これからも遅れるどころか失踪アルヨ
許してヒヤシンス ペロ
■月∠日
先週からどたばたしてたが、今日も三村と村上の村々二人はデビュー曲の準備で忙しそうだった。
ダンスレッスンも、今までは既存の曲に既存の振り付けを踊るだけだったのだが、デビュー曲用の振り付けも練習し出して、それぞれ個別でやり始めている。代わりに、演技やビジュアルのレッスンは少なめらしい。
俺達は何時も通りなんだけどな!
橘がどことなく寂しそうだったが、仕事で忙しくなるというのは良いことなのだ、身内のデビューを羨むより喜べ。
ちなみに、こっそりと例の雑誌の評判をプロデューサーに聞いた所、肯定的・否定的両方の評判を耳にしたらしいが、それよりも何よりも、天下の美城プロがアイドルを抱え込む事で世間が騒がしいらしい。
今までの美城は、バラエティやドラマや映画など、映像事業にアイドルを使う場合、他の事務所からアイドルを借りていたのが、それがこれからは自前でどうにかなってしまうのだ。
美城をアテにしてきたアイドル事務所やアイドル本人は、これからの身の振り方を考えなくてはならないし、仕事の量も少なくなるだろう。
じゃあ知らないアイドルから知らない間に恨まれる可能性もあるのかとプロデューサーに聞いたら、あまり難しいことは考えないでくださいと言われた。
まぁ、俺がアイドルとして成功するって事は、俺の知らない何処かで他のアイドルを蹴落としている事になるのだから、今更か。
◆月〆日
今日は休日、美城ビルのプロジェクトルームに集合がかけられた。
週末だったし、いつもなら一週間分のスケジュールが伝えられるのだが、俺と橘だけ明日一日だけのスケジュールしか伝えられなかった。
やはり、何かあるんだろうなぁとは思っていたが。
部屋に入ってきたプロデューサーはやたら重い足取りで、何時もより張りつめた雰囲気を纏っていたし、睨むだけで人殺せそうなプロデューサーなのに、近づく皆傷つける剥き出しのナイフみたいでこえぇよ。
そんな彼を見て何も無いと思うのが無理な話だ。
そしたら案の定というか、橘が食いかかった。一ヶ月も一緒にレッスンしてるんだ、橘の行動パターンが読めてきて楽しい。
ま、食いかかったっつても「どうして私達は明日だけの予定しか無いんですか、納得のいく説明を求めます」なんて可愛げのない質問一つだったけどな。
プロデューサーが言うには、俺と橘に関係している企画が検討中らしく、明日の会議に提出する予定の企画が通るか通らないかでスケジュールの変更がなされるかららしい。
悪い内容じゃありませんよーに……。
◆月&日
俺と橘のデビュー曲、そしてこれからの路線がプロデューサーから告げられた。
いや、でも、良いのかこれは、ある意味タブーというか、前人未踏過ぎるし、俺のキャラ上リアクションに困るというか。
ネットの噂によると、今時のアイドルのファンは、アイドルとプロデューサーが結婚しても、暴動どころか素直に祝福する頭お花畑……もとい良識を持った人間が9割を占めていると聞くが、そんな彼らでもこれを許容できるのか?
慎重に検討に検討を重ねて、その上でこの決断をしたと聞くが、なるほどそれで俺達がちょっと遅れたのか。
いや、こんなん遅れる所か企画自体破棄されても文句言えないんだけどな。これを通したプロデューサー、ぐう有能。
だが、本人の意思を尊重するなどと体の言い文句で、最後の一手は俺達の判断に託された。
一晩の猶予が与えられたがどうする橘、俺達は今重要な分岐点にいる。
今日はレッスンを休み、時間の許す限り橘と真剣に話し合おう。
……と、したはずだったのだが、意外にも橘、議論する間もなくこれを即了承。
えぇ……(困惑)
村上や三村に先を越されて焦ってるだけなんじゃないかと聞いたが、どうやらそうじゃなくて、今までの常識的なアイドルという固定観念をぶち壊せる所に魅力を感じたらしい。
いつもの突っ慳貪で取り付く島のない橘が、ガラにもなくウキウキしていた辺り、それが本音なのだろう。
……いつもいつも、なんだかんだと講釈垂れるけど、まだ子供だよなぁ。
プロデューサーは肩の荷が降りたのか、ホッとした様子で首に手を当てて苦笑いをしていた。
その様子を見るに、どうやらプロデューサーは本気でコレを実行する気満々なのをひしひしと感じる。
まぁ、何だ、当事者の片割れである橘が乗る気だし、こういう小さい子がやる気を出したんだ。
そのやる気を手助けしてあげるのが、アイドルよりも大前提として大人の仕事でもある。
兎にも角にも『俺と橘はユニットを組むことにした』。
恐らく、過去に例の無い、『男女混合アイドルユニット』になる。
876プロには、315プロに一時移籍した秋月涼がいたが、彼と所属アイドルの女の子がユニットとして動いている所を見なかったし、多分この業界初……だよね?
ちなみに、上記の内容を簡潔に三村と村上にメールしたら、祝詞と驚愕が混じったような返信が来た上に、村上に至っては虚言癖を疑われた。
村上のスパッと自分の意見言う性格が橘に似てる……似てない?
◆月¶日
俺達の新曲発表は、三村と村上と一緒に、都内の大型CDショップでトークやミニライブと共に行われる運びとなり、それらの準備で大忙し。
ただでさえ三村と村上と違い、俺も橘も時間が押していたから、橘は学校をちょくちょく休んでレッスンに勤しんでいたが、今週ばかりは俺も疲れたよ。
けどまぁ、この疲れは悪くないんじゃなかろうか。
俺も、実家の近所のデパートで、アイドルや芸人さんがトークショーやライブやってるの見てきたから、自分もアイドルに一歩近づいてきたと実感できる。
何より初舞台だ、気合いが入らないワケがない。
そうそう、レコーディングや新曲用のダンスレッスンもしたが、色々宣伝もした。
美城所属の俳優さんのラジオにお邪魔して、15分ほどトークしたし、局地的だが、CDショップ周辺にも宣伝ポスターを貼った。
これで、無名新人アイドルに感心を持たない一般層にもアピールできたし、そこそこお客さんも来てくれるだろう。
それにしても、どうして俺と橘がユニットを組まれたのか気になったから、プロデューサーに聞いてみた。
残り物で仕方なくユニット組ませたとか、そういう理由じゃないだろうとは予想していたが、やはり気になる。
真面目な話をすると、売り出し方にインパクトを出したいとか、315に対抗するにはキャラが弱いとか、商業的な理由で占められているだろうと思っていた。
しかし、返答は意外にも意外で、俺に『父性』という可能性を感じたかららしい。
それは、俺をスカウトしたのと同じ理由からで、レッスンの様子や三村達とのお茶会でそれが確信に変わったんだとさ。
プロデューサーは、元からこういう売り出し方で小さい子と俺を組ませようと画作していたらしく、大人ぶった子供の橘と組ませたらきっと面白いユニットになるぞと決断しての事なんだって。
これがプロデューサーが俺と橘を組ませた理由。
こっから先は、俺個人が気になったから、ちょっと踏み込んでプロデューサーに聞いてみたんだ。
そんな理由で上は納得したのかって。
当然だが、上の人間は全然納得しなく、説得するのに時間がかかって遅れてしまったらしい。
それでも了承を得られたのは、前に俺が提案したネットに強いアイドルという、はい開示されそうな売り出し方もセットでプレゼンしてようやく勝ち得たんだとか。
近年、PCやスマホやタブレットなどの普及で、テレビを見ずにインターネットに勤しむ若者が急増してるのは、美城もビンビンに感じていらっしゃる。
しかし、若者は芸能界に感心が薄れたワケではない。単純に戦うフィールドがテレビからネットに変わっただけで、メディアそのものには興味津々なのだ。
そこは上層部も認知しているが、ネットへの売り出し方のノウハウは現在進行形で積み重ねている最中で、これと言ったネット進出への確立した手法を編み出せていない。
そこに、俺というまだまだ無名の新人アイドルがネットに強いよと声を上げたのだ。
あのさぁ……確かにネットに造詣が深いって言ったけど、俺が一番強いのはネトゲ関連だって、イワナ、言わなかった?
まぁそれは置いといてだ、実際、この提案は美城にとって渡りに船だったらしい。
今まで上が渋っていた男女混合アイドルユニットのプロジェクトも、俺個人をネットとテレビ両方のメディアを疎かにしないという条件付きでトントン拍子に進んだのだ。
俺のネットに強い弁護士もといアイドルのアレが無ければ、もう一週間は先延ばしになっていた可能性があったとの事。
それでも一週間滞らせるだけで済む辺り、やはりこのプロデューサー有能。
あとは、そうだな、これは俺の憶測に留まるんだが、『マルチタレント』みたいな方向性も上は見据えて居るんだと思う。
美城の、アイドル業界進出への強力な武器としては、『個性』を一番文句に打ち出されているように感じるんだ。
例えばだが、三村と村上と橘、この三人の仲は極めて良好だが、趣味も性格も年齢も出身地も、その他諸々が全然通じない。
それだけこの三人の『個性』が強い証拠だ。
それらの強力な個性を持ったアイドルはソロでもやっていける。
村上と三村だな。
ユニットとして組ませてみても面白い化学反応が起きる。
俺と橘だ。
ところが、だ、多面性を持つアイドルというのは、ソロでユニット活動をしているような物だ。アナジーもシナジーも一人でどうとでも出来るから、複数人を抱えるユニットよりも動きやすく、非常に柔軟な対応ができる。
今回は、プロデューサーの言う父性の可能性を、個性の一つとして試してみようとして俺と橘を組ませたのだろうが、もしこれが個性として輝けなくて失敗に終わってもまだ別の面でフォローできる。滑り止めみたいなもんだな。
これがマルチなアイドルの持つ柔軟性の成し得る技だ。
……色々と持論を書いたけど、俺の考えだと商業的な理由だらけで、アイドルとしての可愛さの欠片も無いじゃないか!
たまげたなぁ……。
こんなんでちゃんとファンが作れるんですかね(困惑)
でもこうして書き上げると、上からもプロデューサーからもめっちゃ期待されてんじゃん俺プレッシャーで吐きそオロロロロロロ
しかし、プロデューサーからは、あまり気負わず、難しいことも考えず、ただアイドルとして楽しんでやってくださいとアドバイスを受けた。
俺の意思を尊重しつつ、尚かつ父性を持ったアイドルとしての可能性を潰したくないがための気遣いだったのだろう。
でもアイドルとして楽しめって、こんだけ大規模な会社のお偉い人たちから注目されて楽しめるのはむぅーりぃー……。
というか父親の様なアイドルって、それアイドルとして大丈夫なんですかね……?
女子中高生って思春期反抗期真っ盛りだし、俺を父親に似た存在だと認識し始めたら不味い気がするんだよなぁ。
プロデューサーに聞いても、それはどうなるか分かりませんだった。
現実は小説より奇なり、この選択肢が吉か凶かは、やるだけやってから結論出すか。
今回は、一週間分すっぽかしたから長々と書いてしまったが、いやはや、アイドル業界とは奥が深いなぁ。
明日にでも、プロデューサーにこの考えを聞かせて感想を求めてみよう。
彼のように業界に精通している人間は、どんな答えを返してくれるのか楽しみである。
◆月∥日
最近、仕事ばかりしか書いてなかったので、たまには俺自身の日常の変化を書く。
まず、アイドルをするに当たって立ち塞がった関門は、清潔感を保つ事だった。
具体的には、肌と髪を入念にケアしとけとの事で、つまり深夜まで起きてネットに興じるなどもっての他だと聖さんに言われてしまった。
あそうだ。俺達意外にもじゃんじゃかアイドルは増える予定だから、これからはトレーナーさん一人じゃ足りなくなるだろうって、そこそこ勉強してきたトレーナーさんの妹さんも来たゾ。
その一環で、トレーナーさんと呼ぶとごっちゃになりそうだから、区別するために名前で呼ぶ事になったが。
地味に美城の所属の人間を名前で呼ぶのって初めてじゃね?
話は逸れたが、肌荒れと健康管理を理由に、遅くても深夜12時にはネットを止めて寝ろと言われてしまった。当たり前だよなぁ?
非常に健康的な生活でのお陰で、朝8時には目が覚めるようになりました。
でも悲しいかな……おかげでネット仲間と遊べる時間が減ったゾ……(無情)
その反動で休日はガッツリ引き籠もって遊ぶんですけどね。
いやちゃんと休日用のトレーニングはしてるけども、それでもコンビニで朝昼晩の御飯を買いだめして何も考えずに遊ぶネトゲ最高なんじゃ^~
もう話の軸がブレブレだけど、適当に買ってた石鹸とかシャンプーを見直して、同期三人の意見を参考にしながら自分に合うであろう男用のを買ってきた。
今までは安物で済ましてたから、ちょっとお高めシャンプーの二度押しは控えている。
あとは、ネットのSNSや掲示板にも、気軽に書き込んだりはしなくなったし、美城から許可が下りるまで自分のコミュニティの開設すらも制限されてしまった。
twitc○とかtwitte○とかニコニ○とかskyp○も、バレない程度なら触っておkとも言われている。
これは当たり前の措置だな、流石に俺もネットの危険性熟知しているから文句はないね。
匿名性があるとは言え、バレる時はバレるのだ。
その証拠に、今までのネトゲ、SNS、掲示板など、あらゆる所で顔写真はおろか、スカイプやネトゲでの紹介文、果てはIDパスワードや名前すらも自動生成の物を使い、自分に連想させるキーワードを使わないように控えている。
あくまで相手はネトゲ仲間だ、そのネトゲだけの話題で盛り上がれれば良い。私生活の話題になると話を聞くだけの機械になっちゃうのがネックだけどね……。受け身しかできんのかこの猿ゥ!
勿論オフ会なんてしたことない0人。
自分に繋がる痕跡は、回線以外極力残さないようにしているのだ。
しかし、今まで続けてきたMMORPGのFSリーダーすら止めろって言われたり、対人ゲーのコミュニティから外れろって言われたのはカチンと来たから断固として反対したけどね。
今んとこ日常生活に変化が起きたのはこんなもんか。
ところで、ここまで書いて思ったけど、俺の私生活に一切の父性が感じられない件について。
読み手「ちょっと待って、全然アイマスの子が出てないやん! タグにアイマスがあったから来たの! どうしてくれんのこれ?」
俺「いや、もう、ほんと、勘弁してください。いや、もう、無理」
それはそうと、ちょっとだけ気になって調べたんですけど、リアルに男女混合アイドルユニットなんていたんですねたまげたなぁ……。これっぽちも知らなかったゾ(無知)