ソードアート・オンラインってなんですか?   作:低音狂

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遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。今年も本作品をどうかよろしくお願いいたします。


第二層の思ひで

 

『組み分けのはずが模擬戦、そして……』

 

 人が複数人集まれば、そしてそれが多ければ多いほど必須となるのが、所謂組み分けというもの。

 今回のボス攻略に挑む前に、まずは役割分担ということで組み分けが行われることになっていたのだが、ここで一つ問題が発生した。

 それがアルトリアさん、キリト君、そして私の、3人のソロプレイヤーの扱いだ。

 本来であればこの3人で組めば良いのだろうが、如何せんアルトリアさんの実力が突出しすぎているため、そのまま3人でパーティを組むのは少々もったいないのだ。

 一度決闘したからこそわかるのだが、アルトリアさんの実力は、恐らく私とキリト君の2人で挑んだところで軽くあしらわれるはず。

 それほどまでに高い実力を持っているのであれば、いっそのこと例外的に彼女1人だけの部隊を作る方が良い。

 組み分けに悩んでいたディアベルさんに対し、アルトリアさんがそのように提案したところ、何故かキリト君、私対アルトリアさんにて模擬戦をすることになってしまった。

 システム上決闘は1対1で行われるため、今この組み分けが行われている場所、アルトリアさんとキバオウさんの決闘が行われた場所にて、圏内戦闘を行う。

 そして今こうして、私とキリト君の2人でアルトリアさんと対峙しているのだが、それだけであの時の決闘が、一方的な蹂躙が脳裏に浮かび、手足が震える。

 味方としてならとても頼もしいアルトリアさんだが、こうして敵に回るとその分恐ろしいものがある。今後は絶対手に敵対しないようにしなければならない。

 

「それじゃあ双方、準備はいいかな?」

 

 今回の模擬戦の立会人であるディアベルさんが、私達3人に対し問いかけてくる。

 流石にいつまでも怯えている訳にはいかないと、一度深呼吸することで気持ちを落ち着かせ、手足の震えを極力小さなものにする。

 隣を見ると、キリト君はアルトリアさんの実力がどれほどのものか知らないのか、私と違い特に気負った様子はない。

 

 ―――そう、これはあくまで模擬戦なんだ。

 

 深呼吸とともに何度も自分に言い聞かせることで、次第に手足の震えは止まり、今度は思考がクリアになってくる。

 今はまだ彼女に拮抗することは無理でも、善戦することならば出来るのではないか、などと考え、直ぐにそれを否定した。

 そんな気持ちでは、いつまでたっても彼女に勝つことなんて出来やしない、と。

 

「それじゃあ、始め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり、彼女は強い。

 組み分けを始める前にキリト君に、アルトリアさんと2人で教わったスイッチ等のテクニックを駆使し、兎に角攻めに攻めたが攻撃は全く当たらず。

 しかし彼女の攻撃は面白い程クリーンヒットし、何度も私とキリト君をノックバックさせる、と言うのが終始続いた。

 まともに鍔迫り合いをさせてくれないせいで、キリト君がアルトリアさんの動きを鈍くすることも出来ず、また私の攻撃も前の決闘の時以上に見切られてしまい、攻撃が当たるイメージなんて全くと言っていいほど沸かない。

 これを見ていたギャラリー達も唖然としてしまい、中には口をぽかんと開けて間抜け面を晒すプレイヤーも居たほど。アルゴさんに至っては笑っていたが。

 

「アルトリアさんの扱いは、ワンマンアーミーということにしよう。その方が作戦の幅も広がりそうだ」

 

 どこ影が差した様な表情で、ディアベルさんが最終決定を下す。

 確かにあの様な、子供がたった2人で達人に挑む様なところを見せられては、この様な表情になってもしかたがないだろう。彼女にリーダーを務めて欲しいと頼まれたが、その彼女自身が在り得ないほどの実力を持っているのだから。

 そしてこれが、後にあのような出来事になるだなんて、この時の私は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『男はつらいよ』

 

 キバオウさん達を確実に参加させないための方法として、今回のメンバーを集めた張本人であるアルトリアさんと決闘させることで、彼らの参加を見送らせることにしたのだが、その所為で彼女とお食事デートすることになってしまった。

 お食事デート自体は本来であれば大歓迎なのだが、今回ばかりは相手が悪い。なんせ、相手はあのアルトリアさんなのだ。

 一度だけこの目で見たことがあるのだが、彼女の食べる量は、一般男性は勿論、健啖家と言われる男性の食べる量、大きく上回っているものだ。

 現実世界にはオレの友人の中に、人一倍よく食べる奴が居た。けれど彼女の食べる量を見てしまうと、よく食べる友人でさえ、少食にしか見えない程、彼女の胃袋の許容量は異常。

 そんなアルトリアさんとのお食事デートは、勿論オレが全額支払わなければならない。つまり、最悪無一文になる可能性もある。いや、彼女のことだから、恐らくそのつもりで居るのだろう。

 だから彼女とのお食事デートが決まったその日の夜、オレは必死でコルを稼ぐために狩りに出ていた。勿論それだけが理由ではない。

 この世界で最も信頼の置ける情報屋である「鼠のアルゴ」は、オレ達のパーティを攻略メンバーとして誘う際に、彼女は現状最強のプレイヤーだと言っていた。

 そしてそれを信じてキバオウさんに彼女をぶつけたのだが、オレの思っていた実力と、この目で見た実際の実力は、あまりにも大きな差があるではないか。

 

 ―――彼女は強すぎる。

 

 鼠が彼女のことを最強だと言っていたが、その言葉に一切の偽りなど無く、勿論過大評価でもないことを知った。

 そしてその事実は、オレの肩に重くのしかかって来るの自覚する。このままでは、攻略メンバー全員の信頼が彼女の方へ無いてしまう、と。

 ただ信頼されないのが嫌というわけでも、ましてや目立ちたいだけでもない。

 彼女にリーダーを任された以上、オレはそれを全うしたいのだ。

 だが、先述の通り、攻略メンバーの信頼が全て彼女の方へと向いてしまえば、オレというリーダーはあくまでお飾りとなってしまう。それでは彼女の信頼にこたえることが出来ない。

 いや、彼女はまだオレのことを信頼しているわけではないのかもしれない。オレをリーダーにしたいと言った時、彼女に何故かと問いかけると、勘だと答えた。

 ならば急ぐ必要はないのでは、とも思うが、こういったことははじめが肝心。今舐められてしまえば、今後もそれが引きずる可能性がある。だからこそ、オレは少しでも早く強くなる必要があるのだ。

 

「やはり、LAボーナスを狙うしか無いのか」

 

 一息ついたところで、誰も居ないのを確認してからボソリと呟く。

 今こうして狩りをしていても、一向に、全くと言っていいほど彼女の強さが見えてこない。それほどまでに彼女は遠い。

 ならば少しでも彼女に近づくためには、戦闘技術もそうだが、装備にてステータスを高める方法しか現状は方法がないだろう。

 手っ取り早く良い装備を整えるのならば、フロアボスのLAボーナスを狙うのが最も確実だ。ボーナスにて手に入る武器防具の類は、NPCから購入するより遥に性能が良いからだ。

 だからオレは、恐らくボス戦ではLAボーナスを狙いに行く。

 その結果、彼女を危険にさらすということも、今日稼いだ分のコルが全て宴会費となってしまうことも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

『My friend Arto.』

 

「楽しんでるか~!野郎共~!!」

 

 ジョッキになみなみと注がれたお酒を掲げながら、ディアベルさんが半ばやけくそとばかりに声を張り上げる。

 そしてその声に応えるように、この祝勝会に参加していたプレイヤーたちからも、大きな笑いとともに声を張り上げる。

 本来この世界のお酒は、現実世界の様に酔うということは出来ないはずなのだが、彼はまるで本当に酔っているかのような振る舞いを見せていた。

 

 ―――それも仕方がないのかな。

 

 彼が何故こうもやけくそ気味に叫んでいるのか、それは元を正せばボス戦開始直前のアルトリアさんの言葉にある。

 

 『今日のこの戦いが終われば、宴でも開きましょう。ディアベルのおごりで』

 

 というこの言葉こそが、今回のこの宴においてディアベルさんが壊れてしまった原因だ。もっとも、彼の自業自得であるとも言えるのだが。

 戦いが終わった後、アルトリアさんにあの時の言葉、ディアベルさんにおごらせるという言葉は本気だったのかを聞いてみたところ、もともとは本気ではなかったと言う。

 宴会に参加するプレイヤーはなるべく全員で出し合うつもりでいたらしいのだが、ディアベルさんがあの時突っ走ってしまったことが原因で、やっぱり全ておごらせようと決めたらしい。

 

 ―――いったい何コルなんだろう。

 

 盛り上がっている周りを見渡しつつ、今この場で提供されている食事や飲み物の代金が一体どれほどのものなのかを考えたが、直ぐに思考を閉じることにした。

 なんせ参加者は40人程にもなるのだから、少なくとも一人でこれら全てを出すとなると、もはや考えることさえ憚られるものだ。

 

「アルトリアさんは……とても楽しんでるようね」

 

 今回の宴会を企画し、そしてディアベルさんに全てを出させるという暴君のようなことをしでかした張本人の方を見やると、そこには口いっぱいに料理を頬張るアルトリアさんがいた。

 普段の凛とした雰囲気などもはや見る影もないが、その分まるで小動物化のような可愛らしさがあるではないか。

 

 ―――リスっぽい。

 

 初めて彼女と会った時と同様の服装なため、彼女は今もとても小柄に見える。そんな体型と相まって、余計に小動物のようにしか見えないのだ。もっとも、小動物とは言っても草食動物ではなく肉食動物だが。

 しばらく隣でひたすら手を動かしている彼女を眺めて目の保養にしていたのだが、その彼女が私に見られていることに気づき、声をかけてきた。

 

「どうかしましたか、アスナ?」

 

 きょとんとした様子で私に問いかけるアルトリアさん。うん、やはり可愛い。

 さて、どう答えたものかと考えたところ、ふと思いついたことを言う。

 

「ねぇ、アルトって呼んでも良い?」

 

 毎回毎回アルトリアさんでは少々堅苦しい様な気がしていたし、何より彼女と仲良くなりたいという心の余裕があったのだ。

 きっとこのデスゲームが始まって直ぐの頃の私だと、こんなふうに誰かと仲良くしたいなんて考えなかったはず。

 けれど、彼女が一人で第一層を突破したという話を聞いて、このゲームはクリアできるのだということを知った。現実世界にていい学校に進み、そしていい家に嫁がなくても、本当に凄い人は凄いのだと知った。

 そんな彼女をもっと近くで見ていれば、私も何か掴み取れるのではないのかと、そう思ったのだ。だから、彼女と仲良くなりたい。友達になりたい。

 

「えぇ、勿論構いませんよ。それでは私は……アーちゃんと呼びましょう」

 

 この世界において、いや、現実世界含めて私のことをそう呼ぶのはアルゴさんのみ。

 そのアルゴさんもどうやら今回の宴に参加していたらしく、アルトリアさん改め、アルトの言葉を聞いて吹き出していた。

 そんなことはどうでもいいとしても、流石に彼女にアーちゃんと呼ばれるのは正直嫌である。

 

「冗談ですよ、アスナ」

 

 私の心の中を察したのか、優しく微笑むように、冗談だと言うアルト。

 アルトでも冗談を言うんだ、などとどこかズレたことを考えながら、改めて彼女と乾杯をする。

 今日というこの日に。

 

 その後、再びご飯を食べ始めたアルトの頭を、邪魔にならない程度にひたすら撫で続けた。

 

 




ボス戦を書いていた時には、もっとこの番外編にて書きたいことがあったはずなのに、いざ書き始めると何故か思うように書けないという不思議。
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