申し訳ない。
『帝ー?あんまり遠くへ行ってはダメよ??』
『はーい!』
トテトテと可愛らしい足音と共に走る子供が居た。
『こらこら帝?あんまり走ったら転ぶぞ?』
辺り一面のコスモスの花畑、その場に居たのは仲の良さそうな夫婦と幼い少年が一人。
◇◆◇◆
「ここは…」
いつの間にか三葉が居たのは、先ほどの林の中とは打って変わり、満天の星空を写し出す夜空、果ての見えない草原であった。
「よぉ、初めましてか?」
「っ!?」
不意に声を掛けれられ、振り返ると、そこには…
「僕?」
そこに居たのは、紛れもない、帝自身だった。
◇◆◇◆
木々に囲まれた林の中、束は目の前にある紅と白の丸い卵のような鉄の塊を見つめていた。
「束…」
束の横から千冬が声を掛けるが、束が千冬の方を向くことは無く、ただ目の前の鉄の塊を見つめるばかりであった。
「…みっくんと出会ったのはね?ちょうどIS作りに行き詰まってた時だった…。どうしてもコアの自律進化プログラムが完成しなくて、途方に暮れてた」
◇◆◇◆
私は息抜きに自分の部屋から出て散歩でもしようと思ったんだ。
生活サイクルが完璧に変化していたことにすら気付かなかったから外はすっかり夕方になってた。
久しぶりに歩く外は、私にとって初めて歩く道のように感じられた。今まで周囲に目なんか向けなかったからっていうのもあるかもしれない。
(う〜ん、何がいけないんだろう…プログラムには問題無いはずなのに、なんで進化のスピードが変わらないのかなぁ…)
完成しないのなんて当たり前だよね。今なら分かる。だってその時の私は周りのことなんて考えてなかった。人の気持ちがわからない人に人を超えるものなんて作れるはず無いもんね?
(はぁ…あとはコアプログラムだけなのに…。
ん?何あれ?)
その時私は、たまたま通り掛かった公園でとってもイヤなものを目にした。
「やーい親無しー!」
「親無しのくせに学校くんじゃねーよ!」
「お前のせいで両親死んだんだろ〜?」
「厄病神〜!」
「………」
ランドセルを背負った少年達が寄ってたかって同じようにランドセルを背負った一人の少年を取り囲んで、罵声を浴びせていた。
(胸くそ悪いなぁ…)
その時は、虐められてる子供の事なんてどうでも良かった。それでも、箒ちゃんといっくんと同じくらいの歳の子供が虐げられているのは見ていて気持ちの良いものじゃなかった。
そうして見てるうちに私は同じように親が居ないいっくんとちーちゃんの事を思い出してしまった。
そう思ったらどんどんイライラしてきて、あの子供達を全員消し炭にしたくなってきてしまった。
だけど、ふと気付いた。
(なんで何も言い返さないの?)
虐められてる子供は言い返すでも襲いかかるでもなく、ただ立っていた。
「………」
そんな少年の態度を面白く無いと思ったのか、リーダー格であろう子供が少年に殴りかかった。
「なんだよ!何黙りこくってんだ!」
リーダー格の少年の小さな握り拳が少年の小さな頬に当たる。
ドカッ
「どうした!悔しいなら殴り返してこいよ!」
「………」
だが、少年はすぐさま立ち上がり、子供達に言い放つ。
「…僕は…君達みたいに他人の不幸を笑って楽しむ人達には絶対負けない。いくらでも殴るといい…だけど、どれだけ君達が僕を殴っても僕は君達を恨む事もしないし馬鹿にする事もない。
僕に親が居ないから何?だったら馬鹿にして良いの?違う!
僕が何も言わないから殴って良い?
違う!」
真っ直ぐな目で子供達を見るその瞳に、未来を見通すようなその眼差しに、私は目を奪われた。目を離せなかった。
「っ!い、行くぞお前ら!」
「え?ようくん!?」
「待ってよ!」
子供達はリーダー格の少年が走って逃げていくと、少年を追って走っていった。
その男の子の目を見て、私はその子に興味を持った。
「ねぇ…」
「………」
私が話しかけると、その子はこっちを見た。
幼いながらも端正な顔立ちで、吸い込まれるような黒い瞳に、私は釘付けになった。
「君、名前はなんて言うの?」
「……………三葉……帝………です……」
恐る恐るといった風に自分の名前を口にする男の子は、あからさまに私を警戒していたけど、私はそんなこと気にしなかった。
「そっか…私は篠ノ之 束…よろしくね?」
それが、みっくんと私の出会い。
◇◆◇◆
「お前と三葉が昔に出会っていたとはな…」
腕を組み、束を見ながら、千冬は考える。
「お蔭で私はコアを完成することができた。あの時…私は人間の強さ、弱さ、醜さ、美しさを同時に感じられた」
「そうか…では何故、帝はそのことを覚えていないのだ?
会ったのが一度だけならともかく、お前の口ぶりからすると、何度も会っていたようにも聞こえるぞ?」
千冬の問いに、漸く振り向いた束は口を開く。
「それはね?みっくんの身体が原因なんだ」
「身体?」
「そう…ちーちゃんはおかしいと思わなかった?
みっくんの異常な強さに、
ISを生身で再起不能にして、
人間二人を担いで全力疾走するなんて、
遠心力でかなり危険な100キロ越えのサンドバックを悠々と殴り返すなんて、
「………」
千冬も薄々気がついていた。
自惚れるつもりはないが、千冬は身体能力だけでも世界トップクラスだと自負している。
その自分の本気を、まるでウォーミングアップの代わりとばかりにいなして来る三葉は異常だと、そう思っていた。
「みっくんはね?
人類を越えた存在なんだ…」
三葉には人類という枠組みから外れた身体能力、思考能力があった。だが…脳は違った。
思考速度、視力、動体視力を上げるために脳の血圧が高くなり、
身体能力を上げれば筋肉に伝達させられる電気信号が強くなる。
それを“普通の脳”が耐えられるだろうか?
それが人間の耐えられる領域内ならばなんら問題は生じなかっただろう。
だが、三葉は能力は人類という枠組みの外側の領域なのだ。
結果、極度の負担に耐えられず、記憶野にまで障害が生まれる。
脳と身体のスペックの違いで生まれる障害は、本人でさえ、気づくことができなかった。
「みっくんは過去を振り返ることができなくなった。
思い出を…閉じ込めることになった
その上記憶を失ったことすら自覚できない」
千冬は、その言葉を聞いて事の真相を理解した。
「学園にある訓練機を遠隔操作して、なんとか記憶を戻そうとしたけど…結果は散々だったよ…。
思い出せたのは部分的で曖昧な記臆…みっくんは、それが誰の記臆なのか…どんな記臆だったのかすら思い出せなかった」
「それでこの専用機を作ったのか…」
紅と白の蕾は、ただ静かに佇むのみ。芽吹く時を待って、ただ待つのみ。
「みっくん…」
◇◆◇◆
「んで?ちゃんと思い出したのか?自分の記臆ってヤツは」
自分と同じ顔をしている目の前の人物、ここが現実ではないと自覚している三葉には、彼が自分自身だという事はなんとなく理解できた。
自分とは違い短めに切った髪、気だるそうな顔、自分とは対照的な自分に、三葉は若干戸惑っていた。
「さっきので思い出したんだろ?」
「…はい。思い出しました。父の事、母の事、叔父の事、叔母の事、全部…」
次回で最終回になってしまいます!
少し早いですがこの作品を読んでくださって本当にありがとうございます!
お聞きしたいのですが番外編や外伝を投稿する時はまだ連載で良いのでしょうか?それとも簡潔にしておいた方が良いのでしょうか?