君と僕の物語   作:名無しの執筆者

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やゆちつか


第五十八話 「自分」

 向き合う──決して軽んずることのできないもの。思いつきで言ってみたはいいものの、これが中々に骨の折れるものだという事が判明した。姉の強さは知っていたつもりだったが、まさかこれほどまでに差を付けられるとは思わなかった。彼女と拳を通い合わせるという簪の安直な発案は、ここにきてようやく後悔として思い知る事となった。

 

「──ッ」

 

 しかし簪とて一筋縄の女ではない。自らの力で代表候補生を勝ち取ったぐらいには意地が悪い。つまり頑固、負けず嫌いだ。もちろん自負しているとも。だって何度、この性格のせいで自分を貶めていたか、数えるのが馬鹿らしくなるもの。だが、しかし、欠点だけとも限らないこの性格は、この日だけは幸いな事に良いことに働いてくれているようである。私という弱気な存在を、頑固で負けず嫌いな人間に変えてくれている。──ああ、人生最大──最初で最後の兄弟喧嘩にこんな幸運が訪れるなんて、きっとこの後なにかあるに違いない。

 

「──良い加減になさいよ」

 

 と。苛ついた様子の姉の声。それに鼓膜を震わされ、私は少しの動揺と意地悪さを胸に抱いて、姉の顔を見上げた。明らかな怒りの色があった。焦りもある。混み合った感情は悪いものばかりで良いものは何も無い。それもそうだろう──と、意地の悪い私は心の中で口元を吊り上げた。人間、訳も分からず付き合わされる事には少なからずの疑問を持つ。それと少々の苛立ちも。だが大抵はそれは収まって丸くなる。何故なら事を頼んだ人間も、少なからずのマナーというものを弁えているからだ。「助かったよ。ありがとう」──その言葉を伝えるからだ。もし、それが無かったとしても、人伝てにそれが伝わる事が大体だ。だからどんな人間であれ、最初は嫌々だとしても、相手からの誠意に「仕方なし」と考えて怒る事は無い。あったとしても、胸の内に秘める器量があるのが普通だ。それが人間関係というものだ。しかし、簪が今している事は違う。全くもって別なものだ。

 

「まだ、負けてないよ?」

 

 完全な意地。私がしているのは意固地だ。負けたく無いのではなく終わりたくない。強くなりたいのではなく相手を付き合わせたい。理由は話さず、意味の無い戦いを続ける。私の意固地とは、解き明かせばそんなところだ。

 現に、楯無は苛立っていた。たとえ大好きな妹であったとしても、途方にも思える剣戟の乱舞は精神を駆り立てていく。戦士としてのソレではなく、人として感じる感情は、初めの愛しさから変化して疑惑と不審に変わっていた。つまりは「腹を立てている」のだ。楯無は。

 

「……っ! またそれ」

 

「負けじゃないったら、負けじゃない……」

 

 効果てきめん。効きすぎているとも言っても良い。楯無の表情は燃え上がっている。歯を剥き出しにしている。無論、そんな姉の姿に何も感じない簪では無い。簪も同様に臆病であるが故、心の中では震え上がっている。しかしまだ敗北の言葉を口にしていないのは、彼女の意地が頑固な証拠でもある。

 

「良い加減にしつこいわよ、簪ちゃん! 何がしたいの。久し振りに話してくれて、こうして戦おうって言ってくれたたと思ったら、意地張ったみたいにして……! 私、簪ちゃんが何考えてるのか分からないわ。どーして何も言ってくれないのよ! 何か怒ってるなら、私が何かしたんなら謝るからお願いよ!」

 

「……だから、戦おうって言った」

 

「──っ。もういい。黙らせてあげる」

 

 心が竦む。奥歯が震える。私は初めて姉の本気というものを見た。更識家の当主として人格ではなく、更識刀奈──その一個人としての本性の現れを、私は初めて目にした。変わるものである。ここまで剥き出しにしてくれるなんて思わなかった。良くて、苛立ちを募らせるぐらい。なんて思っていたのに、どうやら私の意固地は想像以上に報われたらしい。しかし本音を言えば、こういう事はしたくなかった。もっと別のことに、この意地を張ってみたかった。例えば寂しい時に──怖い時に──暇な時に──つまらない時に──甘えてみたりできるような意固地さを、出してみたかったな。

 

「──あ、ぐぅ……ッ」

 

 腹部に強烈な蹴りが叩き込まれる。目の前がチカチカと点滅する。ISとは違う、肉体から肉体への攻撃。しなるようになって勢いのまま放たれた一撃は、簪を落とすにせしめる攻撃だった。

 

「……」

 

 しかし、倒れてなるものか。

 歯を食い縛る、両足を律する。三半規管を狂わされた体だが、意志だけは保つ。まだ負けてない。まだ聞けてない。執念と執着で混ざった狙いはまだ果たされていない。まだ更識簪は──お姉ちゃんが泣いていた理由を聞けていない。

 道場の畳に這い蹲る私は唯一動かせる顔で姉を見た。睨んだ。姉はそれに怯むことも怯えることもしない。当然か。この人は然りとて気丈に自分を保ち、私の無様な姿を見下ろす。それが堪らなく悔しくて、悔しくて──

 

「──ひっぐ……う、ぅぅ……っ」

 

 私は、本当に「悲しくなって」泣いてしまった。

 

「か、簪ちゃん!?」

 すぐに楯無が駆け寄る。涙と嗚咽を漏らす妹を慰めようと、その傍について両頬に手を当てる。どこか体を痛めたのではないかと心配したかと思えば、次は悪いことをしたと言わんばかりの誠意で謝ってくる。違うのに、そうではないのに。楯無は意味も分からないままに謝る。

 ──嫌だ。そんな姿は見せないで。

 私を見下ろす姉はまだ謝罪を続けている。しかしそれの熱意も、想いも私には分からない。ただひたすらな悲しみが覆い隠してくるのだ。だから私には泣き止むという選択肢が浮かばなかった。

 

「ごめん。ごめんね」

 

 なんて苦しそうに謝るんだろう。なんて簡単に謝るんだろう。まるで慣れたように吐き出す台詞。私にはそれが酷く卑しいものに聞こえた。違うと思った。その『ごめんなさい』という言葉が、私ではない他の誰かに投げかけられているように聞こえた。

 

「痛いの? ねえ、簪ちゃん。私にどうして欲しいのか教えてよ……お願いだから、泣かないで」

 

「……ごめん、なさいっ」

 

「悪いのはお姉ちゃんだから。ね?」

 

「ごめんなさい……!」

 

 楯無の表情が引き攣った。感情の出し方が解らないといった具合に、その整った顔立ちを歪めた。それ以降の言葉は出さず、謝る事も止まった。意図して行っていた謝罪は、彼女の思考にかけられた──簪を拒否した──ストッパーによって電源を落とした。

 まるで絶望した人間が頓挫するように、両脚から力が抜けていくように、楯無はスルリと簪から体を退かしてうな垂れた。もういい──そう言わんばかりの眼をして、楯無は視線を逸らした。それは明らかな諦めであり、簪に対しての呆れでもあった。

 

 ──簪は、それを逃さなかった。

 

「はい。私の勝ち」

 ひょい、と楯無の背後に回り、その背中を優しく押す。押すと言っても地面に押し付けるそれは、拘束に近い。先ほどまで喜怒哀楽の一部を表現していた妹の、突然の行動に呆気なく地面に伏せられた楯無は、未だ状況を理解出来ていないらしく、その両目をパチクリとさせていた。

 

「……私、まだ「降参」って言ってないよ?」

 

 その言葉の意味を理解したのか、ようやく楯無の表情に変化が現れた。怒っているような可笑しいような、どう表現していいか分からない曖昧な顔。簪に何もなくて良かった──気持ちが混ざった柔らかな笑顔。けれどもまだ上手く理解出来ていない、というような困った気持ち。それらが楯無の表情をコロコロと変えており、しまいには今にも泣きそうなものまで見せた。

 それを見つめ、簪は、あまりにも上手くいき過ぎている自分の作戦に少し戸惑った。拳の交わし合いならぬ、気持ちの交わし合いに望んでいた光景が『どっちつかずの中途半端』だったから、この先をどうしようかと思ってしまった。本来の目的は忘れていなかったが、楯無の安堵する姿があまりにも幸せそうで、かける言葉が見つからなかったのだ。

 楯無はきっと今、馬鹿な妹がその場で考えたイタズラに見事ハマってしまった──なんて考えているに違いない。いや、きっとそうだ。この事があまりにも、簪がするような静謐とした行いでないから、そうなのだ。ああ、困った。困った。

「──……」

 更識簪──私──は喉が乾くのを感じた。

 どうしよう、どうしよう。そんな言葉が頭の中を埋め尽くした。幸いにも姉は温厚な人であった。ここで『実はドッキリでした』なんて言っても、ちょっと怒られるだけで許されるだろう。現にさっきまで苛ついていた筈の楯無は、その怒りを忘れて安堵していた。だからこそ、簪は余計にタチが悪いと思っていた。

 

「もう! 簪ちゃんのバカ! ビックリしちゃったじゃない」

 

 苦笑する楯無。優しく微笑む楯無。そのどちらもが、簪の目的を無いものにしてくる。もちろん、覚悟は決めていた。すぐに言葉が出せるように勢いを掴もうと調子付こうとしていた。だがそのどれもが今は薄れていた。タイミングを逃してしまったのだ。ああ、もうどうしたらいいか──。

 頭を抱える素振りは見せなくても、心の中ではそうする。私という人間は普段計算づくで悪賢いくせに、こういう土壇場では感情の荒れを押し込めない。そうしていつも、自分は駄目だと塞ぎ込んでしまうのだ。悔しいと思いながら、やりきれないと後悔しながら、いつも。

「──あ、簪ちゃん。その表情はまだ何かある顏だな〜?」

 簪の翳りに気付いた楯無が意地悪そうに笑う。出し尽くしたタネのその先を期待して目を向けてくる。

 簪は思わずそれに苦笑してしまいそうになった。もう、何も無いよお姉ちゃん──普段のような触れ合いをしてしまいそうになった。けれどそれは逃げ道だ。簪は理解していた。彼女の最後の意地はなんとか口を結んだ。

 

「……簪ちゃん?」

 

 不安げな顔で簪を覗き込む楯無。

 その赤い瞳は暗がりに染まり始めている。

 喉を鳴らし、その瞳を真っ向から受け止めた簪は、気押されるように顔を後ろに逸らした。注がれ続ける視線が浮き彫りになっている動揺を貫き、言葉というものを塞き止められた。

 上擦るように、喉奥が引きつっているのが分かった。嚥下が上手くできなくて、呼吸が苦しかった。思考は滅茶苦茶で、ろくな事が思い浮かばず、破滅的な事態だけが迫った。事態が悪くなっているのは知っていた。けれども簪には、この先からゴールまでの道筋が見えていなかった。

「──お、おねえちゃ──────」

 でも、そこから先はどうすればいいんだろう?

 背筋を舐め上げられた気がした。悪寒を揺さぶられた気がした。恐怖に似た何かではなく、恐怖そのものが体の底から込み上げ、酷く気分を悪くし、吐き気や様々な心地悪さと共に押し寄せた。言葉では到底言い表せない数多が、削り取るように迫ってきた。だから簪は、逃げ道だからと押し込んでいた言葉を思わず吐き出してしまった。

 

「──なんでも……ないよ」

 

 ああ、その時、私が作った笑顔。

 なんてぎこちなく、なんて酷いこと────

 

 ◆

 

 飛び跳ねたようにベッドから起き上がり、一夏は大きく息を吐いた。肩で激しく息をして、エンジンの駆動音のように高鳴る心臓に耳を澄まし、冬場とは思えない熱気に包まれた我が身を毛布の中から外に出した。

 裸足の足で床に立つと、まだ飛び回っていた時の感覚を忘れていなかった。目まぐるしい視界の反転を体験した体は、まだあの訓練の中にいるようだった。踏み出すだけで、墜ちてしまいそうな感覚が訪れる。

 ゆっくりと歩きながら洗面台へと向かった一夏は、冬の蛇口よろしく冷え切った水を顔に浴びせ、ホッと息を吐いた。そしてタオルで顔を拭った時、ふと朝に拾った黒い鍵を思い出し、入れたままになっていたそれをポケットの中から取り出した。やはり不思議な魅力のある鍵である。

 洗面台から退き、窓の外を見遣った。空の色は淡いオレンジ色であった。鍵を返しに行こう。なんて考えたが、窓の外を見るとそれも億劫になった。それにまだ眠いし。

 ふらふらと再びベッドに突っ伏した一夏は、大きく息を吐く。

 

「ああ〜」

 

 体中にある痛みは筋肉痛。無理し過ぎた代償は活き活きとしている。しかしそれと引き換えた操縦技術はそれに勝る勢いで活きている。先輩方に仕込まれた戦い方は血混じりに染み付いている。……強くなっている──という実感がある。

 一夏はそこで、自分が笑んでいることに気付いた。確かな力の身に付きに浮かれているのだ。だから自身を戒める。駄目だ。まだ足りていないだろ。

 枕に顔を埋めて、瞼を強く閉じた。すると睡魔が底からやってきて、一夏は簡単に眠りに落ちる。そしてそれと同時にベッドから飛び出ていた手が握り締めていた黒鍵が、スルリと抜けて床に落ちた。

 

 ◆

 

 ヒタヒタとした足音が廊下に響き渡っている。

 私はそれをぼうとした意識の中で聞きながら、辿り着いた自分の部屋を扉を開けて中へと入った。パタン、と静かに閉じた扉に背中を預け、今度は部屋の中で鳴る時計の秒針の音に耳を澄ませた。目の前の窓を見遣ると、外はもう暗がりを持ち始めていた。

「……」

 私は扉から離れて、部屋の明かりもつけずに奥へ進んだ。いつも先生から提出される課題をこなす勉強机に向かい合い、その卓上をジッと見つめた。

 私は無言のまま勉強机に備え付けてある小さな明かりを点けた。それで部屋が少し明るく照らされたが、たかがである。私は椅子を引いてそこに座り、突っ伏すように勉強机に上半身を乗せた。

 ──カチコチ、カチコチ。

 音という音は特に無く、静かな空間だけが周りにある。

 私はポケットから携帯電話を取り出して、電源を入れた。すると一件の通知が画面に表示されており、開くとそれは姉の更識楯無からであった。内容は今日あった出来事について。まんまと騙された事への恥ずかしさや、今度は私の番──なんていう、いかにも私の姉らしい文面が送られてきていた。

「ふふ、違うのに……」

 携帯の電源を落とし、私はそれを勉強机の隅に置いた。冷んやりとした卓上に右頬を触れさし、横を向いた顔で窓の外を据えた。すると静かな時間の所為か妙に虚しくなってきた。心がぽっかり空いたように、満たされないみたいに、焦りに掻き立てられるように──私は、このままでいいんだろうか? なんて考えてしまった。それと一緒に、ここではないどこかにいる友人の事を思い出した。

 

「──重吾……」

 

 なんて、呟いてみたりね──。

 私は苦笑した。恋しているみたいに呟いてしまった親友の名前に対して可笑しくなった。けれど、けれど────

「寂しいよ……重吾……っ」

 ──やっぱり、友人が隣に居ないのは寂しいと思う。

 冷えた両手を揉み、白い息を吐く。

 不思議な事に、どこからか鼻をすするような、涙を堪えるような気配が伝わってきた。一体どこからだろう。

 私は勉強机から離れ、ようやく部屋の明かりを点けた。そして冷たい空気を足元で感じながら洗面台に向かった。間接照明を点けて、蛇口の栓を捻り、水を出す。胸中にあるもどかしさを消したい気持ちが強くあって、私は水をぶつけるように顔に浴びせた。

「……」

 息を吐き、ようやく気持ちが治った私は顔を上げた。タオルで顔を拭いて、もう一度息を吐いた。そして我慢出来ずに笑ってしまった。何故なら鏡に映っていた私の顔が、今朝私が姉に対して問い詰めてやろうと考えていた「泣きっ面」だったからだ。

 

 あーあ。やっぱり私じゃ、何も救ってあげられないんだ。

 

 私は崩れ落ちるように膝を着いた。

 嗚咽の溢れる喉を震わし、その夜、ずっと泣き続けた。

 酷いことに、その日の夜はいつにも増して静かだった。

 

 恥ずかしいや。私の声、みんなに聞こえてないといいな────

 

 ▼▼▼▼

 

 その日は眠れなかった。頭が酷く痛んだ。頭の奥がズキズキと叫んでいて、呼吸をするのも苦しかった。だから僕はいつも横になっているベッドの上で、まるで拷問を受けているみたいな動物の声を上げていた。

 人の気配は何回かした。きっといつもご飯を運んできてくれる先生だ。でも、合っているかどうかは分からない。最近は先生がコロコロ変わるんだもの。初めにサンドイッチを持ってきてくれた先生とは、もうあまり会っていない。僕に飽きてしまうのか、いつも来る先生の顔は様々なのだ。だから感覚的には病院の健診に似ていた。きっと嫌な声を上げる僕を観察に来ているんだ、あの先生達は。

 頭痛の理由はてんで分からないけれど、別に初めて経験する痛みって訳でもなかった。今までもっと痛い事はあった。苦しい事だって何度もある。実のところこの頭痛も前に経験した事があるものだったし、驚きはしなかった。けれど痛みに慣れることはそうない。僕だって人間だから、嫌なものは嫌だ。特にこの頭痛は別格だ。他のものとは比べ物にならないぐらい痛むのだ。原因は分からないけれど、前におかあさんに聞いた時は、きっとどこかで誰かか泣いているから──なんて言われた。僕はそれにああそっかと思って納得したもんだ。

 

「誰か、泣いているのかな……みんなじゃないといいなぁ」

 

 少しだけ慣れてきて、体を起こした。身動ぎの一つで頭が殴られたみたいに痛くなるけれど、幾分かはマシになる。冷えた空気が逆に痛みを紛らわしてくれるから今はこの方がいいのかもしれない。それに今はこうしていたい。

 どこからか風が入ってきたらしい。僕の前髪がふわりと揺れた。おかあさんと一緒の赤茶色の髪だ。……そういえば、僕のおとうさんはどこにいるんだろう?

 なんて考えていると、さらに頭痛が強まってきた。これは酷い。これまでのものとは違う痛みだ。

 蹲り、僕はまたベッドの上で横になる。抉られるような痛みは暫くの間、僕の精神を消耗させた。夜にこんな事になるなんて珍しいと思ったけれど、何も無いよりマシかもしれない。──なんて考えている僕は、そろそろ馬鹿になっているのかな。

 

 そしていつの間にか僕は眠っていたらしく、次に目を覚ました時には、綺麗さっぱりと頭の痛みは消えていた。けれど頭の奥底に残るどうしようもない違和感は、僕がそれを忘れるまでずっと残り続けた。

 

 ──『僕の知っている人が泣いている』

 

 

 いつの間にか頭に潜んでいたそれには、何故か自信があった。

 




続く
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