百万大図書館   作:凸凹セカンド

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ご都合主義が全開です。ハンゾーはがんばりました。3次試験の合格者の人数を変更します。
トーナメント表が見辛いことがあったらお知らせください。挿絵にします。


槍騎士、心配する

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

「即答かい」

「来て欲しいんだけど、というお願いの形式をとった実質強制だということを理解しているがあえて言おう。だが断る」

 

 実質強制の名の通り、結局のところ拒否したところで連行されるのは、彼女との長いつき合いから理解していた。だがあえて言う、これぞ引き篭もりクオリティ。

 

 

 

 

 

 

 槍騎士、心配する

 

 

 

 

 

 貸本屋「百万図書」に帰ると、ムーディが丁度道路に気絶した男を引きずり捨てているところだった。

 シェスカたちに気付いたムーディは、ぱっと顔を輝かせる。

 

「お帰りなさい、店長」

「ただいま。ムーディ、これ新調してきたからデータ移し変えて」

 

 ムーディに買ってきたばかりのノートパソコンの箱を手渡すと、彼は喜んでそれを受け取った。アルバイトにしてはありえない量の仕事をこなす彼には、パソコンは必需品なのだ。

 

「変わったことはなかった?」

「えーっと、比較的襲撃が多かったくらいですね。どうやらディルムッドさんがいないことがばれちゃったみたいですよ。まぁ、全部ルシルフルさんが処理してくれましたけど」

 ディルムッドが試験に行ってから結構な時間がたっていることを考えれば、情報規制は上手くいったと考えていいだろう。これに関しては「俺が手伝ってあげようかー?」とマドレーヌを頬張りながら提案してくれたシャルナークに感謝してもいい。ちゃっかり料金はもっていかれたが、その分仕事は確かだった。

「ちゃんと仕事してたんだな、よしよし」

「アンタ以上に仕事しないやつがいたら見てみたいわさ」

 腕を組んで無表情に頷く店主に、ビスケットは呆れた目線を送る。

「いいかい、世の中にはニートといってね…」

「店長職がなにをほざくか。世の中の働く店長さんに謝れ」

 ビスケットの突込みを軽く無視して店内に3人で戻ると、相変わらず来客用の椅子に腰掛けたクロロが本から視線を上げてこちらを見た。

 片手を上げると彼も片手を上げて応える。

「ムーディ、お茶淹れてくれる。ドーナツ買ってきたから」

「うわ、ブルーノのドーナツじゃないですか!やったー。淹れてきます!」

 ムーディはドーナツの箱を片手に奥へと引っ込んだ。

「荷物置きにいきましょ」

「アンタの部屋には入んないわさ」

「廊下に置いといていいよ」

「下着を廊下に置くな!痴女か!」

 

 

 

 色とりどりのドーナツを大皿に盛って、四人でお茶に舌鼓を打つ。

 貸本屋「百万図書」では、従業員と常連がこうやってティータイムをすることは周知されているため誰も突っ込まない。というか、この店にくる客は基本的に本以外興味がないので、従業員の態度に文句をいう人間自体滅多にいない。

「…ムーディ少しの間店を休みにするけど、ついてくる?それとも休暇とる?」

「ふえ!?急にどうしたんですか?」

「いや、私もよくわからん。ビスケがとりあえず私とのランデブー希望らしい」

「意味深な言い方すんな!」

「長期で出かけるってことですか?じゃあ俺久しぶりに買い物とかしたいんで…」

 ビスケットの叫びを黙殺し、貸本屋二人の会話は続く。

 拳をぷるぷる震えさせるビスケットに、クロロが哀れむような視線を送る。イケメンでもそんな目で見られたら嬉しくない、とビスケットはキッと睨み返した。クロロの視線の生暖かさが増した。撃沈した。

「そうね、じゃあ店は閉めといていいから、告知だけしておいて。ついでに10日間ほど休みにしておきましょう。連絡だけ取れるようにしておいてくれれば、あとは好きにしていいから」

「はい、わかりました。でも珍しいですねーどこ行くんですか?」

「さあ知らない」

 肩を竦める店主に、クロロとムーディの視線がビスケットに行く。ビスケットは忌々しそうに口を尖らせると最終試験会場の場所を答えた。

「遠いな…」

 クロロは、大陸をまたいだ先の場所に顔を顰めた。

「あぁ、着いてくるのルシルフル」

「こないと拙いだろう。俺はまだ死にたくないぞ」

 思い浮かぶのは、この店を送り出されるときの槍騎士の表情。

 クロロに対して飛ばされる視線のなんと恐ろしいことか。慣れてないものでは軽くトラウマになること必至のその視線は、それだけで人が殺せそうなほど怨嗟の篭ったものだった。

 そんな「主一筋」のディルムッドを差し置いて護衛をしているというのに、いくら念の使い手として優秀で、顔見知りとはいえビスケットにシェスカを一任して自分が傍を離れたらどうなるか。

 槍の矛先が自分に向けて放たれるのは目に見えている。

「そうそう、試験に君の知人?仲間?がいるんだったよね。もしその人も残ってたら、責任もって連れて帰ってね。こっちに被害がくるとか本当に勘弁だから、容赦しないから」

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

『え――――これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までおこしください』

 

 四次試験を終えた受験者達は、ハンター協会の保有する飛行船に迎えられ最終試験会場へと向かっていた。

 合格者は全10名。

 ディルムッドによってプレートを奪われたハンゾーも、試験終了まで駆け回りプレートを6枚なんとか手に入れ、飛行船に乗っていた。

 

 第1応接室と書かれたプレートの下がっている部屋の扉を数回ノックすると、中から了承の声がする。

 呼ぶ順番に統一性はないらしく、ディルムッドは最後の面談者になった。

「失礼する」

 ディルムッドは扉を開けて中に入る。一段上がった場所に、主人の好きなストローマット(畳)が引いてあり、中央にはハンター協会会長ネテロが腰掛けている。

「まあ座りなされ」

 ネテロが座布団を進めてくるので、素直にそこに腰を下ろす。

「参考までにいくつか質問するがよいかの?」

「お答えできる範囲であれば」

 ディルムッドの礼儀正しい態度に気を良くしたネテロは「それでは」と面談を開始するが、胸中では複雑な思いを抱えていた。目の前の美青年は、容姿もさることながら、底を感じさせない実力に思わず背筋を正してしまうような圧倒的な気配がある。それはネテロだけではなく、今期の試験官であるプロハンター達も感じたことだ。

 あと20年若ければ、一度手合わせをしてみたい。そんな言葉を無意識に零していたらしく、それを聞きつけた心配性の会長大好き!派の一部が勝手に動いているらしい。お陰で直弟子であるビスケットからお叱りの電話がかかってきた。師を敬う気持ちゼロである。

 面白いことは好きだが、面倒なことは嫌いなネテロは、双方ともに気を配らなければならない自分の立ち位置に軽くため息を漏らしそうになったとか。

 

「まず、なぜハンターになりたいのかな?」

「主に命じられてのこと。別段なりたいわけではない」

「…ふむ、ではおぬし以外の9人の中で1番注目しているのは?」

「…悪い意味なら44番。いい意味でなら405番、か」

「では、最後の質問じゃ。9人の中で一番戦いたくはないのは?」

「405番と99番。子供に手を出すの仁義に反する」

「ふむふむ、ご苦労じゃった。下がってよいぞ」

 

 ディルムッドは、失礼する、と声をかけて応接室を後にした。扉が閉まり、部屋を無音が支配すると、ネテロは先ほどの会話を思い出す。

 

「主…主人か。主定まった強大な力とは…下手な者の元にあれば、災厄しか招かぬのだが…ビスケにそれとなーく聞いてみるかのぉ」

 

 今期の最終試験に残った受験者の中には、殺人に有利といった人間の道徳など捨てきったような発言をするものもいる。

 

「これは注意が必要じゃのう」

 

 気付けば喉がからからに乾いていた。

 口に含んだ緑茶が、予想以上に苦いのは、どうしてか。

 

 

 最終試験場となるハンター協会が経営するホテルへつくと、各々休むようにと解散をさせられた。最終試験は3日後に開始するとのこと。ディルムッドはホテルに着くと電話を探した。1次試験から4次試験まで、シェスカに連絡することができないでいたからだ。定期連絡と、できれば主の様子が知りたい。本来なら、たとえ何があろうとも自分の手で守りたい主人が、よりにもよって一度は殺しにきた「盗人」と一緒にいるなど、本来なら許しがたいことだ。盗人ことクロロにとっては、ディルムッドを敵に回してまでシェスカに害をなすメリットがないので本人は何もする気がないのだが。

 いかんせん主であるシェスカは書物以外に心惹かれない、いい意味では意志が強く、悪い意味ではずぼらな性格であるため危機感が欠落している。彼は心配で心配でたまらなかった。

 

 ただひとつディルムッドの誤解があるとすれば、シェスカの危機感は欠落しているのではなく、ディルムッドによって欠落させられたといっても過言ではないということだ。これは両者ともに気付いてはいないことであったが、危機感を培う前に、ディルムッドがすべてを排除し、彼女から危険なものを遠ざけたことに起因している。

 

 ディルムッドは主を守りたかった。忠義を貫きたかった。

 シェスカはディルムッドに応えた。忠誠を受け取った。

 

 いかなる敵も、いかなる危機も、いつなんときも離れず、どんな敵に相対しても、ディルムッドの忠誠が揺れることはなく、そして敵の刃がシェスカに届くことはなかった。

 

 ディルムッドはいう、貴女にはどんな危機も近づけはしまい、と。

 ディルムッドはいう、貴女は何もなさらなくてもいい、すべては俺がやります、と。

 

 シェスカは頷いた、彼女の力で危機から脱することはできない、彼に任せたほうが効率がいい、と。

 シェスカは頷いた、彼が任せてくれといっている。それを覆すのは裏切りではないか、と。

 

 そんな生活が10年以上続き、いつしかシェスカから危機感は薄れていった。そんな生活が続き、ディルムッドはその忠義に報いるために彼女の敵を屠り続けた。

 

 両者ともに、そこに破綻がないので気付いてはいない。もし気付いても、その有様を受け入れるかもしれない。しかし、ごく一部、そのことに気付いている彼女等の知人は、そのことに密かに危機感を抱いているのは確かだった。

 

 

 ホテルのカウンターに立つフロントクラークの男性に声をかけ、電話を貸してもらうと早速店に電話をかける。

 店の電話はアンティークといっていい黒電話で、主人従業員ともに携帯電話なんて便利なものは持っていない。店から出ないのだから必要がないのだ。

 リリリリリン。

 リリリリリン。

 リリリリリン。

 リリリリリン。

「……」

 待てども待てども電話に出る様子がない。時計を見れば、まだ営業時間中だ。ムーディが忙しくてでれないのか。と思い、しばらく待つが、やはり誰もでなかった。黒電話には留守番電話機能などついているわけもなく、相変わらず着信を告げる音だけが無情に鳴り続けるだけだった。

「……」

 店が多忙なのはいつものことだ。比較的ゆっくりしているように見えるが、ムーディは基本的に忙殺されているし、主は電話にでない。クロロがいるが、彼が電話にでるとは考えにくい。

「あとでまたかけるか…」

 ディルムッドは結局電話を切り、宛がわれた部屋へ戻ることにした。久方振りに主人の声が聞けるかと思い微かに高揚した気分がどんどん落ち込んでいく。

 この試験を受けに来て、気分が優れたことのほうが少ない。

 なにやらもの悲しさを覚えながら、エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 結局、電話は最終試験が始まるそのときまで繋がることはなかった。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせは――――こうじゃ」

 

 

 

 

         ┃―――ディルムッド

      ┃――┃

   ┃――┃  ┃―――レオリオ

   ┃  ┃   

   ┃  ┃     ┃――ヒソカ

   ┃  ┃――┃――┃

 ――┃     ┃  ┃――クラピカ

   ┃     ┃―――――ポドロ

   ┃  

   ┃  ┃――――――――ギタラクル

   ┃――┃

      ┃  ┃―――――キルア

      ┃――┃

         ┃  ┃――ポックル

         ┃――┃

            ┃  ┃――ハンゾー

            ┃――┃

               ┃――ゴン

 

 

 

 

 このトーナメントの構成は身体能力値、精神能力値、そして印象値からなる3つの値から会長ネテロの独断と偏見で決まった。

 99番キルアはこれにおおいに不満を抱いているようだ。確かに、本来の成績でいうなれば、44番ヒソカ、301番ギタラクル、24番ディルムッドの成績は群を抜いていいので、このトーナメントの組み合わせは不公平になる。そこは、ネテロが判断した「印象値」によるところが大きいからだ。

 ヒソカは「殺人、その他利便性」ギタラクルは「仕事の都合上」ディルムッドは「主人の命令」と、好成績者は軒並みハンターになりたいからライセンスを取る、という理由ではない。ハンター協会側からすれば、きちんと「ハンター」としてライセンスを欲しいと思う者にチャンスを与えたくなるのも頷ける。

 ディルムッドとしては負ける気がしないので、文句もない。

 それは、他の受験者も同様らしくキルア以外は特に口をひらかない。

 

 

「それでは最終試験を開始する!!」

 

「第1試合、ハンゾー対ゴン!」

 

 

 

 

 

 


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