君と僕の物語   作:名無しの執筆者

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さやかあま


第五十九話 「光の柱」

 ここは薄暗い部屋であった。

 意図的に光源を落としているからである。

 寒いのは季節のせいだが、室温を上げるのは良くないと言われている。環境的には最悪の場所だが、こうしなければならない理由があるから致し方無い。駄目なものは駄目なのだろう。

 女性は細く息を吐き、身に付ける豪華なドレスの胸元からグロスを取り出すと、唇にそれを塗り付けた。そして少しの吐息を漏らしてから唇を艶かしく動かす。

「……さて、と」

 ここよりマシな明るさがある場所まで歩き、女性は視界を凝らした。すると見えてくるものがあった。そこは変わらずの暗闇であるが、なにも漆黒だけではないのである。彼女はそれを知っていたからその場所を見つめていた。

 彼女の視線の先にあるのは何かの機械である。それも工場で繁栄するような業務用の生産機械だ。絶え間なく動き続け、何かを造り上げる。そのような機械だった。

 彼女の目の前にはそれの光景が広がっている。暗闇の下には機敏な機械達が唸り声を上げている。彼女はそれを見ながら微笑んでいた。今日も良く働いて偉いわ──と。

 彼女の傍観は暫く続いていたが、それも遂に終わった。彼女はその場を離れると今度は別の部屋へ入った。空気が変わり、先ほどとは打って変わった金属の香りが漂う部屋である。

 この部屋も同様に暗がりであったが、暗闇に慣れてる彼女には対した問題ではなかった。ここ数日はさっきの部屋とここを行き来ばかりしていたから感覚が憶えていた。それよりも臭いが気になっているから、彼女にはそれだけが悩みの種であった。

 部屋には光源を灯すスイッチがある為、彼女はそれを押す。カチリという音が鳴ると、部屋の上部から明かりが発生する。しかしその明かりはあまり明かりとは表現できない色をしているのだ。紫色をしたパープルカラーなのである。どこか妖艶なその光がここの太陽なのである。

「……」

 彼女は一度天井の光に視線をやってから奥へと進んだ。部屋の中はコンクリートの壁ではなく、無骨なのは同じであるがガラス張りの合成樹脂で固められていた。例えるならば、自慢の品を宣伝するためにこしらえられたものである。よくレストランなどでは目にする。

 彼女はそっとガラスに手を触れさせると、どこか憂いを帯びた視線で目の前をジッと見つめた。さきほどの生産機械を見下ろした際のようにガラスの奥を見遣った。

 壁といってもガラスであるそれは当然透けている。その透けた先には鎧の様なものがあって、壁一面に並んでいる。取り囲むように軍列している。日本の鎧武者のように、部屋の無骨さに負けない威圧感と共に佇んでいるのである。

 

 その名を、量産型IS────。

 

 不思議の国の住人にでたらめで与えられた玩具。

 彼女の手には余るものであったが、宝ではあった。

 しかし愛でる物でもなかった。

 それは脅威を生み出すもの。災厄と知れた物である。

 あまりにもでたらめ過ぎた。笑ってしまうほどに。使い方を誤ればたちまち世界が反転するバグなのである。

 けれども彼女はそれを受け取ってしまった。ので、使うことにした。良き方でなく、悪なる方で。

 

「さて、じゃあ──行きましょうか」

 

 ──彼女はそう、突然降り注ぐ雨なのだ。

 ──故に、名を、スコール・ミューゼル。

 

 

 

 

 /1

 

 最後のカケラを仕舞い込み、私は吐息した。

 学園の地下に格納したそれは、シャッターのようなもので蓋を閉ざされ、そして一目見ただけでは気が付けない程の擬態を持って壁に同化する。

 私はその擬態を何度か手のひらで触ってから、その場を後にした。うん。きっとあれなら誰にもバレない。

 私は篠ノ之束である。厄災だ。

 冷え切った廊下には足音が響く。

 人であるが、その枠組みから外されてしまった女。

「今日は寒いなぁ……今日も、か」

 並外れた思考は、行き過ぎていると自分でも理解している。眼に映るもの全てが同じに見えていた時期もあった。

「お腹空いたなぁ……」

 しかし今日まで狂わなかったのは、幸運に恵まれていたからだと思う。破綻した頭脳を持ちながらも、時間がかかったという事実があるとしても、人並みの感性を手に入れることが出来たのはきっと──

 そうして私は地下を出た。

 エレベーターを利用して地上の学園に戻った。

 吐く息が白く、雪のよう。

 私は少しだけ立ち止まって歩き出す。ふと窓の外を眺めると、今日も変わらぬ良い天気だった。

 静けさで満たされる学園は孤独で、今にも消えてしまいそうに感じる。私の人としての感性は、この場所を悲しい場所と捉えた。

 ──なんて、何様だよ。

 するりと廊下を抜けた私は庭園に出る。

 華やかに咲く花の列を見ながら進んで行く。

 あ……綺麗な鳥がいる。

 なんて毒されてしまったんだろう。

 私の頭の中の破滅は何処へ。

 私はスタスタと庭園を歩き、また廊下を進み、自分の部屋に戻った。部屋の中は廊下と変わらぬ寒さで満たされていた。違うところは静けさだけで、しかもこの部屋の方が静々としている。

「……」

 私は虚空を撫でた。

 専用の投影モニターを目の前に出現させた。

 ──ここには誰もいない、だから。

 私は投影モニターに表示される可愛らしいうさぎのアイコンを軽くタッチする。するとうさぎのアイコンが拡大し、広がり、様々なシルエットとなって画面中に広がった。私はその広がったシルエットの一部をタッチする。

「……ま、上出来ね」

 タッチしたシルエットの中身を確認した私は少し笑む。

 人差し指で投影モニターを撫でて閉ざす。

 スカートを浮かせ、私はいつもの椅子に足を抱えて座り込む。目の前に広がる無数のモニターは壁一面に、三面鏡のようになって広がっている。起動させた途端、それらは目を開けて青白い光を放った。

 網膜を刺激されながら、ひたすらに眼球を動かす。全てのモニターを操作する。慣れたことをするように、私はそうして昨晩から続けていた事を再開した。

 無数に羅列する文字が頭を白くさせる。

 明らかな許容外の情報処理はお手の物だ。

 瞬きなんて、きっとしていない。

 もしかすると呼吸も置いてきているかも。

 そういう風に私は出来ているから、無茶をするのだ。

「ったく、扱い方の問題だよ、まったくさあ」

 苛立って、私の指先は力を込めた。

 タッチするパネルのボードが酷い音を奏でた。

 と。その時、部屋に来訪者が訪れる。

 扉を叩いた音に視線だけをやって、私はドアの鍵を解除した。

「瞬きをしろ。乾くぞ」

「時間がないこと知ってるでしょ」

「……そうかい、天才」

 部屋に入ってきたのはちーちゃんだった。織斑千冬だった。

 ちーちゃんは呆れたように私を馬鹿にした。

 けれども私をちーちゃんに目もくれない。

 手に何かを持っているらしいちーちゃんは、ガサゴソとそれを漁っている。音だけで想像すると袋の中を探っているようだった。私の耳に衣擦れに似た音が入り込む。

「何も食べてないんだろう?」

 何かを取り出し、机に置くちーちゃん。

「……」

 私はそれに首を横に振った。

「食え。食わんと本当に死んでしまうぞ、束」

「私、天才だから」

「何がだ。馬鹿言っている」

 乱暴に食べ物のパンを押し付けられ、私の膝に置かれる。

 一度だけ視線をやって、すぐに私は視線を上げた。

「食えよ?」

 どうやら用事はそれだったみたい。

 まるで生き物を飼う主人みたいに、ちーちゃんは餌を置いて部屋を出て行った。背後から扉の閉まる音が聞こえる。

「……」私はもう一度だけパンを見た。

 少しだけ、喉の奥から食欲というものが湧き出た。

 苦悩するように眉間に皺を寄せる。

 生まれた欲に苛立ちを感じた。

「──」

 私は誰にも見つからないようにと、パンを握り潰す。力任せにギュッと握り、パンくずを床に落とす。手のひらに付着したパンの生地を見つめる。

 すると私は突然込み上げてきた吐き気に口を押さえた。手洗い場に駆け込んで、構うことなく吐き出した。

 ……何も口にせず、四日が経っていたんだ。

 ちーちゃんは私を心配してパンをくれたんだと思う。

 けれど私の体はおかしくなっている。こんな風に食べ物を受け付けなくなっている。病気ではない。気持ち的な、きっと精神が参っている所為だ。

「……」

 洗面台の前で立ちくす。

 少しの目眩と頭痛に足元の感覚が曖昧だ。

 私は蛇口を捻って水を出す。それを口の中に含んで口内を洗い、残っていた異物を排水口に向かって吐き出した。冷んやりとした空気を感じながら顔を上げ私は、鏡に映る自分と対面する。

 部屋の光源は少ない。反射するものはない。だから目の前にある鏡に映る自分の顔は暗く、そして恐ろしいものに映る。けれども私はそれを恐れない。自分のありのままを知らない人間なんていないから。

「──……ふぅ」

 少しの傍観。

 頭の中で時が止まり、また動き出す。

 口元を拭って鏡に背を向けた私。仕切りとしてある扉を閉じ、洗面台の前を後にした。隔ての扉が静かに閉じる。それを聞いて、私は再び椅子に座った。

 

 

 

 /2

 

 無機質の部屋の中。

 天井付近に拵えられた鉄格子のハマった窓。

 月明かりを誘い込むその四角を見つめる者が、そこには居た。

「……」

 少女だった。

 黒い髪に、幼い見た目。

 切れ長の瞳と意思の強さを感じさせる双眸。

 冷んやりとした部屋の住人は、年端もいかない少女だった。

 明かりはなく、ただ静かだった。

 部屋の中は孤独で満ちている。

 しかしその少女は、そんな孤独を鼻で笑っているかのように静かに無言であった。ぼうとした様子で慣れたように、月明かりの怪しさを見つめている。

「──」

 ス────と、少女が呼吸をした。

 微かな空気の動きが生じた。

 少女の脇腹に存在する「傷跡」が疼いた。

 手のひらを傷に押し付ける少女。

 その横顔には苦悶の色が確かにあった。少女は人間だった。彼女は痛みを痛いと感じている。

 暫くして傷跡から手を退かした少女は、そのひらを見つめた。静かな時が流れる。

 

「ここに居た。──マドカ」

 

 その時、違う人間の声が部屋に染みた。

 少女の声では無い、大人の女性の声である。

 それに反応した少女は、気怠げに振り返り、その声の人間を両目で捉えた。そして少しの安堵と、それから少しの怒りを見せてから立ち上がり、言葉を発した。

「なんだ」

 少女の顔には依然怒りがある。

 しかし目の前の女性は気付いていない様子でマドカと呼んだ少女に近付く。ゆっくりと、ゆっくりと。

 少女はそれに、今度は違う顔を見せた。焦りだ。

 女性の近付き。それに少女は困っていた。

「よしよし」

「触るな……」

 女性がとった行動は抱擁だった。少女を優しく抱き締めた。

 少女はそれを困惑した表情で拒否する。女性を抱き返そうとせずに両手で押し退けようとしている。

 おかしな光景だった。不思議な様子だった。

 女性が見せる微笑みは、本当に柔らかく優しい。

 しかし少女が見せる表情は怒りに連なったものばかり。

 反りあった感情同士がそこにはあるのに、何故だか想像させる。母と子の抱擁を。

「離せと言っている──っ」

 と。少女がついに女性を押し退けた。

 ドン、と強く引き離される女性。

「……」

 両手を震えさせ、女性は顔を覆った。そして震えた声で嗚咽を零し始め、身の内の言葉を弾けさせた。

「なんで、なんで! こんなに愛しているのに!」

 強烈──しかし静かに。

 女性は少女が自分を拒絶した事に悲しむ。

 対して少女はそれを冷たい目で見下ろし、まるで興味無さげな様子でその隣を通り過ぎた。

「私はお前のモノじゃない」

 すれ違いざまに言葉を放った少女。

 それにより女性の悲鳴は高らかに、淀みを増して響いた。

「なんで、なんで、ジュウゴ……! 私の子ども!」

 マドカ──とは一体、誰の名前なのだろう。

 去った部屋から聞こえてきた女性の叫びに、マドカは鼻を鳴らした。

 

 ◆

 

 静けさで収まってきた部屋の中。

 取り残された女性は顔から両手を退かし、周りを見渡した。

 在るのは月光と、少女が寝床として利用する質素な布団だけ。

 女性は顔を歪めると、何も無い空間にまた悲鳴を上げた。

「私の──私の子どもは何処、だ……っ!」

 月光が上がる。月の位置が変わる。

 月光は女性の顔を照らした。すると女性の顔が暗闇から浮かび上がった。

 女性はとても不思議な面持ちをしていた。

 面妖──と表現すればいいのだろうか。

 女性は口元と鼻を残し、後は全てマスクで顔を隠していたのだ。黒塗りのマスク。目と位置するする部分を斜めに、赤のラインが走っているデザインをしている。まるで舞踏会の仮面である。

 しかし唸る女性はそれを剥ぎ取ろうとする仕草は見せない。むしろ元々そんな風に出来ていると言わんばかりである。

 黒い黒いマスク。

 暗闇の中に在れば、そのマスクに刻まれた赤いラインは妖艶に光を発していた。

 まともではない代物ではあった。しかし女性が見せる奇怪な行動と相まって、そのマスクは自然にも映った。

 ──呪われている。

 別の見方をすれば、そんな風にも捉えられた。

 人をおかしくさせる呪いのマスク。

 奇抜なデザインはその為か。それとも元々女性が狂っているだけか。分からない。しかしこの狂気が異常なのは誰の目から見ても確かであり、恐ろしい。

「あの子は寂しがり屋なんだ……私が居ないと、居ないと!」

 けれど不思議である。この狂気にはどこか、とても人間的な──愛情が存在した。

 

 ◆

 

 静かな廊下を歩くマドカ。脳裏に浮かんだ先ほどの事を振り払い、奥の部屋へと通じる扉を開けた。そして暗がりで満ちてた廊下から一変した光源の元へと足を運び、扉を閉じる。

 マドカは少し立ち止まってから部屋の中へ進む。無駄に煌びやかな装飾が施された部屋を見渡しながら、少しずつ。

 壁に飾られるものは宝石や何かの地図。棚に置かれるのは輝きを放つ装飾品。

 眼に映るもの何もかもが輝きを放ち、それがマドカにとっては目障りでしかなかった。彼女には価値が分からないから。その出生故の感性である。マドカには女としての感じ方が無かった。

 そうしてマドカは部屋を通り抜けた。

 来た扉と向かい合う形である奥の扉を開けた。そして中へ入ったマドカを迎えたのは無機質な鎧と冷たい空気だった。

 マドカは鎧の側まで寄った。鎧を取り囲んで何かをしていた数人の人間。それらに視線での退去を命じて。

 人間達は軽く頭を下げて何処かへ消えた。

 マドカは鼻を鳴らした。

 足元に広がるスパナ等の工具を足蹴り、鎧を見上げる。

 その鎧は黒を基調とした塗装で、背部には翼のようなユニットが積まれていた。飛ぶと判るデザインで存在していた。

 マドカが入ったのは、この鎧を調整する為の部屋だった。肌に纏わりつく冷たい空気も鎧の為である。

「……はぁ」

 マドカの息は白く濁っていた。

 それだけ、この部屋が寒いという事である。

 マドカは鎧へと更に一歩進んだ。鎧の中は空洞である。人が一人収まるぐらいの空間がある。そしてマドカは何の躊躇いも無しにその空間へと体を降ろした。──彼女の中で何かが弾けた。

 眉を顰め、不快な様子を見せるマドカ。

 今、彼女の両目には花火のような光が広がっていた。

「────戻った……っ」

 マドカの目の前から光が消える。次第に、鮮明な景色が見えてきた。そして少女は自分の体の中に何かが潜んでいるのを感じた。

 しかしそれは不愉快な存在ではなく、むしろどこか心地良いと感じる異物だった。だがしかし、マドカが感じている違和感は物理的なものではなく、感覚的なものである。

 マドカは鎧を身に纏った自分を見下ろした。顔の上半分を覆うフェイスマスク越しに映る自身はまるで巨人である。

 全身を包み込む冷んやりとした感触に少しだけ震えた。そして後から来た高揚感にまた震えた。

 マドカは鎧との繋がりに頷くと、用を終えたように我が身を外に出した。すると鎧の中とはまた違った冷たさがマドカの体を出迎えた。

 再び鎧と対面し、マドカはそれを見上げる。

 圧するように雄々しいその鎧。

 マドカは気紛れにも名前を付けてやろうと思った。

 何がいいだろう。マドカは眉を顰めた。

 いかんせん、このような事をした事が無いからすぐに思い浮かばなかった。あれはどうだろう。これはどうだろう。そうして考えている内にふと、窓の外を見遣った。

 マドカは見た。思った。

 窓の外が真昼のように明るいのだ。

 月が爛々と輝いていた。欠けた月ではなかった。

 それは満月という現象。しかし外界と断たれた世界で暮らすマドカにはその呼び方が出来ない。

 ──……明るい……目障りな光。

 マドカは再び思案する。

 マドカは呆けたように月を眺める。

 そうしているうちに、彼女は名前を考えるのをやめた。馬鹿馬鹿しいと思ってしまったのだ。

「……くだらない」

 ポツリとマドカが呟く。

 その呟きの中に、少しだけ悔しさを溶かして。

 少女は鎧に背を向けた。

 暗い部屋から出た。

 肌に張り付く冷気を意に介さずに、ただ静かに歩いた。

 廊下は無人である。

 また豪奢な部屋を抜けた。

 マドカの足音だけが響き、鬱蒼とした夜は時を謳歌する。

 そして少女は何もせぬまま、また冷たい自分の世界に篭った。部屋はとても静かに少女を迎え入れる──。

 

 

 

 /3

 

 時を同じくして、ある孤島で何かが起きた。密林で繁栄する孤島は獣達の住処だった。そんな場所で不思議としか言えない現象が起きていた。

 本能で生きる動物達はいち早くその変化に気付いた。

 鳥は逃げ、木々が騒めく。

 孤島を取り囲む海は穏やかに波を上げる。

 孤島に起きた変化──それは発光だった。

 その光は天へと伸びていた。

 孤島の中心からそびえ立ち、君臨している。

 それはいつかの「光の柱」と酷似していた。しかし激しさは無かった。周りの海のように静かに体動しているだけである。

 真っ白な白銀の輝き。

 終わりが見えない光の柱は、そしてゆっくりと消失した。

 

 孤島に、静謐が戻った。

 獣達は軽やかさを取り戻し、眠りについた。

 たった少しだけの異常はすぐさま孤島を去って行った。

 

 ──しかし、起きたという事実は存在した。

 

 光の柱が伸びていた根源。

 そこに雄々しく存在する謎の機械。

 樹海の自然に紛れて姿を隠すそれには、明らかな人の手で描かれた「うさぎ」の絵があった。それも子どもの落書きのような絵である。

 何故こんなものが存在するのか。

 何故突然動き出し、光の柱を出現させたのか。

 そんなものは孤島の獣にはどうでも良い事だった。

 いつもの世界がある。それだけで獣は満足だったのだ。

 




続く
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