美城プロでアイドルになった男の日記   作:宇賀神

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ちょこちょことネットスラング入ってるから気に入らない人は気をつけて見てね。




■月∩日

 

数日日記書くのをほっぽいたら、もう月が変わってしまっていた。やはり毎日書くのは無理だった。

 

と言っても、放っておいた間にアイドルとしての進展はあまりなく、レッスンと事務作業が続く毎日だ。いやそれなりに大手事務所なのにアイドルに事務作業させるってのもおかしな話だが……。

プロデューサー曰く、アイドル部署は人手不足なんだとさ。そもそも、アイドルを運用するノウハウも手探りで模索中だし、トレーナーさんすら事務所の力で余所から引っ張ってきたとも聞いた。

アイドルとして成功するかどうかの不安はあるが、それは周りのみんなも一緒だ。不安を抱いているのが俺だけじゃないってのが分かったし、むしろ安心すら覚える。

それに、会社の成長と一緒に歩めるというのも中々楽しみだ。「あの会社俺がでかくしたんだぜー」つって親戚や身内の話題作りだってできるし。

 

他に記すべき点と言えば、橘が名前で呼ばれるのを嫌がってたのと、三村が食事制限されたのと、村上がその筋の人間だったって事くらいか……。村上に関しては本人がノーコメントだったから違うかもだが。

 

そろそろ、レッスンと仕事を平行してやるぞってプロデューサーが言ってたが、初仕事は一体どんな物になるのか。

 

 

 

■月∑日

 

今日は、橘&村上のちびっこ二人の予定が合わず、三村と二人のレッスンだった。

更衣室前で挨拶を交わしたが、挨拶に元気がなく、レッスン中もいつものよりワンテンポ遅れていた。原因はどう考えても食事制限……もといお菓子制限だ。

 

お菓子作りが趣味で食べるのも趣味な三村にとっては、唯一の楽しみを奪われたと言っても過言では無い筈だ。レッスンが終わったら終わったでゾンビみたいだったし。

 

男の俺から見ても、大して太っているワケでも無いので、このまま行くと三村がヤベーよってトレーナーさんに掛け合ってみたら、案外あっさりと制限が緩和された。

内容は、お菓子ならば食べても構わない、だそうだ。

 

どうやらプロデューサーからも進言があったらしい。それもそうだ、三村がプロデューサーにスカウトされた文句が「スイーツを食べていた笑顔が素敵だから」だったはず。

俺から見ても、三村の良さはそこに凝縮されていると分かる。あのお茶会以来、食事が制限されるまで、何度かプロデューサーからお菓子の差し入れがあったが、一口一口を幸せそうに噛み締めていたのだ。

そこを殺したら、アイドルとしてやっていけないだろうし、制限緩和は当然と言えば当然だったんだ。

 

しかし、あちこちでバイトしてきた俺からしてみれば、トレーナーさんの気持ちは分らんでもない。余所から引っ張られてきた以上成果は上げないといけないし、アイドルの身体作りにストイックに取り組まないといけないのは、成すべき仕事を成しているだけなのだから。

そこら辺の事情も汲んで、トレーナーさんをフォローしといた。ほんと、変に気負うとそれがプレッシャーになりかねないし、それでトレーナーさんが潰れたら俺らもなし崩しに潰れかねないしなぁ。一蓮托生って奴よ。

 

にしても、こうして文字にして書き起こすと、案外周囲の人間の心情が見えてきて面白い。今度はプロデューサーとしている事務仕事でも書くか?

 

 

 

■月∧日

 

 

初 仕 事 だ っ た 。

 

 

アイドル専門誌の雑誌掲載でしたとさ。

 

事務所集合って言うからスーツで行ったら、私服でお願いしますって言われて慌てて取りに帰ったよ。時間に余裕を持って出社したから良かったものの、プロデューサー、お前それだぞ、そういう所抜けてるぞ。

で、私服に着直して、事務所でもっかいプロデューサーと集合して、車で近場のカフェ行って、写真を撮られて、取材をされて、あとは軽い雑談をして終了。

インタビュアーは50代くらいのおっちゃんだったが、物腰が柔らかくて話しやすかったし、態度や服装も大して咎められもしなかったので好印象で終われた気がする。こうして次の仕事に繋いで

 

あーアレか。

 

なんというか、仕事中は特に緊張する事もなく、こんなもんかと軽い手応えみたいな物とデジャヴを感じながら進めていたが、この日記書いててデジャヴの正体に気づいた。

 

雑誌掲載ってバイトの面接に似てるわ。私服だったし、写真は履歴書に貼る証明写真撮られなれてるし、取材だって趣味聞かれてこの仕事でどういう未来像描いてるのか聞かれてってまんま面接だったし。

ようやく不思議な感覚から解き放たれました。

 

 

で、そのまま流れでレッスンルームに行ったら、クラッカー鳴らされてビビって大声を出して、鳴らした側が俺の声にビビるという珍事件も起きてしまった。

この珍事件にみんなで笑いながら、初仕事お疲れ様でーすという労いの言葉と共に、軽いお茶会を開いてくれた。当然三村の手作りお菓子だが、俺の好物のモンブランだった。ありがとう三村超美味かったよ。

仕事内容はどんなんだったかとか、緊張したか、舐められるような態度をしなかったか、相手を論破したかとか、色々聞かれた。

論破はしちゃダメだろ橘……。

あと舐められるって村上お前……。

 

プロデューサーが最後に、俺以外も雑誌の取材を受けて頂きますと締めていた。全員分の取材なら、一日で一カ所に集まれば良かったんでね?と聞いたが、記者側が多忙らしく、スケジュールの合間を縫って来てくれるんだって。結構有名所の記者さんだったんだなぁ。

ついでに、全員分の取材という事は一つの雑誌に全員が掲載されるのか聞いたら、一人1ページ分あるんだと。

 

 

この日記書きながら調べたのだが、同じ事務所で、同期で、しかもユニットでもない新人アイドルが専門雑誌に1ページ割いて貰えるのは、かなり優遇されている立場だと知る。

 

そもそも美城が、結構な数の俳優や役者を輩出していて、元から芸能界と繋がりのあった中堅~大手の事務所なだけに、パイプの太さに改めて驚かされるが、相当なイージーモードでのスタートらしいし、これでアイドルとして成功しなかったら人生諦めるレベルだろうなぁ。

 

 

 

■月¬日

 

今日レッスンに行ったら、三村がすげーどんよりしてた。

お前お菓子は解禁されたんだろうと声をかけると、取材にちゃんと応えられるかが不安らしい。

緊張しなかった俺がどう励まそうか悩むが、とりあえず受け答えはお菓子を食べながらやれとだけ言う。

プロデューサーにスカウトされた理由がソレなんだし、魅力的なアピールポイントの一つでもあるし、リラックス効果も望める。写真もそれで撮れば存在感出せるしな。

 

と、ここまで話すと、テレテレしながらアドバイスありがとうと言われてしまった。ただし、欠点があるとすれば、雑誌記者がお菓子を食べながらインタビューを受ける三村に嫌な顔をしないかどうかだが、そこまでは責任持てないと言うと、また困った顔をしてしまった。

それでもさっきよりはマシな表情していたし、少しは力になれたのだと思いたい。

 

……こういうメンタルケアってプロデューサーの仕事だと思うんだけど、俺彼の仕事奪ってないよね?

 

 

 

■月∧日

 

三村が雑誌のインタビューを終えたので、こちらもお茶会になった。話を聞く限り、俺の言うとおりにしたら大成功だったんだと。俺はアイドルよりプロデューサー向きだった可能性が微レ存……?

 

……前のページで俺がプロデューサーをおちょくる様な事を書いてるが、真面目な考察をすると、俺達アイドルへの細かい気配りまで手が回らないんだと思う。回そうとしてる気概は伝わるのだが、事務仕事を未だに俺が手伝ってるのは、スタッフが集まりきってない証拠だろう。

まだ1ヶ月に届くか届かないかという期間で、アイドルのプロデューサーとしてのノウハウが無い人間が、マネージャーの二足草鞋で仕事を取ってきてくれた事自体、かなり頑張っている証拠でもある。

感謝や労いこそすれど、恨んだり小言を言うのは筋違いだろう。

 

 

おい、聞いているか橘、お前だぞ。

プロデューサーが取材の日程を明日だって言った時、「連絡が遅くないですか、これだから大人は」とボヤいたのを俺は聞き逃さなかったからな。

 

俺は凄い心配している。

 

最近は諦めているが、三村や村上に名前で呼ばれる度に名字呼びを強要する橘の事だ、雑誌記者に名前で呼ばれても名字で呼べと言うだろう、ちょっとした他愛のない話でも辻褄が合わなそうなら論破するだろう、それを掲載する雑誌会社側や読者の機嫌を損ねないかが心配なのだ。

名前にコンプレックスを持つのは分かるが、橘よりヤベェ名前の奴らが世の中にいるんだし、見ろ、当て字で下ネタの子もいるんだぞ、ちゃんと意味を込めて名前付けられた分だけマシだと思え。

 

と、三村へのアドバイスが上手く行ったから、調子に乗って橘の持論に口出ししたら、結構な勢いで反論されたので、落ち着かせるために大人しく論破されておいた。

ここまで橘の口が達者になるのは、音楽の話をした時以来だなとも気づいたし。

俺は、同期全員名字で呼んでるからあんま気にしなかったが、橘は、『ありす』という名前に想像以上のコンプレックスを持っているらしい。

 

流石にこれは俺に非がある。それなりに仲良くなったとは言え、まだまだ1ヶ月未満の同期生なのだ、デリカシーに欠けて、個人事情に手を突っ込んじゃったのは早杉内。

子供と接するのなんて年下の従妹以外したこと無いし、まだ距離感が掴めていないのがこれで浮き彫りになった。こういうのは三村か村上をけしかけて任せておくのがベターだな、性別が一緒で歳も近い、餅は餅屋。

 

 

 

■月仝日

 

初仕事お疲れお茶会に、珍しく同席したプロデューサー曰く、橘のインタビューは恙なく終わったらしい。

名前についても触れられたが、橘は抑え気味に「名前が好きでは無いので……」とコンプレックスである事を明かしながら、やんわりと名字で呼ぶように誘導していたらしい。

また、ちょくちょく論破らしい事をしていたらしいが、小学生とは思えない知識量と弁の上手さを気に入ってたってさ。やったぜ。

 

けおけおと論破する癖はちょっとやそっとじゃ抜けないみたいだが、ただ、『呼ばれたくないから呼ばないでください』と突き放すのではなく、自分のコンプレックスであるからと理由を付けて話せたのは、橘、お前は本当の意味で大人に一歩近づいたと思う。

昨日の今日ですっかり感心した俺は、俺の分の苺タルトを橘に譲ったが、三村が羨ましそうに橘へ視線を向けていたので、橘は半分こを提案していた。

 

 

 

おい三村。

 

 

 

……今更だがこの日記お茶会の頻度が高いのはご愛敬。

何かしらイベントがあった時しか日記書いてないから仕方ないんだけどさぁ、これを書籍化してウチの事務所がカフェか何かだと思われたら困るんだよね。

 

さて、後は村上だけインタビューを受けていないが、あまり心配はしていない。

橘と歳が一つしか違わないが、こっちは精神が成熟している。

その理由は何となく想像が付くが……いや、よそう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない……。

 

だが俺は見たんだ、学校終わりであろう村上が黒塗りの車に乗ってレッスンスタジオに来るのを。

 

 

 

■月◎日

 

やはりお茶会、今日もプロデューサーも同席している。村上や橘のような、まだまだ小さい子には、仕事をしたら最後まで付き添わなくちゃならんのが事務所の方針らしい。健全な事務所だなぁ。

 

俺の予想通り、プロデューサーからも、村上本人からも、インタビューに関する問題点らしい問題点は上がらなかった。

ただ、一つ気になったのが、広島弁で雑誌に載るのかどうかだった。テレビで見かけるアイドルは皆、東京方言で話しているからだ。

しかし、最近は方言で話すアイドルも増えてきているそうで、それは問題にならず、むしろチャームポイントになるんだと。

「まだまだ勉強不足じゃのう」と村上にからかわれたが、なるほど、広島弁ってリアルで聞くのは珍しいなぁとしか感じてなかったが、意識してみると得も言えぬ味があると言える。

方言というのが武器になる、というのは、関西弁くらいだろうと踏んでいたが、確かに他のアイドルとの差別化が図れるし印象に残るしで、結構良いこと尽くしだと気づいた。

ッカー!俺にも方言が有ればなーッカー!

 

 

……ちょっと悪いことを考えついた。既に雑誌のインタビューは済んでしまったが、後日プロデューサーに聞いてみよう。

これでGOサインが出たら差別化なんて一瞬だ。

 

それはそれとして、雑誌が発売されたら買ってみるか。

結構楽しみに待ってんだなーこれが。

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