七月三週、甲子園行きを決める予選決勝戦の日になった。快晴の空の下で蝉が前座のようにやかましく鳴き、盛り立てていた。
SG高校の地下ドームはあの後、巨大な地震の影響で崩れてなくなってしまった。直前に矢部が残りの埋蔵金がまとまって隠してあったのを発見したが持ち出す時間がなく、結局地の底に埋もれてしまった。今ではあったという証拠もなく、ただの言い伝えになってしまった。
彼はもう、埋蔵金に未練はなかった。大変な思いをしたせいか興味が薄れていた。いや、違うことに興味を奪われていた。キャプテンとして、チームを甲子園に連れていくことに尽力していて、そのことについて考える余裕がなかった。
球場入りした彼は真っ先に相手方のベンチを見た。赤と黒のユニフォームを着た選手達が各々準備をしていた。
彼女と再会するのはあの日以来だった。こうして敵同士として甲子園を掛けて直接対決することになるとは思いもしなかった。彼女の姿を探す。屈強な選手達は誰も彼もが強打者に見えた。これで守備力も鍛えられているのだから恐ろしい。だがこちらも準備を完璧にしてきた。過去に二度負けたとはいえ、三度目の正直という言葉もある。それを実現させる自信もあった。今度こそと、意気込みは充分だった。武者震いが止まらない。
ベンチにはいないのかな、と視野を広げてみる。すると顔は見えなかったが、一人だけ頭二つ分も背の低い人を見付けた。彼女だ、と一目で分かった。そばにいる誰かと何か話している。
「どうした?」
「実はさっきのノック中にグラブが破けちゃってさ、使い物にならなくなっちゃったんだ。今日に限ってスペアを持ってくるの忘れちゃってさ、困ってたんだよ」
「そうか、ならボクのを使うといい」
「え、いいの? でもこれって普段使ってる方のグラブだよね」
「大丈夫だ。ボクは自分のスペアを使う。キミはチームの重要な戦力だからな、いなくなっては困る。使いやすさは保障するぞ」
「あ、ありがとう!」
「なに。困った時はお互い様だ」
くすりと彼は笑った。彼女らしさは健在のようだった。
彼女達と真っ向から戦えることが誇らしかった。最高の仲間と、最高のライバルと、同じグラウンドで野球ができる。その上勝った方が甲子園に行ける。熱い、最高の舞台だ。この場に選手として立てていること、それだけで既に自分は幸せ者だと感じていた。
三時間後には恐らく結果が出ている。どちらが勝って、どちらが負けたか。もちろん負けるつもりは毛頭ない。しかし、結果がどうなっても満足してしまうだろうな、という予感がしていた。
両チームがベンチ前に集まる。審判もホームベース前に集まり、手を挙げた。整列、と号令が掛かる。
「行くぞ!!」
大筒高校対SG高校の試合が幕を上げた。