八重歯の兄妹   作:特撮ファンA

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兄貴の一日

 タイガはバス停でリオと別れると、そこから更に五分ほどの距離を歩いて職場に行く。

 そこは人気の少ない通りだった。幾つかの小さな店が並んでおり、ちょっとした商店街になっている。その中の一つがタイガが個人経営するデバイスショップ「虎屋」だ。名前? タイガ()の経営する店だから虎屋。シンプルはいつの時代もベストである。

 

「ふわぁ……ねむ……」

 

 欠伸を噛み殺しながら店の鍵を開け、中に入る。

 まず目に入る受付カウンターの上を軽く片付け、端にあるスイングドアを通って奥に進む。

 作業室に入るとゼロが入っている袋をテーブルの上に置いて、そのまま棚を確認。

 

「えーっと、今日返却予定のデバイスはこれと……あとこれか」

 

 幾つかのデバイスを持ち出すと入り口のカウンターに戻り、整理して置く。これで開店準備は終わりだ。

 

「さて、仕事すっか」

 

 タイガは言うと、入り口にかけられたプレートを「閉店」から「開店」にひっくり返した。

 

 

 

    ◇

 

 

 

 昼である。何時間かすっ飛ばした気がするが昼である。

 周りの商店街も賑やかになり始め、喧騒がドアの向こうから聞こえてくる。

 タイガは、入り口のプレートを「閉店」に変える。虎屋では午前中に受付、午後はもっぱら預かったデバイスの修理や、注文されたデバイスの発注や製作に当てているのだ。

 午後に入ってまずすることは、昼食だ。自分で作った弁当をものの五分で食すと、タイガは作業室に向かった。

 

「よし、直すか」

 

 修理道具を作業机に広げ、必要な部品を揃え、タイガはもう一つの業務を始めた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

 数時間後。時間的には高校生が帰り始める頃。またすっ飛ばしたけど気にすんな、どうせ野郎が黙々と作業してるだけだから。

 何個めかのデバイス修理を完了して一息ついていると、昨夜の修理で通信機能だけは回復したゼロの残骸が通知アラームを鳴らした。

 

「お?」

 

 ひとまず、直したデバイスを梱包して棚にしまい、その後ゼロに指示して通信をつなげる。

 

「はい、こちら虎屋です」

『あ、お兄ちゃん? 今お仕事大丈夫?』

「リオか。大丈夫だけど、こんな時間にどうした?」

 

 空間に投影されたモニター越しに問いかける。

 

『うん、今日は何時に帰るのかなって。あと、それとは別に相談したいことがあったから』

「相談? まあ、わかった。今日は……そうだな、七時半くらいになりそうだな。ゼロのフレームを組み立てるくらいはやっておきたい」

『わかったよ』

 

 リオが話すたび、口から八重歯が覗く。可愛い。……まあ、八重歯は俺にもあるんだけど。

 

「で、相談ってなんだ? ソルフェージュに何かあった?」

『ううん、それは大丈夫なんだけど……お兄ちゃん、週末の連休に予定は?』

「連休? 多分なんも無いけど……」

 

 頭の中でスケジュールを確認する。

 休日中に返却予定のデバイス――ない。

 誰かと会う約束――ない。

 隣の喫茶店の店長(女、二十九歳独身)とのお茶会――そんな約束するわけがない。

 うむ、予定はないな。

 

「やっぱり無いな。連休どっか行きたいのか?」

『実はね、かくかくしかじか』

「なるほど、合宿ね」

 

 小説って便利。

 

「それってナカジマさんとかも一緒に行くのか?」

『うん。他にもヴィヴィオのお母さんとか、局員の人たちがいっぱい来るんだ。勉強になりそうなことがいっぱいあるよ。あと、大人モードをお披露目するつもりなんだ』

「へー……」

『それで、ヴィヴィオがお兄ちゃんも来たらどうだって言ってくれたんだけど』

「うーん、どうすっかな」

 

 確かに面白そうな内容だが、そうすると休業を告知したりなど、やることができる。

 ふと時計を見ると、結構な時間が経っていた。

 

「あー、返事は後で良いか? まだ何個か修理するデバイスが残ってるんだ」

『あ、うん。仕事中にごめんね?』

「いや、気にすんな。じゃあな」

『うん、頑張って』

「おう」

 

 通信が切れる。タイガは預かっているデバイスの返却日と名前をまとめてある書類を手に取り、確認をした。

 

「んと、残ってるのは……あと二つか」

 

 さて、頑張りますか。これが終わったらゼロの修理の続きだ。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「終わったああああ…………」

 

 ぐっ、と体を伸ばして脱力。倦怠感が心地よい。

 目の前には、原型を取り戻した銀色の腕輪がある。ゼロの待機形態だ。タイガが左腕に装着すると、中央にある青いランプが息を吹き返すように点灯した。

 タイガの腕に合わせてサイズを自動で調整する。

 

「お、直ったか。いやー急に壊れたからびっくりして手首が砕けるように痛いぃぃぃぃ!!」

 

 タイガの腕のサイズより小さくなっても更に締め続けるゼロ。心なしか表面に青筋が浮かんでいるような。だいぶキレていらっしゃる。

 

「ちょっ……腕……待っ……わ、わかった! 俺が悪かった! 許して! 許してくださいゼロさ橈骨(とうこつ)尺骨(しゃくこつ)が砕け散るうぅぅぅぅ!!」

 

 もう料理に使ったりしない! レモン汁ついたりしないように細心の注意を払う! だから許して!

 床をのたうち回り何度も壁に激突して、それをしばらく続けているとようやく締め付けが収まった。

 批難するようにランプが点滅する。

 

「はい……もうしないです……」

 

 息も絶え絶えにそう答えると、ようやくランプの点滅が収まり、大人しくなった。タイガは恨めしげにゼロを見るが、よくよく考えれば怒られても仕方ないのは自分の方なので黙っていた。

 それに、今度こそ腕が折られそうだ。

 

 

 

 店に鍵をかけ、夜の街を帰路につく。この時間になると、昼間は賑やかな商店街も鳴りを潜める。代わりに飲み屋やレストランなど、夜に客が来る店が繁盛を見せていた。酔っ払いの楽しそうな声が聞こえてくる。

 酒って美味いのかな……あと四年経たないと飲めないけど気になる。

 そんなことを考えながら十分ほど歩いていると、ようやく我が家が見えてきた。

 

 

 

「ただいまー」

 

 玄関の扉をくぐって靴を脱ぎ、居間に進む。リオが勉強していた。こちらに気付いておかえり、と言う。

 

ぐ〜…………

 

「ゼロ直った?」

「ああ、うん……なんか凶暴になったけどちゃんと直したぞ」

「凶暴……?」

「冗談だ」

 

 だから締まるのやめて、ゼロさん。

 

「そうだ、合宿の話だったな。どうせ連休中は店を休むつもりだったし、行ってもいいならついて行こうかな。それに、ヴィヴィオちゃんがいるならなのはさんも来るんだろ?」

「うん、そうだよ」

「ならまあ、保護者ってことでついて行くよ。なんなら料理の手伝いでもできるし」

「じゃあみんなにもそう言っておくね」

 

ぐ〜…………

 

 白衣とカバンを自室に投げ込み、居間に戻るとリオに向き直る。

 

「で、飯は?」

「まだ食べてない!」

 

 キリッと一言。

 さっきから聞こえる音はリオの腹から鳴っているらしい。

 はあ、とため息をつく。

 

「今日は遅くなるって連絡しただろうに……」

「だってお兄ちゃんの方が料理上手だもん♪」

 

 ここまで言われたら仕方がない。

 

 

 

「お前も料理くらいできるようになれよ? 将来結婚したら苦労するぞ」

「私が結婚したらお兄ちゃん朝起きれなくなるぞー?」

「そりゃそうだ。やっぱお嫁なんか行くな。俺が飯作ってやるから」

「変わり身早いね。今日は何作るの?」

「ラーメンだ。麺から作るぞ」

「私みそ!」

「俺醤油!」

 

 ちょっと遅めの夕飯は、少し熱くなってしまった。

 

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