八重歯の兄妹   作:特撮ファンA

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兄貴とリオ

 果たして俺は――喜ぶべきなのだろうか。

 残心の構えを取る妹を見て、タイガ・ウェズリーは自問する。

 物心ついた頃に生まれ、以来ずっと成長を見守ってきた妹。笑顔もたくさん見てきたが、今の笑顔はその中で最高のものだと言って間違いない。

 そうだ、何を迷うというのだ。

 俺がリオに教えてきた春光拳、その今までの努力が実ったというだけのことではないか。

 兄ならば、ともに喜びを分かち合うのが正しい行ど……ちょっと待って痛い、『(えん)(らい)(ほう)』命中したお腹すごく痛い。

 

「リオ……」

「えっ!? は、はい?」

 

 痛みを気取られまいと、師匠としての面子を保とうと、そして今にも無限の彼方へレッツゴーしてしまいそうな意識を繋ぎ止めようと、脅威的な精神力が普段通りの自然なイケボ(自称)を口から放った。それが功を奏し、我が妹リオ・ウェズリーはビシッと気をつけ。

 

「本当に、強くなったな。春光拳について、俺から教えることは、もう無い」

 

 タイガの最期……もとい、最後の教えに、リオは耳を傾ける。その顔は真剣そのものである。威厳が出るように、噛み締めるような口調を心がけた甲斐があるというものだ。

 別に炎雷の作用で痺れて喋りにくかったりするわけじゃない。

 

「けど、慢心するなよ。大会に出りゃ分かるが、俺なんかより強い奴はそこら中にいるからな」

「は、はい」

 

 そこでタイガはふっ、と顔を綻ばせ、

 

「安心しろ……お前なら、前に言ってた強い友達にも勝てるさ」

「えっと……はい!」

 

 今までで一番の返事をするリオ。全く、魔法とはいえ立派になりやがって……。

 

「……お兄ちゃん、もう現実見て」

 

 そう言うと、リオの体が光に包まれ、次の瞬間、十代後半くらいの背丈だった彼女は十歳の少女へと姿を変えた。変身魔法で体を成長させていたのだ。

 ちょっと心配げに眉尻を下げる。

 

「……お兄ちゃん、本当に大丈夫?」

「え、何が? 見ろ。こんなにピンピンしてるだろう?」

「というより顔がパンパン……」

 

 何言ってるんだ。そんなに心配するほど腫れてないだろう。

 でも不思議だ、すごく視界が悪いのはなんでだろう。

 

「髪の毛もアフロになってるし……」

「あーこれね、今日の朝起きたら天パになってたんだよ」

 

 いやー、人体って不思議!

 たまにバチバチとスパークしてるのは気のせいだね。たまに頭から足まで電流が流れたみたいに痺れるのも気のせいさ。

 

「あと……あんまり普通に話してるから言い出せなかったけど」

 

 リオは言い辛そうにその言葉を放った。

 

 

「お兄ちゃん……壁に逆さまにめり込んでるんだよ」

 

 

 くっ……今まで全力を尽くしてそのことから話題を逸らしてきたというのに、この優しい妹はそれを放置するという手段を取れなかったようだ。

 だが、ここで大人しく認めるタイガではない。

 往生際悪く、逆さ大の字の態勢のまま悪足掻きを続ける。

 

「最近のマイブームなんだよ! 壁って結構居心地良いんだぜ! その……ほら! すごく屈辱的な気分になるから!」

「いやいやいやいやお兄ちゃん私の炎雷炮で吹っ飛ばされた挙句そうなったでしょ!? 私見てたからね!」

 

 そう、俺はリオの変身魔法……まあ、面倒だから「大人モード」としよう。その練習の最終段階として、模擬戦をしたのだ。

 結果は俺の完全勝利……なんてことは普段の練習不足であり得るはずもなく、コテンパンにやられましたよはい。

 だがリオが格闘戦よりなら、俺は魔法戦よりだ。今回のような実戦では互角に渡り合える。……はず、だった。

 突然のデバイスの故障。この時ほど世の不条理を憎んだことはない。……デバイスを使って料理したのが悪かったのだろうか。拭いたけどレモン汁ついてたし……。いやでもレモン汁で壊れるもんなのか?今度きちんと実験してみよう。

 本当なら修理して別の日にやればいいのだが、何日も前に約束していてリオも楽しみにしていたからそんなことはできなかった。

 それで、しがないデバイス工をしている俺は、最後の手段をかますことにしたのだ。

 こうなるまでの経緯をダイジェストでお送りしよう。説明するより早い。

 

『あれ、お兄ちゃんデバイスは?』

『実はな、ついこないだ試作したやつを使ってるんだ。ただ、バリアジャケットのデザインまで設定する暇なかったからその辺のジャージに見えるが、ちゃんとバリアジャケットも着てるからな! 安心してかかって来い!』

『分かったよ! じゃあ、お願いします!』

『……でもできれば強い魔法はやめ』

『絶招! 炎・雷・炮!!』

『ぐべあっ!』

 

 ――こういうわけなのだ。

「練習だろうが常に全力を」というタイガの教えを心に刻んでいたリオは、開戦早々しっかりとお腹に必殺技を食らわしてくれた。

 当然、ほぼ生身に近いタイガは耐えることなどできる筈もなく。非殺傷設定だからそんなに怪我しないだろうと甘く見ていたタイガの体は、壁に突っ込んだ時のフィジカルダメージと、リオの炎雷の魔力変換資質で熱いやら痺れるやらの状態異常を起こし、現在とても面白いことになっている。

 

 お前は何をしているのだと言われそうな有様ではあるが、こう見えて彼はリオとの約束を果たしているのだ。

 

「リオ、これを見ろ……」

「え?」

 

 タイガはポケットに手を突っ込もうと……あ、両手ともめり込んでるじゃーん、手使えないじゃーん。

 結局、リオにポケットの中のものを取ってもらうことに。

 それは野球ボール大の機械的な物体だった。

 

「これなに?」

「俺の受けたダメージをあらゆる観点から解析する簡易デバイスだ。データは念話の要領で俺の脳内に直接送られてくるようにしてある。さっきお前に言ったことはそれに基づいた感想だから信頼して良いぞ」

 

 実際は自身の周囲に特殊な魔力フィールドを作り、受けた攻撃をそのフィールドで解析する……など色々とやっているのだが説明は省く。だって面倒臭いし。

 故障に気がついたタイガが、デバイス無しでも使える簡単な高速移動魔法の応用で手の動きを早め、一から完成させた努力の結晶である。

 当然、このデバイスそのものからデータを閲覧することも可能だ。

 

「まあそれ見たら分かるだろ、変身魔法は完成だな」

「お兄ちゃん……」

 

 リオはタイガの顔を正面から見つめた。

 なんだか照れくさいな。

 

 

 

「……それ作る時間でデバイス修理すれば良かったのに」

 

 

 

「………………ソウダネ………………」

 

 その言葉がトドメとなり、遂にタイガは意識を失った。

 

 

 今日の教訓。テンパると碌なこと無いね。

 

 

 

 

 

「……でも、ありがとうお兄ちゃん」

 

 

 

 ……?なんか聞こえたような。

 

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