「ああああああっ!!!!!」
唐突に、ラウラから身を裂かんばかりの絶叫が聞こえる。と同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電流が放たれ、シャルロットの体が吹き飛ばされた。
「な、なんだ!?」
突然の事に一夏もシャルロットも驚きを隠せていない。
「ぐぅ…ああああっ!!!」
様々な負の感情を撒き散らし、悲痛な叫び声を上げ続けるラウラ。
装甲を形どっていた線はグニャグニャに溶け、液状化しながらラウラの体を包み込む。
「………」
そこに現れたのは全身が黒い装甲で覆われたISのような『何か』。
各部の装甲はどことなく日本製のIS『打鉄』に酷似している。
そして右手には一振りの日本刀。
「《雪片》………!」
それはかつて世界最強が振るっていた刀の名。その姿は、かつての日本代表の姿。まるで複写したような雪片と機体に、一夏は無意識の内に《雪片弐型》を握りしめようとするが…
ガクッ!
「ぐうっ!」
一夏は三葉の本気の拳に、思ったよりダメージを受けていた。痛みは脳内分泌されたアドレナリンによって緩和されてはいたが、それは痛みだけ…肉体のダメージは、想像よりもずっと重いものだった。
「一夏…」
後ろから、三葉の声が聞こえて来る。
「見ていろ。お前が目指す物の、その極地を…これからお前がやろうとしていることの…その先を!」
『非常事態警報発令!トーナメントの全試合は中止!状況を警戒レベルDと認定、鎮圧部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!…』
避難警報のアナウンスが流れる。
「シャル、一夏を連れて離れててくれ…」
ーーーーーーーー
三葉は、試合開始から
「行くぞ…」
刀を中段に構える黒いISに超音速で飛行する三葉が突撃する。
ガギイィィィィィンッ!!!
交差する
ヒュンヒュンヒュンッ
黒いISの神速の剣撃を、
その剣撃は三葉が何万回と見直してきたもの。
その刃は三葉がイメージで何万回と避けてきたもの。
いつか世界最強となるために、世界最強を越えるために、何度も何度も映像の中の千冬の試合を見ながら覚えた、篠ノ之流の剣術。
「そんな姿より、元のお前の方が強かったぞ…ラウラ…」
だが、所詮はただの模倣…偽物だ。世界最強とは程遠く、脆い。
「そんな遅い剣筋で…
俺を切れるものかぁぁぁぁ!!!」
三葉の拳が黒いISの剣を捉える。両手の拳で刀の側面を挟む。
バキイィィィィィンッ!!!
刀が砕け、黒いISはフリーズする。
だがそんな隙を、三葉は逃さない。
「今、解放してやるぞラウラ…」
ドンッ!!!!!
三葉は右足を突き出し前屈立ちをしながら黒いISに両手を押し当てる。
「発勁!!!!!」
発勁とは発と勁で「激しく力を発する」という意味である。
『力は骨より発し、勁は筋より発する』
勁とは運動量のことを指し、発勁とは対象に勁を作用させることである。
発勁の構成要素は大きく分けて三つ。
勁(運動量)を発生させ、
接触面まで導き、
対象に作用させる。
発勁ではこの3つを同時に進行しなければならない。
そして三葉は、その勁の“流れ”を操作し、中にいるラウラには勁が流れないようにしたのだ。逆を言えばラウラに流れる分の勁を表面に流すしたということだ。
バリ…バリ…ドロォ
ISの表面にスパークが流れたと思ったらその表面が溶け出す。
「オオオオォォォォォォォォォ!!!」
三葉はその中に手を突っ込む。
ーーーーーーーー
三葉は誰かの夢を見た。
人の手によって生まれた少女の…
戦うために生まれ、鍛えらてきた少女の…
事故で落ちこぼれと呼ばれ、蔑まれた少女の…
己を救い上げてくれた恩師を思い、海の果てまで来た少女の…
悲しくも温かい…少女の記憶…
(これは…ラウラの記憶…)
宇宙のような暗い空間に浮きながら、三葉はラウラの記憶を見た。
「何故、ここにいる…」
その声のする方向に振り返ると、そこには…ラウラが居た。
いつも付けている眼帯はなく。そこには金色の美しい眼がこちらを見ていた。
「見たのか?」
「え?」
ラウラの突然の問いに戸惑う三葉…。
「変な言い方かもしれんが…私の中に貴様が入ってくる感覚がしたのだ…」
「まぁ、見たと言えば見ました…貴女の記憶…」
「…そうか…私にはお前の記憶は見れなかったが…お前の理想は感じることができたよ…………遠いな…」
「…恥ずかしいですね…」
「何故恥ずかしがる…お前は強い。それもそのはずだ、私はあの人の様になることを目標にしていた。だが、お前はあの人を
世界最強を目指す者と世界最強を越えんとする者。それらは似ているが…決定的に違う。
自嘲気味に、自分を見て悲しそうに笑うラウラに三葉は…
「貴女は…織斑先生になりたいんですか?違うでしょう?」
「なに?」
「だって…貴女の目標は【織斑先生に認めてもらうこと】そうでしょう?」
「っ!」
「貴女の記憶を見て知りました。随分頑張ったんですね…今なら…認めてもらえるんじゃないですか?」
いつものにこやかな笑顔、その笑顔は優しさと慈愛に溢れていた。
「っ!無理だ…教官の顔に泥を塗ってしまった!織斑 一夏にも、迷惑をかけた。お前にだって!尻拭いをさせてしまった…」
俯き、涙を流すラウラ。
「Ich wahrscheinlichste Sache, es ist törichten Mann , um den Zweck zu vergessen」
「っ!」
「ドイツの哲学者の言葉です。意味は確か…
『目的を忘れることは、愚かな人間に最もありがちなことだ』。
貴女は今、自分の目標を捨てようとした。貴女はその愚か者になりたいんですか?ここまで来たんです…最後までやり遂げた方がいいじゃないですか…」
ラウラは顔を上げ、涙を流しながら三葉に近づく。
「できるだろうか…。私に…できるだろうか…」
「できますよ…。もし無理だって思ったら僕も手伝います」
その言葉に安心したように優しげな笑顔になるラウラ。
「ありがとう…」
その言葉を最後に、二人は淡い光に包まれる。
◇◆◇◆
「…ん?」
視界がゆっくりとクリアになっていくことを確認していく三葉。
腕の中にはISスーツを着たラウラが眠っている。
「「帝っ!!」」
離れていたシャルロットと一夏が三葉に近寄ってくる。
奥にはピットから訓練機を装備した教師陣が現れる。
「さて…どうなることやら…」
帝はゆっくりと歩き出し、これからのことを考えながらちょっとだけ笑う。
10話は少ないです。
申し訳ない…。