とある至高の四十一人の日記   作:兵庫人

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蜘蛛の一番長い一日(2)

 地下墳墓の探索を開始したばかりの時、ワーカー達はここを宝の山だと言った。

 

 この仕事を引き受けて正解だった。この先には自分達が見たことのない財宝が眠っている。

 

 ワーカー達はそう言って地下墳墓の中を進みながら期待を膨らませた。

 

 ……しかしそれは間違いであった。

 

 地下墳墓の探索を開始してしばらくした後、ワーカー達はここを地獄だと言った。

 

 この仕事を引き受けたのは失敗だった。この先には自分達が見たことのない強力なモンスターが棲んでいる。

 

 ワーカー達はそう言って地下墳墓の中に入ってしまったことを悔やみ、絶望した。

 

 ……だが、今更悔やんで絶望しても遅い。

 

 この地下墳墓、ナザリック地下大墳墓に棲まう異形の者達はここに足を踏み入れた盗賊達を決して許さず、一切の慈悲も与えずに盗賊達の命を狩っていった。

 

 

 

「こんなの嫌だ! おぼぉおあああ! 生きて帰るんだぁああ!」

 

「……頑張りますね。では眷族の数を増やすとしましょう」

 

「っ!? や、やめ……ああぁああ……!」

 

 グリンガムが率いるワーカーチーム、ヘビーマッシャーはトラップで転移させられたどこかの部屋で、大量の黒くておぞましい害虫の生きたまま喰われて息絶えた。

 

 

 

「〈斬撃〉! でござる!」

 

「……え? ……あっ! うで、うでがぁぁああ!」

 

「よし! 成功でござる! 武技が使えたでござる! これで殿に褒めてもらえるでござるよ!」

 

「ひっ!」

 

「ありがとうでござるよ! 苦しめるのは趣味ではないので、これで終わりにするでござる」

 

「け、けものの、獣の、ネズミの分際でよくも……よくもぉ……!」

 

「ネズミではないでござる。殿はそれがしのことをジャンガリアンハムスターと呼んでいたでござるよ。……ではいくでござるよ?」

 

「ひぃい……! あがっ!」

 

 ワーカーチーム、天武を率いるエルヤーは人語を介する巨大な獣の練習相手……いや、この場合は実験台にされて腕を切断された後に頭部を砕かれて呆気なく死亡した。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓に侵入した三組のワーカーチームのうちの二組はこうして壊滅した。

 

 そしてその頃、最後に残ったワーカーチーム、フォーサイトは探索中に突然、見知らぬ場所に迷いこむという正体不明の事態に巻き込まれていた。

 

「何だ? ここは一体どこだ?」

 

「わ、分からないわ」

 

「先程、床が光ったような気がしたのですが……もしやそれが原因でしょうか?」

 

 周囲を警戒しながら通路を歩いていたヘッケランは突然景色が変わったことに戸惑いの声を上げ、イミーナとロバーデイクも訳が分からないとばかりに首を振る。そして次に三人は、自分達の中で一番多くの知識を持つアルシェにと視線を向けた。

 

「……恐らく私達は転移の魔法を発動させる罠に引っかかって、この場所に転移させられたんだと思う。……でも、複数の人間を別の場所に転移させる魔法なんて第六位階以上の魔法」

 

『………』

 

 仲間達の視線を受けてアルシェが自分の予測を言い、それを聞いたヘッケラン達三人が思わず息をのむ。彼女の予測が正しければ、この地下墳墓には少なくとも一体は第六位階以上の魔法を使いこなす怪物が潜んでいることになり、それを聞いて緊張するなと言う方が無理な相談である。

 

 そして自分達に起こった事態の重大さに気づいてフォーサイトの四人の緊張が高まった時、彼らの背後に二人の人影が現れる。

 

「……ッ! 誰だ!?」

 

「お前達は……フォーサイトか?」

 

「あっれー? こーんな所で何しているのー?」

 

 突然現れた気配にヘッケランが腰の剣に手をかけながら振り向くと、そこにいたのは自分達と一緒にこの仕事を引き受けたワーカーチーム、毒牙のスパイダーとクレマンティーヌだった。

 

「スパイダーとクレマンティーヌ? い、いや、俺達は通路を歩いているといつの間にかここに転移させられたんだが……。それよりお前達こそどうしてここにいるんだ? お前達は緑葉と一緒に地上にいたんじゃないのか?」

 

「あー、それなんだけどねー。地上でお留守番しているとさー、そこで百体を超えるスケルトン達にー、襲われちゃったの。しかもー、そのスケルトンがただのスケルトンじゃなくてー、すっごく強い上に魔法の武器や鎧で武装しててもやんなっちゃう」

 

「それで何とかスケルトン達から逃げだせたのはいいんだが、その時に多分敵の転移の魔法を受けてここに跳ばされたんだ」

 

 ヘッケランの質問にクレマンティーヌとスパイダーが答え、フォーサイトの四人は毒牙の二人の言葉に「地上にもモンスターが……」と呟き顔を青くした。

 

「つまり貴方達も私達と同じってわけね」

 

「ちょっと待ってください。緑葉の皆さんはどうなったのですか?」

 

 イミーナが考えるように呟き、ロバーデイクがもう一組の地上にいたワーカーチームの安否を聞く。だがその質問に毒牙の二人は揃って首を横に振った。それだけで緑葉のメンバー達がどうなったかが分かり、アルシェが「……そうなんだ」と悲しげに呟いた。

 

「……まあ、何だ? お先真っ暗な状況だけどここまできたら開き直って前に進むしかないんじゃねぇの? 他の奴らには気の毒だと思うがせめて俺達だけでも生き残ろうぜ」

 

 アルシェの頭に手を置いたヘッケランが場の空気を変えるためにワザとおどけた口調で話す。そんなリーダーの言葉にフォーサイトのメンバーとは賛成し、通路の先へと進む。その四人の背中を見ながらスパイダーは、誰にも聞こえない小声で呟く。

 

 

「……これも何かの縁ってヤツかもな。……仕方がないな」

 

 

 そう言うとスパイダーは誰にも気付かれないように数匹の小さな蜘蛛を呼び出す。それは小さいながらも強力な毒を持つ毒蜘蛛であった。

 

 ☆

 

 通路をしばらく進むとやがて開けた場所にと出た。そこは帝都にある闘技場の舞台によく似た場所であった。

 

 闘技場の観客席には無数のモンスター達が観客のように座っている。モンスター達は種族も外見もバラバラであるが、どれも外のモンスターとは比べ物にならない強者の雰囲気を纏っていた。

 

 特に観客席の上にある貴賓席から姿を見せている者達。どこかの貴族の令嬢のような漆黒のドレスを着た幼い少女の吸血鬼にライトブルーの甲冑を纏ったような外見の昆虫人、碧と翠のオッドアイが特徴的な双子のダークエルフの子供達、そして三つ揃いのスーツを着て丸眼鏡をかけた一見人間のように見える悪魔。彼らからは観客席のモンスター以上の強者の雰囲気が感じられた。

 

 観客席と貴賓席の異形種達は皆、闘技場の舞台の選手が入ってくる入り口を見つめていた。やがて入り口が開いて舞台に人影が出てくるのを見ると双子のダークエルフの片割れ、動きやすそうな男の子の格好をしたダークエルフの子供が何のためらいも無く貴賓席から飛び降りた。

 

 普通から見ればこのダークエルフの子供の行動は自殺にしか見えないだろう。しかしダークエルフの子供は軽やかに闘技場の舞台に着地すると闘技場にいる全ての者達に聞こえるように声を上げる。

 

「挑戦者が入ってきましたぁああ! 挑戦者はナザリック地下大墳墓に侵入した命知らずの愚か者四人……って、あれ?」

 

 明るい声でアナウンスをしていたダークエルフの子供であったが、闘技場の舞台に現れた人物を見て困惑の表情を浮かべる。

 

 闘技場の舞台に現れたのはスパイダーとクレマンティーヌの「二人」だけであった。

 

 これはダークエルフの子供にとって、いや、この闘技場にいるモンスター達全てにとっても予想外な出来事である。予定であればここにやってくる挑戦者は「四人」のはずであるのに何故二人しか現れないのか、そんな疑問がモンスター達の脳裏に浮かぶ。

 

「……二人だけ? 四人じゃないの? 残りの二人は……もしかして逃げちゃった?」

 

 ダークエルフの子供がスパイダーとクレマンティーヌに訊ねる。二人は「四人」という単語に一瞬眉をひそめるがすぐに納得した表情となる。

 

「四人ってことは多分フォーサイトのことだろうな」

 

「あの人だったらー、今『寝ている』からさー、私達が代わりに出てきたのー」

 

 スパイダーとクレマンティーヌがダークエルフの子供の質問に答え、ダークエルフの子供がそれを聞いて怪訝な顔となる。

 

「四人の代わり? それじゃあ貴方達は全く別の人達ってこと? そんなの予定にないよ」

 

「そうだな。これは私にとっても完全に予想外だ」

 

 困惑するダークエルフの子供の声に、スパイダー達が入ってきた入り口の反対側にある、もう一つの選手の入り口から聞こえてくる声が答える。

 

 声の主は漆黒のローブを身に纏い、手に禍々しくも美しい黄金の杖を持った骸骨の魔法使いであった。

 

 アンデッドモンスターには「エルダーリッチ」という理性を保って強力な魔法を使いこなすという存在がいるが、あの骸骨の魔法使いはそれよりも遥かに上をゆく強大な怪物であるのが一目見た瞬間に本能で理解できた。

 

 いつもどんな時でも笑みを浮かべているクレマンティーヌは骸骨の魔法使いを見た瞬間にその笑みを強張らせ、スパイダーも驚いているのか目を大きく見開いて骸骨の魔法使いを凝視していた。

 

「アインズ様!」

 

「……アインズ?」

 

 骸骨の魔法使いが後ろに、背中に翼を生やして純白のドレスを着た美女を引き連れて闘技場の舞台に現れると、ダークエルフの子供が骸骨の魔法使いの名前を呼び、それを聞いたスパイダーが怪訝な顔となる。

 

「いかにも。我こそがこのナザリック地下大墳墓の支配者アインズ・ウール・ゴウンである」

 

「アインズ・ウール・ゴウン、ねぇ……」

 

 スパイダーの呟きが聞こえたらしく骸骨の魔法使い、アインズは名乗りを上げ、何故か苦笑を浮かべているワーカーの男とその相方に視線を向ける。

 

「それでお前達は確か、地上をうろついていたネズミだったな。お前達をここに招いてはいないはずなのだが……一体どうやってここまで来れた? お前達は何者だ?」

 

 骸骨の魔法使いの疑問はここにいる全てのモンスター達が懐く疑問だった。

 

 この闘技場は空を見上げると夜空が見えて一見地上にあるように思われるが、実際にはナザリック地下大墳墓の地下第六階層にある、この世界の人間では決して到達出来ない深淵である。それなのにスパイダーとクレマンティーヌの二人は、この場に現れたのだ。これはナザリック地下大墳墓の者達にとって無視できる問題ではなかった。

 

「俺が何者か、ね。別に答えてもいいけど、その前に俺の質問にも答えてくれないか?」

 

「質問だと? ……何だ?」

 

 この遺跡、ナザリック地下大墳墓の支配者を名乗る骸骨の魔法使いに聞かれ、スパイダーは口元を歪めてゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン。それは俺達のギルド名だろ? 何故それを貴方が名乗っているんだ? ……『モモンガ』さん?」




この台詞をアインズ様に言いたくてこの小説を書いた。
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