可愛いの条件 ~ Story of Rin   作:Kohya S.

8 / 9
8. 可愛くなれる?

 数日後。史郎が放課後、学校を出たところでスマートフォンに着信があった。凛だ。

「はい、史郎です」

「……あ、史郎君。……手紙、ありがとう」

「届いたんだ」

「うん。その……ごめんね。凛、ちょっと大人げなかったね」

「いや、俺のほうこそ、ごめん。勝手なこといって」

「写真、よく撮れてるね。どこかの美少女かと思っちゃった」

「……凛ちゃん、いまから会えるかな」

「えっ……うん、今日は練習お休みだし、いいけど」

「じゃあ、いつものお店で……」

 史郎は駅に向かって走った。

 

 ファーストフード店。

「凛ちゃん」と史郎は凛に声をかけた。

「史郎君」と凛。制服姿だ。

「本当にごめん」と改めて史郎は謝る。

 凛はうつむき、小声でいった。

「凛こそ、あの日は急にごめんね。史郎君はそんなこといわないと思ってたから……。ちょっとびっくりしちゃった」

 凛にそういわれて史郎は複雑な気持ちだった。

 

 凛はそのまま黙っている。凛にもういちど嫌われてしまうかもと思いながらも史郎はいった。

「あー……俺、凛ちゃんがもうすこし……自信を持ってくれればと思うんだ」

「自信?」凛が顔を上げた。

「うん、その、俺、凛ちゃんは、ほんとうに可愛いと思ってる」

「……」凛は無言だ。

「俺を信じてくれないかな」

 凛はじっと史郎をみつめた。

 

 凛が口を開く。

「……パパがいってた。写真は機械が撮るんじゃなくて、人間が撮るんだって」

 凛の顔にようやく笑顔が戻った。

「努力、してみるニャ」

 

「えっと、また会ってくれる?」と史郎。

「こちらこそ、そろそろ二学期の中間試験ニャ!」

 

 凛と一緒にいられるならどんなことでも大歓迎だ。

 

        ・

 

 中間テストが近付いたある日の夜。凛から電話があった。試験のことだろうかと思いつつ、史郎は電話に出た。

「史郎君……」

 いつになく凛の声は沈んでいた。そんなに成績が思わしくないのか……。

「どうした」

「凛、リーダーになっちゃった」

「え?」

 

 詳しい話を聞くと高坂たち二年生が修学旅行のため、一時的に一年からリーダーを選ぶ必要があり凛に白羽の矢が立ったそうだ。

 

「それに、ライブがあるんだ……」

「そうか」たしかに負担にはなるだろう。

「凛にはリーダーなんて無理だニャ……」

 

 凛はそういうが意外にメンバーのことをよく把握していると史郎は思う。決断力がないわけでもないし、いろいろ気が付くところもある。向いていないということはないだろう。

 

「そうかな、俺、意外に向いてると思うけど」

「そういってくれるなら、がんばるけど。自信ないな……」

「凛ちゃんなら大丈夫だよ。ライブの日程は?」

「えっと、今度の土曜日。場所はMデパートだよ」

「へえ、デパートなんだ」

「うん、ファッションショーでミニライブなんだ」

「必ず行くよ」

「うん、ありがとう」

 そういうと凛は電話を切った。

 

        ・

 

 ライブの前日の夜。先日の様子が気になった史郎は凛に電話した。

「はい、凛です……」

 あれ、前回よりさらに暗い声だぞ。

「史郎だけど。いま平気かな」

「あ、史郎君。うん、すこしなら」

 

「ライブ、いよいよ明日だな」

「……二年生の穂乃果ちゃんたちが……台風で、帰ってこれなくなっちゃったの」

「え、それは緊急事態だね。なんとかなるの?」

「うん、六人でフォーメーションを組むから……。今日も練習したし、大丈夫だと思う」

「そうか……二年生のぶんまで、がんばらないとな」

「うん……でも」

「でも?」

「……ううん、なんでもないの」

 凛はいいかけた言葉を飲み込んでしまった。

「そっか」

 史郎は気になったが無理に聞き出すのも気が引けた。

 

「でもリーダーはなんとかなっただろ」

「そうだね。かよちんとか真姫ちゃんも手伝ってくれたし」

 多少、凛の声が明るくなった。

「……明日は、かよちんがセンターだと思うから、かわいく撮ってあげてね」

「わかった」

 しばらくふたりとも黙る。史郎には凛の不安がわかった。なにか言葉をかけたいが……。

「……その、凛ちゃんならできると思うよ」

「うん」

「自信、持ってね」

「ありがとう……おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 センター、凛ちゃんじゃないのか……。

 

        ・

 

 翌日。史郎は、はやる気持ちを抑えてデパートに向かった。

 最上階の催事場が会場になっていた。入口が開くのと同時に史郎は中に入った。ステージに近い前のほうの席を確保する。

 ファッションショーとの併催のためか、凛も話していたようにフラッシュをたかなければ撮影できるようだ。

 時間を待つうちにだんだんと席が埋まり開演直前には立ち見もちらほら出るほどになっていた。

 

 ファッションショーが始まったが史郎はμ'sが、そして凛が気になり、それどころではなかった。凛ちゃんがリーダーのライブ、うまくいくといいけど……。

 じりじりと待つ。

 

 そしてついにファッションショーが終わった。

「続いて、音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sのみなさんです」

 アナウンスが流れた。観客にあわせて史郎も拍手する。

 

 ステージの袖からひとりの少女が進み出てきた。ウェディングドレス風の衣装だ。

 一見ストラップレス風のワンピースのドレスで、裾は大きく広がりフリルで縁取られている。背中には天使の羽をイメージしたのか大きなペールピンクのリボンが飾られ、また白い小ぶりのベールにも同じピンクのリボンが組み合わされていた。髪の両脇と胸元に小さな、ベールとドレスの裾に大きな、黄色いコサージュがあしらわれていた。

 その愛らしい姿に会場が盛り上がる。

 

 史郎はそれが凛であることに気付いて驚きに目を見張った。

 凛はうっすらと化粧していて、頬はかすかに上気していた。

 

 凛はステージの中央までゆっくりと進み挨拶する。

「初めまして、音ノ木坂学院、スクールアイドルのμ'sです」

 観客たちから上がる「かわいい」「素敵ね」という声。凛がうれしそうに笑う。

「……ありがとうございます」

 

 りんと背筋を伸ばした凛がマイクを握って続けた。マイクもまるでブーケのように花と白いリボンで飾られていた。

「本来メンバーは九人なんですが、今日は都合により六人で歌わせてもらいます。……でも、残り三人の思いも込めて歌います」

 

 袖から残り五人のメンバーがあらわれて凛のまわりに広がった。黒いタキシード姿だ。

「それでは、いちばんかわいい私たちを、見ていってください!」

 

 曲が流れ始めた。ゆっくりとしたメロディーにあわせて六人が歌う。

 その歌詞は運命のときを迎えて生まれ変わる、女の子の夢と希望に満ちていて……凛にぴったりだ……。

 

『……♪~♫~』

 凛は自信たっぷりに踊り、歌いあげていった。残り五人のメンバーが凛をサポートするように踊りをあわせる。

 肩と背中が大きく開いたドレスが凛のすらりとした体の魅力を引き出していた。

 

『♫♩、♫♩~♩~♪!』

 

 史郎は夢中でシャッターを切った。

 

「……ありがとうございました!」

 歌い終えて凛が挨拶する。メンバーたちが退場するまでのあいだ史郎は拍手し続けた。

 史郎は目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

 

 ライブが終わると史郎は会場を出て屋上の緑地に行った。ベンチに座る。史郎の胸にはさきほどのライブの余韻がまだ残っていた。

 しばらく放心状態でそのまま座りつづけた。

 

 スマートフォンのメール着信音が響いた。メールを開くと「大成功にゃ(≡>ω<≡)」の文字。「おめでとう、すごくよかった」と書いて返信した。

 

        ・

 

 翌日。凛からの提案で公園で待ち合わせた。

 先についた史郎はベンチで待つ。

 

「史郎君!」と背中から凛の声がした。

 振り向くとそこにはピンク色のワンピース姿の凛が立っていた。

「あ、凛ちゃん」

「……」

 凛は無言で、頬をすこし染めていて……びっくりするほど可愛かった。

 

 史郎はしばらくなにもいえなかったがようやく口を開いた。

「……よく似合ってるよ」

「えへへ」

 凛がさらに赤くなった。

 

「あの、かわいいっていってくれたこと、ずっと素直に受け取れなかったんだ。ごめんなさい」

「そうか……」

「でも、史郎君と……みんなのおかげで……やっと私も……」

 凛の目がうるんでいた。

「それでね、私……」と凛。

「なに?」

「あのね、私も史郎君が好き」

 そういうと凛は史郎の手を両手でつかんだ。

「ずっとずっと、好きだったんだけど、気付いてなかったみたい」

 凛は手を放して目をそらす。そして続けた。

「こんな私だけど、お付き合い、してくれますか」

 

「……もちろん。よろしくお願いします」

 史郎はそれだけいうのがやっとだった。

 

「やったニャー!」

 凛は突然大声で叫んだ。きっと照れ隠しだろう。

 

「そうだ、昨日のやつ……」

 史郎は用意してきたプリントを鞄から取り出した。昨日のライブの写真を印刷したものだ。

「これ、凛なの? うわー」

 何枚あるうちソフトフォーカスで幻想的に仕上がった一枚が特に気に入ったようだった。

「ありがとう、宝物にするね!」

 

「これからも、ライブの写真、撮らせてもらえるかな」

「もちろん、といいたいところだけど……ライブはだいたい、撮影禁止だよ」

 そうなのか……。

「でも、凛の写真なら、撮り放題だニャー!」

 そういうと凛は史郎の腕に抱きついてきた。史郎はそんな凛がたまらなくいとおしく感じるのだった。

 「星空凛」フォルダの今後の中身が楽しみだな……。

 

「さて、では参りましょう参りましょう」と凛。

「え?」

「実は、かよちんと真姫ちゃんを待たせてるんだ」

「えっ?」

「史郎君が、知らない人と会うのが苦手だっていってたから、きちんと紹介するよ」

 そんなこと覚えてたのか……。

「どうなっても報告する、って約束させられたんだけど、いい結果が出てよかったニャー」

 いきなりで心の準備があれなんだが……。

 

「いっくニャー!」

 凛の声が青空に響いた。




 最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご感想、評価等いただけると励みになります。よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。