インフィニット・ストラトス~ギャグとネタに塗れた世界で~ 作:黄衛門
IS学園、第三アリーナ控え室。研究所めいた白い壁と規則正しく埋め込まれたタイル、赤いベンチに腰掛けながら一夏は、自販機で買ったスポーツ飲料『束MAX』を呷っていた。桃とも林檎ともとれるものを濃縮させて還元させずにぶちこんだような濃くてしつこい味。一口飲めば疲れた身体は即時回復というラベルの売り文句通り、一口口に含んだだけで疲れが取れた気がする。
これを保健室で眠っている鈴に飲ませたら即時回復するのだろうか、と思うが、人体実験をするほど落ちぶれてもないので、一夏はすぐにその疑問を描き消す。
最後まで飲んだらなんかが暴走して爆裂四散しそうなエネルギーが一夏の中に補充されるのを感じる。
「というか、束さんなにやってんだよ……」
ラベルでピースしてる箒の姉であり動く天災を自称する天才の作った、どこぞのサイバトロン星を生き返らせそうな命の液体に対し思わず呟く一夏の背中に、外にハネた癖のある水色の髪、凜とした佇まいの少女が声をかける。
「貴方が織斑一夏ね」
「ええ、そうですけど……貴女は?」
「更識楯無よ、覚えてない?」
『好敵手』と書かれた扇子を拡げ、それで口元を隠しながら生徒会会長、始業式でやりたい事をやりきったお人。更識楯無が、愉悦と同情を含めた眼で一夏を見ていた。
血のように赤い瞳の少女は一夏の隣に座り。何処からか取り出した水筒の蓋を開け、そのなかに紅茶を注ぐ。
「拡張領域って便利よね」
「いや、絶対使い方間違えてますよねそれ」
「小さい事は気にしなーい、それが私のジャスティスよ」
そう言い、湯気の立つ紅茶を優雅に飲む楯無。その様子はまるでどこぞの令嬢だが、水筒という点からどこか庶民的に思える。
「それで、何のようですか?」
「それ以上飲まない方がいいわよ、それ」
束MAXを飲もうとした一夏を止める楯無。その顔は真剣そのもの。
何故だろうと一夏は首をかしげるが、声のトーンからしてそれの本気度を伺える。これそんな危ないものなの?と一夏の背中に冷たい汗が走った。
「それ以上それを飲んだら……言えないっ、私の口からはとてもっ!」
「えっ、これ何が入ってんですか!? ちょっ、冗談ですよね!?」
「冗談よ冗談」
その割りに扇子には『半分』と、不安を掻き立てる言葉が書かれているが。
取り敢えず一夏は蓋を閉め、それ以上飲むのを辞めた。異様に不安になってしまったのだ。
「さて、貴方が訊きたいのは、私が貴方に会いに来た理由よね?」
「……今はそれより、これ以上コレを飲んだらどうなるかが気になるんですけど」
「今は気にしない方がいいわ、今は……ね」
何故か遠い眼をする楯無、取り敢えず後で箒にでも飲ませようと誓う一夏であった。あいつなら大丈夫だろうから。
「貴方の質問に答えると、まあ、警告かな? ……棄権する事をオススメするわ、命が惜しければ」
楯無の言葉に、一夏は嘗められてるという苛立ちよりも先に思ったのは、疑問であった。
命が惜しければ。ISにはシールドエネルギーがあり、更に絶対防御もある。ISが最強の兵器という確固たる地位ほと至る所以は、その操縦者の高い生存率によるもの。
何度も戦場に出撃出来、何度も撃墜される事で経験を蓄積し、最強の兵士と化す。それが、IS最大の長所だ。
確かに雪片弐型は強制的に絶対防御を発動させ、零落白夜はそれで削る量を単純計算で二倍以上にし、出力を間違えれば相手の命を奪いかねないものはある。
雪片二弐型と零落白夜の威力を知っている一夏にとっては、その言葉は非常に現実味を帯びている。
「あの子のIS……鎧土竜は、複数の軍用機を相手取れる性能。しかも手加減を知らないから。あなた死ぬわよ」
「……それでも、諦めるのは俺の性に合わないんで」
そう言い飲み物をベンチに置き、一夏は立ち上がる。
ビットへと向かっていく一夏の背中を、同情の眼で見送る楯無であった。
(´神`)
一夏はアリーナの中、観客に見られながら感じていたのは、不安であった。
対戦相手とある姉からの助言にああはいったものの、控え室で見ていたあの対戦……というより、半ば蹂躙に近いあれは、今の一夏の技量では到底突破出来るものとは思えない。
今からでも棄権って出来るのかな、と思いを巡らせるも、すぐに姉である千冬に却下されるだろうという見栄すいた未来に、諦める。
ナイーブになっている一夏の気持ちを消したのは、それ以上の不安であった。
突如相手側に飛んできたミサイル。そしてハイパーセンサーによって精密性の増した視界に飛び込んできたのは、超巨大ミサイルの上で、腕を組んで仁王立ちするISだった。
それが地面に激突し、大きなクレーターを作る。
「…………あっ、シールドエネルギー削れちゃった」
クレーターの中からぬっと出てきたのは、外跳ねな髪型の楯無とぶっ飛んだ行動とは対照的な印象を持つ、内側に跳ねた水色の髪の少女。眼鏡をかけている。
そしてその少女が纏うISは、一夏の白式(まあ自由にカラーリングは変更出来るのだが)とは対極な、黒だった。
まるで虎のように鋭い爪、象のようの太い脚のIS。背中には折り畳み式の、長方形の物体。そして何より、右肩のアーマーに付けられた、どでかいゴキブリのエンブレム。
『いっ、1組代表、織斑一夏.白式VS4組代表、更識簪.鎧土竜! ISファイト、レディー・ゴーッ!』
解説者はあまりの登場の仕方に一時呆気にとられたものの、すぐに気を立て直し、職務を全うする。
しかし試合のコングが鳴ると同時に簪は、鎧土竜の背中には折り畳まれていた物体を展開する。
それはまるで、巨大なたこ焼き用の鉄板のようだ。そこから間髪入れず、大量のミサイルを発射する。
それはまるで、一つの壁と誤認させるような。しかも最悪な事に追尾まで付いていて、しかも一つ一つが独立した移動ルーチンを持っている。
まず一夏は空中へ浮かび上がり、円上に動く。それについて来るミサイル、速度はそれほどでもない。そしてミサイル同士が一夏を挟み撃ちとし、迫り来る直前、一気に急降下。一夏の頭上で、派手な爆音と爆炎が広がる。
それに安堵する間もなく、すぐに襲い掛かってくる大量のミサイル。一夏は瞬時加速で一旦、アリーナの観客席を守っているバリアの近くへと移動する。迫り来るミサイル、ぶつかる直前に左へスラスターを吹かせ、時には瞬時加速でジグザグに動きながら、壁に誘導しさせて落とす。その度に悲鳴が起きるが、一夏はそれに気を向けてる場合ではない。
それにそれだけの事をしても全ては避けられず、何十発も受けてしまい、シールドエネルギーを半分まで削ってしまう。
全弾命中していたらきっと、夏場に溶ける氷のようにすぐに白式のシールドエネルギーを空っぽにしてただろう。
「……カーニバル、だよー……」
しかし、地獄はまだ終わりではない。序章に過ぎないのだ。
音声認識で既にパージした鉄板の代わりに出したのは、さながら骨粗鬆症患者の骨のように大量に穴が開いた、肩に担ぐタイプの、箱のようなミサイルポッド。一夏はそれを見た瞬間、顔を青くした。
更に右手には、未来が舞台のアニメに出てきそうな青色の光線銃が、一夏を常にロックオンしている。
「勘弁してくれよ……」
一夏の嘆き虚しく発射されたミサイルは、今度は連続的に一夏に襲い掛かった。
更に上空から、高濃度のエネルギー警告。急いで壁の方に移動すると、先程まで一夏の居た場所に、あの謎の無人ISがフィールドバリアを打ち破ったものよりかなり太い水色の光線が、土のフィールドに巨大な穴を開けていた。
「……特別に、教えてあげる。衛星兵器、静線。太陽電池内臓の人工衛星から、破格の破壊力を持つレーザーを、発射。その性能は、軍用IS数台を纏めて水飴にするほど……。
棄権するなら、止めはしない」
一夏はあの時、謎のテロリストに誘拐された時以上の死の恐怖を味わっていた。冷や汗がびっしょりと背中を濡らす。
ひょっとしたら漏らしてるかもしれないが、それも仕方ないだろう。土のフィールドの一部をぐつぐつ煮えたぎるガラスの鍋に変えたその威力を目の当たりにして、誰がそれを攻められようか。
『……更識、それを使うのはやめろ』
スピーカーから千冬の声で注意が入る。
それに対し簪は露骨に残念そう顔をするも、素直に手に持っていた武器を捨てた。
「……仕方ない。これを使う」
そして簪が新たに取り出したのは、デコトラぐらいの大きさを誇るマガジンの付いた、二リットルペットボトル程の大きさの銃口の二丁のミサイルランチャーだ。
そこから連続で放たれる大量のミサイルは、白い軌道を描いて一夏に襲い掛かる。
当然一夏もそれを避けようと高機動に動きそれを避けるが、今度のミサイルも一筋縄ではいかない。
ある物は白式の後を追い、ある物は頭よく先回りし、またある物は一夏を狙わずとにかく目立つように。三種様々に動き回るミサイルは白い軌道で空中に、まるで子供の落書きを描きだす。
これはあまり威力が無く、十数発当たってもシールドエネルギー二割しか減らなかったが、数が問題だ。
何せ、無限と思えるほどミサイルが放たれてるのだから。
一見完璧に見えるミサイルの動き。まあ本当に見えるだけで実際は無駄が多いのだが、それでも初心者である一夏には十分脅威だ。大きくシールドエネルギーを削られながらも、一夏はなんとか耐えた。
「……」
簪の表情はミサイルの煙で見えない。しかし一夏の眼には、それがまるで、強い相手を待ちわびてるように見えた。
やがてミサイルの発射は停止したが、未だに追尾してくるミサイルは絶えない。
しかし、それでも確実に避け、一夏の目に一筋の光が走った。
「……今度は、これ」
それに気付いてか、空になった二丁のミサイルランチャーを捨てて新たに取り出すは、ビール瓶ほどの太さを誇る銃口の、一丁のミサイルライフル。総弾数たった一発のそれを、簪はろくに照準も付けず、一夏が瞬時加速で突っ込んでくるのと同時にトリガーを弾いた。
発射されたミサイルを急上昇で避けると、途端にミサイルが弾け、中から大量の小型ミサイルが飛び出し、一夏の軌道を縫うように地面へと吸い込まれていく。
内部構造と見た目だけが凄い競技用のミサイルなのだ。
「いっけえええええええ!!」
「……なら、これで……!!」
一夏の白式と対するように簪が取り出したのは、巨大なロケットのようなミサイル。
一夏は雪片二型を袈裟に斬り下げ、簪はミサイルを逆袈裟にぶつけ合う。弾頭と剣がぶつかり合い、アリーナ中央は白い閃光に包まれた。
そして遅れて響き渡る爆音がアリーナ会場にまで地響きし、観客の視界が白く塗りつぶされる。
会場内は恐怖と歓喜、熱狂の悲鳴に包まれた。
土煙の中、果たして立つのはどちらか。会場内は緊張の静寂に包まれる……ここで解説が結果を報告しないのは、空気を読んでだ。
「ふっ……ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
まず煙が晴れて姿を表したのは、簪。機体のあちこちはひび割れ、手元の装甲は完全に無くなっていた。眼鏡もひび割れており、何とか顔にかかってるだけという状態だ。
途端に解説の熱が入る。
『たっ、立っていたのは、最後に立っていたのは簪!
更識簪選手です!!』
「我が生涯に……一片の悔い、無し」
「引き分けかあ。……勝ちたかったなあ」
そのままズドンと倒れた簪と入れ替わりのように立ち上がった一夏。別にシールドエネルギーが切れたからといって機能停止するという訳ではないのだが、ただ単にノリである。
その隣で一夏は悔しがるように、しかしどこか晴れ晴れとした表情。
『ひっ、引き分け! なんとまさかの引き分けです!』
解説者の宣言により会場は大いに盛り上がり、歓声と二人を称える言葉で溢れかえる。
一夏はそんな中、うんざりといった風に言った。
「……本当、本当に死ぬかと思った」
この日ほど死を実感した事は無いと、後にコメントを残す一夏であった。
(´神`)ガッチターン
クラス代表決定戦は結局引き分けに終わり、半年間デザート無料パスは1組と4組にそれぞれ、半年から三ヶ月間のみと日数が減ってしまったが分け与えられる事となった。
そして今は、クラス代表選の打ち上げ。全クラスが一同となって馬鹿騒ぎをしている。寮長は毎年、こればかりは黙認するものというのまで風習らしい。
寮の食堂、長方形のテーブルに所せましと、見るだけで胸焼けしそうな料理が並ぶ。白を基調とした壁にオレンジ色の床。さながらどこぞの高級住宅で開かれるパーティーのようだ。
そんな食堂の中、そんなデザートに必死に手を伸ばす簪と、それの頭を両脇からグリグリと拳をねじり込んでいる楯無。
「……お姉ちゃん、痛い……」
「痛いのはこっちの方よ! あんたの出した損害のせいで、修繕費が……山田先生にも頭下げなきゃいけないし、ちくしょう……私の予定が全部狂ったわー!!」
「あうう……織斑君、助けて」
一夏は簪からそっと眼を逸らす。正直今の状態の会長に関わりたくないというのが一つ、命の危険を何度も何度も味あわされたのが一つ。そして何より、自業自得だからだ。
そんな訳で助けが期待出来ないというのもあって、絶望の表情を浮かべる簪。
まあ責任問題とか全部姉に押し付けてるので自業自得、インガオホーなのだが。
「……私を助ければISのメンテも手伝えるし、可愛い私と絆を結べる。アブハチトラズ」
「織斑君、頭のいい君なら、こういう時どういう判断が一番いいか解るわよね?」
助けを乞う簪と、にっこりと黒い笑みを浮かべる楯無。こういう時どうすればいいか、一夏はよく知っている。何せ頭脳値数は高いと自負しているからだ。実際はそうでもないが。
「更識妹さん、因果応報だと思う」
「ファッキンブッダ……あうあう」
拷問で調教めいたものを受けている自業自得な簪から視界をはずし、一夏はクラスメイトの姿を探す。
箒はすぐに見つかった。なんかよくわかんない状態になっているが。
「さあ始まりました『IS学園主催デザート大食い選手権!!~いっぱい食べる君が好き~』!!
司会はわたくし、春のイエローデビルこと谷本癒子がお送りいたします!」
ところ変わってこちらでは、ガーネット色の小さいツインテールが特徴的で、しょっちゅう二つ名が変わる事に定評のある女子生徒、谷本癒子がカンペを読みながらマイクを、小指立てながら持ち前説をしている。
そして舞台となる長テーブルに並ぶ大量のケーキやらを前に座る二人の生徒、そしてその横で目立たないように赤いキャップの帽子を被った少女、村田秋葉がカンペを持っている。
撮影は4組の自称ISカメラウーマン、倉野夢美。カメラ提供はサムズアップしている箒の仕業だろう。
「大食い選手のご紹介! 一人はIS学園が産んだ変態ロマンの擬人化、月影ェェェェェ、永理ィィィィィ!!」
「見せてあげよう、私の胃袋を!」
「対する相手はロシアからの挑戦者! アダムスアン・ヴォルコビッチ!!」
「我輩の食欲力、見るがいいである!!」
永理の隣で腕を組んでふんぞり返っているのは、茶髪の短く切った髪、まるで彫刻のように綺麗な顔の雰囲気をぶっ壊すように左目に三つの傷が入った、一年生どころか高校生にも見えない女性。胸は豊満である。
アダムスアン・ヴォルコビッチ、ロシア代表候補生で、豪快な性格が売りとインフィニット・ストラプスに書いてあったが、なんかもうキャラが色々と女ではないと感じた一夏は悪くない筈だ。
「いーちーかー♪」
大食いバトルを見ていた一夏の後ろから肩へと飛び乗ってきたのは、鈴音。ほんのり赤い頬と仄かに香る酒の臭い。
「りっ、鈴!?」
「一夏一夏一夏ー♪ 一夏の匂いだー♪」
一夏のうなじに顔を埋め、未だ汗の臭いを嗅ぐ鈴音。素面の鈴音がその姿を見たら顔を真っ赤にして卒倒しそうな光景だが、今の酔っている鈴音には、それのリミッターというのがない。
そして、それに感化されるというか、火が移ったというか、一夏の両脇を固めるように、二人の美女が一夏の腕を組んだ。
「鈴音さんだけズルいですわ! わっ、わたくしも嗅いで……いっ、いやっ、破廉恥ですわ破廉恥!」
「そうだぞ鈴音=サンら貴様だけズルい! 私だって嗅ぎたい!!」
ギューッ、と一夏の腕を組む力を強める二人の美女。どちらも巨乳なので一夏の一夏が暴走しそうになっているが、それを一夏は心の中で念仏を唱えて阻止するのに必死。
「あっ、永理が口からクリーム吐いた!?」
「もっと、もっとウイスキーボンボンを持ってくるである!! 我輩まだまだイケるであーるー!!」
永理が女性として色々とアレな状態になっている横で頬を赤らめながら最速する熊っぽい姿のヴォルコビッチ。
「全部ブッダが悪い……だから、私は悪くない……ブッダがゲイのサディストだから……」
「全部あんたが悪いのよ簪ちゃん」
そして未だにぐりぐりされている簪と、ぐりぐりしている楯無。
そして両手に花どころじゃない状態の一夏と、カオスな夜は過ぎていく。
(´鍋`)
アリーナのカタパルトに佇む一人の女性。長い髪が夜風に揺れる。
織斑千冬、第一回モンド・グロッソ優勝者であり、ブリュンヒルデの異名を持つ、自他共に認める世界最強だ。そして彼女の電話相手、今となっては全う……とは少しばかり言い難いが、取り敢えず社会人となった、世界にISを広めた天災科学者、篠ノ之束の数少ない友人である。
『はいはいどったのちーちゃん。珍しいね~、ちーちゃんから電話かけてくるなんて♪』
ワンコールもしないうちに、カタカタとキーボードを打ち付ける音と、馬鹿みたいな音量で流れているメタルな音楽をバックミュージックに、軽い調子で出た。
『まさか……私に愛の告白!? だっ、駄目だよ……私、女の子だよ……?』
「違うわバカタレ。例の、無人機の件だ」
『天才の束さんに馬鹿って……無人機? あー、そっち行ってたかー』
アハハと渇いた笑いを出す束。
例の無人機、というのは、一夏と鈴音が速攻撃破したあの機体である。と、いうのも、無人機のISなんぞは未だ歩かせる事すら出来ていない技術。そんなのを実現出来そうなのは、束と束の所属する会社の社員程度。
束の所属する会社の技術社員は、大体束とどっこいな技術力と、束以上の変態力を持った、世界有数の変態企業である。そして千冬も昔、少しばかり世話になった事があるのだが……今それを語るべきではないだろう。
「……やはりお前らが関与してたか」
『あははー……ごめんねー、うちの社員が迷惑かけて。でっ、でっ、どんくらい暴れたの?』
全く悪びれた様子もなくそれより無人機の活躍に注目する辺り、彼女は生まれついての天災だ。千冬は思わず、口元に笑みが浮かんでしまう。
結末を言ったら、どんな顔をするのだろう。きっと狼狽える筈だ。
『まさかIS学園をぶち壊す程ではないだろうし~、でもでもただでは済んでないよね? そうに決まって』
「速攻撃破されたぞ」
『……えっ、えっと……えっ?』
「遮断シールド以外損害なしだ」
『あり得ないよそんなの……だって、私特性のISなんだぜ?』
電話越しでも狼狽えているのがわかり、千冬は笑みを深める。
やはり束特性のISだったか、と自分の予想は当たっていた。AIの方は違うというのは予想外であったが、その程度はさした問題ではない。
『まあ、嘘か本当かは戦闘データを見てから確かめるとして……他になにか用事でもあった? 無かったら私と無駄話しよ』
「報告だけだ、切るぞ」
『ちょっ、待っ』という言葉を無視し通話を切る。
夜風に靡く長い髪を押さえながら、珍しく千冬はご機嫌に鼻唄を口ずさみながら、アリーナを後にした。
◆IS◆
IS名鑑#05
【鎧土竜】
日本代表候補生、更識簪が自ら設計しキサラギから開発された世界唯一の一・五世代型IS。FCS以外の内部パーツが第二世代初期の性能は劣悪だが拡張領域を圧迫しないものを採用しており、元より避ける事を想定していない作り。ちなみに、名前の由来は簪の買っているペットから取られている。