八重歯の兄妹   作:特撮ファンA

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【前回のあらすじ】
被っていたパンツをズボンの下で履くことで難を逃れたスカさん。なんとか娘の疑惑を逸らすが、きっとすぐにバレてしまう。そのことに気がついたスカさんは、遂にパンツ返却作戦を始動させた──。


合宿編④

 ミッドチルダの街並みが再現されただだっ広いフィールド。そこでタイガは、必死に『あの人』から逃げていた。

 

「はあっ、はあっ、うおっ!?」

 

 昨日久しぶりに着たばかりのバリアジャケットを、桃色の魔力弾が掠る。たったそれだけの衝撃で飛行のバランスが崩れそうになるものの、ゼロの補助でなんとか体勢を整える。

 これでも自身の出せる最高速度で飛んでいるというのに、相手はそんなこと関係ないというように正確かつ強力な射撃は俺のことを追い詰めていく。

 

『ロックオンを確認、退避せよ』

「砲撃とか勘弁してくれ!」

 

 ゼロの警報を信じ、振り返らないまま急上昇してその場から離脱。

 次の瞬間、巨大な魔力砲撃がさっきまでいた場所を桃色に染め上げる。圧倒的な威圧感に、思わず身が震える。

 

『第二射、確認』

「もう!?」

 

 急上昇の勢いを止める間も与えられず、右側に飛ぶように魔力を放出。今度は幾つもの魔力弾が殺到した。同士討ちを期待するも、魔力弾は絶妙な起動で激突を避けると再び俺に向かって襲い掛かってきた。

 

『避けてばかりじゃ埒が開かん、準備運動は十分だろう』

「無茶言うな――って、うおおっ!?」

 

 死角から襲ってきた一発の魔力弾が、背中に炸裂する。これにはたまらず下方に吹き飛び、飛行速度を出していたのもあって粉塵を巻き上げて激しく地面に墜落してしまう。

 

「痛っつう……!」

『休んでる暇はないようだぞ』

「わかってるって……」

 

 瓦礫を押し退かし、ふらつきながらも立ち上がる。直後、目の前に円形のライフゲージが表示される。

 ……魔力弾一撃で千ダメージ強とか、頭おかしいとしか言えない。もう数発直撃してたら戦闘不能だったかもしれないぞ、これ。

 自身と相手の残りライフの差を比較し、そこに自分の魔力量、格闘技術、相手の戦闘能力を加味して考えれば、一つの確実な事実に否応にも気付かされてしまう。

 

 逃げ切れない。

 

 そんな悲しい現実を受け入れるしかないようだ。

 ならば、戦って勝てるだろうか?

 

 いや無理だろ。

 

 相手は現役の魔導師であり、その上でミッドチルダに知らぬ者はいないほどの実力を持った『エース・オブ・エース』。

 対してこちらは、運動不足のデバイス工。魔法戦技に関してはある程度数年前の実力を保っている自負はあるものの、言っちゃ悪いがこっちはあくまで一般人なのだ。管理局のエースとどう戦えば勝てるというのか。

 

 ああ、なぜこんなことになったのか。

 それを知るためには、少し前まで時間を巻き戻す必要がある。

 

 

 

 

 

 

 そもそもの始まりは、合宿一日目の夜のことだった。

 

「タイガさんも春光拳できるんですか?」

 

 風呂を上がってから少しした頃、廊下でちびっ子達とばったり出会った時ヴィヴィオちゃんにそう聞かれた。

 別に隠すようなことでもないので素直に答えることにする。

 

「うん、基礎を一通りと実践向きの技も多少実家で習ってるよ」

「小さい頃からですか?」

「まあ……ね」

 

 実際のところ、いつ頃からやっていたのかよく覚えていなかったりする。

 ミッドに来る前には既にかなりの技術を仕込まれていたはずだ。

 

「どうしてそんなことを?」

「昼間の水斬りを見てたら、なんとなくリオと動きが似てる気がしたので、気になって」

「なるほど」

 

 一、二回だけの動きを見てそう判断できるのは、最近の格闘技では割と普通なのかと疑問に思ってしまう。

 

「あの、それじゃあリオとはどっちが強いんですか?」

「え? うーん……」

 

 コロナちゃんに聞かれて、考える。

 そりゃあ自分の方が強いと信じたい気持ちはあるが、正直、練習をおろそかにしてしまっている自分がリオと戦えばどうなるかといえば、負けるとしか思えないのが事実だった。

 そう伝えようと口を開こうとするが、その前に言葉を発した者がいた。

 

「お兄ちゃんの方が強いよ!」

 

 リオだった。それはもう、なぜか自信満々に言い切りおった。おい、今明らかにちびっ子達の目つきが変わったけどどうした。特にアインハルトちゃん、目が怖いよどうしたんだよ。

 

「それなら!」

「お、おう」

 

 

「――タイガさん、明日の模擬戦一緒に参加しませんか!?」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 ――そして、あれよあれよと話が進み。

 二日目の朝食を食べたらもうフィールドに放り込まれていたのだ。

 なぜだ。昨日まで「リオの模擬戦見るの楽しみだなあ」としか思っていなかったのに、それに自分まで参加することになってしまった。

 ちなみに、これは模擬戦の二戦目だ。一戦目はルールを把握するために見学させられていたため、これから本格的に参加することになる。

 

「……言ってても仕方ないかぁ」

 

 どこか遠くを見つめながらそんな呟きが漏れた。

 ぶっちゃけ、もっと抵抗すればやらなくて済んだ気がする。

 

 だけど……あんな期待に満ちた目を向けられて、断れる人なんかいないとも思う……。

 

 ため息を一つ漏らし、左腕を胸の前でかざしてゼロの起動準備に入る。

 

「ゼロ、セットアップ」

『Stand by』

 

 低い男声の電子音声がゼロから流れると、銀色の腕輪からガジェットが展開してその姿を前腕部を覆うブレスレットに変える。そして次の瞬間、全身が炎に包まれた。どうでもいいけどゼロ、随分と久しぶりに喋った気がする。

 

『Get set』

 

 炎が収束するとタイガの装いは大きく変わる。どこにでも売ってそうな安い白Tシャツの代わりに、先ほどの炎が凝縮したような赤をベースに所々黒のラインが走るパーカーが上半身を包み、これまた安売りコーナーで買ったジャージのズボンは黒いジーンズに似たものに変化している。その上から銀色の籠手と脚甲が装備され、バリアジャケットの展開が完了する。

 

「……問題ないみたいだな」

 

 数年前のサイズのままバリアジャケットが展開されたらどうしようとか心配だったのだが全く問題なかったようだ。事前に入力していた身体データを基にゼロが調整しておいてくれたらしい。さすが俺のデバイス、気遣いのできる奴である。これでキレても腕を締めなくなれば完璧だ。

 そして鳴り響く、試合開始の合図。

 

 ――さて。

 

「隠れよう」

『おい』

 

 待て、分かった、ちゃんと戦うから締め付けやめようぜ、な?

 




今まで黙ってたけど──ゼロは喋れるんだ。
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