最近で一番変な汗かきました。出すときはちゃんと確認しないとダメですね。
白銀に輝くアインツベルン城。その姿は常緑針葉樹の森に隠されるように覆われている。
「しかし……せっかくの雪国だというのに退屈だな!」
その森の中でセイバーは一人、雪だるま作りに勤しんでいた。雪玉の形が歪な上に泥やら木のクズやらを巻き込んでかなり汚いが。
「ふむ。なかなかの出来ではないか。こう……味の有る」
コレだけ豊富に綺麗な雪が有りながらどうしてそこまで酷いことになるのか分からないようなクソだるまを前にして尚セイバーは自信に満ちている様子だ。
「『味の有る』ほと都合の良い言葉もなかなか無いがな!」
様子だけだった。
「あらセイバー、こんなところに居たのね」
「おお、マスター夫人」
「何してたの?」
「コレを作っていたのだ」
「へー……コレは?」
「おや、マスター夫人はご存知ないのですかな? これは雪だるまはというもので――」
「あぁ! 雪だるまだったのね!」
あまりにも歪過ぎて分からなかった。
「ふむ、ヨーロッパの雪だるまは三段ですからな。日本式の二段雪だるまがピンと来ないのは仕方あるまい」
「え、えぇ。そうね」
実はアイリスフィールにとっても二段の方が馴染み深いのだが、それを言うのは余計なことのようだ。
「ところでどうして一人で雪だるまを? 今日とっても寒いわよ?」
「それが屋敷から叩き出されてしまってな。まったく、マスターの短気には困ったものだ! 夫人からも一言 言っておいてもらいたい。気持ちよくブタミントンもできないようでは友達を無くしますよ!」
「あぁ……またなの」
文面だけとればセイバーのマスター…切嗣に呆れているようだが、実際は逆だ。
「最近はマシになってきたと思ったらすぐコレだ……」
※――――――――――――――――――――――――――
「魔術師諸君の祈り 座に届きて、我 今 現世に降臨せしめたりまつりそうろう!」
人は素晴らしいモノと出会ったとき言葉を失う。あまりに酷いモノを前にしたときもまた同じ。
今の切嗣はその両方だ。
視界を奪うような眩い光が収まり、切嗣の前に現れたのは銀髪に紅い瞳の若者だった。アイリスフィールと同じ…とは思わなかった。非常に『我が強い』のだ。アイリの髪が『あらゆる色を失った結果の銀』なら、こちらは『あらゆる輝きを集めた結果の銀』という印象。その眼にも自己に対する圧倒的な自信が宿っている。
美しい剣に人の形を与えたような麗人……いや、美男子?
とにかく、美しいことと言葉遣いが間違っていることは分かった。
そしてもう一つ、聖杯戦争のマスターに与えられた『透視能力』によって分かったこと。このサーヴァントのステータスだ。
クラス:セイバー
筋力:E- 耐久:E- 敏捷:E- 魔力:B- 幸運:A++ 宝具EX
E、E、E……しかもマイナス付き。サーヴァント基準のE判定から更に下がるということ。一般人にしても貧弱なフィジカル……決してアーサー王ではないだろう。
そもそも、まずマトモなサーヴァントではない。
「何を呆けているのだ? 聖杯戦争での勝利に向けてともに頑張りましょうぞ」
「あ、あぁ……」
おかしい。セイバーは"最優"のクラス……こんな歪なステータス配分は有り得ない。
「さて、では何から始めていこうか」
どこかからともなく現れた、玉座にしても派手過ぎる椅子。
そこに座す姿は確かに様になっている。なっているのだが……同時に目に入る(?)ステータスが酷い。
「はて、反応が薄いな。もしや何も考えていなかったとか?」
「い、いや……。ゴホン、まず、お前にはここにいるアイリとともに行動してもらい、敵の目を欺く。その背後を僕が狙う、という方針なんだが……お前は前線で戦えるのか?」
「え? アーサー王が前線で戦えないはず無いでしょ?」
「アイリ……信じ難いことだが、このサーヴァントのフィジカル面は一般人にも劣るかもしれない」
「……!?」
「聞いておきたい。お前は何者だ?」
「ふっ……面白いことを仰る。如何にマスターと言えど出会ったその場で真名をさらけ出す真似はすまい」
「………」
腹の立つことだが、言っていることは正しい。英雄とは、つまりその来歴が人々の間に残っている者だ。名が分かればその特徴、思考、技が分かり、その弱点や死因まで明らかになる。攻略法を教えるに等しい。晒すことは決して好ましくない。
更に、マスターとサーヴァントの主従関係は絶対ではない。キャスターやアーチャー、又は特殊なスキルを持つ者はマスターを乗り換え、元のマスターと敵対することも有る。
故に、自らのマスターでも真名を簡単には教えないというこのサーヴァントの主張は切嗣には好ましく思えた。ある程度の計算高さは有ると。当初の予定とは違うが、キャスターに似た運用が出来るかもしれない。
「……が、そうだな。私の人生は輝かしいエピソードに溢れているから話しても損はない。――そう あれは北の十字星が激しく輝く午前二時…………」
――――
―――
――
「――つまりお前は星に選ばれ星の名を授かりし古代王家の末裔で、世界に狂気と破滅をもたらす滅びの遣いを星々の剣を以って倒した伝説の英雄『美剣散々』である、と」
「いかにも。 ……まぁ、その戦いが高次元過ぎるし隠蔽も完璧ですから世の民は知るよしもありませんけどね!」
知る由もない……と言うか、ステータスを見ればその伝説がデタラメであることは明らかだ。しかも話の時系列がまとめられておらず、必要以上に頻繁に『私は』とか『私が』とか『特に私は』とかの前置きが入るせいで何とも言えない頭の悪さを感じる。
切嗣は少し前に見出したほんの少しの期待を捨てた。……その"少し前"もゆうに三時間前のことになるが。
「まぁ、そんなワケで大船に乗ったつもりで居てもらって構わない。それでは、私の私室に案内してもらおうか」
「あ、うん……?」
「私が寝泊まりするための部屋だ。まさか用意していないということもあるまい」
「ああ。用意してあるさ。唐突過ぎて反応が遅れただけだ。……話し合いはいいのか?」
「何のことだ?」
「いや、聖杯戦争の戦略についてだが……」
「あぁ、ソレもう眠くなったからべつにいいや」
「………」
※―――――――――――――――――――――――――――
「――マスターは出会った頃から怒りっぽい性格だった……やれやれ、キレる若者が社会問題になって久しいが、よもや無精髭のおじさんまでキレる時代とは……。あの時殴られたせいで出来た口内炎がまだ治らずにジクジクと痛み続けている」
「あの人、普段は優しいんだけどね」
あの眠たい話を最後まで聞いていた時点で既に相当な精神力だと思う。事実、アイリスフィールは最初の数分で寝てしまった。
「普段優しくても私に厳しければ意味の無いことだ」
「そう……」
如何ともし難い高飛車具合。
「でも、セイバーも容赦してあげてね。……明後日には冬木入り。それまでになんとか仲直りしてもらわないと」
「ふむ。そう言えば出発は明後日か――」
(あ、仲直りの部分はスルーなのね)
「――ならば今の内にこの銀世界を堪能しておこうか」
豪奢な装飾を翻し、セイバーが右腕を天に掲げる。
「来い。流星号」
雪が舞い上がり、純白の天馬が現れる。通常魔獣として分類される天馬だが、この個体から放たれる魔力は幻獣格のそれ。
ステータスもダメ、性格もダメなセイバーの、唯一希望が持てる点。それがこの幻想種召喚だ。『幻想種召喚』と表現を抽象的にしているのは、もちろん天馬以外の存在も召喚できるからで、この能力をアイリらが知ったのもセイバーがイリヤにグリフォンのひよこ(?)を与えたからだ。
「さて、マスター夫人。これから共に空中散歩でも?」
天馬を従え、手を差し伸べる姿はまさに御伽話の英雄だ。
「遠慮するわ。上空ってちょっと信じられないくらい寒いのよ?」
「そうですか。実は私も舞い上がった雪を被った辺りで萎えていたのだ」
だが中身はやはりポンコツである。
ミツルギの面白さが中々表現しきれない……。