事後処理を終え、トーナメントは中断になり、千冬と帝は廊下で話し込んでいた。
「今回のことは恐らく…いや確実に重要機密扱いとなるだろう。他言は無用だ」
「わかりました…」
千冬は壁にもたれかかり、三葉に色々と説明していく。
「まずボーデヴィッヒの
「そんなものがラウラさんの機体に積まれていたんですか…」
「ああ、アレは本来条約でどんな企業、国、組織においても開発、使用が禁止されている代物だ」
その言葉を聞いて、三葉は少し安堵すると同時に憤った。
そんな物をラウラに使わせていたのか、という憤り。
他人の模倣をして強くなることは構わない。だが、本来できないことを無理矢理やらせて、その上使用者の体に悪影響を及ぼすなど、三葉にとっては論外もいい所だ。
「くだらないですね…」
「仕方が無いさ…世界は結局…私達の世代以上の操縦者を生み出せていない」
千冬は仕方ないと言うが、三葉にとっては納得できるものでも無い。
「三葉…今回の件…本当に感謝している。ボーデヴィッヒの件…ついでに一夏の件もな…あれであいつらも前に進めるだろう…」
「僕がやりたくてやった……何て言いません。まあ今回の件で、一夏なら…僕の好敵手になってくれそうだなぁ、とは思いましたが…それもこれから次第ですよ」
その言葉に千冬は、
「あいつもこれから大変だな…お前のライバルにならなければならんのだ…死ぬ気で強くならなければ勝てんだろうて…」
「ふふ…あと、デュノア社の件はどうです?僕なら広告塔としていけそうですか?」
「それなら問題なかろう…各国のお偉方の前であれだけ有能さを見せつけたのだ。アレで三葉 帝は大したことは無いなどとのたまう奴は目が腐っているとしか言いようが無いからな…」
「ははは、じゃあ…そろそろ戻りますね?さすがに今日は疲れました…」
「ああ、ゆっくり休め、後のことは任せろ」
「はい、任せます」
そう言って三葉は寮の方に向かって歩き出すが、
「ああ、三葉、今日は大浴場が使えるぞ?織斑と一緒に行ってきたらどうだ?」
その言葉に三葉は、
「わかりました。じゃあ浴場でゆっくりと体を休めてきます」
◇◆◇◆
保健室
目がさめると、ラウラは自分が保健室のベットで横になっていることに気がつく。
「気がついたかボーデヴィッヒ…」
恩師でもある人物に声をかけられ、ラウラは我にかえる。
「教官…」
「織斑先生だ。何度言えばわかるんだ…」
ため息をつき、やれやれといった風にこちらを見る千冬が、ラウラには何だか可笑しかったが、今は別のことを聞こうとする。
「教官…私は…私に…何が起こったのでしょうか…」
「答えてやるから大人しくしていろ。一応、これは重要機密事項だからな」
無理して上半身を起こそうとするラウラを止めながら、千冬はVTシステムの事を話した。
その間、ラウラは表情を変えずにただ聞いているだけだった。
俯き、ただシーツを握り締めるだけであった。
「私が望んだからですか…」
悲痛な声を聞き、千冬は悲しさを覚える。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
急に名前を呼ばれ、跳ねる様に体を起こすラウラ。
「お前は誰だ?」
「わ、私は……。私……は……」
問いに対する返事が出てこない。
しかし千冬には、ラウラが答えに近づいていることが分かった。
「誰でもないならちょうどいい。これからお前はラウラ・ボーデヴィッヒだ。他の誰でもない。自分自身と向き合え、心配しなくても時間はある。なにせ三年間はこの学園に在籍しなければいけないからな。精々たっぷり悩むがいい」
ラウラは、てっきりまた拒絶されるものと思っていた。だから、励まされるとは思いもよらなかった。
「三葉には感謝しておけよ?お前を助けたのも、ここまで運んだのもあいつだ。あいつには頭が下がる思いだよまったく…」
「三葉ですか…」
ラウラは、考えていた。強さとは何か、強者の条件とは何か、三葉は…その“強さ”を体現した様な男だった。
織斑 一夏をあの場で成長させ、自分を救い、気高い理想を持つ。
最初は、大したことは無いだろうと思っていた。だが、実際にはとてつもなく強く、優しい奴だった。
「織斑 一夏」
今なら分かる、奴は成長した。あの場で、あの戦いの中で、一夏は強くなった。肉体的には全くだが、精神面で1つ、自分を越えていった。感情の渦に呑まれて気づいていなかったが、あの時、一夏は間違いなく強者になり得る人間だった。
あの目に宿った闘志と気迫は本物であった。教官の弟として相応しい覚悟を身に付けただろう。ラウラにはそう思えた。
「では、私はこれからの後処理だ。しっかり休んで、明日の授業に出られるようにしておけ…」
「はい!」
「いい返事だ…」
そう言って千冬は保健室を出ていった。
「……」
保健室にはラウラ一人、シンとした空間で、ラウラは三葉のことを考えていた。
「三葉…帝…」
鼓動が早くなるのを感じる。
胸が高鳴るのを理解する。
彼のことをもっと知りたい。
彼にもっと自分を知ってほしい。
彼の側にいたい。
今まで感じたことのない感情。
そしてラウラは悟る。
ああ、これが恋か…
と。
◇◆◇◆
大浴場
「見ろよ帝!すっげえ広いぞ!」
「あんまり走ったら怪我しますよ一夏〜?」
まるで親子のような会話だが、二人はれっきとした15歳だ。
さすがにシャルロットは女性なので一緒に入ることはできない。
「ふぅぅぅ……」
「んああぁぁぁ…気持ちいいな〜」
一夏のそんなつぶやきに、同感とばかりに頷く三葉。
IS学園には他のどんな施設よりも圧倒的に充実した設備がある。この浴場もその1つだ。
その後は体を洗い、サウナに入ったりした後、また湯船に浸かる。
「一夏…今日の戦いで何か掴めましたか?」
唐突な三葉の問いに、一夏は少し考え、真っ直ぐな瞳で三葉に返す。
「俺は…弱い。だから強くなるよ…誰にも負けないくらい…それこそお前に負けないくらい…強く。必ず…強くなって…今度は俺が勝つ!」
強く、真っ直ぐで、純粋で、一夏の成長は、見ていてこちらも胸躍るものがある。
「強くなってくださいね?一夏…」
「おう…!」
そう言って立ち上がり、
「じゃあそろそろ上がるぜ、ちょっと早いけど、今日はこれくらいにしとくよ…」
若干名残惜しそうに浴槽から上がり、脱衣所に歩いていく一夏の後ろ姿を、三葉は楽しそうに見つめる。
(これは…ライバルにならなさそうなんて…前言撤回しなくちゃならないですね〜)
「はぁ…にしても気持ち良いですね〜」
カラカラカラ ピシャ
「一夏?忘れ物ですか……??!」
「お……お邪魔します……」
そこには布一枚で身を隠すシャルロットの姿があった。長い金髪を下ろしており、妙に艶っぽく、顔を赤らめている。
「シャ、シャル?!どうして?!」
「え、えっと…一緒に入っちゃ…ダメかな?」
「い、いえ………」
背中合わせに湯船に浸かり、お互いに顔を赤くし、浴槽に映る自分の顔を見る。
「あのね?今夜…フランスの偉い人に会うんだ…だから…勝つよ。僕は、これからの為に、お父さんとお義母さんのために、会社の為に、帝達と…一緒に居るために…」
「シャル…大丈夫です…シャルならできます。僕が言うんです。間違いありません」
「ふふ…ありがとう…帝…」
二人が振り向き、顔を合わせると…なんとも言えない気恥ずかしさを感じ、
「そ、そろそろ上がるね?!」
「は、はい!」
◇◆◇◆
翌日 一年一組
「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。けど紹介は既に済んでいるといいますか。ええと……」
真耶の発言にクラスは騒然とするがそのどうにも要領を得ない言い方に疑問を抱く、だがそれもすぐに頭の中からすっぽ抜ける。
「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いしますね?」
「えっと…デュノア君はデュノアさんだった…ということで…」
若干引きつった顔でデュノアを紹介する真耶。知っていてもこれは精神的に来るものがあるのである。
「え?デュノア君って女?」
「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」
「え?三葉君はそれ知ってたの?!」
「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」
ドカーンッ!
「一夏ぁぁぁ!!」
教室の壁を粉砕し、赤いIS、『甲龍』に身を包む鈴が現れた。三葉を脇に携えて。
恐らく三葉にも話を聞こうと連れてきたのだろうが最初から聞く気はないのだろう。
「死ね!!」
『甲龍』の肩に装備されてい【龍砲】の周りの空間が歪む。
「し、死ぬ!さすがにそれは死ぬー!!!」
しかし、鈴の放った不可視の砲弾は一夏に届くことはなく、一夏の前には漆黒のISを纏うラウラが仁王立ちしていた。
「さ、さんきゅーボーデヴィッヒ…」
ラウラはそんな一夏の感謝を聞き流し、鈴に…正確には
「な、なによ…」
鈴は衝撃砲を止められ、その上止めた相手が近づいてきて若干戸惑う。
「……」
しかし、ラウラは鈴に担がれた三葉を奪い。
「「「「「「「?!??」」」」」」」
そして、ラウラは三葉の唇を奪う。
「ラウラさん……?」
名前を呼ばれたラウラは顔を赤らめながら、
「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」
「え?」
「「「「「ええぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
IS学園の波乱は終わらない。
誤字脱字感想受け付けてますのでドシドシ書いてください。