【凍結】Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black 作:餌屋
クラス代表決定戦が終わったその日の夜。
俺は千冬から呼び出され、道場にやって来ていた。
「待たせた」
「いや、私も今来た所だ」
先にやって来ていた千冬に一言詫びをいれ、道場に入る。
「それで、どうしたんだ?」
「いや何、久しぶりに付き合って貰おうとな」
そう言って、竹刀を取り出す千冬。
「何だ、そんな事かよ。了解、こっちは素手で良いな?」
「構わん。むしろそっちの方が歯応えがある」
そして、久しぶりな俺達の遊びが始まった。
千冬が一瞬で距離を詰め、袈裟斬りを放ってくるのを俺は身体を捻り避けるとそのまま、体勢を低くし足払いをかける。
千冬はそれを軽く飛んで避ければ、着地と同時に回し蹴りを放って俺の脇腹に叩き込もうとする。
俺はそれを難なく腕でガードしてそのまま脚を持ち、思いっきり投げ飛ばした。
「むっ」
脚の付け根に走ったであろう痛みに千冬はほんの少し顔を歪めるが、空中で体勢を直して綺麗に着地を決めた。
だが俺はそこに出来た隙を狙って、懐に飛び込み服を掴んで背負い投げを決めようとするが、千冬は千冬で俺の服を掴み同じように背負い投げをしようと力を込めた。
お互いに投げるには体勢が安定しないため膠着する。
「・・・湊」
と千冬が突然神妙な様子で口を開いた。
「何だ?」
「白式を作ったのは束とお前だな?」
その言葉に俺は一瞬動揺してしまった。
しかしすぐに千冬なら気づいて当然だと気持ちを切り替える・・が。
その一瞬で俺は千冬に投げ飛ばされていた。
「うおおおおっ!?・・・ぐはっ!」
「まさか本当に気を緩めるとは思わなかったぞ」
床に叩きつけられ、天井を見上げる俺の視界に千冬が入ってくる。
その言葉と顔は楽しそうにニヤっとした物だった。
「ったく・・・俺だってまさかそんな手を使われるとは思わなかったぞ」
俺が皮肉交じりにそう返すと、千冬は笑顔のまま俺に手を差し伸べてきた。
俺はそれを掴み、身体を起こし立ち上がる。
「・・・それで?どうなんだ?」
「まあ、確かにそうだ。束の方で作っておいて貰った物を俺が引き継いだんだよ。雪片もあったしな」
「そうか・・・やはりな」
「・・・悪かったな、どうしても必要な事でよ」
「一夏を巻き込む事がか?」
「ああ。俺と束の計画に一夏の存在は必要不可欠なんだよ」
「湊じゃ駄目だったのか?お前なら・・・」
「俺に正義のヒーローは似合わんよ。良くてダークヒーローだ」
「・・・いや悪の大魔王じゃないか?」
「あいっかわらず酷えな」
そう言いながらお互い、微笑みを浮かべ合う。
昔とは違う。これが、今の俺達の関係だ。
***
翌日、朝のSHR。
「では、一年一組代表は織斑一夏君に決定ですね!」
丁度一繋がりデスネ、ワアビックリ。
クラスの女子達が大いに盛り上がっている中で俺は一人暗い顔をしていた。
昨日の試合、勝ったのは良かったのだがそれは結局、面倒くさかったクラス代表になる訳で。
「・・・まあ、仕方ないか」
これも『新たな立場を受け入れ、覚悟する』って事だ。
そう考える事とする。
そして一時間目終了後の休み時間。
謝りに来たセシリアと、こちらも悪かったと謝り和解し、和やかムードに何故か怒った顔をして箒が乱入。
訳が分からないといったセシリアと何故かセシリアだけでなく俺にまで怒ってくる箒とのいざこざが起き、予鈴が鳴ってやってきた千冬姉に3人仲良く出席簿アタックを食らうという事件が起こったのはまた別の話だ。
・・・何で俺まで。
***
昼休み。
俺はセシリアからの呼び出しを受けて、研究を中断して待ち合わせ場所の屋上にやって来た。
何か、夕べから呼び出されてばっかりだな俺。
「待たせたな、セシリア」
「いえ、私も今来た所ですわ」
俺の謝罪に笑って首を振るセシリア。
初めて会った時と比べて、随分態度が穏やかになった物だ。
初対面の時なんか「篠ノ之博士の栄光のお零れを貰った」とか言われたからな。
まあ今はその話をするとマジで後悔して泣きそうな顔をするので、からかいでも言わないようにしているが。
「それで、どうかしたのか?」
「その・・・あの時の質問にお答えしようと思いまして」
「あの時・・・ってああ、宿題の事か」
「ええ・・・『セシリアは何になりたい?』そう仰りました。あの時は、今を生き、隙を見せないことだけに必死で何になりたいかなんてお答えできませんでしたが・・・今なら」
「・・・」
セシリアは意を決して宣言する。
「私は『セシリア・オルコット』になりたいと思います!オルコット家当主という肩書きで見られるのでは無く、『セシリア・オルコット』として皆から認識され、そして『セシリア・オルコット』としてモンド・グロッソで優勝したいと思うのです!」
セシリアは、イギリスの名家「オルコット家」の当主だ。
両親は3年前に事故で他界し、一人で両親の遺産を狙う金の亡者達と戦ってきた。
IS適正テストでA+をだし、それからは代表候補生として研鑽を積んだ。
多くの努力を重ねた。
それでもどうしても付いてきて回った「オルコット家当主」という肩書き。
その肩書きがどうしてもセシリアの評価について回る。
「セシリア・オルコット」として見て貰えない、そのジレンマにセシリアは悩まされていたのだ。
「そうか・・・良い答えだ」
上出来だ。
ジレンマに悩まされていたが、それは言い方を変えると肩書きに自分が捕らわれてしまっていること。
その自分から雁字搦めにしていった鎖から解き放たれる、そう宣言しているのだ。
彼女なら出来るだろう。
それに、このIS学園は必ずセシリアをセシリア・オルコットとして見てくれる。
「そ、それでですね・・・」
セシリアがさっきとは打って変わり顔を真っ赤にして話しかけてきた。
「・・・ん?何だ?」
「その・・・私がモンド・グロッソで優勝しましたら・・・私とけ、けけけ・・・」
「・・・け?」
「な、何でもありませんわあああああ~~~!!!」
突然、セシリアは叫びながら走り出し風のように屋上から去って行った。
「・・・すまんな、セシリア。俺には誰かに愛して貰える資格なんてもう無いんだ」
プルルルルル
「もしもし」
『やっほぉ~みーくん白式はどうだった~?』
「どうせシステムハッキングして見てた癖に・・・完璧だよ。全て問題なく動作していた」
『みーくんの依頼通り保管していたシステム仕込んでおいたけど、本当に必要あるのかな?私が言うのも何だけど結構危ないよ?あれ』
「確かに一つ間違えれば大惨事を引き起こすが、今の一夏なら問題ないさ。万が一の為に準備もしておくつもりだし。それより・・・用件はそれだけじゃないだろ?」
『おう!そうだったそうだった!中東で馬鹿な奴らが馬鹿な事やってるんだよ~』
「・・・あそこの政府ゲリラは本当懲りないんだな。了解。直ぐ対処する」
『後、あいつらもいるみたいだからよろしく言っておいて~』
「・・・任された」
俺は無意識にポケットの中に入ってる物に手をやり、力強く握りしめる。
こうして俺の学園生活は続いていくのだ。
***
時同じくして、中国のとある軍事施設。
その一室で一人、スーツ姿の女性がツインテールの少女の直談判を受けていた。
「・・・IS学園にですか。確かに貴女が向かってくださるのでしたら願っても無い話ですが、最初は嫌がってたじゃないですか」
「状況が変わったのよ!」
「織斑一夏、ですね」
「ええ、一夏の幼馴染みの私なら模擬戦も頼みやすいし、男子との戦闘データも取りやすいわ!それに衝撃砲のデータも取れる、一石二鳥でしょ?」
「・・・はぁ、分かりました。貴女には色々恩もありますし良いでしょう。直ぐに手続きを取ります。ただし、問題だけは起こさないでくださいね?昔とは違って今の我が国はクリーンな存在だとイメージ付けなければならないのですから」
「分かってるわよ!元々そういうの嫌いだし!」
こうして小さな龍が動き出す。
それが織斑一夏の周囲に更なる波乱を巻き起こすことを、今は誰も知らない。
第1章 完
第2章に続く――――
というわけで第1章はここまで。
第1章とは銘打っていますが、まだまだプロローグに近い訳で。
次回から新たな局面に移ります。
是非お楽しみに!
感想、評価などお待ちしております!