百万大図書館   作:凸凹セカンド

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作中は独自解釈でありますので!こんな風に考えてねぇよ!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。作者も途中何が書きたいんだかわかんなくなりました。短いし…
とりあえず後ろでハムスケ…じゃなかったキンクマさんが煩かったんで集中力切れちゃいましたよう…。
あ、たくさんの感想やランキング(!)ありがとうございます。H×Hやっぱり人気あるね!うれしい!うっかりお舟ならぬお刀にうつつを抜かしてる場合じゃないね!がんばろう!昔のにじファンの時から~とか聞くと時代を感じます。ありがとうございます。


貸本屋、捻る

 

 

 

 コンクリートの床を革靴を鳴らしながら前に進む黒髪の男は、この店では当たり前の光景になっている、番台から一ミリも動く気のない女店主の元まで一直線に向かった。

 まず、隣に佇む美貌の騎士がその存在に気づき盛大に顔を顰める。その動きでだいたい誰が来たか悟った女店主もゆっくりと活字の海から帰還すると、ゆるゆると碧眼を手元の書物から正面へと向けた。

 彼女と付き合いの長い人間ならば、この辺りで黒髪の男が店主とそれなりの人間関係を築いていることに気付くだろう。本当にどうでもいい人間に対して、彼女の挙動は一ミリもぶれないからだ。ちなみに、某協会の副会長になると、これとはまったく違う対応になるのだが、それは逆に人間関係構築をさせないための行動だったりする。

 女店主と目が合うと、黒髪の青年―――クロロ・ルシルフルは、その端正な顔を盛大に寄せた。

 隣の騎士から手が出る前に、口を開く。

 

「魔導書とか凄く気になるんだけど。それはないわけ?」

「…人間関係の入口とされるコミュニケーションツールである挨拶を無視してそうくる?つまりお前とキャッチボールする気ないぜってこと?」

「シェスカさま、つまりこいつがボールですね!」

「こんなの絶対可笑しいよ!」

 

 サッカーしようぜ!ボールは…

 

 

 

 貸本屋、捻る

 

 

 

 クロロは今にも蹴ってきそうな槍騎士から慌てて距離を取る。キャッチボールとは、と小一時間ほど問い詰めたい思考回路だ。

 まあ、根本的にこの槍騎士ことディルムッド・オディナという美貌の男は、クロロを毛嫌いし、隙あらば排除、可能ならこの世から消したいというクロロからすれば非常に危険な思考を持っているので、常識的に言ったところで聞いてもらえる可能性は皆無だろう。

 

「店長ぉ、珈琲がいいですか?それとも紅茶?」

「紅茶、セカンドまだ残ってる?」

「ありますよ!淹れてきますね!」

 

 常連や一部の人間からは鉄腕アルバイターの名で親しまれているできるアルバイト店員ムーディは、緊張感を漂わせているルシルフルを素通りすると、慣れた様子で店舗奥の住居へと消えていった。このあたりのスルースキルもこの店ならではといえる。

 そうか今日はセカンドか…ダージリンかな。なんて、思考に飛ぶあたり、クロロもこの店に染まっているといえようか。こんなんだからCOOLがキャストオフするとか言われるのだ!

 この店で一番の権力者であり、もっとも力が強い(・・・・)女店主、シェスカ・ランブールが、無言で椅子を進めてきたので、クロロはほっと息をついてそこに腰かけた。

 盛大な舌打ちを送ったが、ディルムッドは、いくら気に食わない相手とはいえ主人の意向の邪魔をする気はない。

 気だるげに番台に肘をついたシェスカは、胡乱な眼差しで今日も貸本屋で生き延びた(・・・・・)常連に水を向けた。

 

「先日ぶりね、ルシルフル。それで、いきなりなんなの?」

「ムーディに聞いたんだけど…魔導書(・・・)とやらを検分したんだって?」

「あいつ…なんでも君に話すようになったわね。釘を刺しとかないと」

「酷いなぁ、ただの常連との世間話(・・・)じゃないか!俺は彼に良くしてると思うけど?」

「普段素行の悪い不良が、雨の日に子猫に傘をさしてあげているところを見ると『あれ、彼ってもしかして優しい…?』ってなる現象のことを言ってるの?その幻想は打ち砕くわ」

「俺が畜生に優しい男に見えるのか君は…」

「全然」

 

 両肩を竦めたクロロは、いまだに閉じられていない彼女の片手に収まっている書籍に目を向ける。

 それは今からさかのぼること千五百年前ほどの古文書で、はっきり言って美術館クラスのものなのだが、この店では当たり前(・・・・)の部類にはいるものだ。確かに古いものだが、それ自体が、彼女の危惧するような代物には見えない。つまり、魔導書(・・・)ではない。

 

「わざわざ君が動くなんて、そんな稀有なものがこの世に存在したことに驚いてるし、それを俺がしらないことにも感動してるんだよ。俺もまだまだだな。そして見てみたい。あとそれも読みたい」

「知っているだけで、()っているわけではないのよ。人を発狂させて深淵へ誘うものなんて、人の世にあるだけ害悪でしょ?」

「君がこと本に対してそんな感想を抱くなんてね。ますます興味深いなぁ。念の宿ったものだったのかい?」

 

 シェスカは深くため息をつくと、脇に寄せていた書物をクロロに手渡した。彼女が持っているのは第二部で、手渡した方が第一部になる。クロロはそれを礼を言って受け取ると、興味深そうに頁を慎重に捲った。古すぎるそれは、すでに全体が黒く変色しており、綴られた文字も解読し辛い。しかし、それがいい。

 ふんふんと頷きながら頁をめくるが、魔導書から頭が離れたわけではない。この店で乱暴は働きたくない、というか働けないので、もっと別の場所(ムーディ)から攻めていくかと攻略法を練り直す。

 

「ルシルフルは、聖書は読んだ?」

「…読んだけど?福音書もいくつか。翻訳版だけど」

「例えば君の立場で言うと聖人とはなんになる?」

「先導者で念能力者(・・・・)じゃないかと」

「じゃあ君の立場で魔術師とはなんになる?」

「……詐欺師(・・・)か、念能力者かな」

「ありがとう」

 

 会話はお盆にティーセットを乗せたムーディが奥から出てきたことで一時的に中断された。彼女は、鼻腔を擽る芳醇な匂いを堪能すると、カップに口付けた。

 

 この世界において、何らかの超常現象を行う=念能力者という方程式が出来上がっている。それは、念能力の汎用性があまりにも高いからに他ならない。彼女はそれを、弊害と認識している。

 確かに念能力は素晴らしい。自分がその有用性のおかげで今こうしているのだからそれは間違いようのない事実であり、真理である。

 けれど、それ以上に危うい均等の上に成り立っているといっていいだろう。

 

 先ほど、クロロ・ルシルフルは聖書を読んだといった。聖人と、その奇蹟を認識している。瑣末な違いはあるけれど、ほぼほぼ彼女の第一の人生で認識していた聖書の内容と違いはない。元の人生においても世界中で「新たな聖書」が見つかっていたのだから、それらの違いは誤差の範囲内だろう。

 この世界にも、神の子がいた。

 シェスカは、先ほどまで読みふけっていた古書に意識を向ける。今から約千五百年ほど前の「とある騎士の王」の物語の原本に当たる。つまり、彼女の第一の人生における「アーサー王伝説」に当てはまるだろうか。

 このように、類似する何か(・・)がある。

 そして、どういった原理か、その時代の聖遺物(・・・)と呼んで相違ないものが、流れ着く。

 先日、槍の騎士によって破棄された魔導書。

 彼女の知る原本や、その劣化版には遥かに劣るものであったが、それでもれっきとした魔導書としてこの世界に存在している。勿論、念能力によるものではない。

 シェスカ・ランブールという異物(イレギュラー)の混入以前に、この世界には確かに魔術が存在していたはずだ。それが、失われてしまっている。おそらく、念という存在によって。魔術を使うには、回路が必要だ。念を使うには、回路は不要だ。どっちがより汎用性に富んでいるかなど、考えなくても答えがでる。

 まあ、だからこそ、この世界において彼女の従者を傷つけることができるものはいないのだが。

 

 クロロは、魔術を端から信じていない。宗教にとっての唯一神や、聖人の痕跡(念能力)は理解しているようだが、それ以上の超常的なもの天災のようなものと認識しているようだ。念能力を超えた、超抜的な力。神秘。

 

 そんな彼に、魔導書など与えられないし、その存在に興味を持たれても困る。いくら超級の念能力者とはいえ、ディルムッドの宝具による攻撃に耐えられるわけがない。心臓を必ず持っていく系の槍兵ではなくても、ディルムッドの腕なら普通に死んでしまうだろう。あと、この機会を逃さず彼がうっかり(・・・・)やってしまうかもしれない。

 

 ううむ、と悩んだ結果。魔導書足りえるほどの神秘を内包していない普通のクゥトルフ関係の本を取り寄せて、それを手渡すことにする。いくらなんでも旧支配者は来ないよね!大丈夫だよね!神霊なんて呼べないよね!フラグ?およびじゃねーよ!へし折る!

 

 そっと差し出されたそれが、アルバイトから聞き及んだ魔導書ではないことに気付きはしたが、クロロは黙って受け取った。まず予備知識というのは必要だ。

 その際、槍騎士から生温い視線をもらった。解せぬ。

 

 

 

 後日

 

「ああ、窓に!窓に!」

「いあいあ!って何やらせるんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




っても作者クトゥルフ触りしか知らないんです…好きな人はごめんなさい。

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