【凍結】Infinite Stratos ~ The Accomplice of Black 作:餌屋
翌日。
結局クラス対抗戦はデータ取りの為来週からそれぞれ1回戦のみ行うだけで、実質中止となってしまった。
あの時鈴との試合中に乱入してきたアンノウンと黒い機体・・・湊兄の件は機密事項となり、箝口令が敷かれた。
「しっかし昨日は本当びっくりしたわね~」
今は昼休み。
箒、セシリア、鈴と一緒に屋上で食事していると、ふと鈴がそう言った。
昨日あの後鈴とは仲直りしている。
お互い意地を張りすぎたと謝り合った。
ちなみに俺が覚えていないという約束については、うやむやのまま終わった。
『ま、まああたしも一字一句覚えてる訳じゃないし?べ、別にもう良いわよ。むしろわ、悪かったわね!あははは!』
というのは鈴談だ。
「ええ、まさか湊さんがISを動かせるとは・・・今でも信じられませんわ」
「だが分からなくもない。IS開発に戦術理論の考察、操縦者への個人指導・・・自分がISを動かせるからこそなのだろう」
そう、湊兄はとにかくハイスペックだった。
細胞レベルでオーバースペック族の1人なのだ。
「まあ発表したくないのも無理ないわね~ただでさえ『篠ノ之束の盟友』で『篠ノ之束に次ぐIS技術者』って事で色んな国から引っ張りだこなのに」
「その上ISを動かせる、しかも超強いなんて分かればどうなるか・・・」
「・・・まあ姉さんと同じようになるだろうな」
篠ノ之束・・・ISの産みの親にして世界で唯一ISコアを製作できる人。
これまでは束さん程重要視されていた訳ではないが・・・
「まさかそういう時の為に教師になったんじゃ・・・」
「ありえますわね」
「ありえるな」
しかもあの戦闘を見た者にしか分からないだろうけど、あの機動力、アンノウンを一撃で沈黙させた腕・・・ISだけの力じゃない。
あの強さは見覚えがある。
俺が一番憧れている・・・
「ちょっと一夏?聞いてんの?」
「え?」
ふと気づいてみれば皆が俺の方をじいっと見つめていた。
「ぼーっとして、どうしたのです?」
「まだ昨日の疲れが抜けていないのか?」
「あ、いや少し考え事してて・・・」
「考え事?」
「・・・すげえ強かったなあってな」
「あーね、確かに」
「凄まじかったですわね。個別瞬時加速、まさか会得していらっしゃるとは」
「あれ今『使える』のって国家代表クラスだけじゃなかったっけ」
「それでも大国と呼ばれる数カ国の代表くらいですわ。一体どれだけの鍛錬を積まれたのかしら・・・」
「しかも誰にもバレないようにでしょ?つくづく化け物よね~」
「千冬さんは知っていたようだがな」
「って、あんたまさか同じ男なのに湊さんの方が強そうだからってしょげてるわけじゃないでしょうね?」
「違うって」
「それでは一体?」
「・・・色々教えて貰う事が出来たなあって思っただけさ」
「うむ、精進あるのみだぞ」
そう、色々教えて貰わないと。
『千冬姉と同格の強さ』を見せて貰ったんだから。
「そういえば!まだきちんと説明して貰ってない!約束したのに!」
「あら、そうでしたの?でも今日湊さんはお休みとの事ですが」
「そうなの?」
「ああ、何でも急用が出来たと聞いたが」
***
同時刻。某国上空。
澄み渡る青空。
そこは一見何も無いように見える。
だがそこには確かに人が住んでいる。
「いやぁ~流石みーくんだねぇ。束さんのゴーレムが一瞬でやられちゃった」
そう。ここは篠ノ之束の秘密ラボ。
ステルス迷彩に滞空機能と束の技術が全て詰め込まれた移動式小要塞だ。
今束は自らが放ったゴーレムの戦闘データを眺めていた。
「輻射波動・・・ここまでの威力とは驚きだねぇ。みーくんにお願いしてデータ貰おうかな~」
「やるわけねえだろこのクソ兎」
ガシッ!
そんな音を現実にさせながら、突然現れた声は束の頭を片手で掴みそのまま身体を持ち上げた。
「痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいみいいいいくうううんんん!?!?!?!?」
その声の正体こそ、学園で一夏達の話の種になっていた黒崎湊、その人だった。
「束・・・マジでよっぽどの事起こしやがったな・・・お仕置きだごらぁっ!!」
グリグリィッ!!
「ぎやあああああああああ!!!ごめんごめんってええええええ頭が割れるううう!!束さんのハイスペックお脳が耳から鼻からこぼれ出るうううう!!」
「おーおースプラッタ映画が撮れるなあ、喜べ束が主役だ」
「たあああすけてえええええ!!」
「束様から離れてください!」
ガシャッ
湊が束に文字通りお仕置きをしていると、その背中に銃口が突きつけられる。
「あぁん?てめえ誰だ?」
「クロエ・クロニクル。束様に忠誠を誓った者です」
「クーちゃん!?それはマズいって!」
「てめえ・・・俺に銃口向けるとは良い度胸だなあ・・・あ?撃ってみろよ。構わねえぜ?『殺してやるから』さ。」
本気の殺意をまき散らす湊にクロエは『初めて』『恐怖』という物を感じる。
「みーくん駄目!お願い!やめて!」
「・・・ふんっ」
束の懇願を聞き入れたのか湊は束を掴んでいた手を離した。
束が解放された事が分かるとクロエと名乗る少女はすぐさま銃を降ろし束の元に駆け寄る。
「束様!大丈夫ですか!!」
「大丈夫だよ・・・全くクーちゃんは冗談が通じないんだから」
「冗談・・・?」
「・・・」
「みーくんが本気の本気でキレてたら、もっと直接的に私を殺しに来てるよ。ねえ?」
「・・・結構本気だったけどな」
「あはははみーくんは冗談が上手いんだから~」
「・・・」
「冗談って言ってよ!!」
「みーくん・・・?まさかあなたが黒崎湊博士なのですか?」
「ああ・・・ってお前どこかで」
と少し冷静になってきた様子の湊がクロエの顔に見覚えを感じ、記憶を探る。
「まさか・・・遺伝子強化試験体一号・・・お前一体彼女をどこで」
「拾ったんだよ~可愛いから私の娘にしようと思って!」
「しかもこの反応・・・」
「うん、元々凄い不安定だったからね。助けるためには『同期』させるしかなかったんだ」
「・・・あれは二度と使わない事にしただろう、ったく」
湊はため息を付きながら、クロエをジッと眺めている。
その眼には既に殺意は無く、代わりに憐れみに似た物が込められていた。
「それで・・・みーくんやっぱり怒ってる?」
「当たり前だばーか。最終的に黒炎を出したのは俺の判断だが元はといえばお前が余計な事すっからだろ」
湊が束に白い目を向ける。
「いやあ、ごめんねえどうしてもみーくんのISが動いてる所見たくってさ。だってこれまでのは『ISだけどISらしくなかった』じゃん?」
「・・・まあ良いけどよ。おかげで学園の上層部全員にバレて委員会にまで話が行っちまったらしい」
「ありゃ、ジジイが止めてたんじゃなかったの?」
「お前十蔵さんに殺されるぞってか何でそこまで知ってんだよ・・・勿論動いてくれたんだけどな。お飾りがやらかしやがった」
「へえ・・・あいつらやっぱりウザいねえ・・・」
「ああ。だがこれで動きがあれば・・・ビンゴだ。そういう意味では結果オーライになるかもな」
「じゃあ良かったじゃ・・・何でも無いです」
束が明るく言いかけるが、湊の視線に黙らずを得なくなった。
「まあ、とにかく今後はもう少しこっちの事も考えて動いてくれよ」
「了解~」
「じゃあな」
そう言うと、湊はクロエに一瞬ながらも再度視線を向け、そのまま立ち去って行った。
入ってきた時と同じく、ハッチからISで飛び出したのだろう。
束にとっては別に想像するまでもない事なのだが。
「・・・あれが黒崎湊、ですか」
「そうだよ~みーくん格好いいでしょ~」
「格好いい・・・私にはその感情はよく分かりませんが・・・」
プルルル
その時、ラボに映像通信が入った。
発信元は・・・不明。
「どなたでしょう?」
「ん~誰だろうね~・・・もすもす?」
「初めまして篠ノ之束博士」
束が通信を取ると画面に現れたのは、長く美しい金髪でセレブのような風貌に抜群の美貌な女性。
「お前は・・・」
「流石は束博士。私の事もご存じでしたか」
「うん、知ってるよ~しょーもない奴らにしょーもなくこき使われてるしょーもない奴らだよね~」
「・・・ノーコメントという事にさせて頂きましょうか」
「それで~?この束さんに何の用かな~?お前らの行動潰しまくってる報復でもするの?」
「いえいえとんでもない。むしろ束博士と私の間には残念なすれ違いがあると思っておりまして」
「すれ違い?」
「ええ。場合によっては束博士にご協力出来る事もあるかと・・・その事も合わせてお話したいので一度お食事でもどうでしょう?最高級のレストランをご用意しておもてなしさせて頂きますよ?」
「へえ・・・面白いねお前」
「恐縮です」
「良いよ!いつにする?」
「それでは・・・」
こうして世界は加速していく。
誰も予想していない未来へと。
第2章 完
第3章に続く――――
というわけで第2章終了です。
次回から原作第二巻の話に突入。
色々既にきな臭い事になっておりますが・・・
第3章もお楽しみに。
感想、評価お待ちしております。