ノシ棒:短編集(ポケモン追加)   作:ノシ棒

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戦国無双/side:N3

こんなにも早くお市の方と出会うなどと、思ってもみなかった。

戦国の世で契りを結ぶのは、結納の当日までお互いの顔を知らぬということも多々あるという。

確か長政とお市は、尾張と近江の同盟における政略結婚だったはず。

自分もきっとその日まで、お市の方の顔を見ることはないのだろうと思っていた。

出会ったその日から、死へのカウントダウンだと覚悟していたのだ。

 

それがこれだから、歴史というものは面白い。

記されていなかっただけで、今日の日のような、後の世からみれば驚くべき事実がまだまだあるのだろう。

知らぬ事が積み重なれば、いずれは未来も変わるだろう。自分がその一石を投じることになれば、更に、だ。

自分の知る日本史ではないことに、今はただ、素直に喜びを感じるばかりである。

 

「ぷりんー、ぷりんよーい。いたら返事をしてくれー、ぷりーん」

 

「ぷぅ?」

 

「おお、こんなところに、おった、か……」

 

「ぷりん!」

 

この瞬間、猿夜叉丸に電流が走る。

時が凍りついたようだ。

はたして、そこにぷりんは居た。

居たのである。

 

桜色の体毛。

巨大な眼球。

小さな手足の生えた球状の体――――――これは、この生物は。

 

「ぷ……ぷりん?」

 

「ぷりん?」

 

「いや、プリンじゃねえよ! プリンじゃ!」

 

「ぷう、ぷぷぷりーん!」

 

「えっ、マジでプリンなの? マジで!?」

 

これまで培った戦国に産まれしおのこ、武将としての教育の全てをかなぐり捨てて叫ぶ。

そこに居たのは、プリンであった。

間違うこと無き、プリンであったのだ!

 

目を擦ってもプリン、頬を抓ってもプリン、触ってみてもプリン、触れられて嬉しそうにしているプリン!

どこからどう見てもプリン!

誰が見たってプリン!

ちょっと鼻歌を歌う姿は正しくプリン!

ププリンじゃなくてプリン!

小さい体にデカイ目玉が正直気持ち悪いぞプリン!

可愛いわんちゃんだと思った? 残念、プリンだよ!

否定しても無駄! どう見てもプリンです! 本当にありがとうございました!

全国図鑑NO.039、全長0.5m、重さ5.5kgのプリン!

 

そう――――――ポケットモンスター、ふうせんポケモンのプリンである!

 

「なにが、一体なにがどうなって……」

 

「ぶーい!」

 

あ! やせいの イーブイ がとびだしてきた!

 

「じゃない! 今度はイーブイとか、どうなってんだぁ!?」

 

「いぶいー?」

 

取り乱す猿夜叉丸に、小首を傾げる野生のイーブイ。

そう、全国図鑑NO.133、全長0.3m、重さ6.5Kgのしんかポケモン、イーブイである。

猿夜叉丸はこんらんしている。

 

「ぷりーん」

 

「いーぶい」

 

「あああ可愛いぃぃ……ちくしょう……ちくしょう……!」

 

訳が解らないながら、じゃれあう二匹を腕に抱えて草むらから出る。

二匹合わせて10キロ超の重量ではあったが、チートと言える程のスペックを誇るこの時代の武将ボディでは軽いもの。

ふらつきながら帰ってきた猿夜叉丸の腕の中にあるプリンを見て、お市の方が歓声を上げた。

 

「わあ、ぷりんだあ!」

 

「ぷりーん」

 

「あのね、ぷりん、わたしのこと、きらいになっちゃった……?」

 

「ちがうぷりん」

 

「おい今こいつしゃべっ」

 

「えへへ……よかったぁ。ながまささま、ありがとう!」

 

「う、うむ……なあ、お市殿よ、その、それは」

 

「ぷりんです!」

 

「ああ……ぷりんは、その、なんだ。ぽ、ぽ、ポケモン……なのか?」

 

きょとんとして首を傾げるお市の方。

その様子を見て胸を撫で下ろす猿夜叉丸。

正直、この時代でポケモンと口に出すだけで、恥ずかしいというか何と言うか、そう、自害したくなる。

どうやら記憶のかなたにある、あの携帯獣に良く似ているだけの、新種の動物であるようだ。そう自分を無理矢理納得させられそうだ。

 

「ぽけもんだよ?」

 

がっくりと膝を着いた猿夜叉丸。

力なく地を握る指先を、心配そうにお市の方とイーブイが撫でていた。

 

「わあ、かわいい。いちしってます。このこ、イーブイですよね!」

 

「ぶーい!」

 

「このこ、ながまささまといっしょにいたいって!」

 

イーブイの鼻先が猿夜叉丸の手をくすぐる度、なにか電流のような、不可思議な感覚が身に奔るのを感じる。

感じる、が、そんなものよりも、全身を叩きのめすショックの方が大きかった。

なんだよ、イーブイってお前、あれか? 色んな属性に進化しちゃったりするのか? 炎系は不遇のままなのか?

いやいや、それより何よりも、だ。

 

「ガチでポケモンじゃねえか……!」

 

「うふふ、へんなながまささま」

 

「いかん……いかんぞ……!」

 

危機感を胸に、イーブイを抱えて城へと走る。

まってえ、と涙声のお市の方の声がしたが、気にしてはいられない。

とりあえず適当な浅井家縁の家臣を見付け、問い質す。

 

「おい、そこの!」

 

「これはこれは、若、どうなされました?」

 

「これ、何に見える!」

 

「ほほう、これは立派なイーブイですな! しかもリンクが繋がっておるようで。そうですか。若もポケモンとリンクを……おお、ご立派になられて」

 

「やっぱりポケモンとか、イーブイとか……リンクとはなんなのだ?」

 

「ポケモンとブショーとを結ぶ絆のことでございます。これが結ばれておらねば、ポケモンは逃げてしまうのですぞ」

 

と、普通に答える家臣その一。

リンクという横文字が前触れもなく登場したが、恐らくはモンスターボールシステムに類するものだと予想する。

これも無理矢理に納得するしかない。

戦国時代でポケモン考察をしなければならない現状に、猿夜叉丸の何かのゲージが危険域にまで達しようとしていた。

 

「これは、まさか、某の常識の方が間違ってるんじゃ……」

 

「どうされました若、おお、そういえば姫君はいずこに?」

 

「ながまひゃひゃば、まっでぇ……! ながまひゃひゃばぁ!」

 

「おお、お市の方! これ若! 幼子といえど、女人は女人、無体に泣かせてはなりませぬぞ!」

 

「ぐぬぬ!」

 

お市の方をしがみつかせて落ち着かせる。

何が何やらもう解らぬ。

家臣はそんな猿夜叉丸の姿を見て、なぜかしきりに感心したように頷いていた。

 

「しかし、若もこれでブショーの仲間入りですな。ポケモンを携えてイクサの場に立つも、もう直でしょう。

 これはやはり、お父上である久政様には御隠居して頂き……」

 

「ええい、そんなことは後だ! イクサとはなんだ、なんだその発音は、戦じゃないのか! 教えてくれ!」

 

「おお、幼くしてイクサへの意欲溢れるは、流石は浅井を背負う男子ですな。何と勇猛な! 僭越ながら、この爺がお教え致しますぞ!」

 

イクサとは。

ブショー達がリンクしたポケモンを持ち寄り、軍を作り、それを戦わせるポケモン合戦を指す。

 

「一人のブショーにつき、一匹のポケモンを従える。お互いの間に築かれしリンクを、どれだけ高められるかが名ブショーの資質なのでしょうな。

 当然、そこにはお互いの相性というものがありまする。探しませい、若。若だけのベストリンクを!」

 

「やめろ。横文字を使うな」

 

「ぶーい!」

 

「これは……! おお、若! はやベストリンクポケモンを見付けておりますとは、流石ですぞ!」

 

「ながばひゃひゃばぁぁぁ」

 

「やめろ。これ以上泣いたら某も泣くぞ」

 

ほっほっほ、と笑う爺を、自分が大人だったらぶった斬ってやれるのに、と思う猿夜叉丸であった。

お市の方がしがみ付いている袖がもう、べしょべしょになっていてつらい。

 

「その……イクサ、とやらに負けたら、どうなるのだ?」

 

「敵方に下るか否か、そのどちらかでしょうな」

 

「下らなければ、どうなる? 受け入れられなかったら?」

 

「首をとられまする」

 

「そこはシビアだな!」

 

「しびあ……? ばてれんの言葉でございますか?」

 

「あああこいつは、こいつらはぁぁぁ!」

 

頭をかきむしった所で何も変わらない。

この世界では兵の数=保有ポケモンの数。

リンクとやらの働きで、正しく一騎当千の力をポケモンは発揮するらしい。

そしてイクサに負けたらば、降伏か、死のみ。

ここだけは覚悟していた通りなのが嫌になる。

つまり自分は、今後、ポケモンバトルで生死を決める戦いに、身を投じねばならぬということだった。

馬鹿か。

 

「しかし若がそれほどまでにやる気とは。若がブショーリーダーと成られる日も近いやもしれませんなあ」

 

「もういいよ、教えろよ、疲れたよ、ブショーリーダーってなんなんだよ」

 

「ランセ地方に伝わる伝説の城を手に入れし、ブショー達のことですぞ。この国はもうずっと長い間、ランセの城取り合戦を続けておるのです。

 そう、後の世ではこの時代を、戦国時代と呼ぶかもしれませんな。ランセの世、と」

 

「何それ。某の知っている日本史と違う」

 

「ランセでの戦いに備えて、こちらでブショーは部下たちにイクサを命じているのです。まあ、暇つぶしのようなものですな。

 自らの力を示す、示威行動なのです。こちらでの勝った負けたは、正直どうでもよいでしょう」

 

「おい、犠牲になった武家と農家の人達に謝れこら」

 

「この国の歴史とは、即ちランセの歴史。ランセ地方の覇者となった者が、この国を手中に収める、天下人となるのです!」

 

「違う、なんか違う!」

 

爺の言葉を聞き、猿夜叉丸は膝から崩れ落ちた。

両の瞳から、滂沱の如く涙が零れ落ちていた。

その幼い涙は、枯れた老人の胸を打つものであった。爺の両眼からも、熱い血潮が溢れ出していた。

思えば、この猿夜叉丸は、産まれた時からまるで泣かぬ才児であった。

 

子はなぜ泣くのか。

母から切り離されて泣くのか。

世の冷たさに絶望して泣くのか。

いいや、そのどれも違う。

違う、と浅井一の家臣を自負する老人は確信する。

赤子はこの世に自らの名乗りを上げるため、声を張り上げて泣くのだ。

そう、今のこの猿夜叉丸のように!

 

おいおいと声を上げて泣きはじめる猿夜叉丸。

猿夜叉丸は今、この瞬間に!

この世に産まれ落ちたのだ!

 

「某の知っている日本史と違うぅぅァァァ!」

 

「うえええ、なかないでながばひゃひゃばぁぁぁ」

 

ランセ地方

ポケモンと心通わす

ブショーたち

17の城を手に入れた時

ランセの伝説が

よみがえる

ブショーと

ポケモンたちの

イクサが始まる!

 

長政――――――否、ナガマサのイクサは、今始まったばかりだ!

 

 

 

 




戦国無双【N】の意味・・・わかるな?
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