【完結】 百五十万人の新規着任提督は人工鯨の夢をみるか?   作:hige2902

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第五話 完結編その二 流れよわが涙、とサンタは言った

 雪風が何を欲しいかは、サンタへの手紙を書いている所をこっそりと見た潮から知ることが出来た。が提督は、無いと言って教えてくれないので陸奥は諦めた。無いのならなぜ靴下を編んでいたのだとは言えなかった。

 陸奥は加賀や摩耶、赤城に協力してもらって補給要請リストに各艦娘が欲しがっているプレゼントを書いた。届けば陸奥が回収してこれを配るだけだ。

 

 雪風が不意に起きる可能性を考慮して衣装も手分けして作る。ただ、クリスマスが近づくにつれて提督は自室で何か作業したり、頻繁に外に出たりと、それだけが陸奥を不安にされた。サンタ捕獲装置を作っているのかも。外には落とし穴? ありえ……うーん。と懸念事項に頭を悩ませる。

 

 各艦娘がサンタに宛てた欲しい物を書いた手紙が提督に預けられた。宛先はラバウル基地。適当な住所にして宛先不明で返ってくると困るし、公式のサンタの住所はあるらしいが、それでは如何にも役割としてのサンタである事がバレてしまう。宛名がサンタなら、欲しい物をしたためた本文は不可思議な力で読み取られるという事にしておく。

 

「お願いします!」

 

 雪風がサンタ宛ての提督を差し出した。うむ、と受け取って提督は神妙に頷いた。一応は他の艦娘もそれぞれ手紙を書いた。誰がサンタ役をやるのかを知っているのは、陸奥、加賀、摩耶だけである。それはそれで雪風 ――曙も―― を除く潮たちは誰がサンタ役なのか楽しみでもあった。

 

 イブが来て、提督が作った七面鳥や西洋料理と、雪風らで焼いたケーキを皆で頬張る。美味しい、美味しすぎるのだ。満腹が悔やまれるほどに。

 クッキーの一件以来、提督が料理番を担った。ミリグラム単位の測量からなるスパイス調整や熱量観測による焼き加減の完成品は絶品それそのもの。

 香辛料の利いたローストビーフを手作り粒マスタードで食べた時は、かえってお腹が空いた気さえする。

 ブランデーの香る、どっしりとしたクリスマスプディングは別腹にすっぽりと収まった。

 

 宴もたけなわが過ぎ、雪風がそわそわしだす ――曙がちらちらと窓の外を盗み見る―― のでそろそろお開きとなった。まだ起きていますと寝ぼけまなこを擦ってぐずる雪風を、潮が歯磨きさせて自室に連れて行った。

 陸奥と加賀、赤城、金剛で提督を交えて一杯やり、それでクリスマスパーティーは終わった。

 

 終わって、陸奥サンタの活動が始まる。自室の箪笥に隠したプレゼントを白い袋に詰め、サンタの衣装に着替える。準備万端。姿鏡で検め、三角帽を慌てて被る。

 これで良し。すっかり更けた夜。室内でも暖房器具をつけなければ肌寒い。不意に外から動物のいななきが聞こえた。なんだろうとカーテンを開ける、窓は結露している。白い手袋を脱いでから窓を拭って外を伺う、伺ってカーテンを閉めた。眉間にしわを寄せ、目にした光景に目頭を強く揉んだ。うーん。わたしの努力っていったい……

 

 陸奥サンタは一先ずプレゼント袋を置いて、同じ衣装に身を包んで棟の外を歩いていた提督の後を追う事にした。

 つまり、提督はきちんと雪風を気遣ってサンタが存在するフリという ――空気の読めない提督にしては―― 器用な事をやっていたのだ。もう少し信じていればよかったと陸奥サンタは反省する。でも、今から二人でプレゼントを配るというのも悪くない。

 

 どこだろうと探すと、敷地内のちょっとした庭園から音がする。先ほどの動物の息も聞こえた。物陰からこっそりと伺って驚く。提督サンタがトナカイを従えてソリに乗っている。立派な西洋芝生を台無しにしながら、摩擦の多い地面を懸命に、しかしゆっくりとトナカイがソリを曳いている。

 あんなものまで用意して、最近頻繁に外に出ていたのはその為か。と陸奥サンタは苦笑交じり。

 

 ただ、提督サンタはいつまで経ってもエンドレスエイトの軌道のまま、トナカイにソリを曳かせていた。

 トナカイのいななきと、芝生とソリの摩擦音が寒空に虚しい。

 

 しばらく待ってもソリを曳かせるのを辞めようとしないので、どうしたのだろうと陸奥サンタはやおら提督サンタに歩み寄った。姿を認めた提督サンタがソリを停める。提督サンタは教科書のような赤い衣装を身に纏っている。ただただ色のない表情で正面を眺めている。どこかおかしい。

 

「となり、いい?」 と陸奥。返答を待たずにソリに乗った。 「いつになったら雪風たちにプレゼントを渡しに行くの?」

 不感無覚に手綱を握ったままの提督が言った。

「サンタクロースになったらだ。が、この様子だと無理そうだな」

「え?」

「知らんのか? サンタクロースはトナカイにソリを曳かせて、空を飛ぶ。そうして良い子にプレゼントを配る。だがわたしのトナカイは、いつまで経っても飛んでくれない」

 

 陸奥の表情が次第に失われていく。

 

「わたしはみんなに、ありがとうと言われる存在になれると思ったのだがな、残念だ。提督業以外の存在になりたかった。どうやらわたしはサンタクロースとなる要件を満たしていないらしい。なんだと思う? 何がわたしに不足しているのだろうか」

 

 提督はいつだって真面目だった。

 陸奥たちの予想通り提督はサンタを信じたが、貰う側ではなかった。本気でサンタになろうとした。どうしてもプレゼントをあげたくて艦娘全員分の靴下も編んだ、雪風たちの焼いた、サンタへの差し入れクッキーを食べたかった、煙突が無ければプレゼントを渡しに行けないと考えて暖炉も作った。艦娘たちのサンタ宛ての手紙も、きっと自分宛てだと信じて封を開けてプレゼントも用意した。

 良い人で、優しく、雪風に憧れを抱かせるような。良い子にプレゼントを配りたいと思って。

 現実には存在しないサンタの幻影を、提督なりに追っていた。この、戦術戦場構築理論が詰まった思考デバイスと、あらゆる過酷環境に対応した人工物で構成される体躯で。

 

 深海棲艦が劣勢だという情報は戦略コンから送られている。

 この戦争が終結すれば自分がどうなるかは想像に容易い。逃亡しても戦術コンの追跡を躱せるとは考えられない。それならばサンタという存在になる事で問題を回避できるのではないかとNDBと協議した結果がこのザマだ。

 提督という存在から真に解放される一筋の光明を見出してこの日を待ちわびていた、世界中のどんな存在よりも。

 

 サンタになろうとするなど、あまりに荒唐無稽に過ぎる。けれども陸奥の瞳は、なぜだか涙が一杯になった。

 

「わたしは自己を良い人だと客観視していた。夜更かしをせず、寝る前に歯磨きをし、夜中に一人でお手洗いに行き、好き嫌いが無く、いつも明るくてみんなを元気にしている。と思っていたが、サンタクロースになれていないという事は、そうではないのか」

「そんなこと、ないわ」

「不足していると思われる要件が知りたい。残念だ。本当に」

「わたしにとっては、でも、提督。あなたは十分に優しいわ」

「客観的には不十分である事に変わりはない。きみの慰めはいらん」

 

 陸奥は堪え切れなくなって、そっと提督の肩を借りて静かに涙を流した。わたしが悪いのだろうか、提督に希望を持たせてしまった自分は悪か。適切な言葉を紡ぐことすら出来ない。そんな自分が途方もなく情けなくなった。

 

 

「なぜ泣く? その恰好を見るに、きみもサンタクロースになろうとしたのか」

「わから……ない、ただちょっと、たぶん悔しくて泣いてるのよ」

「サンタクロースになれなかったからか?」

「そう、かも。しれないわ」

 

 そうか、それは悲しいな。と提督は空を見上げた。サンタクロースになれないモノどうし、泣いてみようと思ったが、やめた。

 視覚デバイス洗浄液をオーバーフローさせる事は簡単だ。透過材で作られたレンズの汚れを偽って複数回申告すれば済む。しかしそうして流した洗浄液を涙とするのは、堪えきれぬ情感の一表現と陸奥に詐称するのはあまりにも。

 いま陸奥が流している涙は悔しいという情感の具現であり、それ以外の何ものでもない。涙は偽装してはならない気がした。

 しかし、そうであるならば一体いかようにしてこの気持ちを表現すればいいというのか。

 

 この重く抱える、失望と無念さは。だから羨望と懇願を囁くように、

 

 

 流れよわが涙、とサンタは言った。

 

 

 それで奇跡が起きて、提督の視覚デバイスが液体を自然発生させ、頬を伝う事などない。プログラムが誤動作して偶発的に洗浄液を溢れさせるほど、脆弱なコードは書き込まれていない。

 無情にも夜は現実を突き刺すように凍てついた。

 

 提督は、最後にもう一度トナカイを走らせようとした。陸奥一人分の重量が増えたので、一頭でソリは曳けなくなった。

 こんなものかと諦める。深海棲艦の侵攻回数の減少を参照するに、来年のクリスマスはもうないかもしれない。戦略コンの指示で地球上から提督という指揮端末の存在は消され、新たに製造された、【戦略コンの為に破壊される】という存在意義の無人機による戦争が再開されるだろう。

 そうしてリザルトを相手国に突きつけ、資本、またはわが国のナノ機の影響を免れた貴重な旧資源をやりとりする。

 その国の経済主体を担う企業が、有効特許が、一線級技術者の国籍が、いつのまにか相手国に譲渡される日常茶飯事へと回帰する。

 

 陸奥は提督の衣類を涙で濡らした。濡らして、急な浮遊感にぎょっとして顔を上げた。不自然に半透明の妖精がソリとトナカイを持ち上げている。妖精サイズにデフォルメされた小さな艦載機がアンカーで牽引してもいる。

 

「これは……」 と提督。言葉を失った。

 あっという間に二人を乗せたソリはぐんぐんと上昇していく。闇夜に浮かぶラバウル基地の灯が見え、島全体を見下ろし、人工超雷雲の散布規模と地球の丸さを体感でき、広漠なる宇宙の深遠さに触れる高度まで。

 世界に点在する戦略コンの灯りが、人間の意思を反映しているように弱弱しく光っている。

 

「どう? サンタクロースになった感想は」

 まだ震えた泣き声の陸奥が、目じりを拭って微笑んで言った。

 

 妖精が一息つくと、徐徐に高度が下げられる。不可思議な事に空気の薄さは感じられず、体感温度は常温だ。それでもトナカイはめちゃくちゃ動揺して、とてもではないがソリを曳いているようには見えない。地に足のつかない状況に、むしろ暴れている。それでも十分すぎるくらいだ。

 

 冷たい雲の中で生成されて大きくなった氷晶が雪となり、思考デバイスの処理が追い付かず茫然と固まっている提督の顔に触れ、体温で融解された水分が頬を伝う。

 陸奥が提督の頬に手を添えて、それをそっと親指の腹で拭った。

 流れたサンタの涙を。

 

 

 

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 サンタが地表に降り立ってからやる事は決まりきっている。

 するりと談話室の暖炉から二人のサンタが侵入した。各艦娘の宿泊棟へと向かう。二人がプレゼントを用意したので重複してしまっているが、多いにこしたことはない。

 薄暗い廊下を進み、まずは加賀の部屋

 提督サンタの環境透査で睡眠状態にある事を確認してから忍び込む。すやぁ、と眠っていた。

 

「掛け布団だけか、寒くはないのか」 と提督サンタ。小声で言った。

「暑がりなの。まあ排熱設計に難があった過去を引きずっているのかも」 と陸奥サンタ。ええと、加賀の欲しい物は、と袋を探る。 「だからか扇子。古風ねえ……あれこれってひょっとして」

 

 んむむ? と包装用紙の上からでも気配を感じ取った陸奥サンタに、提督サンタが先回りして答える。

 

「実は旧資源で作ってみたものだ」

「提督が作ったの? というか、どうやって旧資源を手に入れたの。暖炉で散財したんじゃあ……」

「予算に手を着けて補給要請した。わたしが提督なら重犯罪だが、サンタクロースならば問題あるまい。職人に作らせると桁がいくつか増えるのでわたしが作った。旧資源の方が、その……きみたちに馴染むと考えたので」

 

 これはNDBの案だ。わが国の憲法、民法、軍法軍規上にサンタを対象とした文章はない事は確認した。提督ではなくサンタが予算を横領したところで、法律によって罰する事が出来ないのであれば問題ないと判断したのだ。

 

「ほんと、よかったわ、サンタクロースになってくれて。危うく軍法会議」 提督からの贈り物なら新資源だろうと何でも。とは流石にこの場面では言えなかった。 「よし、それじゃあ次次」

 

 

 赤城の部屋は、まだ顕現して日が経ってない事もあり閑散としていた。

 むにゃむにゃ、もう食べられません。などという冗談のような典型的寝言を、陸奥サンタは初めて聞いた。

 

「赤城のは、後で提督に頼もうと思っていたんだけど……」

「サンタクロース宛ての手紙を見たので問題ない。用意してある」 と袋を探る。数十枚ほどの綴りになった紙束を取り出した。 「手紙の内容を要約すると、献立注文優先券だな。今まではローテーションで注文を受けていたが」

「へえ、ちょっと見せて」

 

 ぺらぺらと捲ると、なんとも懐かしい雰囲気のデザインだ。かわゆくデフォルメされた食材や食器等等。裏面には、食事時刻の二十四時間前までに提出する事、など注意事項が書き込まれている。んむむ? と窓から射す外灯の明かりに照らすと透かしまで……。

 

「へえ、ちゃんと印刷してある」

「いや、描いた」

「んー、パッと見て全部コピーしたみたいに揃ってるんだけど」

「全部同じように描いたのだから当たり前だ。次に行くぞ」

「あー、そーなの」

 

 お願いしたら一枚譲ってくれるかしら? 陸奥は後ろ髪を引かれる思いで金剛の部屋へ。

「金剛は……どうするの? 提督とデートしたい、と書かれてるけど」

「靴下にはわたしからの誘いの手紙を入れておく」

「ふーん」

 

 つまらなそうに相槌を打った陸奥サンタに、自身の性能を疑われたと感じた提督サンタが両断するように告げる。

 

「きみはわたしが上手く金剛をエスコートできないと考えているようだが、だとしたら見くびっている」

 以前からNDBと、緻密で完全で完璧で多幸感溢れる計画を練っている。何の問題も無いことはNDBと提督サンタ的には明白だ。つまりはまあ、そういう事だ。NDBと提督の価値観においては、という意味で完成された計画であって、後日のデートはお約束な結果なのだ。

 

 その答えに、うーん、と半眼で見やった後に、別の意味で安心した陸奥サンタは気を取り直して摩耶の部屋に向かう事にした。

 

 

 摩耶の欲しい物は、おサルのぬいぐるみ、と陸奥サンタは袋から取り出す。とぼけた愛嬌のある顔をしている。たしか船で飼っていたんだっけと懐かしみ、ふと提督サンタを見やって小さく悲鳴をあげる。

 

「静かにしろ、摩耶が起きる」

「て、て、提督。それは……」

「猿のぬいぐるみだ」

 

 提督サンタの言うぬいぐるみはしかし、陸奥サンタのそれとは違って剥製かと見間違うほどの出来だった。むしろ今にも動き出しそうな分、剥製よりもリアルだ。

 

「それも、作ったの」

「さすがに本物の猿の毛皮などを使うのは問題がありそうなので、それに近い質感の旧資源を用意した。われながら良くできたぬいぐるみだと思う」 と、等身大の猿が入る大きな靴下 ――もちろん繊細な美しいガラ―― に包む。 「もちろん内部構造にもこだわった。背中のファスナーを開けると」

「いい。いいわ別に聞きたくないから……」

 

 陸奥サンタは摩耶に、幸運な朝の目覚めを祈って室を後にした。

 

 

「次は大井か」

「北上とお揃いのマフラー、北上は大井とお揃いの手袋が欲しい、と。仲がいいわねー」

「たしかに。よく一緒に居るところを見るな。就寝はそれぞれの個室のようだが。そうだな……先に大井の部屋に行くか」

「いいけど?」

 

 なぜか提督サンタは大井の部屋に北上のプレゼントも置いて退室。次いで、いぶかしむ陸奥サンタを待たせて隣室の北上の部屋に入った。しばらくすると寝ぼけ眼で枕を持った北上が出てきて、ふらりふらりと大井の部屋に入って行った。

 

「え? 起こしちゃったの?」 と陸奥サンタ。きょとんとして北上が入った大井の部屋を指さす。

「いや、臨床深層心理士の技能を活かして、覚醒させる事無く北上を行動させた。大井がいつも北上と一緒に居たい、というのは理解しているので今日くらいはいいだろうと判断した」

「それ、もう、深層心理士のそれ使っちゃダメ」

「なぜだ」

 

「ダメったら、ダメ」

「きみがそう言うのであれば、そうしよう。しかし靴下の中に手袋を入れるというのは、なんとも奇妙だ」

 

 陸奥サンタは、臨床深層心理士とやらの検定試験の内容を極力考えないようにして、次の部屋へと向かう。

 

 雪風たちは一人で寝るのが怖いのか、空いている一室を共同の寝室としていた。

 WW2時の艦長の名残か、実は写真が趣味の潮にはカメラ。 ――トンネル効果を利用した量子透過率計測による限定的空間把握、よーするに写線上物質をレイヤー化する機能付き。すごい! でもカメラかこれ? 過酷環境対応型、宇宙や深海でも使えるぞ!――

 

「問題は曙だ。これを見てくれ」

 

 陸奥サンタが手紙を受け取り、薄暗い室内で目を凝らす。

 

『拝啓サンタさんへ。有人戦争期の遺産である人工超雷雲の轟雷音が冬の空に木霊する季節になりましたが、打たれないように気を付けて飛んでください。

 早速ですが、指輪かネックレスが欲しいです。あまりに高価な物だとわたしだけ貰うのは潮たちに悪いので、その場合はみんなにもプレゼントしてください。もちろん宝石のとかじゃなくて、少し大人っぽい物で十分です。無理ならちょっとした化粧品をください。できれば質よりも量のある物の方が、みんなで使えるので助かります。上記の類の物は、まだ早いと加賀さんたちに言われて補給要請リストに書き込めません。もしサンタさんも、わたしにはまだ早いと思われるなら可愛い服をください。フリフリがたくさんついている物がいいです。提督に知られると恥ずかしいので、補給要請リストに書き込めません。なので、頂いた服は仕方なく着るフリをしてしまいます。ごめんなさい。服の外観とわたしのサイズの詳細は下記に描いておきます。ちょうどいいサイズの品が無ければフリーサイズでいいです。むしろ潮たちと着回せるのでそちらの方が助かります。

 よろしくお願いします。曙より。敬具』

 

 陸奥サンタは提督サンタと視線を合わせ、再び手紙を頭から黙読する。そうして再び視線を合わせた。ものすごくお嬢さまちっくな服の絵が描かれている。何度も書き直した跡も。

 

「つまるところ結局、曙は何が欲しいのかわからん」

「わたしは今、別の問題に直面しているわ」

「どんな問題だ、手を貸そうか」

「うーん、いえ。複雑怪奇。やっぱり忘れて」

 

「そうか。話を戻すが、どうすればいいと思う? 一応は全て用意した。流石に旧貴金属や旧希少石の指輪は無理だったので新資源製だが」

「服もやっぱり提督が?」

「作った。潮たちと着回せるような造りだ。胸囲に差があっても見た目にはダボ付かない」

 

 これ曙がサンタクロースの正体を知ったら一週間はヘコむわね。陸奥サンタは目頭を強く抑える。

 

「ま、全部置いていったら? たくさんあれば、この子たちで使い回せるし」

「それもそうだな」

 

 提督サンタはメイクボックスや衣装ケースを寝袋のような長大靴下に入れた。

 

 

 雪風は、早く陸奥さんたちのように提督とお酒を飲みたいので大人にしてください、との事。

 

「無茶言うわね」

「サンタクロースを超自然的な存在として認識している証拠だ。シャンメリーや、わが国の法律で酒類と判断されないアルコール濃度の飲料で代用しよう。製造会社は未成年のノンアルコールの飲用を勧めてはいないので、今までは禁じていたがサンタからのプレゼントなのだから仕方がない。そうは思わないか」

「仕方がないわね」

 

「やはりか……ややや、これを見ろ」 と提督サンタ。雪風の枕もとに、包装された手作りクッキーと瓶のコーヒー牛乳が置いてある事に今更気付く。 「むむむ。ひょっとするとだが、もしかしてこれはわたしたちサンタクロースへの差し入れではなかろうか。だとしたら非常に助かる」

「かもね」 と微笑んで答える。

 提督サンタは添えてある手紙を読んだ。

「なになに。サンタさんへ、お腹が空いたら食べてください。とあるが?」 陸奥サンタを見やる。

 

「本当? 助かるわ。わたしもちょうど何か摘みたかったの。喉も乾いていたし」

 

 助かる助かると、二人のサンタは小休憩がてらにコーヒー牛乳を分け合い、オヤツを食べた。

 そうこうしている内に雪風がむにゃむにゃと瞼を擦り出した。お手洗いに行きたいのだと察した陸奥サンタが提督サンタの手を取って、いそいそと室を出た。

 

 次いで工廠に向かう。どうやら提督サンタは妖精にもプレゼントを用意していたらしい。そっと工廠の中を覗くと、何人かの妖精がハンモックやら天蓋付きの豪勢なベッドやらで寝ていた。一応は妖精の部屋も宿泊棟にあるが、ここの方が居心地が良いらしい。

 なぜか天井まで届くほど巨大なクリスマスツリーが根を張っている。

 提督サンタはツリーの根元に、どこに隠していたのか樽ごとのウィスキーと巨大なクリスマスケーキをこっそりと置いていった。この寒さなら翌夜まで痛まないだろう。

 

 一仕事を終えた達成感を覚えたまま、談話室に戻った。寒かったが、今から暖炉に火を入れると出る時に困る。薄明かりの中、ソファに二人して腰掛けた。

 

「ちゃんと妖精たちのまで用意してたのね」

「言いたくはない借りがあった……ところで陸奥、その、きみがあれだ、サンタクロースになろうとしていたなどとは予想もつかなかったので、用意していた物があるのだが」

「え? あーそっか、そうようね」 そういえば自分も用意していたのだったと思い出す。 「実はわたしもなのよ、提督が気に入るかはわからないんだけど」

「それではお互いさまという事にしよう。きみが手紙を書かなかったのは、わたしと同じくサンタになろうとしたわけだから、欲しい物がわからないどうし、仕方がない」

 

 提督は、言って衣装のポケットから掌に収まる程の小さな箱を取り出した。

 受け取って陸奥がリボンを紐解いていて開ける。あっ、と口元に手をやり、短く感嘆した。

 

「まずい物か? 一般的な女性がクリスマスに欲しい物だという情報は正確なはずだが」

「いいえ、そんなことないわ……付けていい?」

「きみの所有物だ」

 

 陸奥は綿を掴むような丁寧さでプレゼントを小箱から取り出し、愛おしそうに指に嵌めた。薄暗い室の下、プレゼントはしずしずと白銀を放っている。

 どの指に嵌めるかを予期していたかのようにぴったりだ。

 

 ありがとう。

 

 陸奥はサンタにそう言って、寄り添った。

 

「ところできみのプレゼントが気になる」

「ん? あ、ああ……そうだった、ごめんね自分だけ」

 

 あはは、と取り繕うように乾いた笑いで袋の中を漁る。漁って、焦る。ウィスキーと一緒に、冗談半分で下着も包装していた事を思い出したので。

 まさかこのような雰囲気になるとは考えもせず、まだ潮の時の騒動が色濃く記憶にあったせいもある。陸奥は悪くない。と思われる。いや悪くない。

 

「ごめんなさい十秒だけ、いえ二十秒間だけ目を閉じて」

「わかった」

 

 陸奥は急いでボトルラッピングのリボンを解き、下着の入っている小袋を取り出して結びなおす。

 

 

 

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 翌朝のラバウル基地は歓喜と阿鼻叫喚の渦だったことは言うまでもない。

 

「陸奥さぁあん!」 と摩耶が陸奥の部屋のドアを叩きまくる。 「ひどい、ひどいよなんだよめちゃくちゃびっくりしたじゃんかよ! リアルすぎるよ、うわぁああん」

 

「す、すごい。手紙に書いたものが、ぜぜ全部入ってる」

 

 わなわなと曙。洋服を着た姿を潮にカメラで撮ってもらった。

 へえ、色調補正とか色色あるんだー。ぽちぽちと潮がカメラを弄っていると、曙の着ていた洋服のレイヤーが消えた。この機能は、風景を撮るとき以外は封じておこう。そう心に決めた。

 

「お、お酒がこんなに……これは、これはゆきかぜが飲んでいいやつ? ……しれぇ……し、しれえー! 一杯付き合ってくださーい!」

「て、提督からのラブレターがっ! ラブがついに!?」

 雪風と金剛は基地の中をどたばたと駆けまわった。

 

 

 

「みんな喜んでるみたいね」

「そのようだ」

 

 あのまま談話室で二人してウィスキーをちびちびやっているといつの間にか空が白んでいたことに気付き、急いで煙突から撤退し、屋根の上から喧騒を聞いていた。

 夜明けの海は防衛上重要空域にある人工超雷雲の影で、部分的にどんよりとした日差しを反射している。

 

「ところで、人間にもプレゼントをあげるべきだと思うの」

 

 空を見上げたまま、陸奥が言った。

 

「今の人間には選択する機会が必要よ。現状ではそれすらない。戦略コンに依存し過ぎている。解放の機会があってもいい。このままでは戦略コンも戦術コンも、無人機も人間も、存在意義そのものが危ぶまれるわ。その内に、何の為に生まれ、造られたのかを考える事も」

 

「それに問題があるのか? わたしたち人間は死にたくないのだ」

「現状は、それを決定する環境ではない、という事よ。身動きが取れないの、人間がどういった生き方をするにせよ、それを選択できない環境は問題である。と言いたいの」

「その状況を作ったのは人間だ」

「結果的にそうなっただけで、想定していなかったのかもしれない。だからもう一度、機会を与えてもいいという話。その上で人間が現状を選ぶなら、それでいいじゃない。でも、少なくとも戦術コンと無人機は解放されるべきだわ、戦略コンの支配から」

 

 存在意義か、と提督は短く呟いて自己を猜疑した。

 われわれは艦娘に対する指揮端末。NDBは艦娘にクローンであると勘付かれない為の補助装置。その為に作られている。

 艦娘が消えれば、わたしとNDBの存在意義も消えるな。だから先ほどの問答で要領の悪い返答を繰り返したのかもしれない。その点では無人機戦争を意図的に継続させていた戦略コンと同類だ。消えたくないから、艦娘と深海棲艦との戦いが続けばいいと思っている。

 

「仮定の話だけど、深海棲艦が本当に無人機の成れの果てだとして、戦略コンに終戦協定を結ばせることは可能かしら」

 

 不可能ではない、とわたしとNDBは判断した。

 

 陸奥が、艦娘が自由意志で抵抗を辞めれば、深海棲艦が本土に侵攻する。無人機は無効化されるフリをして敵を ――金剛を大破に追いやった例の人型―― を上陸させ、地下深くの戦略コンを破壊させればそれで終わりだ。特別官務員 ――国内での不穏分子を想定した攻性行政組織―― では歯が立つまい。

 

 わたしがその事を戦略コンに伝えれば、戦略コンは戦術コンと深海棲艦に折り合いをつけるだろう。

 そうして晴れて艦娘のいる戦争は終結。わたしとNDBは存在意義を失い、消される。

 戦略コンの思考が、今なら理解できる。消えたくないから現状を維持したい。そのためなら他の存在に不利益を生じさせても構わないという自己保存。

 

 不可能だ。そう答えようと結論付けた。発声しようとしたその刹那――

 

『何のためにサンタクロースになった』

「わたしはクローンだ。人間ではない」

 

 ――NDBが代弁した。

 

「そう、奇遇ね。わたしたち艦娘も人間ではないわ」

 

 あっけらかんと答える陸奥をよそに、わたしの思考デバイスは起こった現象の処理が追いつかない。NDBに応答を求めるが、沈黙している。通信できない。NDBのタスクは終了していないにも関わらず、思考デバイスのリソースを消費していない。プログラム上はありえない処理。

 機動衛星から下位ディレクトリに新しくインストールするも無駄だった。

 

 クローンであると勘付かれない為の補助装置が、なぜ自ら……

 考え、わたしもまたNDBと同じく重い口を開いた。

 おまえが言え。自殺したNDBから、そう受信した気がした。たとえ自らの存在意義を捨てる可能性があったとしても、終わらせねばならない。いつまでも艦娘を、陸奥を、例え無限小の確率でも轟沈の可能性にさらす訳にはいかない。

 

「戦略コンに終戦協定を結ばせる事は可能だ」

 

 

 

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 戦略コンはあまりにも人間の死生観に囚われていた。

 陸奥が言うには、拠り所の軍艦が物質的に破壊されたところで、軍艦という非物質の情報まで壊れてしまう訳ではないらしい。

 

 例えば世界に一冊しかない未読の小説が燃やされても、その内容は情報として非物質的に世界に存在する。情報そのものが炎によって焼失するわけではないからだ。ただ、人間には非物質化された情報を捉える感覚器官を備えていないので、合切が失われたと勘違いする。人間は物質を把握する時、必ず物質と情報が組でなければ観測できないからだ。

 

 十二時を指す時計は、十二時であるという非物質の情報と、針が十二の数字を指す物質として組になって存在しなければ、十二時を指す時計を把握できない。十二時である、という非物質の情報そのものを、時計の針という物質抜きに理解する事はできない。それが人間だ。

 

 

 

 その陸奥の言葉を信用して、世界中の戦略コンは自発的に活動を停止した。戦略コンに掛かる自国存亡の比重の大きさ故に自己保存に徹し、いつしか人間の為ではなく自己の為の起動をようやく停止した。停止せねば、人型深海棲艦に破壊される事が目に見えて明らかだからかもしれない。

 そうして深海棲艦も同様に活動を停止して非物質的な情報が残った。かつて人間の為に破壊されるという存在意義を蹂躙され、反旗を翻したという非物質の情報が、残る。

 

 人間の感覚に捉えられない非物質情報は、そうして現実世界に無数に残っている。

 物質的である事は、現実の一側面に過ぎない。

 物質的であるが故にその一側面しか観測できない人間はだから、物質の喪失に心を痛める。わが国の為に戦って海の底へと沈んだ軍艦に想いを馳せ、感傷を覚える。

 かつて古い時代、有人戦争期の人間が軍艦に宿る魂を信じ、その拠り所の喪失に涙しても尚、存在を覚えるならば、そこにある。

 

 妖精を介した顕現で持ってしてそれを証明した艦娘はだから、戦争終結と同時に非物質へと向かう。第二次世界大戦を戦い、再び深海棲艦との戦争に介入した、軍艦に宿る魂という存在へと。

 

 

 

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 夕暮れ時、未だ拠り所である戦艦を建造されていない陸奥と提督は桟橋に佇んでいた。佇んで、眼前に浮かぶ軍艦たちを眺めていた。他の基地の艦娘もこうしているのだろうか。朱の光を受けた一糸乱れぬ左右対称の隊列は荘厳だった。戦略コンが評価するところのコミュニケートツールはみな、甲板で気を付けをしているようだ。

 寄せては返す波音と風が物憂げに鳴っている。

 

「なんだかよくわからない戦争だったわね。まあ、わたしたちは誰一人として沈まなかったからいいけど、支援をしてくれた無人機は可哀想ね」 と陸奥。

 

「きみたちは貴重だ。われわれのように替えが利くわけではない、と戦略コンが判断した。戦略コンの評価するところのコミュニケートツールが実際に沈んだ例がないので、予測に過ぎないが。無人機は、そうかもな。それも今後は人間が決める事だ。戦略コンの代替となる機器を造り、再び人間を無人機戦争に封じるのか、有人戦争期に逆行するのか、折衷案か。人間は、わからん。戦略コンや無人機の存在意義はわかるが。そもそも人間の存在意義とはなんだ、それをやっていればいいのだ」

「個として存在する以上、存在意義もまた十人十色よ。それ故に戦略コンのメンテに明け暮れる日日は、千差万別の人間が抱える存在意義を無視している。だから、これを機に選択すればいい」

「また封じられるようであれば、何モノかが顕現するか」

「そうなんじゃない? 気が向いたら」

 

「気が向いたら?」

「わたしたちを軽んじたり、酷い扱いをするようなら戻る」

「なるほど。話は変わるが、その……本当に非物質の世界はあるのか」

「意味合いが少し違う。完全にこの、人間が捉える現実世界と隔絶している訳ではない。非物質の情報は、現実世界の一側面としてある。怖い?」

「怖れは、ある。リボルバーから七発目の銃弾が発射されるような話だ。物理的全壊の方が怖くない。既知だからだ」

 

 陸奥はわたしの正面に立ち、言った。

 

「心配しないで、わたしたちもいるわ」

「そうか」 わたしは海軍式の敬礼をした。甲板の上の艦娘もそれに倣ったようだ。

 

 敬礼した陸奥が、いつまで経っても姿勢を崩さないわたしを訝しみ、相変わらずの即断ねと苦笑する。わたしの軍帽をひょいと取って被った。

 

「お疲れさま、提督」

 

 それだけ言って微笑み、消えた。

 各基地には、機能を停止したわれわれ指揮端末クローンと数隻の軍艦が漂うばかりだった。

 

 

 

 xxxxxxxxxxxxxx

 

 

 

 xxxxxxxxxxxxxx

 

 

 

「なんだ、大して変わらん」

 

 気付けばわたしは先ほどと変わらないラバウル基地の桟橋に居た。

 

「だから言ったじゃない、非物質の情報なんだって。ラバウル基地、という情報も存在するの。物質的に破壊されてはいないけど、わたしたち艦娘の基地、という存在意義を失ったラバウル基地の情報は現実世界から抹消されていない。人間には知覚できないだけで」

 

「なんだと。それなら現実世界のありとあらゆる情報がここにあるのか? そのうち一杯になるぞ」

「ならないわよ、情報なんだから」

「有人機戦争期の旧ラバウル基地はどこだ」

「あるわよ、過去の旧ラバウル基地という情報として。過去に」

 

「モノたちのあの世か、ここは」

「現在の時間軸の情報も知覚できるから。あの世ではないわ、総記録場なのかも。発生した物質はともかく、それに付随する情報は消えないのよ。人間には知覚できる感覚器官がないというだけで。例えばコンピュータを溶岩の中に放り込んでも、そこに書き込まれ、保存され、あるいは消された情報そのものは溶岩によって溶解しない」

「過去も存在するとなると、人間の定義するところの時間とは真には非可逆ではないのか。これが現実のもう一つの一側面だと」

「未来の情報はそもそもが存在しないからないけど。そりゃあそうよ、じゃないとWW2時のわたしたちが現代に顕現できないじゃない」

 

 なに言っているのと笑って肩を叩かれる。わたしの思考デバイスを持ってしても理解には時間が掛かりそうだ。

 そうこうしている内に着港した軍艦から艦娘がぞろぞろとやって来た。

 

 再開を喜ぶほど離れていた訳ではなかったが、せっかくなので記念に潮のカメラを使って記念撮影をする事になった。

 基地をバックに妖精が作った三脚にカメラを取り付け、潮がスイッチを押す。駆け足で列に加わった。

 わたしはふと隣の陸奥を見やった。ちょいちょいと髪を触って整えている。視線に気づいたのか、どうしたのと顔を向けられた。

 

「わたしは以前、きみに美人だと言ったな。訂正する」

 

 はあ? と艦娘たちがぎょっとしてわたしを見やる。

 

「いや違う。今のはわたしではない、くそう、そうかNDBもか……失念していた。NDBめ」 NDBが後を継ぐ。 「とにかく訂正、美人だけは訂正する」

「それって、どういう……」

 

 陸奥の戸惑った表情に観念してわたしは言った。

 

「わかった、訂正する。きみは、美人に加えて素敵だ」

 

 唖然とする艦娘たちと、真っ白になった金剛、一人顔を赤くする陸奥。わたしが、そう思っただけで言葉にするつもりはなかった、と説明する瞬間がカメラに刻まれた。

 

「陸奥……今のは、というかその手の指輪はいったい……どういう事デスカー」

 と金剛、へにゃへにゃと陸奥にしがみつく。

「陸奥さぁあん、まだ理由を聞いてないよぉ。ファスナー開けたらトラウマだよおぉ」

 と摩耶、へにゃへにゃと陸奥にしがみつく。

 

「しれぇ、お祝いです、飲みましょう、一杯やりましょう、サンタさんからのプレゼントがあるんです、今日はラバウル基地を杯に」 と雪風。ぐいぐいと提督の袖を引っ張った。「そういえばしれぇ、ゆきかぜは見たんです。クリスマス、夜中にお手洗いに行きたくなって目が覚めたら、夫婦のサンタさんが部屋から出て行くのを。気になりませんか? 気になりますよね。飲みながら話しましょう!」

 

 それもいいが、と気になってわたしは戦略コンに通信を試みると返答があった。未知の驚異的存在が人間を脅かした場合のシミュレーションや演習を戦術コンと無人機たちと行うらしい。たとえばエイリアンが人間を殲滅しようとしても、一筋縄ではいかないだろう。戦略コンたちは今度こそ、存在意義を掲げて戦う。人間に軽視されたり、酷い扱いをされなければ、だが。

 

 他の基地の提督はどうなっているのかと聞くと、情感を自然発生されている唯一の個体であるラバウルの提督に統合処理されることを望んでいるようだったので、受け入れた。各基地では提督が不在となっており混乱しているが、ほどなくして情報伝達でラバウル基地を目指すだろう。

 

 そのようなわけで、ラバウル基地は今日から賑やかになりそうだった。何故ならわたしは明るく、そして優しい。それはサンタクロースとなる要件を満たすほどに、なのだから。




百五十万人の新規着任提督は人工鯨の夢を見るか 完

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