【二十三日目】
今日の闘技場での相手はいつものモンスターではなく五人の武装をした人間達だった。
人間と戦うなんてアリなのか、と闘技場の係員に聞いてみると全然OK、むしろ殺した方が盛り上がるという答えが返ってきた。何て言うか何でもアリだな、ここは。
まあ、対戦相手を見てみると「なんだよ獲物は二人だけかよ」とか「ヒヒヒ……。久しぶりに若い女を斬れる……」とか「早く試合を始めろ。俺に殺させろ」とか危ない表情で言う、ウチのクレマンティーヌに負けず劣らずの殺人狂みたいなので遠慮する必要はなさそうだな。
そして当然ウチの殺人狂ことクレマンティーヌは相手が人間だと知ってこの上なく嬉しそうな笑顔を浮かべており、試合開始前に「スパイダーさーん。あいつら、私一人で殺していーい?」と聞いてきた。
俺は特に人を殺したい理由もないのでこの試合はクレマンティーヌ一人に任せ、彼女はそれは嬉しそうに対戦相手の五人を惨殺して見せた。対戦相手も人間にしては多少は強かったみたいだけど、結局はクレマンティーヌの敵ではなく、闘技場はあっという間に血の海にとなった。
対戦相手の悲鳴や命乞いの言葉を聞きながら俺は「クレマンティーヌの奴、こんな酷い戦いを見せたらせっかくのファンがいなくなるんじゃないか?」と思っていたのだが、俺の予想とは逆に闘技場の観客達はクレマンティーヌの戦いに熱狂してみせていた。
……本当、いい趣味をしているよな。この闘技場の観客達。
【二十四日目】
今日も闘技場に参加すると、何と今日は闘技場の最後の試合、所謂「トリ」を任された。
試合の相手として用意されたモンスターはトロール。普通の人間にとっては脅威なのかもしれないが、やっぱり俺とクレマンティーヌから見れば雑魚でやろうと思えば一撃で倒すことができる相手だった。
しかし闘技場の係員は「こんなに早く最後の試合に出れるようになったのはお前達が初めてだ。出来るだけ派手に盛り上げてくれよな」と応援してくれたので、期待に答えるべくなるべくじっくりと戦うことにした。
クレマンティーヌに言い聞かせてなるべく時間をかけてトロールを倒すと(演技を)頑張った甲斐もあって観客達も大満足して俺達に盛大な拍手を送ってくれた。だがその時俺は偶然、観客席の中に先日変な質問をしてきた例の女の子が拍手をせずこちらをじっと見つめているのに気がついた。
……本当に何なんだ、あの女の子は?
☆
「ようやく始まるな」
闘技場の観客席で腰に複数の武器を差した男、この帝都を拠点とする四人組のワーカーチーム「フォーサイト」のリーダー、ヘッケランが闘技場の舞台を見ながら呟いた。
「そうね。それにしても凄い人気ね」
ヘッケランの隣に座る女性、フォーサイトのメンバーのイミーナが彼の呟きに答えて周囲を見回す。彼女の言う通り、観客席はいつも以上に人が集まっていて熱気に包まれていた。
「それもそうですよ。何せ次の試合に出てくるのは最近話題の『毒牙』ですからね」
イミーナの言葉に同じくフォーサイトのメンバーであるがっしりとした体格の男、ロバーデイクが答える。
毒牙とはつい先日、闘技場に現れた二人組のワーカーである。
ワーカーが闘技場で戦って自分の実力を見せることで依頼人を得ようとする光景はこの帝都では決して珍しくない。毒牙の二人もそれと同じで自分達の実力を知らしめるために闘技場に参加したようなのだが、その実力は他のワーカー達とは比べものにならないくらいに抜きん出ていた。
毒牙の二人は初めてこの闘技場に現れた数日前から今日まで毎日試合に参加し、十以上の試合の全てを全くの無傷で勝利してきたのだ。その実力は冒険者のランクにしてみたらミスリル以上はあると言う者は多く、その様な圧倒的強さを見せる戦い振りから数日前にデビューをしたばかりの新米のワーカーの二人組は、もうすでに古参のワーカーや剣闘士並みの人気を得ていたのだった。
「俺もあの毒牙の二人は好きだぜ? あいつらの試合はカタイからな。何度も儲けさせてもらってる。……それにしてもお前が毒牙の試合を見たいなんて言うとは思わなかったぜ? お前はてっきりこういう所には興味がないと思っていたからさ」
ヘッケランはこの試合で毒牙に賭けたチケットを見せて笑った後、ロバーデイクの隣に座る人物に話しかけた。ロバーデイクの隣に座っていたのはやや痩せぎすな感じのまだ少し幼い年頃の少女だった。
少女の名前はアルシェ。彼女もヘッケラン達と同じフォーサイトのメンバーで、その外見とは裏腹に確かな実力を持ったマジックキャスターである。
「ヘッケランの言うとおりね。私もアルシェはここに興味はないと思っていたわ」
「私も同意見ですね」
ヘッケランがアルシェを見ているとイミーナとロバーデイクも自分達のリーダーの言葉に同意して彼女を見る。
今日この闘技場にフォーサイトのメンバーが集まったのは、アルシェが毒牙の試合を見てみたいと言ったのが始まりであった。今までこのマジックキャスターの少女は闘技場の試合なんて一切の興味を持っていなかったのに、突然今日みたいなことを言い出したらヘッケラン達が疑問を思うのは当然であった。
「……確かに私はこんなお金を無駄に使う所には興味がない。私が興味があるのは毒牙のスパイダーって人。あの人の戦いをこの目で見てみたいと思った」
仲間達の視線を受けてアルシェは素直に自分の気持ちを口に出した。その表情はとても真剣なものでそれを見たヘッケラン達が首を傾げる。
「何だかひどく真剣な顔をしているけどさ……。そのスパイダーが一体どうしたってんだよ?」
「……私は先日、用事でこの闘技場に来て毒牙の、スパイダーの戦いを見た。そしてその時に気づいた。……スパイダーはかつての私の師、フールーダ先生と同じ第六位階以上の召喚魔法が使用できる」
『………!?』
ヘッケランの質問に答えるアルシェの言葉にフォーサイトのメンバーが思わず息をのんだ。
アルシェには相手の魔力を感じ取り、その相手がどれだけの魔法を使えるかを大体だが知るタレントを持っている。更に言えば彼女がくだらない冗談を言うような性格ではないのはヘッケラン達フォーサイトのメンバーはよく理解していた。
帝国で最高のマジックキャスターであるフールーダと同じ第六位階以上の魔法を使う事ができる。それは常人の域を大きく逸脱した「英雄」の領域の話と言えた。
「第六位階以上の魔法が使えるとは……。スパイダー……彼は何者なのですか?」
「……私も分からない。少し前に偶然スパイダーを見かけたから少し話してみたけど、彼は独学であの召喚魔法を覚えて、蜘蛛系のモンスターしか呼べないらしい。……多分、そういったタレントを持っているんだと思う」
「なるほどね……。限られた魔法しか使えない代わりに使える魔法の効果を異常なまでに高めるタレント、か。ちょっと反則じみているけど考えられるわね」
信じられないといった風に首を振るロバーデイクにアルシェが自分なりの考えを口にすると、イミーナが口元に手を当てて呟く。そしてそんな仲間達の会話をまとめる様にヘッケランが笑みを浮かべて口を開いた。
「まっ。スパイダーが第六位階以上の魔法が使えるってのには驚いたけど、それってつまりは今日の勝負も毒牙の勝ちは動かないって事だろ? よし、これで賞金はいただきだ」
ヘッケランの能天気な声を合図にしたかのように闘技場の扉が開き、舞台に二人のワーカーとその対戦相手のトロールが姿を現した。