この度は見て下さり有難うございます。長い間更新もなく音沙汰もなかったこの小説を見て下さり、有難うございます。
今回に限ってはまだ書き溜めがありますので1週間ごとに投稿ができます!人生初の快挙!
それではご覧下さい。
或る日ノ店内
町はずれの海沿いに孤立してポツンと佇む建物があった。
西部劇に出てくるような外装の木造建築には、所々蛍光灯の切れかけで点滅を繰り返している電光看板が掲げられている。
[BAR G・E]
元々ホームと呼ばれるオブジェクトだったものを、所有者が趣味で改築したものだ。
町はずれに建てられているものの、意外とこの店を懇意にしている客は多く、既に常連と呼んで久しい者までいる程だ。
毎日、現実世界ではおおよそ午後の6時といった時間帯に盛り上がりをみせるこの店は、今日もその例に漏れず賑やかな音を撒いていた。
──いや。
これは本当に賑やかと呼んでいいのだろうか。
これは本当に駄弁る声が響く音なのだろうか。
突然、両開きの扉──スウィングドアがけ破られたように勢いよく開き、中から一人腰を抜かしながら出てきた。
「ひっ──ひぃ!」
「出ていくんならさっさと出やがれクソ野郎!」
這いずりながら逃げ出す灰色のアバターの鼓膜に噛みつく罵声はドスの聞いた女性の声だ。。
「3秒たったぞ、ノロマ!」
「も、もうやめてくれぇ~」
力の入らない足元に無数の銃弾が降り注いだ。
これで店内に残る人影は四人。
翠玉色をしたバーカウンターの後ろに隠れているRPGゲームのリザードマンのような姿をしたアバター。エメラルド・レックス。
その隣に膝を抱えて震えている金色の人影。首に巻かれた口元を隠す長いマフラーが特徴的な忍者型アバター。ゴールデン・ダーク。
さらにその隣には、座ったまま天を仰ぎ十字を切りだした、この店の常連客。ひよこのような淡い黄色をしたインドの修験者の恰好をしたアバター。レグホーン・モナクムがいる。
それに相対する一人のアバター。
店のテーブルに片足をあげ、両手にはマフィアが御用達にしていそうなマシンガン、トミーガンやシカゴ・タイプライターといった愛称で長年親しみをもたれてきたトンプソン・サブマシンガンを携えていた。
ネコ科のような尖がった耳に鋭い目つき。
夜明けの空を思わす淡いピンク色。
シャープな体を持った女性アバターの名はドーン・パンサー。
「おいおいレックス~、さっさと止めてきてくれよ!」
「そうだぞ2代目、店員2号の不始末は責任者がとるものだろうが!」
「他人事だと思いやがって……。モナクムさんの幻覚でなんとかできないんですか!?」
「出た瞬間にハニカム構造にされちまう」
「モナクムさんそれでもレベル7っすか?」
「ならお前が出ろ店員1号!」
カウンターの影に所狭しと詰め込まれた男3人は、自分の身の可愛さがどれほどのものかを全力で論じ合っていた。
それが騒がしくなってきた時──
ズガガガガガガガガッ──!
と、カウンターの向こうで鉛の吐き出される音と、木が削り取られていくような音が3人の言葉を途切れさす。
鳴りやんだ時に代わりに響くのは空薬莢の落ちる乾いた音と、鼻の奥をツンと刺してくる硝煙の臭い。
「てーんちょ~、出てきてくださいよ~。私まだわからないことが沢山あるんですからね?」
その声は先ほどとは打って変わってトーンの軽いモノだった。
だが3人は知っている。これが罠だと。
「だから、ね?早く──出てこいやクソ野郎どもがぁ!!!」
再度パンサーの声にドスが効き、両手にかけられた引き金を躊躇なく引く。
(ご指名だよ、早くいけって~!)
(頑張れ2代目)
(無理無理無理無理ッ!)
銃声の響く中、男達は目配せだけで会話をする。
「なんで……、なんでこうなったんだよーー!」
レックスの空しい叫び声も、2丁のマシンガンによってかき消されてしまった。
──15分前──
「今日もやってるかい?2代目」
「やってますよ、モナクムさん」
[BAR G・E]のスウィングドアを揺らし、いつものようにモナクムはカウンター席の右端から3番目へと座った。
「おうモナクム、一杯おごれや」
「奢るったって元々タダ酒だろーがワグテイル」
既にデキあがっているのか、すこしフラついた足取りでドカリとモナクムのとなりに座ったのは灰色──どちらかと言えば鉛色をしたアバターだった。
レド・ワグテイル。ネームにそう表示された曇り空のように鉛色をしたアバターは、モナクムと肩を組みながらレックスに注文を飛ばす。
「おれブルーモンね、モナクムにはスピリタス」
「なっ、何てモン注文してやがる!」
「あいよ、ちょっとまっててくださいね」
そういってそそくさと奥に引っ込むレックス。
モナクムはため息を吐きながらカウンターテーブルに肘をつく。
「まぁ気を落とすなって!アレを見て元気だせよ」
「あれ……」
モナクムはワグテイルの指さす方向に目を向けると。
──そこには、どこかぎこちない動きで接客をするパンサーがいた。
「お客様、コレ……こちらをお持ちしました」
たどたどしく動く後姿を見ながら、モナクムは口笛をならす。
「ヒュ~、やっとこの店も花を添えるようにしたのか」
「これで酒もより一層おいしくなるってものよ!」
「ですよね? はい、こちらブルームーンとスピリタス。それにつまみも置いときますね」
「お、2代目気が利くね」
「酒の肴はつまみとネーチャンのお尻ってね~」
カチン、と軽くグラスを合わせる二人。その勢いでまずは一口をグイっと体に染み込ませる。
「おいパンサー、せっかく猫耳ついてんだから語尾にニャーをつけろよ~」
気の抜けた緩い喋り方をするダークが、今まで奥に引っ込んでいたのだろう、奥の部屋から出てきながら猫耳ウェイトレスへと追加注文をする。
「ふざっ……! くっ──、注文は以上でよろしかったかニャア?」
「先輩の言う事を聞いてよろし~」
ダークはそれで満足したんだろう、また奥の方へ引っ込んでいく。
「ねーちゃん、こっちも接待してよ」
「お前完全に酔っ払いじゃねえか」
「えっと、……そちらはレックスが……」
「俺はねーちゃんがいいの~!」
ワグテイルは子供が駄々をこねるように地団駄をふんで暴れ出す。
「おい、お客様は絶対王政だぞ。あと今は店長と呼べ、わかったかにゃあ?」
「くっ……。わ、わかったにゃあ店長」
渋々パンサーはワグテイルの元へ近づこうとすると、どっかりと椅子に座ったワグテイルはその動きを掌を突き出して停止させた。
「まってまって。やっぱりさ、その場で3回廻ってニャアって言ってよ」
「ワグテイルさん解ってるね~!」
どこから聞きつけたのか、ダークがひょっこり顔を覗かせ話に参加してくる。
そして3人の男衆に加わり、一緒になってパンサーを煽る。
「さあパンサー、君に決めた~」
「店員2号のちょっといいとこ見てみたい」
「レッツニャー!」
「店長の命令だ、答えは訊いてない!」
パンサーは肩を強張らせ、ワナワナと震えていたが、急に憑き物が落ちたように微笑んだ後に、その場で綺麗に回りだす。
1回
2回
と、廻っていく中でおかしな事に気付いたのは素面の二人、レックスとダークだ。
何故だかコマのように廻るパンサーの両手に何かが集まっているように見えた。いや、あれは集まっているのではなく──。
3回
キッチリ3回廻ったパンサーは両腕を直角に向け、その先にはレックス達が居た。
そして二人が気になったパンサーの手には、出現した2丁のマシンガンがしっかりと握られていた。
「お客様には冥土(メイド)がご奉仕させていただきますニャ♪」
「「「「……え?」」」」
──20分後──
酒や汗のシミが浮く、ワックスのかかった木板の床の上には、まるで築地の市場に並べられたマグロのようにボロボロになり、まさに死んだ魚の目をした男達が3匹ほど等間隔に並べられていた。
パンサーはとっくにログアウトしている。
電気の消された室内で、男達の口が開かれた。
「……生きてるか?」
「い、いきてま~す」
「…………」
「モナクムさん?」
「逝っちゃいましたか?」
「……大丈夫だ」
「すいません、大丈夫なら立たせてくれませんか。なんか神経マヒってるんで」
「お生憎様、俺も手しか動かせないんでね」
モナクムは這いつくばったまま掌をグーパーと動かして見せた。
「てかよ、……店員2号高性能すぎじゃないか?だれもメイドに拷問48手なんか求めちゃいねえよ」
「流石グレウォで汚ったねえ仕事やってただけはあるね~。……ん!?」
突然、比較的被害が低そうだったダークは誰からかのメッセージでも見たのだろうか、目の前の文章に集中しだした。
そして──、スクッと勢いよく立ち上がった。
「「……っ!?」」
床に転がる2人はゴールデンの姿に目を丸くして驚愕する。
「ちょっ、お前動けるの!?」
「悪ぃ、ちょい急用ができたから帰るわ!」
「1号、その前に俺たちを──」
「サイナラー!」
脱兎のごとくと言えばいいのだろうか、ゴールデンは流石ジャパニーズ忍者と言いたくなる様な見事なまでの速さで、残像を残しつつ店を後にした。
取り残された店の責任者と常連客。
数分後にソロッと戻ってきたワグテイルに助けられて事なきを得たとは風の噂である。
レックス「実はよ」
ダーク「なんだ~?」
パンサー「なによ」
レックス「作者は書き溜めあるっつってるけどよ、2章はまだ完結してないんだぜ?」
ダーク「半年あったのに!?それは……」
パンサー「ほんとにクz」
レックス「やめろ、あいつは豆腐メンタルだ!」