻れ。迎えを寄越す』
姉、千冬の言葉がスピーカーから響き渡る。
それで一夏の胸の中で正気に戻った鈴音は、今の自分の状況を理解してしまい
「ふあああぁぁぁぁ……」
「わっ、ちょっ気絶するな鈴!」
ちなみに大会は、予定より三時間開けてから開催されるようになった。
◆IS◆
IS名鑑#05
【甲龍】
中国が製造した第三世代のIS。機動力と燃費、そして防御力を重点的に造られている。肩の非固定浮遊武装の中には衝撃砲「龍咆」とキサラギからの技術提供によって実現した「デロリアン」が仕込まれている。