君と僕の物語   作:名無しの執筆者

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かにたま


第三十話 「ちょっぴりSっぽい」

 ──……むむむ、何か嫌な予感。

  と。夜も更けた丑三つ時に目を覚ました。

 頭の奥底をツンツンと突かれた感覚に、微睡みで落ちていた瞼を持ち上げ、私こと更識楯無は布団から脱する。

 部屋を出ると、廊下は寒さと静けさで充満していた。

 一度部屋の中に戻り、掛けてあった上着を両肩から羽織る。そして再び部屋を出て、冷気に満ちた廊下を歩き始めた。

 

 ──ひた、ひた、ひた。

 

 静かに、ゆっくりと。

 薬指の指輪を摩りながら、夜の廊下を進む。

 窓から射し込むのは月の光。

 ああ、今日は満月──綺麗な明かりね。

 ふふふ、と微笑む。

 暗がりで構築された廊下の先は、まるでこちらを誘うように、その暗黒を見せびらかしていた。

 

 ◆

 

 やはり、誰も起きていない。

 職員の部屋を覗いても、灯りが点いている部屋は皆無だった。まあこんな時間、いくら勤勉な人間でも、起きているような時間ではないので、別段に気にすることでもないが──。

 ひゅー、と足元を通り過ぎた冷風に、少し震えた。

 肩から羽織る上着に袖を通し、はぁと息を吐く。

 

(……寒い)

 

 ペタペタと鳴るのは足音。

 静かな空間に鳴るのは、それのみ。

 瞳を動かして窓の外を見ると、何とも幻想的な光景が広がっていた。月明かりに照らされた花壇の花たち、そして揺れる木々の連なり──まるで夢の中での出来事のような、酷く酔ってしまいそうな世界の景色。

 歩きながらもそれに目を奪われる。

 久しぶりに心の奥が感動で揺れた気がして、頬が緩んだ。

 

「──…………満月、か」

 

 ぽつり、と呟く。

 かなり進んだ廊下の先に、今度は大きな扉が現れた。

 

 ◆

 

 ──むむむ? むむむ!? この気配は!

 作業の手を止め、耳を傾ける。

 一緒にいた更識簪も同様に、動きを止めていた。

 

「誰か来たね……」

 

 互いに顔を合わせ、頷き合う。そしてて身近の工具や部品を手に持って、扉の横にそれぞれ背中をつけた。

 ちらり、と簪が掴み取った武器を見ると、それは何とも無骨で雄々しいハンマーであった。

 

「……なに? 重吾」

「う、ううん! 何でもない、何でもない!」

 

 仲良くなってわかったことだが、彼女は結構遠慮が無い性格だ。そう、ちょっぴりSっぽいのだ。

 

(……ふぅ)

 

 少し深呼吸をして、ギュッと工具を握る。

 少しづつ近付いてくる気配に、ペロリと下唇を舐める。

 

 この扉の向こうにいるのが、警備員だとかを微塵も考えないのは、二人の悪い癖である思い込みの激しさからだった。

 

 ◆

 

 ここは整備科の生徒達が主に使用している作業場か。

 適当に歩いて辿り着いた場所がこことは、中々面白い。

 白く曇った息を吐き出し、扉の取っ手に手を伸ばす。鉄で拵えられた取っ手は異常に冷たく、思わず一瞬だけ瞼をギュッと瞑ってしまった。

 

(……)

 

 グッと力を込めて扉を押し込む。そして扉の間から差し込んだ光に目を丸くし、「ほぅ」と息を吐いた。どうやら誰かがいるようだ。

 と。その時、両左右から人の気配を感じた。

 向くと、そこには似合わない鈍器を構えた男女が、獲物を狙うような狡猾な瞳でこちらを見つめていた。

 

「「お、おばけぇぇえええ!!!」」

 

 そして男女は叫び声を上げながらそれらを振りかぶり、

 

「……え?」

 

 こちらに向かって振り下ろしてきた。

 

 ガンッ──と。

 

 何かを殴りつけたような鈍い音が響き、作業場の中を反響する。夜は、まだまだ長い──。

 




続く
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