若干読みづらいかもです。
死んだ者は生き返らない。これは生きるもの全てに当てはまる常識だろう。
だがこの常識は案外簡単に覆されるのかもしれない。
篠崎想馬は目の前にいる2人の人間をじっと見据える。
目の前には顎にヒゲを蓄えた30代後半ほどのアジア系の男と優しそうな顔をしたイギリス系の女。
普通、想馬が特定の誰かに興味を持つことはない。
だが今回のケースは別だ。
彼の目の前にはいるはずのない人間、いや、生きているはずのない人がいたから。
なぜここにいる? なぜあの場所にいてくれなかった?
目の前の彼ら、俺の両親は。
「想君、どうしたの?」
「どこか気分でも悪いのか? 想馬」
「別になんでもない。……親父、お袋」
「もー、そんな言い方しちゃダメよ想君、ママって呼んで?」
「そうだぞ、想馬。パパと呼びなさい」
そう言って二人は不満げに、ふくれっ面をした。だがその顔はどこか楽しそうだ。
昔、親父達は2人で毎年行っている何回目かの夫婦旅行に出かけた。
だが2人は旅行に出かけたきり帰ってくることはなかった。
聞いた話では両親の乗った飛行機には欠陥があったらしい。
飛行中に機体の欠陥が原因で空中で分解。
絶望的な事故で乗客は全員死んだと新聞の記事に書いてあったのを今でも覚えている。
もちろん親父とお袋も例外ではなかった。
つまるところ逝ってしまったのだ。俺とまだ幼かった妹を残して。
両親が死んで俺は唯一残された家族、妹を悲しませやしない、ずっとそばにいてやることを約束した。
そして子供だけでは生活できいなだろうと親戚の叔父に妹と一緒に預けられ小学校、中学校を過ごした。
これ以上叔父には迷惑はかけられないと思い、高校に上がると同時にバイトを始め、妹と2人で暮らし始めた。
妹との2人暮らしが始まって1年が立ち生活も安定してきた頃――
――俺は死んだ。
今まで約束を破ったことは一度もなかった。
妹を悲しませないように必死に生きてきた。
だけど俺は死んだ。
約束を破ってしまったことが悲しい。
自分ではどうしようもなかったと分かっていても悔しくなる。
何もできなかったと分かっていても自分に苛立ってくる。
昔の思いが頭の中でリフレインし勝手に足を動かした。
「……出かけてくる」
「そう? いってらっしゃい。暗くなる前には帰ってくるのよ。今日は想君の好きなもの作って待ってるからね」
「それと忘れものだぞ、想馬」
母親は微笑みながら想馬を見送り、父親は青い珠がついた盾を
「いつも身につけてるものだろ? 大切なものならちゃんと自分の手の届くところに置いとかないとな」
「……ありがと、親父」
「ああ、気にするな。何があったかしらないけど元気出せ」
様子がおかしかったのを気遣って励ましてくれる。
2人は昔の記憶通りだった。
母はとても優しかった。近くにいるだけで安心できたしいつも暖かく見守ってくれていた。
父はとても強かった。俺に大切なことを教えてくれたし時には厳しく接し正しい道へ導いてくれた。
2人は若干過保護気味な、そんな人達だった。
二度と会うことができないと思っていた両親に会えたことは素直に嬉しいと思う。
だが自分の中ではとっくの昔に2人は死んだと割り切ってしまっているからどうしてもこの2人が本当の親だと思うことができない。
そう考えると見た目と心が似ているだけの他人、とさえ思えてきてしまう。
しかしこの体を産んでくれたのは間違いなくこの世界の両親だ。
どちらが本当の両親だと言えるかわからなくなる。
転生する前の自分なら簡単に割り切って答えを出していただろう。
思考力や感情制御が完全にとは言わないが子供に近づいたと自嘲した。
「……」
気づくと家から随分と離れた公園の前に立っていた。
公園には追いかけまわってはしゃいでいる子供達。
恐らく鬼ごっこでもしているんだろう。
体は子供でも頭は大人だ。別に混ざる気もないので気にも掛けず公園の奥にあるブランコに座り込み思考を再開する。
「……」
様々な疑問や考えを自分に問いかけては自分なりの答えを出し、それに関連する問題を再び問いかけては答えを出す。
親が死んだショックを紛らわせるために始めた思考ゲーム。
最初はなぜ自分がこんな目にあわなくてはいけなかったと恨み言を問いかけていた。
いつの間にかその問答が癖になっていてショックから立ち直っても思考ゲームは続いていた。
知らないうちに思考の海にどっぷりと沈んでいることもあった。
それは自分が死んだ理由でもある。
深い思考から戻ってきた時には街のショーケースの前に立っていて、背後にはだんだんと迫ってくる大型トラック。
親が死んだショックで始めたゲームで自分が死んでしまうとはなんたる皮肉だろうか。もう一度自分を自嘲する。
「――!」
「……」
公園は子供の声でうるさかったが気にせず思考ゲームを続ける。
考えたのは両親の事の続き、妹のこと、神と名乗る少女のこと、もらった特典のこと、この世界のこと、そして『異物』のこと。
自分が幼くなったことや、自分の持っている情報が少なすぎる事もあってか幾つか答えのでないものあった。
答えの出ないものを考えても仕方がない。
ため息を吐きながら思考を一旦中止し、意識を現実へと戻して顔をあげる。
「――! ――――!!」
すると目の前にはいつの間にかアホ毛が特徴的な少年が立っていた。
涙目で寂しそうな顔をしていて、感情に同調するようにアホ毛も元気なさそうにしょげている。
「誰だお前」
そう声をかけると相変わらず涙目だが少し嬉しそうな顔になる。
「やっと気づいてくれた! 何回も声かけてるのに全部無視するなんてひどいよ!」
どうやら声が全く届かないほど深く思考の海に沈んでいたらしい。
自分を死に追いやるほどの悪い癖だ。
直さないと今度は気づいたら死んでいる、なんてことになっているかもしれないな。
「もー! また無視しないでよ! 泣くよ? それはもう物凄い勢いで泣いちゃうぞこのやろー!」
目の前の子供がうるさい。仕方ないので相手にしてやることにした。
「はぁ、で? 俺に何の用だ?」
「用? なんだっけ?」
「知るか」
「ああ、そうだ! そこの金髪ボーイ、僕らと一緒に超絶! ハイパー鬼ごっこしないかい!?」
セリフと共に後ろから数人の子供たちが出てきてビシィッ、と擬音でも出そうなほどキレよく戦隊モノのような決めポーズをとった。
妙に統制されたまとまりある動きだ。
「(なんだよ超絶って……)なんだそれ?」
「ふっふっふ、聞いて驚け! 超絶! ハイパー鬼ごっことは! ……なのちゃんよろしく」
「ふぇ!? わ、わたしがいうの?」
「うん、なのちゃんの見せ場だよ、頑張って」
栗色のツインテールの少女がアホ毛の少年に前に押し出される。
「えーと、まず鬼以外の人が缶を蹴って、鬼の人が缶を――」
「少しまて、まさかとは思うが缶蹴りのことじゃないだろうな」
「ちっちっち、残念ながら缶蹴りじゃないのだよ。なのちゃん続きを」
「うん、それで鬼の人が缶を拾って誰かに投げつけます。当たった人が超絶鬼になってみんなからひたすら追い掛け回されるゲームです」
「……追い掛け回されるだけか?」
ツッコミどころは多かったがあえてスルーする事にし、呆れながら質問をする。
「ううん、超絶鬼以外の人は物理攻撃ありで、超絶鬼は捕まったらみんなにリンチ受けるよ。ちなみに5回くらいやってるけどなぜか僕しか超絶鬼にならないんだよね。なんで?」
「知るか」
「まぁいいや。それで金髪ボーイ、超絶! ハイパー(可哀想な)鬼ごっこを僕らと一緒に」
「やらねぇよ」
うっとおしそうなのに絡まれたとため息をついた。
だがこいつとの出会いが自分の人生を大きく変えることになるとは今の俺は微塵も思うはずもなかった。
ちなみにサブタイの危険な遊びは超絶! ハイパー鬼ごっこではなく想馬君の思考ゲームのことです。