俺の嫁(ゲーム内)と幼なじみが修羅場すぎるinデスゲーム 作:へーきち
目を開く。そこは現実世界と見間違うほどの精巧な異世界。道端の小石から遠くの山まで、何もかもがリアルにそっくりだ。
「来たんだ……!ついにSAOの世界に来たんだ!」
これが仮想世界か。キリトから話には聞いていたけど、まさかここまでの再現度とは。本当、買ってくれた母親には感謝だな。
辺りを見回すとどこもかしこも美男美女。やっぱりみんなそういうアバターを作っているみたいだ。まあ、俺もだけど。
と、誰かを探すようにキョロキョロ辺りを見ながら歩く1人のプレイヤーを発見。たぶんあれがキリトだろう。根拠はないけど、幼馴染のことぐらいわかる。
「よお、キリト」
「あ、カノ、カノン⁉︎」
キリトと思わしき人に声をかける。どうやらキリトで間違いないみたいだ。すると、キリトは予想通り驚いた表情を見せる。まあ、当然だろう。だって今の俺は……。
「か、カノン女性プレイヤーにしたの⁉︎」
「おう」
そう、今俺は絶賛ネカマプレイ中。だってさ、ほら。カノンって名前って女の子っぽくもあるだろ?だから少しこれでやってみたくなったのだ。
気に入っている茶色の瞳はそのままに、顔を全面的に改変。テレビでよく見かける美人モデルさんのような感じに。髪の色は茶色で、髪型は
「というか、キリト。お前も人のこと言えないだろ。何だよ、その超イケメンアバターは」
そう、キリトも自分の性別とは逆のアバターを作っている。しかもイケメン。俺なんかへでもないくらいだ。キリトってこういうのが趣味だったのか……。少し髪を伸ばしたイケメン。なんかいかにも今風の若者みたい。チャラくない?
「ち、違う!私はただカノンと一緒にいてものに不自然でないようにしようとしただけで!」
「またまた〜、どうせかっこいいのに憧れていただけなんだろ?」
「……違うのに」
キリトがジト目で見てくる。ふっ、だがな。普段の女の子のキリトにそんなジト目をされちゃ、すぐに謝っちゃうけどそんな好青年にされてもちっとも反省なんてできないね。むしろ少し優越感を感じる。俺がこいつより優れてるぜ、みたいな?
「さ、そんなことより早くフィールドに行こうぜ!キリトから話を聞いてたから早くソードスキルを使ってみたくてたまらないんだ!」
「しょうがないなぁ〜。よし、行こう!まずは武器屋で武器を買おう!」
本当は自分だって早く戦闘したくてウズウズしていたくせに、こういう態度をとるところが可愛い。だからその分、こいつがネナベをしているのが少し残念。
「ほら!こっちこっち!」
手招きしながら広場の外へと走っていくキリトを追いかける。そのまま賑わう街を駆け抜けていく。
「おーい、そこのカップル!」
へえ〜、カップルなんているのか。このソフト、店頭に並ばないと買えないくらい人気だったのに2人でゲットか。一緒に並んだのかな?羨ましい。俺もいつかそんな相手が欲しいな。
「なっ⁉︎何で逃げるんだよ!お前らだよ、お前ら!そこの茶髪ロングの美人さんと蒼髪のイケメン!」
「あ、俺ら?」
心当たりのある人物像だと思ったら、俺らのことみたいだ。でもカップルって言ってたよな?俺とキリトは別に付き合ってもないし。
振り向くと赤い髪を伸ばしさらに赤いバンダナを巻いた男。そんなに赤が好きなのか?それともあれか、戦隊モノの真ん中のレッドに憧れているのか?
「何か用?」
立ち止まったキリトがその男に要件を尋ねる。
「その迷いのない走りっぷり!お前さんたち、βテスターだろ?」
「あー、キリトはそうだけど。お、私は違うよ?」
俺と言いかけて言い直す。そうだ、俺は今女性プレイヤーとしてやっているんだった。面倒くさいな、これ。やっぱりこんなことするんじゃなかった。キリトはβテストの時からそのアバターでやっていたってことだよな?後でコツでも聞いておくか。
「そうか。じゃあここで一つ頼みがあるんだ!ここで会ったのも何かの縁。ってことで、序盤のレクチャーをしてくれないか?」
「え?えっと、それは……」
キリトがちらりとこちらを見る。あ、俺のことを気にしてくれてるのか。
「私は構わないよ?旅は道連れ世は情けって言うしね」
ついでにウインクなんかもしてみせる。我ながら何という演技力。赤バンダナの男が顔も赤くする。そんなに可愛かったか、そうかそうか。ふっ、でも残念だったな。実は俺は男なんだよ!
「まあ、カノンが良いなら……」
渋々といった感じで受諾するキリト。何がそんなに不満なんだ?俺にレクチャーしたときはあんなに生き生きしていたのに。それもすべて仮想世界の話を架空の想像上で行うというハイレベルな営み。おかげさまで俺の想像力は限界突破、妄想力に生まれ変わったのだ。いや、本当毎晩毎晩床につくたびに自分が剣を振ったキリトから聞いたモンスターを屠る姿を妄想しまくった。
「あ、私はカノン。こっちは」
「……キリト」
「おう、よろしくなカノンさん、キリト。俺はクライン」
「よろしくね、クライン。じゃあ早く武器屋に行きましょ!」
「おー!」
「……おー」
*
「うぐわっ⁉︎こ、股間が……!」
突進してきた青い猪、フレンジーボアの一撃を見事に股間に喰らったクライン。この世界に痛覚はないにも関わらず、凄い痛がっているところが見ていて面白い。というより、女性プレイヤーがいるのにそういう態度を取るんだな。これはよくあるモテない主人公の友達系の人なのかもしれない。
「SAOに痛覚はないから……」
少し嫌そうな顔をしながら指摘するキリト。あーあ、そんなイケメンアバターじゃなかったらきっと可愛いんだろうけどなぁ。
「カノン、クラインに手本を見せてやってよ」
「はいはい」
武器屋にて購入した武器はキリトが片手直剣、俺とクラインが曲刀である。フィールドに来てもうだいぶ時間が経つが、未だにクラインはソードスキルを使えないらしい。
先ほどクラインに突進したフレンジーボアの前に立ち、その場に落ちていた小石を拾う。投剣スキルの《シングルシュート》を放つ。システムアシストもあり見事にフレンジーボアに的中、猪はこちらへと突進してくる。
「いいか、クライン。カノンをよく見て。ソードスキルに大切なのはモーションや溜めなんだよ」
視線を感じる。途端に緊張してくる。そんなに見るなって、マジで手汗がヤバい。汗ばんだ手で握った曲刀を振るも、それは滑ってすっぽり手から抜ける。あ、やばい。
目の前まで迫ったフレンジーボア。ぶつかると思った瞬間にはすでに体は宙に浮いていた。青い空、白い雲。そして緑の草原。
「痛っ!」
頭から地面に落ち、痛くもないのについそう声を出してしまう。視界の端に表示されているHPバーは赤く染まっていた。今までのダメージが蓄積され、ついにレッドゾーンまできたみたいだ。
「くそっ、この猪め!よくもカノンさんを!」
クラインがフレンジーボアに向かって走り、一撃斬りつける。そしてそのまま腰を低く落とし、曲刀を構える。その武器は光を纏って、
「どりゃあっ!!」
クラインがソードスキル《リーバー》を放った。光跡を残しながらフレンジーボアへと突進したクラインはそのモンスターを切り裂く。仮想世界のデータであるモンスターはその体をポリゴン片へと変える。
「うおっしゃああああああああ!!」
ガッツポーズをするクラインに俺とキリトは苦笑する。だって、なあ。
「クライン、おめでとう。スライムレベルの初勝利だよ」
鞘に剣を収めながらクラインに近づいたキリトが告げる。
「え、スライム?俺はてっきり中ボスかと……」
「なわけたわけ。あそこ見てみろよ」
俺が指さした方向にはフレンジーボアが新たに出現している。それにこんな弱いのが中ボスとかそんなゲームあるか。赤までHPを削られた俺が言えることじゃないけど。
「ん?カノンさん、口調が変じゃないですか?」
「え?あ、そうだった?」
危ない危ない。気を抜くとすぐこうだ。次からはもっと気を付けねばなるまい。
「もうこんな時間か。クラインはどうするんだ?俺とカノンは
え、続けるの?しかも俺の意見聞かないで決めたよね?
「もっちろん!……って、言いたいんだがあいにくピザを注文しちまってたな、一旦落ちるわ」
気の所為だろうか、一瞬キリトが眉をピクつかせた気がする。しかしすぐに笑顔を見せる。やっぱり気の所為みたいだ、うん。
しかし一旦俺らに背を向けたクラインはすぐに振り向き、
「あ、フレンド登録しねえか?別に無理にしてくれとは言わねえけどよぉ。それにあれだ、他のゲームで知り合った奴とこの後《はじまりの街》で落ち合う約束してんだ。2人も来ないか?」
「あー、遠慮しとこうかな」
「わた、俺も。あまり人付き合いは得意じゃなくて」
不登校気味の引きこもり中学生キリト。そんなキリトとその妹など、ごく少数の人としか友好関係を築いていなかった俺。そんな俺たちには、ゲームの世界だといえど知らない人複数人と会うというのは高難易度すぎるのだ。あ、そうか。キリトがクラインへのレクチャーを渋々引き受けたのはそういう理由からか。全然気付かなかった。
「そっか……。まあ、今日はありがとよ!また会おうぜ!」
手を出すクライン。握手だろう、たぶん。まさか金出せって要求してるわけじゃあるまいし。
右手を出して握手を交わす。……クラインの顔が少しニヤけていたことには触れないでおいてやろう。
「あばよ!」
キリトとも握手をした後、クラインはキザに手を振るとそのままその右手を振り下ろす。メインメニューかなんかを呼び出す動作だったはず。
「よし、カノン!もっと遠くに行こう!ねえ、いいでしょ?」
「え?いや待ってよ、取り敢えず一旦街に戻って回復するための道具を買わせてくれ」
クラインが帰ったからって急に区長を戻すキリト。俺もなんだけどね。いや〜、やっぱり女子のふりをするって疲れる。本当、後悔は後先に立たないもんだな。
「あれ?ログアウトできないぞ?」
「クライン⁉︎まだいたの⁉︎」
「まだいたってなんだ、酷いな。いやそれよりもだ。ログアウトボタンがないんだよ」
「そんな馬鹿な」
キリトがメインメニューを開き、ログアウトボタンを探す。俺も2人と同じことをやってみる。たしかにない。説明書にはこのメニューの一番下にあったはずなのだが。
「おかしい」
キリトがポツリと呟いた。
「そりゃおかしいだろ。だってログアウトボタンがないんだぜ?」
「あれ?カノンさん?口調がおかしくないですか?」
「そうじゃない。こんな致命的なミスを犯したのに、運営からは何一つ連絡がない。クラインみたいに金銭的に被害を被る人だって多くいるはずだよ」
「あー⁉︎俺のピッツァが⁉︎」
「クライン、少し黙れ」
「あ、はい。……カノンさん?」
たしかにキリトの言う通りだ。こんなことやらかしたら運営会社だってかなりの傷がつく。即座に何らかの対応をしないなんてあるのか?
「普通は強制ログアウトとかがあるはずなんだけど……」
「お、おい!お二人さん!」
「クラインは黙っててよ!」
「体が!体が光ってやがる!」
体が光る?気になってクラインを見ると、たしかに体が光に包まれている。そして、彼は消えた。強制ログアウト?
「っ!カノンっ!」
「えっ?」
キリトの声にそちらを向くと、キリトが俺に向かって手を伸ばしていた。しかし、その手が俺に届く前に、俺は眩しい光に包まれた。