IS 星海と共に   作:郭尭

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第十二話

 

 

  IS学園生徒会長、更識 楯無。在学生徒最強の称号も兼ねる立場にある少女は一人、生徒会室の机の上に伏せっていた。

 

 

  「仕事が終わらない」

 

 

  呻くように放たれる言葉。その言葉の通り、彼女の机には大量の書類が聳え立っていた。

 

  IS学園に於ける生徒会の意味合いは一般の学校のそれとは幾つか違いがある。その中で最も特徴的な部分が全校生徒の中で最強であらねばいけないということ。世界最強の兵器でもあるISの取り扱いを、心身ともに未熟な年頃の少女たちに教える場所である。生徒による暴走なども一応は有り得ないことではない。

 

  その際、技能に勝る教職員が鎮圧できればそれでいい。だが教職員は基本的に専用機を持たないため、格納庫まで出向き、ISを装着しなければいけない。即応性が無いのだ。

 

  だからこそ生徒が出張る意味が生まれる。ISが機械である以上、その習熟には時間が掛かる。飛行機や船のクルーの能力を推し量る基準の一つとして時間が用いられるように、それはISにも適用される。そしてIS学園最強などという立ち位置にいる人間が、専用機持ちでない筈がないのだ。

 

  何故なら仮に最初は専用機を持っていなくとも、寧ろだからこそ、そこから這い上がってこれるほどの才覚を、企業や国家は放っておく筈がないのだから。

 

  そんな非常時に戦力としての意味合いも齎されているIS学園の生徒会長職。とは言えそれだけが職務ではない。通常の生徒会長としての職務も当然ある。更にプラスして、更識 楯無には他の職務も付いて回る。

 

 

  「いい加減、舐められてきてるみたい」

 

 

  古来より暗部と呼ばれる、隠密とでも言うべき家系の一族、更識。暗部に対抗する事を主な任務とした対暗部の暗部。そんな一族の頭領の家系に生まれ、頭領の証である盾無の名を襲名した彼女。つまり日本政府を現在の依頼主として活動する更識として諜報、保安にも従事しているのである。

 

  それも隠密に。事実彼女の更識としての職務を知っているのは、学園関係者の中でも極限られた人間だけである。

 

  世界初の男性IS操縦者入学から始まり、先日の無人機襲来、政府圧力によるキナ臭い転入生の捻じ込み。暗部としてはこれらの情報収集や対処が任されている。

 

  そして生徒会長職務として各学園行事の調整もしなくてはいけない。さすがにこれは全てを生徒会でやるわけではないが、暗部職務の片手間で出来るものではない。そこに加えて、

 

 

  「イベントまで捻じ込みしなくてもいいと思うのよ」

 

 

  国際宇宙開発機構、特定の国家に所属しない数少ないIS所有組織。職業体験、と言うほどのものではないが、この手のイベントは生徒の進路の選択肢を増やすだろう。有意義なものであるという認識はあるが、学年別トーナメントと被るような日程になったのが痛かった。

 

  尤も、何かしらの目的があったとしても、機構に政治的圧力をかける力はない。恐らくスポンサー側に何かしらの思惑があるのだろう、と彼女は考えている。

 

  それは兎も角として、機構の御一行が到着するのはこの日の予定である。機構の職員一同は良いとして、必要な機材の搬入は業者が関わる。そこに余計なモノが関わらないように手を回すのも骨だった。作業そのものというより、他の作業との兼業が、という意味で。

 

  暫く臥せったまま、楯無は瞑目していた。目の疲れと眠気。僅かながらの休息も、確たる効果があることを彼女は知っている。

 

  僅かな休息、トントンというノックの音で終わる。入ってきたのは眼鏡の、物静かな印象を抱かせる少女である。

 

 

  「失礼します、お嬢様」

 

 

  「お嬢様じゃなくて、会長ね」

 

 

  布仏 虚。代々更識に仕える、所謂譜代の家臣、とでも言うべき関係である。楯無にとって人間的にも、能力的にも最も信頼できる相手である。

 

  虚の持ってきた報告、それは機構の一行の到着を知らせるものだった。

 

 

 

 

  人工島を一つ、丸ごと使っているIS学園への、正式な交通経路は主に三つに分かれる。

 

  主に個人規模の交通に使用される、モノレール。寮住まいでない生徒や教師、もしくは休暇を過ごす時に使われる。

 

  次に地下トンネル。世界最長の水中トンネル、青函トンネルには及ばないが、かなりの長さのトンネルが本州と学園を繋いでいる。これは主に飲食関係やその他の業者が利用する。警備として本州側のゲートには陸上自衛隊の警備が常駐している。尤もそれは形骸に近く、決して大した戦力ではない。まあ、日本という国がそれだけ平和であり続けてきたから、であるのだが。

 

  そして三つ目の経路こそ、今回機構が利用した、海路である。

 

  専用機持ちなど新装備や、大規模な設備増改設で大規模な施設が必要、もしくは海外から直接入ってくる際に使われることが多い。

 

  そしてこの日機構は学園側の手配した輸送船で、主に防犯上の都合でのことだが、こともなく予定通り午前中の到着となった。

 

  船から降りて来る和服に白衣という、いつも通りの出で立ちの菊李を肇とした機構の一行。機材移動の業者と行動を共にするメンバーを除いて、学園の地に降り立ったことになる。

 

  学園側の代表として出迎えに来ていた千冬は、学園側の一団から進み出て菊李と挨拶を交わした。礼節としての、形通りの挨拶。そして千冬の視界に入ってくる、赤毛の少女。大型のサングラスで両目を隠した、日本人の基準からすれば若干大柄な少女。

 

  かつて二度に亘り『モンド・グロッソ』にて技を競い合い、下した相手、セレーナ・ウルバーニの妹。ISを平和利用している、数少ない実例。直接目にするのは、これが初めてだが。

 

 

 

 

  機構のスタッフの為に使われることになった、迎賓館とも言うべき宿泊施設。IS関連の行事の場合、頼みもしないのに押しかけてくる各国のVIPたちを泊めるために用意された施設である。場合によっては国賓クラスの人間も使う為、そのセキュリティや内装には金が掛けられている。定期的な盗聴器の探知など諸々。

 

  宛がわれた部屋で、ミランダは社交用のスーツからいつものスポーツウェアに着替えている。ただ、本来彼女の機能しない視覚を補う『バロール』は、現在学園の施設で最終点検が行われている。そのため、なれない部屋に、他人の助けを必要とした。

 

  何かと交流の多い長船 湊はこういう時はよくミランダの世話を焼くが、今はメカニックとして『バロール』の方についている。案内された時に聞いた間取りを脳内に思い浮かべ、何とか着替えを見つけ出し、今に至るのだ。その際、何度もベットの角などに足とかぶつけたりしながら。

 

  この日、ミランダは『バロール』の最終調整まで予定はない。と言っても、、れっきとした待機命令がある為、仮に視覚があっても出歩いたりも出来ない。15歳と言えど、立場は立派に社会人なのだ。

 

  だが、仕事の一環とは言え、暇な時間ができたのは事実。体を休める事も仕事だと自分を納得させて携帯端末を枕元に置いておき、ベットに横になる。時差ボケも含めて、自覚できていない疲労もあるかもしれない、横になったミランダは、欠伸を一つした。外で渦巻く思惑に気付きもせずに。

 

 

 

  ラウラ・ボーデヴィッヒ自身はさして『バロール』に興味を抱いてはいなかった。知識として存在は知っていたがそれだけ。宇宙開発用という、希少といえば希少だが、それだけの機体。それも単に需要が少ないと言うだけの理由で。

 

  そんな機体に関わる理由ができたのは、偏に上からの命令である。その特殊な生い立ち故に、二十歳にも届かぬ身で軍人として職に就いている彼女。臨時の片手間仕事ではあるが、『バロール』の機密保持の援助である。

 

  世界で最もオープンなIS『バロール』。その呼び名に偽りはないが、だからと言って、使用されている技術まで一般公開されている訳ではない。むしろ複数の国家の技術が投入された、ごった煮的な部分のあるISであり、試験的に投入された最新技術も少なくない。

 

  無論機構加盟国については良い。要はこれらの技術が、ISを保有する非加盟国への流出を危惧しているのである。加盟国の軍部に所属し、且つIS操縦技能以外の部分でも高い能力を持つラウラ以上に優秀な関係者はない。彼女に白羽の矢が立ったのは当然の成り行きだった。

 

  自身の専用機、『シュヴァルツィティア・レーゲン』のトライアルと同時に、各国の専用機と実際に戦闘をこなしデータを集めると言う、テストパイロット的な任務が本命だった。欧州に於ける時期主力IS競合計画、『イグニッション・プラン』にて優位に立つために。

 

  そこに私情が混じってはいることを、ラウラは否定しないが。

 

  そんな所に入ってきた余計な仕事。煩わしく思えども、正規の手続きを経て下された任務である。ならば軍人であるラウラに否はない。下された命に従うだけである。その命令が、母国の独断なのか、加盟国の連名なのかまでは、現場に伝えられていないが。

 

  そして機構の宿泊する施設に、盗聴器の類が設置されていないか、小型探知機を用意してわざわざやってきたのだが、そこである人物と鉢合わせた。

 

  布仏 虚。生徒会副会長であり、学園唯一の現役国家代表である更識 楯無の腹心。

 

 

  「一年……の方ですね。ここは来客用の施設ですが?」

 

 

  「ああ、噂の非戦闘用ISの操縦者に興味があってな。珍しいと思うだろう?戦わないISなど」

 

 

  さて、どうしたものか、とラウラは内心考える。ISをファッションと勘違いしているような、『分っていない』小娘たちが集うIS学園に於いて、目の前にいる眼鏡の少女は『出来る者の歩き方』をする更識 楯無の影響下にある人間。

 

  更識 楯無という人物に関して、ラウラは今一つ不信感を持っている。

 

  本来、非IS保有国の人材を吸い上げるために設けられた制度である『自由国籍権』を利用して、母国ではない国の国家代表となった人物。そして何れ任務の一環として戦闘を挑むことになるだろうことを踏まえ、現在バックアップとして本国に残っている彼女の指揮する部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』に情報収集を任せた。だが、彼女の部隊の諜報力を持ってして殆ど情報を得られなかった事実が存在する。いや、情報そのものは得られた。その実力からは不自然なまでに、普通の経歴が並ぶ情報が。

 

  そして虚は、その楯無の腹心なのだ。ラウラの楯無に対する疑惑は、そのまま彼女にも向けられている。

 

  ただ、楯無が帰属する国はロシアであり、機構の参加国であるので、本来機構に不都合な行動はないだろうとはラウラは考えている。だが、それでも前述の理由で確信が持てずにいた。

 

 

  「理由は理解できますが、ここは関係者以外は減速立ち入り禁止ですよ」

 

 

  尤も疑っている相手も、実の所ラウラと同じ目的で来ていたりする。学園に在籍している生徒の中に、国家の息が掛かった生徒がいるのは確実なのだから。特に露骨なラウラなど。よって後から何かしらの厄介事を持ち込まれることを生徒会、より厳密には楯無が、警戒していた。

 

 

  「……そうか。残念だが明日の授業まで待つことにするよ」

 

 

  対してラウラは、この場は引く事にした。相手は学園で一定の公的権力を持った生徒会。対して自分は学園にいる限りは、少なくとも何れ更識 楯無を下すまでは、一介の生徒に過ぎないのだから。

 

  ラウラにとって優先すべきことは別にあり、当面の目標は敬愛する元教官の、その忌々しい弟。幸いにも相手も専用機持ち、上層部への言い訳は立つ。故にここで問題を起こして、生徒会に目をつけられるのは御免被りたかった。

 

  どうせ別のタイミングで潜入すれば良いだけの話なのだ。少なくとも今回のように、隠れる場所のない場所で偶発的に遭遇することさえなければ。少なくとも同じ生徒の立場で、自分の脅威足り得る技量を持っているのは現時点で楯無だけだと、ラウラは認識している。故に楯無さえ直接動いていなければ、任務に障害はないのだと。

 

  一応、生徒の身分らしく、別れの挨拶をしておく。踵を返し寮に向かうラウラの思考は、如何に任務を果たすかと言う事より、如何に織斑 一夏に制裁を下すかを考えていた。

 

 

 

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