前回までの流れはぶった切って合宿明けから書き始めてます。
展開思い浮かばないんだもん……
熾凍の魔女。
本名不明。
国籍不明。
生年、没年共に不明。
家族構成、不明。
魔女とはいうが、実際のところは性別も不明。
そもそも実在したかどうかも不明瞭。
──タイガは顔を上げ、ため息を一つ。
「これだけ調べて何も分かんないとはね……」
げんなりした顔でタイガは目の前の本の山を眺めた。これを片付ける苦労も想像すると、またまたため息が溢れる。
メガーヌの話を聞いて数日後、合宿も終わり、ミッドチルダへと帰還したタイガは、クラナガン市立図書館にて『熾凍の魔女』の伝承について個人的に調べているところだった。
リオたちちびっ子組はインターミドルへ向けて猛特訓を開始しており、今日もまたナカムラジムにて厳しい稽古をつけられていることだろう。
対してタイガといえば、連休前から変わりばえのしない日々が続いていた。
変わったことといえば、ふとした瞬間に彼の魔女に関する疑問が湧いてくるようになったのみである。
そんな日々の中、月に一度の虎屋の定休日であるこの日、暇を持て余したタイガは気晴らしに図書館にやってきたのである。
来たのならば、常日頃から気になっている魔女について調べてみようと思い立ったのが事の始まり。
それで疑問が解決したならばまだマシだが、結果としては余計にあやふやな知識が増えただけに終わった。
調べてみてわかったことといえば、「なんかやべーやつがいた」程度のことだけで、そのどれもが度を越して胡散臭いものばかりである。例を挙げてみると、
曰く、一夜のうちに幾つもの国を滅ぼした。
曰く、一週間で一つの世界を燃やし尽くした。
曰く、誰も見たことがない更なる力を持つ。
曰く、不死身である。
曰く、人を食べる。
曰く、時を越える力がある。
どうにも、信憑性の薄い伝承だらけで、肝心の正体についてはちっとも分からない。
そもそも、彼女について調べた歴史学者の誰も彼もが「サンタみたいなものじゃね?」みたいに結論付けちゃってる様子なのが、所々の文書の適当さから窺い知れた。
残念ながら時間の無駄だったようだ。
昼下がり、本の山を数分かけて片付け、家に帰ろうと図書館の扉をくぐったタイガは、耳を打った水音に足を止める。
「──しまった。今日雨だったか」
まだまだ春になったばかりのこの時期、一度降り出すとなかなか止むことはない。
かと言って、まだ昼食にありつけていないタイガに図書館で大人しくしているつもりは毛頭なかった。
どうせ炎熱で服乾かせるだろ、と楽観視して家まで歩き出した。
「せっかくの休みだってのに、嫌な天気だな全く」
やっとの思いで自宅付近までたどり着いた頃には、タイガはびしょ濡れだった。
メシの前にシャワーかな、なんて考えながら急ぎ足で家に向かう。
が、到着した自宅の前で、彼は思わず足を止めることになる。
「う、うーん……」
──知らない少女が玄関前でうつ伏せになって倒れていた。
特徴的な赤い髪の色をしている。
「……どちら様?」
恐る恐る声をかける。返事はない。
様子を見るに、意識は無いようだ。気絶なのか眠っているのかまでは分からない。
タイガはおっかなびっくり肩を叩こうとして、
「──熱っつ!?」
触れた瞬間、ジュッという甲高い音が膨大な熱気とともに彼の指を焼いた。
慌てて手を引くが、右手のひらがヒリヒリする。見れば、少し赤くなっていた。
一瞬触れるだけで火傷するほどの熱量。そんな物が一人の少女の体から放出されている。よくよく見れば、この雨の中彼女の周囲の地面は全く濡れていない。
どう考えても只事ではない。
「このままじゃ動かせもしないか……ゼロ、セットアップ」
『OK - Type flost』
タイガはゼロを起動しバリアジャケットを展開。
両手に冷気を集中させ、少女の体に触れる。触った側から高熱が伝わるが、冷気で相殺しているので火傷するほどではない。
ゆっくりと少女の体勢を仰向けにすると、熱のせいだろう、顔を真っ赤にして苦しそうに呼吸をしている。
あんなに元気だったのに、何で──。
「──あれ、おかしいぞ」
「あんなに」?
「元気だった」?
それはおかしい。タイガは、この少女と会ったことも、似た誰かを見たこともないはずだ。
なのになぜこうも、彼女の容姿を懐かしいと感じるのだろう。
自宅に不審な人間──本当に人間なのか怪しいが──がいることよりも、人体に発生するにはあり得ないほどの熱量よりも、不可思議な現象である。
「んなもん、後でいいや」
だが、まずはこの熱をなんとかする必要がある。もしもの話だが、あまり熱が上がりすぎるとどうなるかわからない。火事などはごめんである。
とはいえ、タイガには医療の知識などない。
しかし、妹が体調を崩した時は真っ先に気がつき適切な応急処置を行う理想の兄(自称)であるタイガは、こういった原因不明の異常にも対応できる心得があった。
「ディセクター、センサーモードで展開。ゼロ、スキャン開始」
『Scaning, start up』
2本あるディセクターを、それぞれ頭の上と足の先に、少女の体を縦に挟むようにセット。ゼロを通じて微量の魔力をその間に流して全身をスキャンし、異常を探る。
この完璧なる機能は、ある時はリオがウィルスに感染していたことを、またある時は目立たない位置の骨折を、またある時は虫刺されを発見するという数えきれないほどの大活躍を遂げている。
また、これは仕事であるデバイス修理の際にも、どこに欠陥があるのかを探ることに大いに役立っている能力でもある。
あくまでリオの健康のために身につけた技術であるのでそこを履き違えてはいけない。
──が、モニターに出されたスキャン結果は、これまでに前例のないものであった。
「──まじで」
絞り出すような声が出る。
正直、まあ人間がこんな熱出すわけないよなーとか、でもこの子人間にしか見えないなーとか、てか可愛い人だなーなんて思ってはいたが。
「この子──人間じゃないんだ」
モニターに映し出されるは、緻密に設計された機械。
戦闘機人とも違い、生身の部分は存在していない。
驚愕の目を向けながら、思考は加速していき。
──目の前にいるのは、信じられないほどの精巧さで作られた、ロボットである。それが、タイガの出した結論だった。