君と僕の物語   作:名無しの執筆者

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これは仕様です


第三十四話 「彼女はとても野蛮だった」

 鳴り響くサイレンに叩き起こされ、更識簪とそのルームメイトである布仏本音は避難場所へと向かっていた。

 

「ま、まってよかんちゃん……!」

「……急いでっ、本音!」

 

 布仏本音は俊敏な動きが苦手だった。

 小さな頃から一緒に連れ添ってきた簪は、それを知っている。だが緊急時のこの時に、その緩慢さを見せつけられてしまうと否応無しに苛ついてしまう。生命に関わる所為もあった。

 

「きゃっ!」

 

 足元の揺れに耐え切れず、ついに体勢を崩した本音が、小さな悲鳴を上げて転んでしまう、

 簪はそれに目を見開き、すぐさま駆け寄って手を貸した。「大丈夫!?」焦りもあり、やや強引に手を引いて立たせる。

 

「ごめんね、かんちゃん……わたし……ドジで」

「……こんな時に落ち込んじゃダメ。あと少しで避難場所に着くから頑張ろ。ね?」

「うえぇ……かんちゃ〜ん」

 

 涙に濡れ、くぐもった声を出す本音。

 簪はそれに軽く微笑み、再び彼女の手を握った。

 

 殆どの生徒は避難が完了しているのか、廊下で見かける生徒は少なかった。すれ違った教師から「早く避難しなさい」との注意をされたので、間違ってはいないだろう。

 時折聞こえてくる爆音は正直想像したく無い。

 地震などの災害でこのサイレンが鳴っているのならどんなにいいことだろうか──。更識簪はその敏感な感知能力から、これが演習で無いことを無意識に感じ取っていた。

 

(……悪い敵が来てるんだ)

 

 大好きな特撮ヒーローの世界とは違う──現実。

 いつかは訪れる状況だと理解していたつもりだが、まさかこんなにも早くそれが訪れるとは誰が予想しただろう。

 

 暫くすると遠くの方で手招きする緑髪の女教師が見え、簪は走る速度を少し速めた。本音が心配だったが、彼女は精一杯に脚を動かし、荒い息を吐きながら着いてきてくれている。

 親友の懸命な姿に思わず心が奮い立った簪は、本音には内緒で密かにある事を決めた──。

 

「……先生、お願いします!」

 

 生涯で一度も見せたことのない走りっぷりを見せてくれた本音を、手招きしていた教師に預ける。

 

「え? かんちゃん!?」

 

 荒い息を吐きながらも、"従者"としての責務を感じたのか、本音は驚いた顔で簪を見た。

 簪はそれに何も言わず、最後に女教師に「お願いします!」と言って、来た道を逆走する。背中に当たる本音の呼び声には振り返らず、ただひたすらに足を動かした。

 目指す場所は、愛機を眠らせている整備室だ──。

 

 ◆

 

 暴走したシャルロット・デュノアを鎮め、ようやく敵に集中する事が出来るようになったラウラは、手始めに探りを入れから始めることにした。

 隣に滞空するシャルロットに指先で合図を送り、先に敵への接近を試みる。敵はまだ地上に存在する。

 

(……装甲が分厚いな……白兵戦は不利か)

 

 敵の分析──。

 軍人としての冷静な判断を維持しつつ、上々に高度を下げながら敵の間合いに寄っていく。

 と。そこで敵が動きを見せ、ラウラは警戒した。

 敵は、図体と同様に頑丈な両手を持ち上げ、そして五指を広げた。その手のひらには銃口のような穴があり、見るからに危険な香りを漂わせている。

 ラウラはブースターを少し減速させ、様子を伺う。

 どんな相手なのか、まだ全ての憶測が立っていない為、安易な行動は控えなければならない。

 

 迷ったラウラは、取り敢えずシャルロットに「挟み討ち」とのハンドサインを送る。

 それを了解したシャルロットは、ラウラに合わせるように敵の背後につき、緩やかなスピードを維持して徐々に距離を詰めていった。

 

「さて、手合わせ願おうか──」

 

 パスロットからハンドガンを呼び出し、構える。

 リロードから標準合わせの慣れた動作を行い、敵の頭部に狙いを定めた。

 引き金を押すと、乾いた音がハンドガンから鳴った。それにより銃口から弾丸が放たれ、敵の頭に直撃する。

 

(……まあ、そうだろうな)

 

 が。その弾丸は敵の装甲に弾かれてしまった。

 しかしこれで良い。これはまだ実験の段階である。

 

「シャルロット、援護してくれ。少し手荒だが奴の正体を暴き出してみる」

『えー! それなら僕がやるよっ!』

「駄目だ。お前はスラム街ばりの乱暴者だ。任せられん。こーゆーのは"石橋ドンドン"なのだ。石橋ドンドン。……分かるか? 石橋ドンドン」

『……それって「石橋を叩いて渡る」って言いたいの?……ラウラ間違ってるよ、そのことわざ』

「む? 何を言う、シャルロットよ。これはかの有名な石彫り職人のレナオナルド・ダーウィンが言っていた格言で──」

『いやいやいや! ごちゃ混ぜじゃないか!? なに? そのレナオナルド・ダーウィンって!? 怖いよ!』

「有名だぞ?」

『有名なの!?』

 

 やれやれ、シャルロットは流行に疎いな──。

 呆れた溜息を吐きながら、ラウラは気持ちを切り替える。それにより意識が戦闘のみに狭まり、体の熱が上昇した。

 通信から聞こえてくるシャルロットの声は、自問自答のようにブツブツと何かを唱えていた。一体彼女に何かあったというのだろう?

 

 ──まあ、今はイイさ。

 

 ラウラはハァと息を吐き、勢い良く吸った。

 そして〈シュヴルツェア・レーゲン〉のバーニアを全速力で噴出させ、血液の沸騰を感じながら、

 

「まずは一発──‼︎」

 

 固く握り締めた拳を敵の顔面に叩き付けた。

 

「────ははっ!」

 

 曰く、彼女はその出生故に野蛮である。

 そう、部隊の副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフは誇らしげに胸を張って言っていた。

 




続く
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