君と僕の物語   作:名無しの執筆者

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かたまら


第一章
第二十七話 「入学式」


「────では、これで終わらせてもらいます」

 

 言って、壇上でスピーチを終えた男性は、深くお辞儀をしてから左手の幕側にはけていく。

 興味の無い、つまらない言葉の雨嵐がようやく終わり、井伊月重吾は込み上げてきた睡魔に欠伸を漏らした。まだ、終わらないのかな?

 ちらり、と視線を動かし、辺りを見た。そして視界に映る数多の人の群に目を据わらせる。この大きな建物の中に密集する人の殆どは、同年代の女の子ばかりだ。なぜか? それは、

 

(IS学園だからだよ〜ん……)

 

 口元を猫のように歪め、得意げに鼻を鳴らす。その時、横の女子と目線が合い、挨拶代わりに少しだけ微笑む。

 

「……っ!」

 

 するとなんでか、その子はバッと顔を逸らした。

 むむむ、となる。その反応はあんまりだよ。

「……ちぇ」と胸中で呟き、暇潰し探しを再開した。

 

 一夏とは離れ、箒とも離れている。探そうにも数が多い為、見つけ出すことも難しい。それに変に周りを見て、端にいる教師に注意されるのも嫌だ。

 

(あーあ。早く一夏くんと遊びたいなぁ……)

 

 後ろで組む手を組み替えたり、足を動かしたり、その場で出来る暇潰しで何とか時間を過ごしてみる。しかしどこからか強めの咳払いが聞こえてきて、すぐさまそれを止めた。どうやら誰かが見ていたらしい。あの咳払いは遠回しの注意だろう。

 ますます暇になり、何度目かの欠伸を漏らした。もう、出来ることは目の前の女の子の頭を見つめることぐらいだろう。

 ぼう、と視線を停止させていると、ふと見覚えのあるものが目に映った。目に映ったといっても、見ていたのは人の頭だけなので、視界に入ったのも人の頭だ。

 

(ううん? あの青色の髪……会長?)

 

 周りは群衆だが、規則正しい群衆だ。バラバラでは無く、それぞれに別けられたクラス順で、人が並べられている。だから目の前にいるのはクラスの列であり、これから一年間を共にしていくクラスメイトだ。視界に映ったその女の子は、目の前のクラスの列の少し前の方にいる。

 

 青髪の女の子は少しだけ──更識楯無に似ていた。

 後ろからでしか見えないが、雰囲気が少し似ている。いや、似ているというよりも「近い」と言った方が正しい。なにせ彼女からは楯無と同じ、"隠し持つ"雰囲気がある。

 ──もっとよく見えないかな?

 少し背伸びをしたりして、何とか見ようとする。しかし再びどこから咳払いが聞こえてきたので、大人しく諦めた。それにクラスメイトなら、この後にあるクラスごとの集まりで顔を会わせることになる筈。彼女のことは、その時に確かめればいいだろう。

 

「ふぁ〜……暇だなぁ」

 

 そして、瞼を閉じた。

 

 ◆

 

 壇上の幕側から覗き込むと、生徒達の姿がよく見える。

 皆、瞳の中に様々なモノを宿している。

 希望、夢、期待──。

 初心で淡く、可愛らしい信念の連なり。

 遠巻きに伺うだけでも分かるほどの、希望の集まりだ。

 

「…………」

 

 更識楯無は腕を組む。

 意識せずに聞き流す壇上でのスピーチは、既にBGMと化して、耳の中を通り過ぎている。つまらない言葉の塊は、染み込むこと無く滑り落ちて、そのまま下に溶け落ちている。

 ひた──指に嵌めている指輪は変わらず冷たい。

 視線を落として、見ると、暗がりにいるのに、その指輪は黄金の光をひっそりと瞬かせている。

 

(…………うん)

 

 何度か指輪を摩り、手を引いた。気配を感じたのだ。

 振り返ると、そこには今年で学園の三年生になる布仏 虚が立っていた。彼女は自分より一つ上の先輩であり、世話をしてくれるメイド──従者の役目を負った人間である。……そう、更識家の人間だ。

 

「今年も沢山の人達が入学してきましたね」

 

 そう言って彼女は薄っすらと笑う。

 何かを思わせるのような──魅惑の笑み。

 それにこちらも微笑み返し、視線を動かした。虚もつられて視線を生徒の群に向けていた。建物の中を敷き詰める人の数は、いつ見ても圧巻の一言である。

 

「そんなに──男の子が珍しいですか?」

 

 どうやら視線の先に気付かれたらしい。

「ええ」頷き、胸元から扇子を取り出し、広げる。

 

「…………井伊月 重吾っていうのよ」

 

 彼を見つめた。退屈そうに話を聞く彼を。

 クスッとなる。

 ──ああ、変わらないわね。

 扇子で口元を隠す。虚には見られていないだろうか? 彼女は誠実な女子だが、その内は少し意地悪だ。こんな二人っきりの空間だと、昔の「姉」という立ち位置を表に出してきて、小さなからかいを仕掛けてくる。

 

「うふ。お嬢様もついに殿方に興味が出たですね♪」

 

 ほら。きた────。

 

「別に違うわよ……」

 

 口を尖らせて言うと、虚がクスクスと笑う。

 胸を抱き締め、扇子を閉じた。パチン──と少し大きめの音を鳴らして、威嚇のようなことをする。聞いて欲しくないとの意思表示をする。

 

「まあ、私の言える領域ではありませんから、特にどうこう言ったりはしません。けれど──」

 

 突然、距離を詰めてきた虚。

 

「もし親しくなったなら、一言申してくださいね?」

 

 耳元でそう囁き、悪戯な笑みを浮かべた。

 

「……ふん」

 

 顔を背け、幕側の奥へとはけていく。

 頬が少しだけ熱いのは、きっと何かの勘違いだと思いたい。




続く
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