君と僕の物語   作:名無しの執筆者

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どれみ


another episode 「Ⅱ」「Ⅲ」

【another episodeⅡ】

 

 ある日の午後──家の庭で──

 

「やあ、もうお昼かい?」

 

 庭の花壇の手入れをする貴方。

 趣味だと言ってた。

 

「わあ……すごいご馳走じゃないか!」

 

 目をキラキラとさせる貴方は子どもみたいにはしゃいだよね。

 

「ほら、おいでー。あんよが上手だ♪」

 

 ニコニコと笑う貴方。

 それを見て笑う私。

 

「今日は皆が来る日だね!」

 

 久しぶりに会う人達を楽しみに、玄関前でソワソワ。

 

「見て見て! ほら!」

 

 大事に育てた花が咲くと、いつも見せてくれた。

 

「あれはオリオン座。あれは……何座?」

 

 星が好きだけど、少し頼りない。

 

「おやすみなさい。良い夢を」

 

 寝る時のキスが、いつも優しかった。

 

「誕生日プレゼント、何がいい?」

 

 その、ちょっぴりおバカな素直さが好き。

 

「うん、美味しいよっ」

 

 貴方と飲むココアが、私の大切なひと時。

 

「──いつまでも、幸せでありますように」

 

 ある日の午後──家の庭で──

 

「ええ、そうね──重吾」

 

 私を抱く貴方は、いつもと変わらない笑顔で世界の幸せを願いました。

 

 

 

 

 

【another episodeⅢ】

 

 いつも夢で見る。

 血──血を──血を見る。

 彼の血だ。

 ──誰の血だ。

 私が殺した。

 ──解らない。

 

「……」

 

 月が天辺にある。

 また夜更かしだ。

 織斑千冬は酒を傾けた。

 喉を、ピリピリとした感触が刺激する。

 

 まだ克服が出来ていなかった。だから酒に逃げている。

 臭いはしないが、あの時の血の香りは憶えていた。

 酒では払拭できないもの──それが強く残っている。

 

「……はぁ」

 

 後悔はしている。

 けれど間違っていたとは思わない。

 黒兎──あれは討伐すべき存在だった。誰の目から見ても。どの国の視点から捉えても、あれは。

 だからあの篠ノ之 束も頼んできた。

 あれを殺せ──と。

 あれを殺してくれ──と。

 いつもは「知らず」を決め込むあいつでさえ、黒兎の存在は容認できなかったということだ。

 

 だが、それこそが、私の──。

 

 ぶる、と震えが起こる。

 堪らず酒を飲んだ。

 嫌な記憶がまた浮かんできたのだ。

 

「……本当に……駄目だな、私は」

 

 思い出したように、千冬は尻を置く畳に触れた。

 そういえば、この部屋であいつと……。

 自然と笑みが浮かんだ。三日間という短い中で過ごした、ある男との思い出がふっと蘇り、温かくなった。

 千冬はあまり男を知らない。恋をしたことがない。

 けれど、それでも解る。三日間を共に過ごした男──井伊月 重吾という男が、女を虜にする魅力を持った人間だということを本能的に理解していた。

 だが好きにはなっていない。魅力は感じたが、そこはやはり違ったのだろう。彼は素敵だったが、私には似合わない。いや、「私に」ではなく、彼に──だな。

 

「まったく……」

 

 呆れた溜息。

 と、そこで千冬は自分が泣いていることに気が付いた。

 理由は──分かっていた。

 嫌なことを、無意識のうちに思い出したからだ。

 

「すまない……何も、してやれない」

 

 そうだ。

 そうなのだ。

 私は殺した。殺した。

 間違い?──いや、間違いだ。

 後悔?──そうだ、後悔している。

 

 だって黒兎の──黒兎の正体は彼なのだ。三日間を共に過ごした彼なのだ。安らぎを分け隔てなく振りまいてくれた彼なのだ。千冬という女に、初めて魅力を感じさせた──井伊月重吾という男なのだ。

 

「……本当に、私は……」

 

 何度悔やんでも悔やみ切れない。

 重吾を殺した償いの、方法が見つからない。

 納得したのに、解っていたのに、私は──

 

 ──まだ、彼の死を受け入れられていなかった。





思い出す、彼の血。
突き刺した雪片の、真っ赤な刀身。
ああそうか──と。
私は彼のマスクを引き剥がす。
すると彼は、子どもみたいに眠っていた。
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