一日一話のペースで再投稿していきます。
リオの朝はアラームで始まる。
寝ぼけ眼のリオは、朝を告げる自分のデバイスを手にとり、アラームを止める。
「むにゃ……おはよぉ、ソルフェージュ」
『おはようございます、マスター』
布団から這い出ると洗面所で顔を洗い、その後毎日の習慣となっていることをするためにある部屋へと向かう。
程なくして到着したのはタイガの部屋だ。どうせ寝ているのだろうからノックは省略してドアを開き、
「お兄ちゃん朝だよー」
言いながら足を踏み入れた。
決して汚くはないが、様々な工具やデバイスの部品がしまわれた箱、デバイスについての数々の書籍などが並んでいるためにどこか雑然とした感想を抱く兄の自室が出迎える。
その大量の物に囲まれた場所に布団が敷かれ、タイガがいびきを上げながら爆睡していた。
「おにい……あれ?」
もう一度呼びかけようとすると、枕元に何か置かれていることに気がついた。
しゃがみ込んで見る。
「ああ、ゼロの修理してたんだ……」
原型を留めないほどバラバラにされた金属部品が几帳面に並べられている。手にドライバーを持っているところを見るに、徹夜で作業していたようだ。
結局、なんで故障したのだろうか。聞いてみても目を逸らして誤魔化されて教えてくれなかった。「やっぱりレモンかな」とか言ってたけど、それは料理のことだと思うし。
なんとなく、愛機を修理する兄の姿が思い浮かび、起こすのが忍びなく感じた。
――が、それはそれ。これはこれ。作戦を第二フェーズに移行する。
「お兄ちゃん、起きて」
「ZZzzzz」
肩を揺するも起きる気配はなし。これで起きるとははなから思っていないため、次の段階へ移行する。
両肩を掴んでシェイク。
「お兄ちゃーん?」
遠慮なく揺らしてガックンガックン。目覚めの良い日ならこれで起きるのだが、今日はなかなか眠りが深いようだ。
――作戦を第四フェーズに移行する。
カーテンを開け、布団を剥ぎ取り、頭の下から枕を抜き取る。
朝日が容赦なく顔面に降り注ぎ、支えを失った頭が布団に落下。
「へぇあ!?」
頭を打ってヤバそうな声を上げるタイガだが、まだ夢と現実の狭間で
だが、夢の世界から引きずり出せたならもう難しくはない。肩を軽く揺する。
「おーい、朝だよー」
「むぅ……」
ようやくタイガが反応を見せた。あとは簡単である。タイガが目を覚ますまで揺すり続ければ、やがて兄は起きる。経験則だった。
「起きないと仕事遅れちゃうよ?」
「んー……ん……わかった……」
「ほら、今日の朝ごはんはお兄ちゃんの好きな……」
「……わかったって……謝る……こっそりリオのプリン食べたこと……」
「………………」
「………むにゃ」
「……………………………………」
「「………………………………………………」」
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
◇
「お兄ちゃん、なんとかして早起きできるようにしてよ? いつもいつも私が起こすわけにはいかないんだから」
「ああ、悪い……いつもありがとな。ところで今朝の記憶が無いんだけど、リオなんか知らない?」
「シラナイヨ」
「棒読みだなおい」
そっぽを向くリオと、その横を歩いて不思議そうに首を捻るタイガ。彼が手に持っている袋には修理中のデバイスが入っている。
ちなみに二人の服装は、リオが学園の制服、タイガが私服の上に白衣というものだ。彼曰く「仕事着」らしい。
「それよりさ、結局どうしてゼロ壊れちゃったの?」
「いやーまだ原因はわからないんだよ。多分レモンが絡んでると思うんだけど」
「へ〜レモ……ん!?」
「デバイスも機械だからな、防水はしっかりしてるけど見直しが必要かもしれん。あ〜あ、仕事以外にやることが増えた……」
「どうしてこの話でレモンが出てくるの!?」
と、バス停に到着。タイガの仕事場はこの先にあるのでここで別れることになる。
「お、着いたか。じゃあなリオ、気をつけてな」
「うん、行ってらっしゃい」
「おう、行ってきます」
軽く手を振りあうと、タイガは歩き出す。
その背中が見えなくなった頃、バスがやってきた。
◇
放課後。リオは学校図書館にいた。
彼女が通うSt.ヒルデ魔法学院は聖王教会系列の学校で、普通の学校と比べて施設の規模が大きい。学校図書館もそれに余らず豊富な資料が揃っていて、調べ物にはもってこいだ。それ以外にも、放課後の小会議をするにもちょうどいい場所である。
リオはそこで、ある二人とちょっとした相談事をしていた。
「じゃあ、合宿はテスト明けの連休に決定だね?」
「うん! 向こうでも楽しみにしてるみたいだよ!」
二つおさげの少女コロナの問いに、そう朗らかに答えた金髪の少女、ヴィヴィオ。二人ともリオの友達であり、共に格闘技「ストライクアーツ」を習っている仲間だ。
その相談の内容は、今週末に控えているテスト後の土日を含む四連休の予定を確認することだった。
「楽しみだなぁ……早くテスト終わればいいのに」
リオはしみじみとつぶやいた。
二人は何度か行ったことがあるらしいが、彼女たちと年度末に知り合ったばかりのリオは当然初めての体験である。楽しみに待っている行事だった。
だがテストで悪い点を取れば当然、課題という大海に揉まれてその楽しみは藻屑と化す。
それを避けるための勉強会も兼ねた集まりだった。
「そういえば、リオ」
「ん?」
「リオのお兄ちゃんも合宿に来てもらったらどうかな?」
驚きのあまりリオは椅子ごと飛び上がると空中で椅子ごと二、三回転して白鳥のポーズ。そこから空中分離で椅子から離れ、華麗な仰向け態勢を披露すると豪快に床に落下した。椅子はどうだろうか?お見事、寸分違わず元あった場所に着地している。
「リオ!?」
「ご、ごめん……急に言われてちょっとびっくりしちゃって」
「びっくりしてああなる人初めて見たよ」
ごもっとも。
「お兄ちゃんかー……誘えば来るだろうけど、合宿に来てちゃんと参加するかなあ?」
「デバイスマイスターなんだっけ?」
「そう、一応自分用のデバイスも持ってるんだけど、今故障してるんだって。まあでも、週末までには直すだろうから大丈夫かな……? いやでも……」
「そんなに悩むことでも、何かあるの?」
ヴィヴィオの問いに、思わず押し黙る。
悩むというか……おとなしく合宿に参加する姿が思い浮かばないというか。
「やっぱり仕事とか忙しいのかな? 難しいならそんな無理して考えなくても……」
「いやー仕事は大丈夫だと思うよ。お兄ちゃん、仕事は速いから」
リオが心配しているのはそういうことではない。
なんというか、得体のしれない不安があるのである。
普段工場に引きこもっている分、ここぞとばかりに何かする気がする。ストレス解消とか言って、なんかこう………。言葉にし辛い。
「……わかったよ、一応話してみるね」
結局、リオは考えるのをやめた。
一方その頃、タイガは妹にそんな心配をされていることなど考えてもいなかった。
小さすぎず、大きすぎずといった感じの町工場。
タイガはそこで、持ち込まれたデバイスの診断をしていた。
「この仮面、血がつくと針が出るらしいんだが詳しく調べてもらえないだろうか」
「作品間違えてますね」