可愛いの条件 ~ Story of Rin   作:Kohya S.

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5. 凛のお部屋にご招待

 明後日の日曜日。

 凛の自宅に行くとなると家族に会うかもしれない。多少ともきれい目の方がいいと思い、史郎は白のドレスシャツにグレーのテーラードジャケット、黒いチノパンを選んだ。

 

 公園へ着くと凛がダンスの練習をしていた。くるくると回ったりジャンプしたりと忙しい。史郎はカメラを取り出して何枚か収めた。

「あ、史郎君!」

 凛は若草色のロング丈のTシャツに、赤系統のレギンスパンツという格好だった。

「一緒にやろうよ!」

「いや、今日は、やめとくよ」子供が見てるしな……。

 

 史郎はすこし離れて見守る。最後にくるっとターンして決めポーズをとる凛。

「お姉ちゃんすごーい」子供が拍手する。

「えへへ、ありがとう」

 凛は子供にそういってから史郎のもとに走り寄ってきた。

「いこっか、史郎君」

「うん」

 

 凛に案内されて住宅街を歩く。

「今日は、家の人は、いるの?」と史郎。

「うん、ママがいるよ。パパと、お姉ちゃんたちは出かけてるけど」

「そうか」

 ちょっと期待した俺が悪かった……。

 

 凛の家は公園から数ブロック先の一軒家だった。

「ただいまー、お友達つれてきたよー」

「お邪魔します」

「あらあらまあまあ」

 奥からエプロン姿の凛の母があらわれた。凛と違ってロングヘアだが雰囲気はよく似ていた。

「初めまして、七尾です。よろしくお願いします」と史郎。

「いつも凛がお世話になってます。凛の母です。どうぞどうぞ」

「失礼します」

 史郎はそういって靴を脱ぎ玄関から上がった。いちおう靴を揃えておく。

 

 玄関には三人の女の子の写真が飾られていた。凛と姉妹らしい。凛はずいぶん小さくて……小学校低学年くらいだろうか。

 

「凛が男の子を連れてくるなんてねー」

「もう、それどういう意味ー」

「うふふ。あとでおやつ、持っていくわね」といって凛の母は戻っていった。

 

「凛の部屋は二階だよ」という凛について二階に上がる。

 凛は部屋のドアを開けて「どうぞ」と史郎を中に通した。

「はい、すわってすわって」

「どうも」

 クッションに腰を下ろす。史郎はついきょろきょろと見回してしまう。

 

 凛の自室はかなり広くきれいに片付いていた。ベッドにたんす、学習机、小ぶりの本棚などが並んでいる。部屋の中央にはラグと丸い座卓、クッションが何個かあり、壁には姿見が立てかけてあった。

 本棚の上にはいくつかのぬいぐるみが飾られていて、その中にはこの前のハシビロコウもあった。

 

「今日は、よろしくお願いするニャ」

 もうひとつのクッションに座り凛がいった。

「了解。どの教科が気になる?」と史郎。

 凛は首をかしげて答える。

「うーん……全部?」

「それはちょっと無理があるかな……」

 

 凛に断って教科書とノートを見せてもらう。うーん、ノートはあまり読みやすいとはいえない。ところどころに猫のイラストが描いてある……。

 ただ、日本史のノートはきれいに整理されていて非常に読みやすかった。

 

「これなら日本史は大丈夫かな」

「あ、それ、昨日かよちんに借りたノートだ」

 道理で筆跡が違うわけだ……。ノートの表紙には律儀に「小泉花陽」と名前が書いてあった。

「期待して損した……。まあ、日本史はこのノートがあれば平気かな。そうすると……」

 国語と数学を主にやることになった。試験範囲を確認してから進めていく。

 

 史郎は最初、凛の向かいに座っていたがそれだと教科書が読みにくい。いつの間にか凛の隣に座っていた。

 

「で、ここの表現の意図だけど……」

「うーん、彼女の心が落ち込んでるのを、強調してる……って感じかな」

「そうだね」

 凛の部屋のドアがノックされた。史郎は凛の隣から離れる。

 

「凛ちゃん、開けてくれる」と凛の母の声。

 凛がドアを開けるとトレイを持った凛の母が入ってきた。トレイの上に飲み物とお菓子を乗せている。

「どうぞ、召し上がってください」

 座卓のうえにトレイを置く。

「ありがとうございます」と史郎。

「進んでる?」と凛の母が凛にたずねる。

「うん、順調順調、だよ! 史郎君、教えるのがすごく上手いんだ」

「あらあら、よかったわね。七尾君、どうもありがとう」

「いえ、とんでもないです」と史郎。

「じゃ、がんばってね」と凛の母はドアを閉めて階下へ下りていった。

 

 おやつを食べてしばらく休憩する。

「そういえばμ'sのほうはどうなの?」

 史郎は思い出して凛に聞いてみた。

「うん、みんなでがんばってるよ」

 

 史郎はときどきμ'sのWebサイトをチェックしていた。凛たちのあとにもうひとり加わって七人になったらしい。

 

「七人になったんだね」

「そうなの。矢澤先輩、すごくアイドルに詳しいんだよ」

「ふーん」

「振り付けとかも、こだわりがあるみたい。でも、凛にはちょっとかわいすぎるかな。こんな感じだよ」

 凛は立ち上がり「にっこにっこにー」といいつつ両手でポーズをとってみせた。たしかに人を選びそうだ。凛にはむしろ似合っていると思うが……。

 

 凛はぽすっとクッションに座りなおす。

「かよちんと真姫ちゃん、だっけ、お友達は?」と史郎。

「かよちんはね、自分では運動音痴だっていうんだけど、そんなことないと凛は思うんだ。すごく練習して、みんなについてきてるし。あれだけ動けるなら、もっと自信持ったほうがいいよ」

 凛は真剣な表情だ。かよちんのことを思っているのだろう。

「そうか」と史郎。

「真姫ちゃんは、μ'sの作曲担当なんだけど、真姫ちゃんの曲、すごくいいんだ」

「START:DASH!!だっけ、動画の曲」

 たしかにいい曲だった。

「うん、それ! でも、ときどき練習をお休みしたりしてるんだ。お家がきびしいみたいで……。気になるなあ」

 凛がすこし心配そうに言った。

「高校になると、授業も難しくなるしな」

「あ、でも、凛とちがって、真姫ちゃんはすごく頭がいいんだよ」

「凛ちゃんは普段からもうちょっと、勉強したほうがいいかな」

「それはわかってるニャ……」

 

 μ'sの話をしているときの、凛のいきいきしたさまを見ると本当に楽しいのだろう。凛が楽しそうで史郎も嬉しくなった。

 

「じゃ、再開するか」

 その後もときどき雑談をしたりしながらも、おおむね真面目に試験勉強を進めた。

 

 しばらくすると勉強もひと段落ついた。

「まあ、こんなところかな……」

「凛、こんなに勉強したの久しぶりだよ……」

 凛はふらふらと立ち上がるとそのままベッドに倒れこんだ。

「理科は大丈夫そうだから……あとは、世界史は友達に教わるといいかな」

「わかったニャ」とベッドに横になったまま凛が答えた。

 史郎も立ち上がって伸びをする。

「眠くなるニャ……」と凛。

 

 史郎は窓に近づいてカーテンを開けてみた。外はそろそろ暗くなってきていた。

 

 ベッドのほうを見ると凛は目を閉じていた。意外に長いまつげが女の子らしさを強調して、ちょっと大人っぽく見えて、史郎はどきっとした。思わず触りたくなるがさすがに我慢する。写真……も悪いよな、やっぱり。

 

 そのまま待つが凛が起きる様子はなかった。

「凛ちゃん」と声をかける。

「むにゃむにゃ」寝返りをうつ凛。

 無防備にもほどがあるな……。

「凛ちゃーん」とすこし声を大きくする。

「……はっ」と凛は飛び起きた。「凛、寝てないよ!」

「わかったわかった。まあ勉強のあとにひと眠りするのは、記憶の定着にはいいらしいよ」

「そっか、凛が眠くなるのも当たり前だね。史郎君も寝ればよかったのに」

 さすがに女の子の部屋で寝るのはちょっとな……。

 

「凛ちゃーん、ちょっといいかしら」と階下から声が聞こえた。

「はーい」と凛は下りていく。

 凛はすぐに戻ってきた。

「ママが、お夕飯はどうしますかって」

「あ、もう帰るよ」

「えー、ママの料理、おいしいよ」

「いやいや、さすがに悪いよ」

 もし家族と顔をあわせることになったらと思うと怖すぎる。

「そっか、じゃ、また今度ね」

 

「お邪魔しました」

「また来てくださいね」

 史郎は凛の母に挨拶して凛の自宅を出た。凛は途中まで送るといってついてきた。

 

 いつもの交差点まで来て凛と別れることにした。

「史郎君、今日もありがとう」

 ぺこりと頭を下げて凛がいう。

「いや、俺のほうも自分の勉強が整理できたよ」

「凛、がんばるから、試験結果、楽しみにしてね」

 凛はそういって戻っていった。

 

 史郎は自宅に向かって歩き始めた。

 初めて訪れた女の子の部屋でなにか起きる、なんて、やっぱり現実にはありえないよな……。でも、凛ちゃん、可愛かったな……。

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