その日は、雨が降っていた。雨雲が日の光を遮り、佇む二人の人影を濡らし続ける。
『帝…。あなたは誰よりも強くなりなさい…。こんな残酷な世界に負けないで…戦い抜いてね?そして誰かを助けてあげて?それが
悲壮感の漂う横顔…。黒い喪服を纏い、シトシトと降る雨の中を、傘も差さずに涙を流す女性が居た。
三葉
【三葉家ノ墓】
そう彫られた墓石の前で、声を上げながら泣く幼い帝とただ涙を流し続ける志那達のことを誰も知らない。
(誰だっけ…あの時死んでしまったのは…。
なんでだっけ?あの時悲しんだのは…)
それは思い出せない記憶。
失われた…代償。
◇◆◇◆
IS学園
「まったく。なんなのよここは!どこよ『総合事務受付』って!この案内表も訳わかんないし!」
何やらヒステリックに喚き散らしているツインテの少女を見つける三葉。
「どうかしたんですか?」
「ん?」
そこにたまたま通りかかった三葉が、ツインテの少女に声をかける。
「ねえ、あんた。三葉 帝でしょ?ちょっと案内してくれないかしら。私、今日ここに来たばかりで道に迷っちゃったのよ」
「良いですよ?ただし『総合事務受付』につくかどうかは運次第ですよ?」
「は?なんでよ?あ…もしかしてあんた方向音痴?」
「はい!」
「清々しく言うな!!」
それが三葉クオリティである。
「取り敢えず職員室行きましょう。あそこ行けば大抵のことはなんとかなります」
「投げやりね〜?ま、いいけど」
そんなこんなで二人は職員室に向かって歩き出す。
「そういえば名前を聞いてません!!」
右手を左手のひらの上にポンと置き三葉は思い出したように言う。
「ああ、私は鳳 鈴音、鈴って呼んで?私も帝って呼ぶから」
「はい鈴さん」
「ねえ、あんたって格闘技滅茶苦茶強いんでしょ?」
それは、鈴の何気ない一言。好奇心から来る、思いつきで放った言葉。
「ええ、強いですよ?なんなら闘ってみますか?格闘技でも、ISでも」
「?!?!?!!!!!!」
空気が一瞬で変わる。先ほどまでの朗らかな雰囲気はなく、ピリピリと張り詰める緊張感と、体にのしかかる程の圧倒的プレッシャー、目の前に居る高身長の青年が、まるで巨大な山のようにすら見える存在感。
この瞬間、鈴は悟った。
挑めば間違いなく、死ぬ。それほどのことを覚悟せねばならぬほど、三葉が出している威圧感は、2年ほど前まで単なる一般人であった鈴には濃すぎた。
だが、実際に三葉が出しているこのプレッシャーは、空手や格闘技の大会で男子の殆どが放つものだ。
何故ただの一般人である彼らが、これ程まで濃い威圧を放てるのか。それはISにより生まれた女尊男卑思想に問題があった。
ISを動かせる女性が、ISを動かせない男性を虐げる風潮は、子供の世界にも深く浸透している。
何か成し遂げなければ虐げられる。
無能ではないと実績を残し証明すれば自分は何もされない。
そのような風潮が確かにあった。そのため、大会に進出する男子の殆どはそのために大会に出て、実績を残すために、穏やかに過ごすために、死に物狂いで大会で戦い続ける。
女が知らないところで、男は命を懸けている。女性のせいで、女性に虐げられないために。
「や、やめておくわ」
冷や汗を流しながら、鈴は三葉と自分の力量差を見極めた。
「そうですか…。あ、あれが職員室ですよ?」
「そ、そう。ありがとね?じゃああんたも授業に行ったほうがいいんじゃない?」
「はい、ではお先に失礼します」
そう言いながら三葉は鈴から離れていく。しかし、鈴が職員室のドアノブに手をかけようとすると…
「あ、鈴さん」
「ん?なによ」
「いつか試合、しましょうね?」
その目は、血に飢えた獣というよりは、君臨する強者の目をしていた。
「ええ、その時はお互い全力で戦いましょう」
鈴は少しだけ勘違いしていた。相手はISの搭乗経験の少ない一般人。ISなら自分は負けないだろうと、だが、それは余りに浅はかな考えであった。
◇◆◇◆
「ねぇねぇ織斑君知ってる?二組に転校生が来るんだって」
「え?そうなのか?」
かつては一夏を遠巻きに見ていただけで話しかけても来なかった女生徒たちも今では普通に話しかけるほどの仲発展した一夏であるが、それでもやはり女だらけの環境では精神的にキツく。早くもう一人の男性操縦者である三葉 帝に早く会いたくて仕方なかったのだ。決してホモではない。
(でも、どうやっても会えないんだよな〜。なんでだろう)
そう、一夏は一度として帝に合うどころか見たことすらないのだ。
一夏と帝はクラス代表としての責務があり、その上一夏は放課後に真耶による補習、そして箒による剣道の訓練などで、帝に会うことすらできなかった。もちろん時間を作っては帝に会おうと頑張ったのだが、たまたま帝との都合が合わず会うことはできなかった。
「それにしても転校生かぁ…まだ四月だぞ?」
「なんと!その転校生は中国の代表候補生なんだって!」
「へぇー、それってなんか凄いのか?」
相変わらずアホの子である。
「いいですか一夏さん?そもそもこの時期に転校してくるということ自体がおかしいということは理解できますわよね?」
「ああ、まだ入学してから二週間しか経ってないしな」
「ええ。そして代表候補生と言うからにはISのことを学ぶことに最も適している、ここ学園に入学式から居るのが普通なのです」
「ふむふむ」
「それをわざわざ蹴っておきながら再度ここに転入してくる…。そしてここの転入試験は一般試験よりも遥かに難関なのです」
「ということはその中国の代表候補生は凄いってことか?」
「はい」
ようやくセシリアの説明が終わり、空気を読んで黙っていた周りも喋り始める。
「でも専用機持ちはオルコットさんと織斑君、それと四組の代表候補生だけだし」
「それに四組のはまだ完成してないらしいしね?」
「勝てる勝てる。これでフリーパス頂きだね」
と、周りが和気あいあいしている中、セシリアは先ほどの会話をしている女生徒達の発言がどれだけ愚かなのかを説明しようとした時ーーーー
「ーーーその情報…古いよ」
教室の入り口から先の話に出てきた中国の代表候補生 鳳 鈴音が現れた。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
「鈴……? お前、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日はあんたに宣戦布告に来たってわけ」
ふっと小さく笑みを漏らすと、彼女のツインテールが揺れる。
「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ!?言うに事欠いてなんてこと言うのよアンタは!」
親しげに話す二人にクラスの全員は呆気らかんとしていた。
「おい」
「なによ!せっかく一夏と久しぶりに話し…てる…の…に…」
「ほぉ、それはすまなかったな?だが、貴様は教師にそんな態度をとって良いとでも…
思っているのか?」
「え?あ…あの〜」
バシィィンッ!!
かけられた声に鈴が反応すると、出席簿が叩き込まれた。―――我らが鬼教官登場である。
全員叩かれたくないばっかりにアスリートもビックリの速度で席に着いていた。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻らんか、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「は、はい……」
先程の元気はどこへやら。意気消沈した鈴はそそくさと自分の教室へ戻って行く。
「全員席に…着いているな。ではSHRを始めるが、貴様ら先ほど面白い会話をしていたな」
クラス全員が頭に?マークを浮かべる。
「専用機がいるから勝てる…か。ずいぶんと上から目線な物言いだな」
その言葉に数人の生徒がドキリとした。
「機体だけが勝利の条件ではない。機体にだけ頼っていては試合になど一生勝てん。勝ちたければ努力しろ。出来ないことを克服しろ。課題を見つけ出せ。いいのか?四組代表は専用機を完成させつつあるぞ?」
その言葉にクラス全体がざわつく。
「静かにしろ‼︎いいか、いつまでも自分達が優位な条件ではないと理解しろ。言っておくがお前らがのうのうとしている間に三組代表は操縦技術を磨き、実力を付けていっている」
千冬に喝を入れられ、全員が自分がどれだけ天狗になっていたかを理解する。
◇◆◇◆
昼休み
「なあ箒、三組代表って三葉って奴のことだよな?」
「ああ、言っておくが三葉はお前が想像している何倍も強いだろう。この前訓練している所を見ていたが、一夏の操縦技術と三葉の操縦技術では天と地ほどの差がある」
二人は食堂に向かいながら帝について話し合う。
「え!そんなにか!」
「ああ、今のままでは貴様は刹那の内にやられるだろうな」
「でも専用機じゃないんだろ?」
「はぁ、一夏、織斑先生の話を思い出せ。機体で有利だからといって必ずしも勝てるとは限らないんだぞ?確かに専用機があれば少しでも強くなれることには変わりないが…」
話していると食堂に着く。
「待ってたわよ!一夏」
後ろにドーンと効果音が付きそうな勢いで一夏と箒の正面に仁王立ちしている鈴が居た。
「何してんだよ鈴」
「何ってあんたの事待ってたんじゃない」
「そこに立ってると邪魔だぞ?」
「う、分かったわよ」
鈴は渋々道を空け箒と一夏が食券を買い、頼んでいたものが来るのを待った。
「にしても、久しぶりだな!鈴、おばさんは元気か?」
「まぁね?それにしてもあんたがIS動かしたって聞いた時焦ったわよ。思わずラーメン吹き出しかけたし」
ここで吹き出さないのは乙女の意地である。
「ん?あれって…帝!」
「え?!三葉?!本当か?」
一夏が探してやまなかった人物がそこに居た。
「あれ?鈴さん?どうしたんです?」
その手にあるのは
親子丼 特盛チャーハン 肉厚ステーキ キツネうどん
この4品が乗った特大のトレイである。
「あんた…よく食べるってレベルじゃないわよ?もうそれ大食い選手とかが食べる量じゃない…」
「お昼はこのくらい食べなきゃもたないんですよ」
「そう…」
因みに一夏は朝多めに食べてよる少なめに食べるという生活リズムを持っているが
三葉の場合、
「ちゃんと朝しっかり食べて、お昼はしっかり蓄えて、夜もしっかり食べるんです!」
が一日の生活リズムである。その量で他の生徒と同じ時間に授業を受けるのだから三葉の胃袋がどこに繋がっているのか調べた方がISの研究より現代科学の進歩につながりそうである。簡易四次元ポケットとか。
「えっと、初めましてだな。俺は織斑 一夏、数少ない男子なんだからこれから仲良くやっていこうぜ!!」
手を差し出してくる一夏。
明るい笑顔、優しい雰囲気。どれを取ってもイケメンな彼の雰囲気に食堂に居た女子の何人かは見惚れていた。
だが、三葉が抱いた感情は全く別のものだった。
(才能はある、それはあの試合を見てて分かりましたが…随分と覇気が無い人ですね〜、覇気が無いというよりかは野心が感じられません。剣道経験者と聞いたんですが、武道をしていたというより久しぶりにやり始めたという感じですね…。いずれにしても、僕が闘ってきた人達にはいないタイプです。でも、ライバルにはならなさそうですね)
三葉はそっと、期待していた一夏をライバルになるかもしれないリストから除外した。
(自惚れるつもりはありませんが、野心が無い人では僕には勝てません)
三葉はトレイをテーブルの上に置き、微笑みながら一夏の手を握り、握手を交わす。
「はい。これから良き
「一夏でいいよ。俺も帝って呼んでいいか?」
「ええ、構いませんよ?」
爽やかなオーラが辺りに撒かれる。
「ねえねえ、アレ!」
「織斑君と三葉君?!握手してる!!」
「まさか一夏×帝?」
「いやいや帝×一夏でしょ」
「いや!帝×一夏+触手よ!!」
「「「「「それだ!!」」」」」
腐女子はどこにいてもいつの時代でも現れる。それが世の常、それが自然の摂理。
「……すまん」
「……気にしないでください」
「とりあえず座んなさいよ。帝も一緒に食べましょうよ」
「良いんですか?」
「「「もちろん(かまわん)」」」
「じゃあお言葉に甘えますね」
4人は楽しげに話しながら食事を始める。
セカンド幼馴染だのファースト幼馴染だのそんな話をしながら食事をする。
因みにセシリアと簪はクラスメイトと食事をとりながら遠巻きに三葉のことを見ていた。
「あ、ねぇねぇそのチャーハン少しだけくれない?」
「良いですよ?」もぐもぐ
三葉が食べていたチャーハンを鈴が欲しがり、使っていたレンゲにチャーハンを掬って鈴に渡す。
ガタタッ
数メートル先の二つの席で女生徒が立ち上がった音である。
ついでにチャーハン完食
「美味いわね〜」
「ほんと鈴は中華ばっかりだなぁ」
「良いじゃない別に…」
「ほんとに仲良しですね〜」もぐもぐ
親子丼完食
「でもあんたがクラス代表ねぇ、大丈夫なの?」
「何がだよ…」
「ちゃんと操縦できんの?」
「最近はなかなか出来るようになってきたんだぞ?」
「へぇ、じゃあさ、私が一緒に教えてあげよっか?」
コレは一夏に急接近するチャンスとばかりに迫ろうとする鈴、
肉厚ステーキ完食
「結構だ、一夏には私が教える事になっている」
しかし、恋敵である箒が邪魔をする。
「あんたより代表候補生である私の方がうまく教えられると思うけど?」
「貴様は二組の代表だろう?敵からの情けは受けない」
「お、おい、箒…鈴…」
キツネうどん完食
「ふぅ、ご馳走様でした…」
「「「「「「「早っ!!!!」」」」」」」
手を合わせ合掌した三葉に鈴達だけでなく周りで見ていた生徒達も思わず突っ込む。
いやーおかしいですね
新人ランキング18位とかだったですよ?変だね表情筋が思わずつり上がります。
感想とか是非是非お待ちしております。因みに一夏アンチではないです。
応援下さってる読者の方や、自分の小説を呼んでる友人には感謝の思いが絶えません。