アクセル・ワールド~加速探偵E・G~   作:立花タケシ

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 かなりお久しぶりな投稿です。これを見てくださった方々、ありがとうございます。
 今回いつも以上に時間がかかったような気がするんですが、おかげで一区切りつくことができました。
 今回ではまだ終わらないんですがとうとうあの方が登場の気配をみせます(気配かよ)
 それではどうぞ御見聞を。


邂逅と消滅

 

[ウィート・ブルは霞ヶ浦にいくと会えるかもしれない。千葉県と茨城県の境目にある湖だろう。俺とダークは一度ログアウトしてから向かうつもりなんだがどうする? お前はソッチから直接向かうか?]

 

レックスはアキハバラB・Gのロビーでそうメッセージを書き、パンサーに送った。

するとすぐに返事は帰ってきた。

 

[私はここで待たせていただきます。ありがとうございました]

 

簡素に書かれた文に、レックスは[お礼は仕事が成功してからでいい]と送り返すと、今度は返信は来なかった。

 

「それじゃダーク、一度出るぞ。集合場所は戻ってからメールする」

「はいよ」

短く返事をしたダークは、そう言ったとほぼ同時にアバターは光の粒子とたり加速世界からログアウトした。

 

 「さてと、ようやくこの仕事も終わりか……」

 なぜかどこか感慨深くなってしまい、少し錆びれた鋼鉄の壁に背中を預けながら黄昏るレックス。

 「探偵屋、いかなくていいのかね?」

 ヒゲの蓄えられた厳つい顔のアバターに声を掛けられ、レックスはゆっくりと壁から背中を離した。

 

 「それじゃ、邪魔したな」

 「かまわん、ここはバーストリンカーの聖地、絶対中立領域。 またいつでも遊びに来るといい」

 

 背中にかけられた言葉にレックスは右手を軽く上げて答えた。

 そしてレックスの体も光となって消える。

 

 

 

 「なぁ、霞ヶ浦ってこっからどのくらいあるの?」

 「聞かない方がいいと思うぞ」

 ここはカドタワーの駐車場。二人の少年がバイクにまたがりヘルメットを装着しながらそんな会話を繰り広げていた。

 

 「ざっと10キロ?」

 「それでぎりぎり東京からでれたかな?」

 「ざっと20?」

 「お~近くなったな!」

 「30だな!」

 「おめでとう。中間地点の俺たちの故郷だ」

 「……」

 勇魔の顔からは生気とやる気が圧倒的に消え失せてしまい、半ば白目をむきかけたようなひどい有様となっている。

 

 「戻ってこい、実際には家に戻るだけだ」

 「……、───っえ? なんで?」

 彰祐の一言に息を吹き返した勇魔。その声はヘルメットのシールドを下したおかげで籠って聞こえにくい。

 

 「わざわざ霞ヶ浦まで行ってみろ、居る可能性が高いだけで居ない時もあるんだ。金と労力の無駄だよ。それよりも自宅から入って向かう方が結果的に楽だ」

 「な、なるほど?」

 いまひとつ頭の処理がおいついていない勇魔は首をかしげながら返事を返し、バイクのハンドルを握った。

 

 「あっちに入る時間はあとでメールを送る。とりあえず自宅に戻ってベットに寝そべってりゃいいんだよ」

 「あいよ!」

 勇魔が力強く答えた。

 

 ───同時、両者のバイクにエンジンが掛りモーターの駆動音がコンクリートの檻の中を轟かせた。

 地下を抜け、一気に外界へ解放された二つの無骨な機械の塊は、颯爽と立ち並ぶビル群を流していく。

 全身に感じる疾走感に、彰祐は心なしか高揚していた。

 

 『彰祐、ちょっと飛ばしすぎじゃね?』

 風で服をなびかせ心地良い気分に浸っていると、ニューロリンカを通して無線が勇魔の声を再生する。

 

 「大丈夫、どうせリミッターが掛ってるんだから」

 『そうだけどよ……』

 そこで勇魔の声は途切れた。

 

 自分達の住む街───千葉県印西市は秋葉原から約30キロ離れた街で、開発が進み交通量が多く住みやすい街だ。

 

 目指すは駅のホームの近くに建てられた高層マンション。

 長い道のりだがバイクに乗ることが好きな彰祐にはなんら苦にならず、むしろ道が長いだけ得した気分になっている。

 その上勇魔という気の知れた話相手もともに走っているのだ、気付けば県を越え、目的地がまじかに迫っている。

 

 

 

 「それじゃ、ちゃんと起きてろよ」

 「大丈夫だって、じゃあな!」

 先に到着したのは彰祐。

 ビルの前で片手を挙げ勇魔と別れを告げた後、ビルの駐車場にバイクを止め、マンションへと入る。

 

 良く声の反響するガラス張りのエントランスを通り、上向きの矢印を押して数十秒。ベルの弾けるような音とともに鉄の扉が開き、エレベーターに入る。

 少しの浮遊感と目的地に着いた瞬間の重力。

 開いた扉を抜け少し歩き、扉の前に立つ。

 ドアノブを持つとニューロリンカで住居者と判断され、自動的にロックは解除される。

 

 手を回し扉を開くと「おかえり」と聞きなれた母親の声が聞こえた。

 「ただいま」

 と、適当に挨拶を返しつつ歩は突き当りの自室へと真っ直ぐ向かう。

 質素なドアを開き、カバンを床に放り投げる。

 勢いのままベッドにダイブし、また起き上がって腰かける。

 

 「疲れた……。でもこれからが本番なんだよなぁ」

 誰に聞かせるでもなく、そんな独り言が自室に漏れる。

 彰祐は無言のまま虚空に指を突出し、這わせる。視界には便箋が出現し、その下に表示されたキーパッドで文章を作成した。

 

 [18;00ピッタリに入れ、集合場所は学校の前で良いだろう]

 

 簡潔に書いたそのメッセージを指でピンッ!と弾き、勇魔の元へと送信した。

 少々の間返信を待つ。

 それでも来ない応答に「まぁあいつだから……」と自分に言い聞かせるように小さくつぶやく。

 

 10分くらい経っただろうか、18時まであと8分。

 彰祐の額には冷や汗と脂汗が浮き、少し目が血走っていた。

 「あいつはあいつはあいつはあいつはあいつはあいつは……」

 

 脳はゲシュタルト崩壊し、足は震源地にでもなろうかというほどに貧乏ゆすりが激しく行われていた。

 最早「き、きっと大丈夫だよ。ああいつは何だかんだで来てくれるし……今回だって信頼感?ツーカーの仲?っていうのかな、返信しなくてもダイジョブデスネーって感じだから連絡こないだけなんだよ」と震える声と体でブツブツと自分に暗示をかけていた。

 

 ここまで彰祐が時間に対して焦りを覚えるのにも理由がある。

 まず現実世界で少しの遅れとは、加速世界ではかなりの遅れとなる。以前一度勇魔が遅れる事があり、その日彰祐は加速世界で約1日待たされることがあった。

 

 次に、以外と彰祐はキレやすい、我慢に弱く待つのが嫌いなのだ。

 これで良く探偵なんぞ勤まるものだと思うが、ソレはそれ。仕事と割り切ってしまえば多少は我慢もできようもので、それに勇魔という話し相手───相棒が居てくれるおかげで地獄の時間も耐えられるのだ。

 

 つまり一人では仕事にならないのだが、それは触れてはならないこと。

 突然、軽快な音と共にメールのアイコンが点滅しだす。

 彰祐は目をカッと見開いたかと思うと、ものスゴイスピードでアイコンをタッチし内容を眼前に浮かべる。 

 送り主は勇魔だ。

 [え!?…ミテナカッタ!? 間に合うって♪ だいじょぶだいじょぶ~]

 

「くそやろうがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 近所迷惑なんて頭の隅にすらなく、彰祐は力の限りで咆哮し目の前にある文面を両手に握った拳で叩き割ろうとした。

 が、相手は視界に投影されただけの情報。割れるどころか触ることすら叶わず、空気を少し揺らすだけで勢いよく空振りした

 「はぁ、はぁ……。アイツコロス」

 肩で息をし、血走った目で決意を固める彰祐。

 

 18時まであと1分。

 息を整えベッドに座る。

 残りは10秒。

 

 「…5…4…3…」

 小さく、ほんの少しの声量で異世界へと旅立つカウントダウンをする。

 

 「2…1───ッ、アンリミッテドバースト!」

 途端、何もかもが停止した感覚に陥り、一気に世界が様変わりしていく。

 

 

 

 ダークとレックスが通う学校の前。

 いや、その建物は誰がどう見ても学校とは呼べるような形をしておらず、前衛的な美術館といった方がしっくりくるような形状と変貌していた。

 その場所にレックスが到着すると、先客がいた。

 

 「おっす、ちゃんときたぜ!俺のが先に着いてたから俺のか──ブフルァ!」

 先客であるダークは右手を振ってレックスに挨拶すると、レックスは渾身の一撃でもってその挨拶に答えた。

 

 一撃で減ったHPは3分の1.

 この世界では痛覚は通常対戦の倍に設定されている。

 ものの見事に鉤爪で抉られたダークは、尻を突き出した形で地面に伏し、ピクピクと痙攣していた。

 

 「ふぅ、スッキリした。どうした?行くぞ」

 恍惚とした表情で簡単に言うレックスを睨みつけるダーク。

 だが何かをするわけでもなく、渋々といった風に立ち上がりレックスに後からついていくのだった。

  

 

 

 「いつまで……歩くんだよ」

 かれこれ数時間、ダークとレックスは歩き続けていた。

 

 廃墟と化したゴーストタウン。

 

 荒涼とした大地が広がる平地。

 

 枯れ果てた木々で彩られた森林。

 

 様々な地形を闊歩し踏破した。

 

 「なあダーク」

 「んぁ?なんだ」

 疲労のせいかダークの声には力がない。

 

 「今更……なんだけどよ」

 どこか申し訳なさそうにレックスは言葉を続ける。

 その姿にダークは「らしくない」と短い感想を持った。

 

 「しょうがねえだろ、誰にだって失敗はあるんだ」

 「失敗?一体何を失敗したんだ?」

 「目的地は霞ヶ浦だ、間違いないよな」

 「俺に聞かれても信憑性はイマイチだと思うが、俺が記憶している中では霞ヶ浦で間違いはないと思うぞ」

 「それで、その湖畔と……」

 「そうだな、それで?」

 「霞ヶ浦ってのはそもそもソレ自体が湖の名前ってわけで、湖畔ってことはその周囲全てを指すわけなんだが……」

 

 いまひとつハッキリとしないレックスに、ダークは少なからず腑に落ちない、どこかイライラにもにた感情を持つ。

 

 「俺があまり頭良くない事はしってんだろ、簡潔に言え、簡潔に!」

 「つまりだ!」

 クルッとレックスは後ろを向き、ダークと目を合わせて溜めを作る。

 

 「面積は220平方キロメートルもあって、日本で第2位の大きさを誇ってるんだよ」

 「……ナンバー2?」

 「い、イエス」

 「Oh my God」

 無駄に良い発音で心の中の叫びを吐露し、ダークはその場に膝を折ってしまう。

 

 レックス本人でさえ挫折してしまいそうな気分になっており、その双眸はどこか虚ろなものになっていた。

 

 「ダーク……どうせもうすぐ着く」

 「そうだね、天国だね」

 「大丈夫、なんとかなるものさ」

 「そうだね、ヘブンだね」

 到底会話のキャッチボールと言えるものではない。もはやレックスが投げダークがあさっての方向に飛ばす会話のバッティングだ。

 

 そんな不毛な事を続けていると、揺れ動く人影を二人の視界が捕え、二人が正気に戻り緊張感が増す。

 まさかエネミーか、とも思ったが明らかに小さい。

 それこそアバターのように。

 

 「く、はぁ!……くそ」

 前方にある影は徐々に二人に近づき、その姿をはっきりととらえることができた。

 少し深い緑にゴツゴツとした体躯。西洋の兜のような頭部には闘牛のように鋭く闘気を孕んだ角。

 まさしく目標のウィート・ブルその人だ。

 

 「おい、ウィート・ブルだな。話がある、止まってくれ!」

 レックスが第一声で声をかけると、ブルは少しもスピードを止める様子を見せず猪突猛進で突進してくる。

 

 「なんだお前らは! お前らもアイツの仲間だな!?ふざけるなよ!!」

 ブルは二人を撥ねのけんばかりにスピードをだし、二人を通りぬける。

 ダークは瞬時に翻し、その背中ではなく片足めがけて手に持った鎌を力いっぱい投げる。

 

 「人が止まれっていってんだろーが!」

 「───っ?! ダーク!待て!」

 レックスの制止もやむなく、ダークの放った鎌は吸い込まれるようにブルの足へと近づき、スパッと右足首を切り離した。

 バランスを崩し勢いよく地に転がるブルにダークとレックスは近づく。

 

 「ウィートブルだよね?話があるんだけど」

 ダークはうつ伏せに倒れたブルの前に屈み、手に出現させたクナイを首筋にあてがいながら質問した。

 その問いに返ってきたものは呪詛のような言葉だった。

 

 「くそ……くそくそクソッ! なんで俺がこんな目に。俺は絶対捕まらない逃げれるんだ逃げれるんだ! 大体強くなることの何が悪いんだ!! 自分達こそ、こんな力の存在を隠していたくせに!!」

 「何を言ってるんだ?さっさと質問に───」

 「黙れ!!《ダーク・ブロウ》!」

 ブルは力いっぱい体をひねり、うつ伏せから仰向けになるよう態勢を変えようとした。

 同時に闇を絡めた剛腕が、突然ダークの頭蓋の前に迫る。

 傍から見ても、とてつもない威力を秘めて、それはダークの頭部を打ち砕いてしまうことは明らかだった。

 ダークはその必殺の一撃を、かすかに首を横に傾けることによって掠める程度にすることに成功した。

 

 だが、問題はそこではなかった。

 

 突きつけられたクナイとブルの急所との距離は0。

 ブルが無理やり態勢を変えたため、クナイが首筋に突き刺さり、食い込み、火花を微かに灯しながら喉を裂いていく。

 レックスとダークがブルの姿を認識した時には、その姿は胴体と頭部が綺麗に分かれていた。

 

 「ち…く……しょう」

 息が漏れる音を混じらせながらそう言い、ブルの体が弾けるように、いや実際に弾けて消える。

 この時、レックスは嫌な予感がしていた。

 

 ブルの異常なまでの必死さ。あれは一体どこからくるものだろうか。

 そして、嫌な予感だからこそだろうか。それはみごとに的中してしまう。

ブルが砕け、火の粉を散らしたその場所。そこには本来アバターと同じ色をした小さな光の灯が残り、存命を主張するはずだった。

あくまでも、するはずだった。

 ダークとレックスの双眸には、ブルの生きていた証はひとつも残ってはおらず、ただ荒れた土地が広がっていた。

 

 「───ッは?」

 意味が分からない、という意味が密度濃く籠められた一言だった。

 

 なぜなら、それは相手の加速世界での死亡を意味していた。

 

 なぜなら、それは依頼内容の完全なる失敗を意味していた。

 

 「なんで消えてんだ……。なぁ、なんで消えてんだよ!」

 「俺が知るか!」

 あまりにも予想だにしていなかった事態が起き、二人は混乱状態に陥り、おもわず怒鳴り散らしてしまう。

 

 その最中、後ろ───ブルが走ってきた方角からザッザツと土を踏む足音がゆっくりと、確かに近づいてくる。

 

 足音が大きくなり、現れたのは一人のアバター。

 ヘッドギアをはめたような頭部に筋肉のようにいくつにも割れた装甲、そして特徴的なのはそれこそグローブを装着したような拳。

 

 「尋ねるが、ここに牛のようなアバターが来なかったか?」

 




 
レックス「久しぶりだな」
ダーク「久しぶり~」
レックス「今回なにする?」
ダーク「すること無いし、俺の自己紹介でよくね?」
レックス「わかった、ならお名前は!」
ダーク「本名は杉森勇魔、アバターはゴールデン・ダーク」
レックス「それではアピールを!」
ダーク「金ぴかに光る忍者型アバターで首に巻いた長~いマフラーが特徴です♪ 必殺技は《技術泥棒(トリックスティール)》と《一閃・頸狩り》」
ダーク「実はさ、やることあっても俺の自己紹介優先させなきゃいけなかったんだよね」
レックス「え、そうなの?」
???「そうなんだよね!」
レックス「お前は……っ!」
ダーク&レックス「作者!!」
作者「どーもどーも」
レックス「それで、どーいうことだ?」
作者「ダークってさアバターは友人が考えてリアルの方は本人がモデルなんだよね。それでさ友人に」
友人『俺的に長いマフラー巻いてて、それがなびいてるイメージあるんだよね』
作者「て言われちゃって」
ダーク「へ~」
レックス「なんでそれをここで言ったんだ? 本編に書けば」
作者「それ言われたのこの回を投稿した1週間前……」
ダーク&レックス「なるほど」

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