みなさん一年ぶりです。
見えないと思いますが今土下座してます。
「インターミドル?」
その日、タイガが食卓で初めて発した言葉がそれだった。
模擬戦があった翌日のことである。
「うん! るーるーが教えてくれたんだ、それでみんなで出ようって話になったの!」
「ほほう」
インターミドル。
正式名称、ディメイションスポーツアクティビティアソシエイション(DSAA)公式試合インターミドルバトルチャンピオンシップ。長い。
端的に言えば、全次元世界で最強の10代女子を決める大会である。一応男子部門もある。
普段はテレビをあまり見ないタイガでも、これだけは毎年チェックしているというくらいには有名な大会である。
心なしか、いつもより食事の勢いが荒いリオは、八重歯を覗かせながら力説する。
「もちろん、今から特訓しても厳しいってことは分かるよ。だけど行けるところまで行ってみせる! って気持ちで挑戦するんだ」
リオの表情にはやる気が満ち溢れていた。口の端にはジャムが付いていた。
「うん、良いことだ。あと食べる時は落ち着いて食べようなー」
言いながらティッシュを渡すと、私はそんなに汚さないよ、とでも言いたげな少し不満げな表情を見せつつ、素直に顔を拭いていた。
実際に汚れてるのに気がつき、なんだか渋い顔になった。
そこでリオから視線を外し、周りを見渡す。
寝るのが早過ぎたのか少し早く起きてしまったようで、今食堂にいるのはタイガと、どういうわけか同じタイミングで目を覚ましていたリオと、この食事を用意してくれたメガーヌだけだ。
外もようやく日が出てきたようで、これから続々と起き出してくるだろう。
タイガがパンをもう一つ手に取った時、キッチンの方からお盆を持ったメガーヌが歩いてきた。
「ごめんなさいね、パンだけで。もうすぐ経ったら色々できるから待っててね。はい、お茶とお水」
「いえ、こんな時間に起きてきたのはこっちですし。用意してもらえただけでもありがたいですよ。お茶、ありがとうございます」
メガーヌはホテルの館長だからなのか、タイガが起きるより前から食事の準備をしていたようだった。
彼にとっては非常に嬉しいことだった。というのも、この男は朝に何かを口にしなければろくに動けないタイプの人間なのだ。
「……あ、そういえばタイガくんに聞こうと思ってたことがあるのよ」
「何ですか?」
ふと、メガーヌが思い出したようにそう切り出した。
画面を空間投影し、目的のものを映し出すと、それをタイガに向ける。
「これなんだけど……」
促され、タイガは画面に映っていた見出しを読み上げる。
どうやら、新聞の歴史コラムのようだった。
「……『熾凍の魔女』?」
画面の文に目を走らせる。
『危険な破壊兵器や、異常なまでの戦闘力を持つ騎士がそこらにいたとされる古代ベルカ。
そんな時代に、国々を震え上がらせた伝説を貴方は知っているだろうか。
その存在についての文献は、ベルカの始めから終わりまで、あらゆる時代、あらゆる国々に残っており、聖王教会も数多くの資料を所有しているらしい。
そして、残された資料には例外なく、恐怖の存在として『熾凍の魔女』を描いているのだ。………』
「熾凍──炎と氷の魔女?」
初めの段落まで読んで、タイガは訝しげに呟いた。初めて聞いた名前だった。
「うーん、その様子だとやっぱり知らないのね……」
「俺は知らないですね……リオは知ってる?」
「ううん」
リオも首を傾げるので、メガーヌに顔を向き直す。
「どうしてこれを?」
「タイガくんを見てると、なーんとなくそれを思い出してね。炎と氷のダブル変換なんて、なかなか見れるものじゃないでしょ? それにこの合宿って古代ベルカの関係者が何人か集まってるし、もしかしたらーって思って」
「……関係者? ベルカの? 確かにベルカ式使ってる人は何人かいましたけど、関係者って何です?」
「あ、タイガくんは聞いてないのね。あら、口が滑ったかしら」
「?」
あらあらどうしましょ、と口を押さえるメガーヌを見て、タイガの疑問がより一層深まる。
ふと、彼の脳内に「覇王流」「虹彩異色」などのワードが浮上した。
「……よくよく考えりゃ、覇王流の使い手なんてそうそういませんよね。オッドアイだって、珍しいのに二人もいますし」
偶然で片付けるには少々出来すぎな気がする。
しかし、その疑問は今は飲み込むことにした。確かに気にはなるが、それらを無視しても『熾凍の魔女』のことを知りたい気分だった。
それに、とリオを見る。
先程から、なんとなく迷ってるような顔だ。彼女の友達に関することで、何かしらの秘密を知っているのは多分間違いない。
無理に聞くことでもないだろう。
タイガは記事の方に目を戻す。
街は燃え、人が恐怖の表情のまま凍てつき、それを嗤う魔女の恐ろしげな挿絵が彼を見返していた。
▽
一人で涙を流す少女がいた。
親は近くにいないようで、寂しいから気付いて欲しくて声をあげて泣く。
とにかく、その女の子は早く親に会いたかった。
いつも好き嫌いは許してくれないけれど、毎晩一緒に寝てくれる母に抱きしめて欲しい。
怒ると怖いけれど、それを忘れるくらいに笑顔が穏やかな父に頭を撫でて欲しい。
少女は怖かった。今すぐに二人を探しに走り出したかった。
けれど、それは叶わないのだろう。
なぜか足が動かないのだ。
冷たい感覚が、腰から下を包んでいる。
目で見て確認したくても、二つの目はもう何の情報も彼女にもたらしてはくれなかった。
混乱と恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
少女にとって幸福だったのは、そうなる前に意識が完全に途絶えたことだろうか。
それを見て、悪魔は笑い声をあげた。
私はただ、見ていることしかできなかった。
「なぜ……!」
それでも、怒りは口から溢れた。
悪魔は耳聡くそれを聞き取り、グルっと顔を向けた。
「なんだいなんだい負け犬くん。勝手に私を悪者に仕立てないでくれるかな。この子は私が殺したんじゃないよ、ただちょっと運が悪くて私の氷に巻き込まれただけだ。哀れではあるがどうしようもないことだよ」
それとも、と悪魔はもう一度しゃくり上げるように笑い、
「その自慢の拳で氷を割ってあげてはどうだい。そうすりゃ少なくとも墓に弔ってやるくらいはできるさ。
え? 覇王様」
強くなったはずだった。
かつての自分の弱さを憎み、どんな物も砕ける拳を手にしたつもりだった。
だが自分はあっけなく破れ去った。
この悪魔を揺るがすこともできなかった。
もうどれだけの血を失ったか分からない。立つことはおろか、これ以上何かの言葉を発することも不可能だった。
彼にできたのは、人々の悲鳴と耳障りな笑い声をただ聞いていることだけだった。
────彼にとって最も新しく、最も不愉快な記憶だった。
コンコン、とノックの音がした。
「おーいストラトスさーん。ご飯だよ」
耳慣れない声が耳朶を打つ。
目を開くと、友人の兄であるタイガ・ウェズリーが入り口からこちらを覗き込んでいるところだった。
「ああ、お兄様。おはようございます」
「おはよ、今日はパンだって」
彼はアインハルトが起きたのを確認すると、それだけ言ってさっさと戻る。
なんとなく、アインハルトはその背中を見送った。
「……似てる」
思わず、といった感じで彼女が呟いた。
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今回:10/31 00:10
たった一時間で次の話更新する作家の鑑ですね
でも土下座します