可愛いの条件 ~ Story of Rin 作:Kohya S.
「うーん、こんなものかな……」
自室の机でノートパソコンに向かっていた史郎は、顔を上げて伸びをした。
史郎の自室は六畳ほどで、机とベッド、それに二本の本棚でかなりの面積を占めていた。机の上置きにはプリンターが乗せてある。壁には何枚かの写真が貼られていた。
凛と会った翌日、学校から帰宅した史郎は撮影した写真をカメラから取り込み整理していた。猫画像フォルダに画像を放り込む。
「次に行くか」
今度は凛の写っている写真にとりかかった。ノートパソコンに凛と猫が見つめあっている……というか、にらみあっている、だな……姿が表示された。自画自賛だが凛の楽しそうな表情がよくとらえられていると史郎は思った。
一枚ずつ確認して必要なら加工――といっても露出とホワイトバランスの調整くらいだが――していく。
一通り作業を終えて「その他」フォルダに画像を入れようとして、史郎は思いとどまった。新しく「星空凛」というフォルダを作りそこに入れた。
「さて、どれにするかな……」
史郎は昨日、凛に話したように写真を送るつもりだった。
猫画像から眠っているのと目を覚ましたあと、二枚の写真を選ぶ。そしてすこし悩んだが凛と猫の写真も一枚選んだ。そのままだと大きすぎるのでリサイズしてからスマートフォンに転送する。
そして昨日の写真を送ることを書いて凛にメールを送信した。
しばらくしてスマートフォンが軽快な音を立てた。「ありがとニャ>ω</」という件名のメールが届いていた。
本文は短かったが、昨日のお礼と猫が可愛いこと、凛がよく写っていてうれしいことが書いてあった。
さっき作ったフォルダにファイルが増えていくといいんだけどな……。史郎は漠然とそう思った。
・
翌週。史郎は計画していたことを実行に移すことにした。
帰宅して食事を済ませ自室に入る。時間は午後八時を回ったところだ。おそらくこの時間なら自宅にいるだろう。そう考えて史郎はスマートフォンを手に取った。アドレス帳から「星空凛」を選び、発信ボタンをタップする。
呼び出し音が響く。
「はい、凛です」三コールほどで凛が出た。
「えーと、七尾だけど」
「あ、七尾君!」
声が嬉しそうなのは気のせいだろうか。というか星空はスマホの画面を見ずに電話に出たのか……。
「この前は写真、ありがとう」と凛。
「どういたしまして。……今、すこし話して大丈夫かな」
「うん、大丈夫だよ」
「えーと」やっぱり緊張するな……。「今度の土曜日だけど、予定とかあるかな」
「凛は、特になにもないけど」
史郎は思い切って口にした。
「よかったら一緒に、どこかに遊びに行かないか」
「えっ……」と凛。
「だめかな」
一瞬の間を置いて、凛は答えた。
「うん、いいよ。行こう!」
よし、まずは第一関門突破だな、と史郎は思った。
「それで、どこどこ、どこに行くの?」と凛。
「星空さんが行きたいところでいいけど」
「うーん、凛はね……。うーん、迷っちゃうな……」
凛が悩んでいるようなので史郎はあらかじめ考えていたことを口にする。
「……動物園、とかどうかな」
「お、動物園。いいね! 久しぶりだニャ」
凛は乗り気のようだ。そして続けた。
「えっと、お友達とか、誘っていいかな」
それはまずい。
「あー、俺、知らない人と会うの苦手なんだよね……」
「そっか……」
凛はそれ以上はなにもいわなかった。史郎はほっとする。
「じゃあ、詳しいことはまた連絡するよ」
「わかった。楽しみにしてるニャ!」
史郎は電話を切った。
ふう、うまくいった、と史郎は思った。こんなに緊張したのは久しぶりだ。それでも結果が出てよかった。
「よし!」
史郎はひとりガッツポーズを取った。
・
翌日の昼休み。昼食後の教室で史郎はいつものように正志と話していた。
話題が途切れたのをみて史郎は小声で切り出した。
「正志、実は……星空さんとデートすることになった」
「マジかよ!」と正志。
「声でかいよ……」
「あ、悪い」正志は声をひそめて続けた。「史郎に女子を誘う勇気があるなんて思わなかったぜ」
「ひどいな、それ」
「でも事実だろ」
「うん、まあ自分でも意外だ」
改めて考えるとよく誘えたものだと思う。それだけ星空にひかれた、ということだろうか。
「で、いつ、どこに行くんだ」と正志。
「今度の土曜日。動物園」
「動物園……」ニヤッと笑う正志。「うん、高校生らしくていいぞ」
「それ褒めてないだろ」
「まあ星空には似合ってるな」
腕組みをして正志は続けた。
「それにしても史郎と星空とはなあ。超意外だぜ」
「そうか?」と史郎。
「星空は超活発、お前はいっちゃ悪いけど地味だからな」
そういう組み合わせの方が相性がいいかもしれない、と史郎は思う。
「まあ、うまくいくように祈ってるぜ」ぽん、と正志は史郎の肩をたたいた。
「うん」と史郎。
「あー、俺も逢沢でも誘ってみるかな……。ダブルデートとかどうだ?」
「だめだね」あれだけがんばったのに冗談じゃない。
「だよなあ、うーん」
正志の方もうまくいくように祈っておこう……。
・
その後、凛とは数回メールをやり取りし、行き先は都内で――いや日本でもっとも有名な某動物園に決まった。秋葉原駅の電気街口、広場のある側に朝9時に待ち合わせることにした。開園直後に入ろうという計画だ。
土曜日。幸い朝から良い天気に恵まれた。日差しがあると暑いくらいだ。
史郎は約束の時間の十分ほど前に秋葉原駅に着いた。史郎はワインレッドのTシャツに薄灰色のパーカー、黒いパンツという服装を選んだ。
凛はまだ来ていないようだった。
駅前からはペデストリアンデッキとダイビル、そしてUTX高校が見えた。UTX高校の大型ディスプレイには三人組の女の子たちが映し出されていた。星空が話していたスクールアイドルというやつだろうか……。
なんとなくディスプレイを眺めていると中央通りのほうから女の子が走ってくるのが視界の端に映った。凛だ。
「七尾くーん!」手を振りながら走ってくる。
うわ、大声で名前を呼ばれるのは相当恥ずかしいぞ。
凛は史郎のすこし手前で急ブレーキをかけて立ち止まる。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いや、いま来たところ」
「よかった」と凛が笑う。
凛は白いシャツにブルー系のアーガイル柄のニットベスト、ベージュのクロップドパンツをあわせていた。小振りのリュックを背負っている。凛にはよく似合っていた。
「なにか付いてるかニャ?」
「あ、ごめん」見とれていた、とはいえないな。「行こうか」
「うん!」
ふたりで切符を買ってホームに上がった。ホームは土曜日とは思えないほど混雑していた。
「京浜東北線は大森駅付近での沿線火災の影響で、東十条、蒲田間で運転を見合わせております……」
アナウンスが流れていた。
「あー、止まってるのか……」と史郎。
「どうするの?」
「二駅だから、ちょっと混んでても山手線で行くか、それとも地下鉄か……」
「凛は、どっちでもいいよ」
うぐいす色のストライプの電車がホームに入ってくる。
「じゃあ、乗るか」
降車する客が途切れたのをみはからって、ふたりは電車に乗り込んだ。なんとか反対側の扉の前を確保する。
ベルが鳴りやむと扉が閉まり電車は走り出した。
「なんとか、大丈夫そうだね」と凛。
車内は混み合っているが押されるほどではなかった。
しかし、電車が御徒町駅に到着すると大勢の乗客が乗り込んできた。
「中までお詰めくださーい」と車掌の声。
史郎はとっさに凛の手をつかみ、凛が扉側に来るように、体の位置を凛と入れ替えた。凛と乗客の間に史郎の体を置く形になる。一瞬、驚いた様子の凛。
史郎は扉に手をついて押してくる乗客に対抗した。
「ドアが閉まります」
電車の反対側の扉がようやく閉まり、ふたたび動き出した。
「七尾君、へいき?」と凛が心配そうに尋ねた。
「うん、まあ」
乗客の圧力を受けて史郎の体は自然に凛に近く。凛の吐息がかかる……んだけど背中の乗客が暑苦しい……。
ホーム手前のカーブで電車は大きく揺れるが史郎はなんとか踏みとどまった。
「上野、上野、です」
大勢の乗客とともにふたりはホームに吐き出された。なんとか人の少ないところまで移動する。
「ありがとう、七尾君。その、守ってくれて」と凛。
「いや、こっちこそごめん。乗ろうなんていっちゃって」
「凛は、ぜんぜん大丈夫だったよ」
「そうか、ならよかった」
「では、気を取り直して、いっくニャ!」
凛が元気よく歩き出した。史郎もあとをついていった。
・
駅から出て公園の中を歩く。動物園まではごく近い。
凛はきょろきょろとあたりを見回し、博物館の大きなポスターを眺めたり、巨大な樹に感心したりしている。
思い出して史郎は鞄からカメラを取り出し首から下げた。
「星空さんの写真、撮ってもいいかな」
「うん、いいよ。七尾君も撮ってあげるよ!」
史郎が使っているのはいわゆる高級コンパクトカメラで、貯めた小遣いとお年玉で今年になって買ったものだ。本当ならデジタル一眼かミラーレスが欲しかったのだが……。それでもかなり細かい設定もできるので、史郎は気に入っていた。
途中、大きな広場では多数の鳩がうろうろしていた。
「鳩さんだニャー!」凛はテンションをあげて鳩の群れに突っ込んでいく。
一斉に飛び立つ鳩たち。
「ふっふっふ」
今度はぴたっと立ち止まる凛。鳩が再びあたりに寄ってくる。
「ニャー!」
パッと目の前の一羽をつかむふりをする。また逃げ出す鳩たち。史郎は鳩と遊んでいる凛に向けてシャッターを切った。
笑っている凛に史郎は声をかけた。
「そろそろ行こうか」
「はーい」
開園のすこし前に入り口についた。史郎は入場券を二枚買い一枚を凛に渡した。
「お金は?」と凛。
「俺が誘ったんだから、出すよ。安いし」
「ありがとう」
凛が笑った。
ふたりはゲート前でしばらく待つ。
「なにが見たい?」と史郎。
「うーん、やっぱりパンダかな!」と凛。
「よし、まずはそこに行こう」
「ダッシュだね!」
「いや、園内で走るのはまずいって」
「うーん、速歩きならいいかな?」
「まあね」
開園時間になりゲートが開いた。前の人に続いてふたりも入場する。
「パンダちゃーん!」
凛が恐ろしい速度で足を動かし歩いていく。
「速いって」
史郎は小走りに近い感じでついていった。パンダ舎は入り口からすぐだ。
急いだ甲斐あって待っている人はそれほど多くなく、すぐにパンダと対面できた。
「かわいいニャー!」
二頭のパンダが笹を食べていた。たしかにまるでぬいぐるみのようだ。史郎は写真を何枚か撮った。
ずっと見ていたいところだが、ふたりは人の流れに流されるように外に出た。
「かわいかったね」と凛。
「うん、小学校以来かな」
「凛も、そのくらいかな。遠足で、来たもんね」
そういえば同じ音ノ木坂小学校出身か。
「次はライオンさん見よう!」
「了解」
その後はしばらく凛のいうままに見てまわった。史郎はときどき動物と凛をカメラに収めた。
パンダ、ライオンから始まって、トラ、ゾウ、ゴリラ、ホッキョクグマなど――凛は有名どころの動物が大好きのようだった。
一時間ほどあと。
「星空、休憩しよう」
史郎は音を上げた。ベンチやテーブルの並んでいる休憩コーナーに腰を下ろす。木陰になっていて風が気持ちよい。
「もう、情けないなあ、七尾君」
うん、正志が元気いっぱい、といっていたのが、よくわかった。
そんな史郎を置いて凛はどこかに行ってしまった。
「はい、どうぞ」
しばらくして史郎の前にオレンジジュースのペットボトルが差し出された。
「おごりだよ」と凛。
「お、ありがとう」
凛も史郎の隣に腰を下ろした。ふたりでジュースを飲む。甘いジュースがありがたい。
「今度は、七尾君の見たいところに行こうよ」
「うーん、そうだなあ」
個人的に気になっていた動物もいる。星空は気に入るだろうか。
「西園に行くか」と史郎。
ジュースを飲み終えて、ふたりは立ち上がった。
ふたたび歩き出す。心なしか星空の歩く速度が遅くなった気がする。女の子に歩調を合わせてもらうなんて、たしかに情けないな……。
・
「わー、モノレールだ! 乗ろう乗ろう!」
すこし歩くと乗り場があった。乗らなくても西側には行けるのだが、まあこの動物園で有名なものといえばパンダとモノレールだ。
チケットを買ってしばらく並び、モノレールに乗る。
「意外に高いねー!」
凛が子供のようにはしゃいでいる。道路の上を通過していく。モノレールは一瞬で終点に到着した。
「もうすこし長いといいのにね」
「そうだな」
動物園の西側は東側に比べると地味な動物が多く、園内も多少すいていた。
史郎はまずレッサーパンダのところへ凛を連れていった。
「こっちのパンダもかわいいニャ!」
愛嬌のある姿が樹上に見えた。凛の目が輝いている。
「もともとはこっちが先に発見されたんだけどね」と史郎。「今はパンダといえば、大きいほうだよな」
「ふーん、大きなパンダとはぜんぜん別なんだね」解説を読みながら凛がいう。
次はカピバラのところへ行く。
「うわ、思ったより大きいね! 凛、猫ちゃんくらいの大きさかと思ってた」
たしかに星空よりも体重があるかもしれない。
「触ってみたいなあ」と凛。
「触れる動物園もあるよ。ただ、すごく硬いらしいけど」
「えー、なんか幻滅だニャ……」
キリンやサイを眺めたあと、史郎は個人的にもっとも見たかったハシビロコウのところへ行った。
そこにはじっとして動かない鳥が数羽いた。灰色の胴体に、黄色い大きなくちばし。そして目つきが悪い。
「なにこの鳥、へんなの!」
凛は柵に近づいてじっと観察する。そのあいだも鳥はほとんど動かない。
「ハシビロコウだね」凛の後ろから史郎は声をかけた。
一羽が凛のところに近づいてきた。頭の高さは凛の胸のあたりまであるだろうか。意外に大きい。
「わっ、目があったよ」
しばらくハシビロコウはそのまま動かないでいた。そしてゆっくりと去っていく。ふしぎと見ていて飽きなかった。
「カッコいいねー」凛も夢中になっていた。
とつぜん凛がくるっと振り向き、両手を体の脇に持っていった。上半身を前傾させて、なにやらむずかしげな表情を作る。
「ハシビロコウの真似ニャ!」
思わず吹き出す史郎。
「もう、笑うなんてひどいなー」
凛は元の姿勢に戻ってふくれっ面をする。
「ごめん、でも雰囲気、出てたよ」
ああ、写真を撮っておけばよかったな。
「なんか、ハシビロコウって、七尾君に似てる気がする」と凛。
それは喜ぶべきなのだろうか……。
「一緒の写真、撮ってあげるね」
そういうと凛は史郎の首に手をやり、そこに下げていたカメラを取ろうとした。史郎は自分からカメラを外して凛に渡した。
「ここを押せばいいから」
「了解!」
数歩下がってカメラを構えた凛がいう。
「はい、チーズ!」
間の抜けた顔をしてるんだろうなと思いながら史郎はフレームに収まった。
最後にギフトショップに立ち寄った。
凛はハシビロコウのぬいぐるみを買っていた。星空が気に入ってくれてよかった、と史郎は思った。
・
ふたりはもういちど動物園の東側に戻って動物園の外に出た。時刻は昼をすこし回っていた。
「凛、おなか減ったな……」
「なにか食べていくか」
「うん!」
ふたりは公園の中を歩きだした。
「なにが食べたい?」と史郎。
どうせならおしゃれなお店にして、いい雰囲気になったりするといいんだけど……。
「ラーメンが食べたいニャ!」
……やっぱりそういう感じか。
「あれ、七尾君、ラーメン嫌い?」
「いや、好きだよ」
「よかった」
「じゃあ、こっちかな」
史郎は大きな池のあるほうに足を向けた。
「らんらんらーん」
凛は跳ねるような足取りで謎の歌を歌いながら歩いていく。途中で銅像の真似を披露したり(今度はカメラに収めた)上機嫌だ。
公園を抜け大通りに出る。適当なお店を選んで入った。
凛はとんこつ醤油ラーメンを頼み、史郎も同じものを選んだ。
「おいしいね」
「うん、なかなか」
ラーメンを食べ終えたふたりは、そのまましばらく街を歩いた。
混雑した商店街を歩いて売り子に声をかけられたり、狭いガード下の店をのぞいてみたり、ゲームセンターに立ち寄ったり。
まさにデートって感じだよな……。
気が付くと御徒町駅のあたりまで来ていた。日もずいぶん傾いている。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」と史郎。
「そうだね」
幸い電車は正常に動いていた。秋葉原駅まで一駅だけ電車に乗る。
秋葉原駅から凛とふたりで歩き始めた。駅周辺の雑踏から離れ住宅街に入ると急に静かになる。ふたりの足音がこだました。
「今日は楽しかったな」と凛。
「それならよかった」
史郎は今朝から考えていたことを実行に移すかまたもや悩んでいた。
ふたりは先日の公園にさしかかった。後悔したくないな……。
「あの、星空さんちょっといいかな……」
「ん、なあに」
史郎が公園のすこし奥まで歩くと凛もついてきた。ビルの隙間から差す夕日であたりはオレンジ色に染まっている。
史郎は立ち止まる。そして凛の方に振り返り一気にいった。
「よかったら、俺と付き合って、くれないかな」
「あれ、今日もお付き合いしたけど……」きょとんとした顔の凛。
史郎は頭をかく。
「そうじゃなくて、星空さんのことが、好きなんだ」
「えっ、そんな、うそでしょ」
困った顔をする凛。
「うそじゃないって」
「どうして……どうして凛なの。凛は、女の子っぽくないし、そんな資格ないよ……」
凛は史郎から視線を外す。凛の頬が染まっている。
「俺は、星空さんは可愛いと思うし、その元気なところにひかれたんだ」
凛は黙ったままだ。
「ごめん、急に……」
史郎は沈黙に耐えられなくなり口を開いた。
「……私こそ、ごめんなさい」
そういって凛は顔を上げた。そして心をふるい立たせるように続けた。
「その、お付き合いとか、凛にはわかんないけど、また会ってくれるかな」
ぎこちなく笑みを浮かべる凛。
「うん、それで十分だよ」と史郎も笑った。
ふたりは公園を出てふたたび歩き出した。
「お願いなんだけど、名前で呼んでも、いいかな」と史郎。
「もちろんいいよ。みんな、凛て呼ぶニャ」
「えーと、凛ちゃん、でいいかな」
「はい!」元気よく答える凛。
「俺も名前で呼んでくれるかな」
「うん、いいよ、史郎君!」
自然に笑みがこぼれてきた。凛も笑っている。
すぐにわかれ道の交差点についてしまった。
「じゃあ、またね、史郎君!」
凛が前回と同じように手を振る。違っているのはふたりの距離……だといいんだが。
「うん、凛ちゃんも、またね」
凛は通りを元気よく歩いていき……途中で振り返ってもう一度手を振った。史郎も手を振り返すと自宅のほうに歩き始めた。
今日の結果は……振られなかっただけよかったのかな……。