八重歯の兄妹   作:特撮ファンA

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【前々回のあらすじ】
自分が履いていたという証拠を消そうと、深夜コインランドリーに進入したスカさん。しかし、そこに「もしかしてここに忘れた?」とパンツ探しに娘がやってくる。慌てて洗濯機に隠れるも、最期の時は刻一刻と迫る──スカさん、絶体絶命のピンチ!


合宿編⑥

「……そろそろ良いか」

 

 数百メートルほど移動した後、ソニックムーブを解除する。後方に消えていく景色の速さが通常に戻り、そのまま着地。

 念のためゼロに周辺をサーチさせながら逃げてきたため、ここが安全地帯だということは確認している。もちろん今の所は、という一言は欠かせないが。なにせ、この模擬戦は戦闘の回りが異常に早い。まあ、そのおかげでアインハルトちゃんから逃れることができたとも言えるが。

 

「よし、今の内に……」

 

 アインハルトちゃんに遭遇するまでやっていた作業を再開しようと、ゼロに目を向け──そして。

 なんか、周りを飛んでいる羽虫に気がついた。

 色は紫。形はコマのようで、小さい羽が左右についている。

 どう見てもそこらにいる虫ではない。というかぶっちゃけると、召喚虫である。カラー的にルーテシアの使役している奴だろうか。

 

「…………………………………」

 

 ルーテシアといえば赤組の参謀役である。

 嫌な予感しかしなかった。

 

「逃げよう」

 

 すぐさま高速移動魔法を発動してそこから離れようとする。だが、遅かった。

 

 ふと予感がして、後方へ飛び退く。直後、立っていた場所に魔力弾が着弾した。

 

 一瞬見えた魔力光は──ピンク。

 

(あっ、俺死んだわ)

 

 爆風に晒されながら、そんな失礼な思いを抱く。

 よりにもよって、一番戦いたく無い相手がやってきてしまった。

 視点を上に向けていくと、案の定、白い彼女が無数の魔力弾を周囲に漂わせながら空中に陣取っているのが目に入る。

 高町なのは。ヴィヴィオちゃんの母親にして管理局の白い悪──もとい管理局の誇るエース・オブ・エースが来てしまったのだ。

 彼女はタイガが無事なのを確認すると、意外そうな、それでいてどこか嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「まさか避けられるとはおもわなかったなぁ。不意を突いたと思ったのに」

「昔から避けるのは得意なものでして」

 

 そう、例えば突然家のトラ(ネコ)に飛びかかられたり。

 間違って従姉妹のおやつ食べたら、怒ってけしかけられたゴーレム数体から逃げ回ったり。

 突然虎屋に湧いて出た店長から咄嗟に逃げ出したり。

 なんだ、逃げてばっかりだな俺。この調子でなのはさんからも……

 

『逃げたら一秒と経たず墜とされるだろう』

「ですよねー」

 

 じりじりと後退するのが精一杯なのが現状である。今の所は向こうも様子を見ているのか何もアクションは無いが、こちらが大きな動きを見せれば即座に戦闘が始まるだろう。

 

 ……いやまあ、逃げるしか無いんだけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから色々あって、前々話冒頭に戻り。

 現在、瓦礫の山にうまく隠れています。

 

「うーむ……攻撃するにしても、砲撃であの人の防御を突破する自信は無いし、かと言って接近戦じゃアインハルトちゃんみたく捕縛盾(バインディングシールド)で捕まるのがオチだろうし……」

 

 さて、魔力弾で撃墜されてようやく逃げるのを諦めたタイガだが、今の所思いつく策は瞬時にダメだと言い切れるものばかりであり、可能性があるかもしれないような気がする策も、確実に逃げ切るには程遠い。

 『仕掛け』も中途半端だし。

 

「………ん?」

 

 今の『仕掛け』でも、あれ(・・)と組み合わせてうまく撹乱すれば、或いは……。

 

「──よし、これで行こう」

 

 脳内プランがまとまる。はっきり言って成功率の低い穴だらけの愚策だが、現状ではこれ以外にいい考えもなかった。

 瓦礫を押し退けて起き上がると、ゼロに格納していたある物を両手に呼び出す。

 それは金属的な銀の光沢と鋭利な刃を持つ、変わった形の二対のナイフだった。大会に出ていた頃、素手のまま攻撃範囲を抉る理不尽な必殺技をお持ちの方に勝つために考え出した手持ち武器である。結局勝てなかったが、あいつ今何やってるのかな。もっとも、怖いから会いたくないが。

 懐かしい感触を味わいながら飛行魔法を発動し、空中のウイングロードに移動して着陸する。魔力を節約できるならした方がいい。

 

「じゃあ、改めてお願いします」

「うん、よろしくね!」

 

 ふう、と息をつく。両手のナイフ『ディセクター』を握りしめ、臨戦態勢を整えると、脱兎の如く駆け出した。

 

◇◇◇

 

 タイガが走り出したのを認めたなのはは、間髪入れずに魔力弾を射出する。

 

「はっ!」

 

 炸裂するかというその時、閃光が走る。次の瞬間、魔力弾は真っ二つに切り裂かれ、そして破裂する。タイガは無事だった。

 

「おお、速いね!」

 

 ある程度なのはがいる場所まで近付いたタイガは再び飛行魔法を発動して飛び上がり、一気に接近。炎熱魔力を流し込み赤熱化したディセクターをなのは目掛けて振り抜く。その攻撃はなのはが発動したシールドに防がれるが、タイガは逆のディセクターで攻撃を繰り出し、防がれ、また攻撃。無謀にも見える猛攻を繰り返す。

 絶え間ない攻撃を続けるうちに何度もシールドは破られ、その度にレイジングハートか新たなシールドがタイガの攻撃を防ぎ続ける。

 いくらタイガが幼い頃から武術を習っていたとしても、幾つもの死線を乗り越えてきたなのはとの間にはやはり埋めきれない経験の差があり、十年近いその差を易々と埋めることなどできやしない。

 全く攻撃が通じないことに焦ったかのように、段々とタイガの放つ斬撃は荒々しく、大ぶりになっていく。

 やがて何度目かの打ち合いで、レイジングハートが弾かれ、体へのガードが甘くなった。

 その瞬間を狙い澄ましていたかのように、渾身の一撃を放とうとディセクターを振りかぶるタイガ。

 身体強化も合わさり、それなりの威力が込められていることを読み取ったなのはは、即座に強度を高めた特殊なシールドをそれに合わせて展開した。

 直後、二つの物体が激突した衝撃に風が吹く。

 火花が収まりタイガの目に飛び込んだのは、シールドに威力を殺された得物と、そこから発生するバインドによって雁字搦めに縛り上げられた自らの右腕だった。ならばと左腕のディセクターで鎖を破壊しようとするが、その時逆の腕も桃色のバインドによって拘束されていることに気付く。

 

「エクセリオンバスター!」

 

 そしてなのははタイガから距離を取り、瞬時にチャージが終了した魔力砲撃を放つ。

 圧縮された魔力の奔流は、成す術もないタイガを呑み込んだ──かに見えた。

 

 

(──よし!)

 

 なのはの砲撃が今にも放たれようとした時、タイガは思わずそんな声をもらしそうになる。そして、拘束された左腕に持っていたディセクターを、軽く手首を振って放った。

 側から見れば武器を捨てたようにしか見えないその動きは、しかし彼にとっては大きな意味を持つ行動だった。

 次の瞬間、空中に放り出されたディセクターが猛烈に回転を始め、意志を持つかのように機動を開始し、左腕を拘束していたバインドを閃光となって切り裂いた。

 自由になった左手で戻ってきたディセクターをキャッチすると、そのままの勢いで右腕を拘束するバインドをシールドごと破壊し、完全に自由になったタイガは間を置かずに空中へ飛び立つ。

 直後、砲撃がタイガを擦り、ウイングロードを破壊する。

 その威力に戦々恐々とせざるを得ないが、今はそれどころではない。これは時間との勝負だ。

 

「ゼロ」

『Type"frost"activation』

 

 ゼロが光を放ち、次の瞬間、タイガの全身を白い冷気が包み込む。それが収まると、赤いバリアジャケットが青色に変わっていた。

 

 

 

 

「……ねえリオ、あれ何?」

 

 ──そんな二人の戦闘を建物の陰からこっそりと覗いていた者がいた。

 一人はタイガの妹その人であるリオ。もう一人は、先ほどの疑問を口にしたコロナ。ともに黄組所属である。

 「できればこっそり戦ってね」というタイガの指示を遵守していた二人は、いざという時のために一緒に行動していたのだが、この近くに来たらタイガがなのはと交戦して(逃げ回って)いるではないか。

 思わず隠れながら観戦していたものの、やはりといっては失礼だが、タイガの勝ち(逃げ)目がいつまで経っても見えてこない上に、最終的にはバインドで捕まってしまった。コロナはどうしよう援護した方が良いんじゃ、と穏やかな心地ではなかったのだが、リオに止められたのだ。

 一体どういうつもりなの、そう聞こうとしたコロナの目に飛び込んだのは彼の手持ち武器が飛び回ってバインドを破壊する瞬間だった。

 

「あれはディセクタービットっていって、さっきみたいに飛ばしたり、手持ち武器にしたりできるから、基本的にバインドはお兄ちゃんに通じないよ!」

 

 目をキラキラさせ、ドヤッと言わんばかりの表情で嬉しそうに言うリオに「そ、そうなんだ」としか返せないコロナ。

 そんな折、またタイガに動きがあったため視線を戻すと、何やらバリアジャケットの色が変わったタイガの姿が目に入った。

 燃えるような赤が、凍えるような青へ。あれはなんだろうか、色が変わっただけなのか。説明を求めるようにリオを見ると、待ってましたとリオが語る。

 

「私って炎と電気の変換持ちでしょ?」

「うん」

「お兄ちゃんは炎を使ってたでしょ?」

「うん」

「実はね、お兄ちゃんも炎の他にもう一つ変換資質を持ってるんだよ」

「……うん?」

 

 リオは二つの魔力変換資質を持っている。これは知ってる。

 タイガは炎の魔力変換資質を持っている。これも見ているので知っている。

 二つ持ちである。おかしい。

 

「でもタイガさん、今まで炎しか使ってるの見たことないよ? 二つ持ってるなら、リオみたいに同時に出るんじゃ……」

「お兄ちゃんのは私のと違って、物凄く相性の悪い属性同士だから、一緒に使うと相殺しあって大変なんだって。だからゼロで制御してるらしいよ」

「じゃあさっきのは使う変換を切り替えてたってこと?」

「そうだよ、ほら」

 

 タイガを指差すリオ。コロナもつられて目をやる。

 

「お兄ちゃんは夏も冬も好きなんだよ」

 




とりあえずここまでがストック分。次回からは前のようなゆっくり更新に戻ります。

次回、タイガが逃げる逃げる!
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