転生したけど後悔はしていない   作:HA.KO3

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第14話 天才と会うけど後悔はしていない

 

 

合宿二日目。昨日の自由時間とはうって変わり、今日は丸一日授業。内容はISの各種装備試験運用とそのデータ取りであった。

合宿二日目。昨日の自由時間とはうって変わり、今日は丸一日授業となっていた。内容はISの各種装備試験運用とそのデータ取りの練習という名目の授業。特に専用気持ちは装備もたくさんあり、それぞれの傍らにそれなりに大きなコンテナかあった。

 

「ようやく全員集まったか。――おい、そこの遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

 織斑先生に呼ばれて身を竦ませたのは、意外にも時間に厳しいラウラであった。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換のために設けられたもので、現在はオープンチャンネルとプライベート・チャンネルによる操縦者会話など、通信に使われています。それ以外にも非限定情報共有(シェアリング)をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかりました。これらは制作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり全容は掴めていないとのことです」

 

 織斑先生の言葉に頷いたラウラはすらすらと解説していく。正確かつ分かりやすい解説であり、まだまだ知識のつたない他の生徒達ではこうはいかないであろう。

 

「さすがに優秀だな。では遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 織斑先生の言葉にふうと安堵のため息を漏らすラウラ。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

生徒全員が返事をする。

一年生全員、総勢120人が並ぶとかなりの迫力がある。

現在彼女達はIS試験用のビーチにいる。四方を切り立った崖に囲まれた、幻想的で神秘的な空間であった。

ここに搬入されたISと専用機持ちによる新装備のテストが今回の合宿の目的だ。

 

「篠ノ之、お前はこっちに来い」

 

「は、はい」

 

「お前には今日から専用機を………」

 

 

「ちーーーーちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

凄まじい轟音と土煙と共に一人の人影が崖を(・・)を駆け下りてくる。

 

「とう!」

 

シュタッ!

 

 

「……束………」

 

突如現れたのはISの開発者にして天才の名を欲しいままにした人物

 

篠ノ之 束

 

その人であった。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、今すぐにハグハグしよう! そして愛を確かめ――ぶへっ」

 

飛び掛って来た束博士の顔面を片手でつかむ千冬。俗に言うアイアンクローである。しかもその指は額に思いっきり食い込んでいた。その様子から千冬が全く手加減していない事が見て取れる。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」

 

 いつの間にか千冬のアイアンクローから脱出していた篠ノ之 束。それだけでこの人物のすごさの感じさせる。

 アイアンクローから脱出した束はそのまま箒の方を向き…

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

よそよそしかった。これが久々に再会を果たした姉妹の雰囲気なのかと思わせるほどに。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいg」

 

 ゴンッ!

 

「殴りますよ?」

 

「殴ってから言ったぁ!ひどいよ!箒ちゃんひど~い!」

 

たとえ姉妹であろうとも、このおっさんくさいセリフと態度には厳格な箒であれば怒るであろうことは自明の理だ。

 

「おい束、自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っているだろうが」

 

「お〜そうだったよ!箒ちゃんと久しぶりの再会で我を忘れていたよ!」

 

手のひらに拳をポンと置き、我に返ったという仕草を作る束博士。

 

「ISの製作者にして開発者!天才の篠ノ之 束さんであーる!生徒諸君!敬いたまえ!なっーはっはっは!」

 

どーんと効果音がつきそうな仕草と台詞に一同はポカンとしていたがすぐに我に返り先程の自己紹介で目の前にいる人物が誰なのか全員が理解した。

 

「そら、一年!手が止まっているぞ!こいつの事は無視して作業を続けんか!」

 

「ふえぇ!?ちーちゃん酷いよぉ〜!自己紹介しろって言ったのはちーちゃんなのに!束さんはショックだょ〜」

 

およよと崩れ落ちオーバーなリアクションを取る束に専用機持ちも一般生徒も想像と違いすぎていたのか唖然としている。

 

「あ!」

 

束は三葉の方を見ると一直線に走ってきた。

 

 

 

「やぁやぁ三葉 帝くん!いや、みっくん!!」

 

 

 

笑顔で話しかけてくる束に対し三葉も微笑みながら…

 

 

 

 

初めまして(・・・・・)篠ノ之博士…」

 

 

 

 

「初めまして」その言葉を聞いた束から笑顔が消え、俯き、

 

「そっか…やっぱり…覚えてないよね…」

 

「?」

 

束の呟きは小さく、近くにいた三葉でさえ聞き取る事ができなかった。

しかし、束は頭を振り、長い髪をたなびかせながら何かを吹っ切り、笑顔で三葉に返事をする。

 

 

 

 

久しぶりだね(・・・・・・)!みっくん!」

 

 

 

「え?」

 

その言葉を言い残し、束は踵を返して箒達の方に向かっていった。

 

「ちょっ!久しぶりって、どういう…」

 

 

「みっくん…その話は後でちゃんとするよ…だけど今は別のことを終わらせないと…」

 

有無を言わせない何かを放つ束に、流石の三葉も踏み止まった。

 

「姉さん…それで、その…頼んでおいたものは……?」

 

躊躇いがちに箒が束に尋ねる。

 

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

ビシッと空に向かって指差す篠ノ之博士。その指さす方向を篠ノ之を含め俺たち全員が見上げる。

 

キイィィィン!!

 

ブワッ!!

 

 

「わっ!」

 

 

突如、上空から銀色の菱形の4面体のコンテナが降ってきた。しかし、コンテナは地面に追突する前にピタリとまり、辺りに風と砂浜の砂を舞まわせる。

次の瞬間コンテナの正面が開き、その中身を見せる。そこにあったのはーー

 

深い

 

深い

 

ーーーー紅ーーーー

 

 

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと

 

ーーーー『紅椿』ーーーー

 

全スペックが現行ISを上回る束さんお手製の第四世代機ISだよ!」

 

真紅の装甲のISが篠ノ之博士の言葉に呼応するようにゆっくりと出てくる。

 

「な?!第四世代機!?」

 

「各国が躍起になってようやく第三世代機の試験機ができた段階ですのに…」

 

「そこはほらー、天才の束さんだから!」

 

皆の疑問を解消させた束だが、普通ならここで「ありえない」という考えが浮かぶはずだが、相手は篠ノ之 束だ。世界がどれだけ技術と金を費やしても複製すらできなかったISコアを、一から作り上げた天才中の天才なのだ。納得せざる負えない何かがあった。

 

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「……それでは、頼みます」

 

「もう~堅いよ~?実の姉妹なんだから、こうもっとキャッチーな呼び方で呼んでくれても――」

 

「早く、はじめましょう」

 

 篠ノ之博士の言葉にとりあわず、促す篠ノ之。

 

「ぶー。まあ、それもそうだね。じゃあはじめようか」

 

 ピッとリモコンを押す束。直後、紅椿の装甲が開き、と同時に操縦者を受け入れるように膝をつく。

そして束は空中投影型のディスプレイを映し出し、箒が『紅椿』に乗り込んだのを確認するや否やものすごい速度でデータを入力していく。

 

「箒ちゃんのデータはある程度選考して入力してあるから、あとは最新データに更新するだけだね。」

 

束のデータ入力の異常な速度に鈴が思わず呟く。

 

「すごい…信じられないスピードだわ…」

 

だが、また別のある呟きによって他の生徒の意識も逸れてしまった。

 

 

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……?身内ってだけで?」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

群衆から聞こえるそんな声、それは嫉妬とも言える感情、自分には与えられないのに何故彼女だけ…そんな気持ちの表れ。しかし、その言葉を搔き消したのは…

 

意外な人物の言葉だった。

 

 

 

「はぁ…何か勘違いしてませんか?有史以来、世界が平等だった事なんてありません。僕と一夏だって、ISを動かせるってだけで入試を免除されましたし。

それにーーーー

 

 

 

貴女達だって覚えがあるのでは?

ISが動かせる自分達は動かせない男よりも優れているから、優遇されて当然だって、心のどっかで思ってたんじゃないですか?女は無条件で強いのだから男より優れてるって思って見下してきたのでは?そうやって卑下されてきた男の気持ち、考えた事あります?ないでしょう?」

 

それは、世界中の代弁

 

それは、今の世界の在り方に対する愁訴

 

それはーーーーー

 

 

 

この世界の現実

 

 

三葉の言葉に、群集は黙る。意外な人物からの意外な言葉。自分にも心当たりがあるが故に、理解しているが故に、優遇されてきたことを自覚したが故に、誰も言い返すことはできない。誰も言う資格はない。

 

「…少しは…言い返してきてくださいよ…」

 

誰にも聞こえない声量で呟かれた三葉の言葉を聞いたのは、その場で機械による聴覚補正をしていた束のみ。

 

「ごめんね…みっくん…」

 

そして束の呟きすら…誰の耳に届くこともなかった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「はぁい!フィッティングしゅーりょー!ちょー速いねさすが私!」

 

そう言って空中投影型のディスプレイを消して箒に指示を出す。

 

「じゃあ箒ちゃん試運転も兼ねて飛んでみてよ!

箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ?」

 

「わかりました。それでは試してみます…」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

セッティングを終えた『紅椿』。

その性能は正に現状のISとは一線を画すものであった。

第四世代機の名に相応しい圧倒的加速度、そしてその機動力でさえも他のISを上回っていた。

そして肝心の武装は、近接だけかと思われた日本刀型の近接ブレード『雨月』と『空裂』。

振るうことで赤色のレーザーが球体を発現させる『雨月』。同じく振るうことで帯状の赤いレーザーを放つ『空裂』。

それらを使って束の呼び出した自身へと向かってくる十六連装のミサイルポッドからの攻撃をいとも簡単に跳ねのける。

その場の全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、言葉を失っていた。

 

「いや~、我ながらいい出来だね~」

 

 ただ一人博士だけは満面の笑みで満足げに笑っている。

 

「さらに紅椿には展開装甲っていう第四世代機専用の特殊ま武装もあるんだよ!『展開装甲』が何かっていうのを説明すると、まず、第一世代っていうのは『ISの完成』を目標とした機体だね。次が、『後付武装による多様化』――これが第二世代。そして第3世代が『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵器の実装』。空間圧作用兵器にBT兵器、あとはAICとか色々だね。……で、第四世代というのが『パッケージ換装を必要としない万能機』という、現在絶賛机上の空論中のもの。

具体的にはいっくんの白式の『雪片弐型』にも同じ使用されてるんだよ!さらに紅椿にはそれが全身についてる!攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第四世代機の目標である即時万能対応機というわけなのだ!」

 

長々と話しているがそれでもこの機体の凄さを説明するには言葉足らないほどなのだ。

そしてそのスペックと性能の恐ろしさに全員が驚愕の色を隠すことはできなかった。だが、

 

 

「織斑先生ー!!たっ、大変です!!」

 

 

唐突に真耶の声が響き渡り、千冬の方へ駆けていく。

普段慌てている真耶であるが、今回ばかりはその慌てようが普通ではなかった。

 

「こ、これを!」

 

息を切らしながら小型の端末を千冬に渡す。

千冬はその端末を見ながら顔を曇らせる。

 

「特命任務レベルA…現時刻より対策を始められたし…。

テスト稼働は中止だ!専用機持ちにはやってもらいたい事がある」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「では、現状の説明をする」

 

 

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷のとある一室に、専用機持ち全員と教師陣が集められた。

照明を落とされた薄暗い室内に、ぼうっと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる

 

「約二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』…通称【福音】が制御化を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

一夏は現状の深刻さを受け止めきれずに戸惑っていたが他のメンバーはとても険しい顔つきになっていた。

国家代表候補生ともなればこのような事態を想定したシミュレーションをこなしてきたこともあり、どのように対処するべきかを冷静に考えていた。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過する事がわかった。時間にして五十分後。学園上層部の通達により我々がこの事態に対処する事になった。

教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 暴走したのは第三世代型、それも軍用だ。今ここにある、ろくな装備もない訓練機で抑えられるものではない。専用機持ちが駆り出されるのは当然と言える。

そして全員の目は一層険しくなる。先の話からすると教員からの援護は絶望的と判断してもいいからである。

 

「それでは作戦会議を始める。と、その前に何か質問がある者は居るか?」

 

「教官、質問をよろしいでしょうか…」

 

「なんだ」

 

ラウラが手を挙げ質問をする。

 

「何故専用機を持たない嫁…帝がここにいる理由を聞かせてください…」

 

「他の生徒の中で最も搭乗経験が多く、優秀だからだ。三葉には『打鉄』に搭乗して戦ってもらうやもしれん。だが、それはあくまでお前達がやられた時の最終手段だと思って構わん」

 

「…了解しました」

 

次に手を挙げたのはセシリアであった。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「わかった。ただし、これは二カ国の最重要機密だ。消して口外をするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年間の監視が付けられる」

 

「了解しました」

 

全員の前に様々なデータが記載されたディスプレイが投影される。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね。

さらにこの速射性はかなり厄介…」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。そのうえスペック上ではあたしの甲龍を上回っているから向こうの方が有利……」

 

「この特殊武装が曲者って感じがするね。丁度本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかし…このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルもわからん。教官、偵察は行えないのですか?」

 

お互いがお互いの意見を交わし合い、【福音】に対する適切な対処を考える。

 

「無理だ。目標は今も尚、超音速飛行を続けており、最高速度は時速2,450キロを超えている。偵察は不可能だ。アプローチも、恐らくは一回が限界だろう…」

 

その言葉を聞いた一同はこの案件がかなりの高難易度であることを自覚した。

 

「一回きりのチャンス……という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体であたるしかありませんね」

 

真耶のその言葉に全員が一夏を見る。

 

 

「…え?」

 

 

「あんたの零落白夜で落とすのよ…一夏」

 

「それしかありませんわね…ただ問題は…」

 

「どうやってそこまで一夏を運ぶか…だね」

 

「…エネルギーは全部零落白夜に使わないといけないから…移動をどうするか…」

 

「その上、目標ISに追いつける速度でなければならない。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

各々が真剣にどうするかを話し合う中、

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか!?」

 

「「「「「「当然!」」」」」」

 

全員の声が1つになる。

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないのなら無理強いはしない」

 

一夏は少しだけ考え、この作戦に自分がどれだけ重要であるかを自覚した。

 

「やります。俺がやってみせます!」

 

覚悟を決めた顔で、一夏は千冬に返事をする。

 

「よし。それでは、作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度がだせる機体はどれだ?」

 

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

専用機などのISにはこの『パッケージ』というものが存在する。あらゆる状況に対応するために、機体の機能や性質を変化、底上げし、様々な作戦に逐次対応できるようにするためのものだ。

 

「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は何時間だ?」

 

「20時間です」

 

「うむ。それならば適任ーーーー」

 

だな。その言葉を言う前に、千冬は先程のことを思い出した。

 

「いや、待て。篠ノ之…」

 

「え?」

 

不意に名前を呼ばれて動揺する箒。周りも、「何故箒?」といった表情を浮かべていた。

 

「篠ノ之…お前の紅椿のスペックで超音速飛行は可能か?」

 

「え?た、多分可能ですが…まさか私が!?」

 

「ああ、紅椿ならパッケージのインストールをする必要はない。時間は一刻を争うのだ。責任は私が取る。他のメンバーは万が一【福音】が防衛線を突破してきた場合に備えてフォローする準備をしておけ!」

 

セシリアは箒に作戦を任させるときいて抗議をしようとしたが「一刻を争う」という千冬の言葉を聞いて発言することは無かった。

 

「よし、では本作戦では一夏・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は三十分後。全員、直ちに準備にかかれ」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

時刻は十一時半.

七月の空はこれでもかとばかりに晴れ渡り、容赦のない陽光が降り注いでいる。

砂浜で一夏と箒はわずかに距離を置いて並んで立ち、一度目を合わせてうなずいた。

 

「来い白式」

 

「行くぞ、紅椿」

 

二人の全身が光に包まれ、ISのアーマーが構成される。

それと同時にPICによる浮遊感、パワーアシストによる力の充満感とで全身の感覚が変化していくのが理解できる。

 

「じゃあ箒、よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回は特別だぞ?」

 

コク

 

一夏は頷き、箒の上に乗る。

作戦上、【福音】に対して全エネルギーをぶつけなければならないため、移動のエネルギー消費を抑えるべく、一夏は箒の背に乗る形になる。

 

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろう?」

 

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちも言っていたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない。十分注意をして───」

 

「無論、わかっているさ。ふふ、どうした?恐いのか?」

 

「そうじゃねえって。あのな、箒───」

 

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

「……」

 

慢心

 

今の箒の状態を表すならばこれほどかみ合った言葉はないだろう。

最新型の機体を授けられているから?剣道の全国大会で優勝するほどの実力を持った自分が専用機を与えられたから?機体が現状最高スペックの機体だから?その全てが上手く絡み合い、箒は慢心してしまっている。

その証拠に命懸けの作戦でもあるというのに箒の声には喜色が混じっていた。

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

ISのオープン・チャンネルから千冬の声が聞こえ、二人はうなずいて返事をした。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『いや、無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、なにかしらの問題が出るとも限らない。お前が戦闘に介入するのは一夏が落とされた時だけだ』

 

その言葉に箒はむっとする。

自分が邪魔になると思われているために、少し不機嫌になった。

 

『織斑…』

 

一夏に個別(プライベート・)通信(チャンネル)で千冬から通信がきた。個別通信であるが故に、箒には二人の会話は聞こえない。

 

『どうも篠ノ之は浮かれている。あんな状態ではなにかを仕損じるやもしれん。いざというときはサポートしてやれ』

 

『わ、わかった!』

 

一夏の返事を聞き、千冬はチャンネルをオープンに切り替える。

 

『では、作戦開始ッ!!!』

 

 

ーーーー激戦の、幕は開けるーーーー

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「始まった…」

 

静かに、ただ静かに呟く。

呟いたのは篠ノ之 束、場所は静かな林の中、木々が陽の光を遮り辺りは薄暗く、束は空間投影型のディスプレイで今まさに出撃しようとしている箒と一夏を見ていた。

 

「篠ノ之 束博士…」

 

不意に後ろから声が聞こえる。

澄んだ、耳に残る、だが決して不快ではない美しい声。

 

「みっくん…」

 

「教えてください。貴女が「久しぶり」といった意味を、貴女は僕が知らない何かを知っているんでしょう?」

 

その質問に、束は真っ直ぐ向かい合って三葉と対峙する。

 

「うん。知ってるよ?みっくんが知らない事、

 

 

みっくんの記憶(・・)の事を…」

 

束はゆっくり、ゆっくりと三葉に近づく。

それは、

 

 

ーーーー帝の負った代償(ペナルティ)ーーーー

 

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