IS 星海と共に   作:郭尭

14 / 15
第十四話

 

 

 

  一般的にISは兵器として扱われている。発明した人間の思惑はさて置いて。

 

  そして兵器である以上、それは軍と言う政府機関に管轄される武力組織の管理下に置くのが最も妥当であろう。事実一部の企業が研究開発の為に所有しているISは殆どが軍の管理下にある。

 

  ISの取り扱いに関する国際条約である『アラスカ条約』では一応、ISの『軍事利用』の禁止が記されているが『軍事目的の所有』は禁止されていないなどといった屁理屈めいた抜け穴が敢えて設けられている。結果、ISは過去の核兵器の様な戦略兵器に近い扱いを受けている。

 

  大規模な汚染を発生させない点は、核兵器に勝っていると言えなくはないが。

 

  さて、ISは誕生からまだ十年程しか経っていない若い兵器である。その効率的な運用法も確立されているとは言い難く、試行錯誤が繰り返されている段階である。故に効率的な運用法を模索する為に、複数の国家が共同の演習を行うこともままある。

 

  そして北大西洋で行われる、欧州連合の合同演習もそのような思惑によるものである。

 

  欧州連合に連なる複数の国が派遣した艦艇と航空機、そしてISが一堂に会し、殺し合いを伴わない戦いの時を待っている。

 

 

  「ミランダ・ウルバーニとの自然な接触、ですか?それなら例の非戦闘用ISを切っ掛けにすればよろしいのではないでしょうか。幸い、話題性はある機体かと」

 

 

  その中の一隻、輸送艦を改装したIS母艦で演習の準備を整えつつ、クラリッサ・ハルフォーフはラウラと通信を交わしていた。クラリッサの所属するIS配属特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ(黒兎)』の隊長を務めるラウラが特務でIS学園にいる為、現在部隊指揮を代行している。

 

  ラウラの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』の姉妹機、『シュヴァルツェア・ツヴァイク』を装着し、同型機一機と共に待機中であり、その猶予を利用しての連絡であった。

 

  ラウラと隊員達の関係は良好とは言えないが、皆プロフィッショナルである。任務に私情を挟むことはなく、そういう面に限ってはある種の信頼関係が出来上がっている。

 

  任務以外に会話らしい会話を行うこともない上司に、取り敢えず無難と思われる提案を伝え、通話を終えたクラリッサは自分たちと同じ艦で待機する一人の人物に目を向けた。

 

  この艦にいるIS操縦者の中で唯一『シュヴァルツェ・ハーゼ』に属さない人物であり、ドイツ軍最強の操縦者、クリスチーネ・ホーエンツォレルン。第二世代の専用機にして世界で数える程しか存在しない三次移行を果たした機体、『グラオエ・ヴルカーン・シュレッケン(灰色の火山の恐怖)』の操縦者である二十代半ばの女性。

 

  肩に掛かる程度の長さで揃えた銀髪、冷たく細められた赤眼、冷たく端麗な容貌。その容姿は、クラリッサの知っている人物が成長すれば斯くならんと思わせる姿だった。

 

  然も有らん。クリスチーネは彼の人物、ラウラ・ボーデウィッヒの遺伝子上の娘と呼べる人物なのである。

 

  過去ある組織で、優秀な兵士の量産の目的に行われた違法研究があった。優秀な人間のDNAに更に手を加え、より強力なクローン兵士を生産する計画。その非人道性から、またその組織の性質上、超国家レベルの作戦行動が行われ、その計画は物理的にも潰された。

 

  この事件の情報は世間には隠匿され、この時救出されたクローン体も各国で保護され、ラウラもそのうちの一人であった。そして、ラウラの製造に使われたのが、過去空軍のトップガンだったクリスチーネの母親のものだった。

 

  その立場上、ラウラの生い立ちを知らされているクラリッサとしては妙な気分である。

 

  クリスチーネのISは専用機である為、装着が早い。そういう事情もあって、彼女はISを展開していない。例の如く水着のようなデザインのISスーツ越しに、スレンダーな体を晒している。

 

  露出された肌を恥ずかしがることもなく、堂々としている様子はIS操縦者にとっては基本的なものである。

 

 

  「中佐、開始十分前です」

 

 

  演習の開始時間が迫っており、必要と思えなかったが、一応といった意味でクラリッサは声を掛けた。それに対しドイツ空軍中佐の階級を持つ女性は頷くことでそれに応える。

 

  そしてその右手の中指に嵌められた指輪に目を向ける。指輪が輝き、クリスチーネの体がふわりと舞い上がる。そして光が彼女の体を覆い、武骨なISとなる。

 

  ドイツのISの特徴である重厚で威圧的なシルエット、背後に浮かぶ一対の大型のアンロック・ユニット。濃い灰色を基本とした直角的な装甲と腰部アーマーと一体化したチェーンガン、脹脛部分のに内蔵された大型爆弾投下装置。

 

  更には小型のノズルを搭載した小球に、赤い半円の装甲を被せたようなアンロック・ユニット。

 

  過去の重戦車の如く、重火力且つ低軌道。分かり易く堅くて強いを体現した機体であると見て取れ、(既に本来の機能から変化があるとは言え)後のレーゲン・シリーズに続く系譜の機体であることは容易に想像できる。

 

  クリスチーネは軽く拳を握り、機体の調子を確認する。そして首を左右に振ってコキコキと鳴らし、ウォームアップの心算か、ISを装備したまま体操を始める。

 

  そのちょっとした奇行も咎める者はいない。ドイツでISに関わるものは誰でも知っていることである。更に言えば、ウォームアップや精神集中の手段は人それぞれ、もっと奇怪な手段をとる人間とて存在する。

 

  そして演習開始五分前となった時点でこの場全てのIS操縦者に通信が入る。

 

 

  『総員、演習モードの作動を確認せよ』

 

 

  現代の一部兵器に、データリンク等を利用した疑似戦闘機能が存在するように、ISにもそれは存在した。それもPICとハイパーセンサーに干渉させ、実戦さながらの映像と衝撃を再現する代物である。

 

 

  「クリスチーネ・ホーエンツォレルン、演習モード、作動確認、異常なし」

 

 

  「クラリッサ・ハルフォーフ、同じく異常なし」

 

 

  通信で演習前の最終確認を終了、命の奪い合いを望まれない戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

  演習はアグレッサー(敵役)を務めるイタリア、ギリシャ軍がイングランド南方の海域からグレートブリテン島へ向けて北上、その他各国の部隊が洋上に展開しこれを防ぐというものである。数の上では不利なイタリア、ギリシャ軍だが攻め手側であるだけに主導権を与えられている。

 

   ISの可能性を模索する意味の強いこの大規模演習。攻め手側の具体的な作戦内容は伝えられていない。無論、然るべき立場にある者達には伝えられているが、現場の守り手側はそうではない。大まかな目標と各種手段で得た敵の位置情報等から作戦を推測、対処することを要求される。

 

   何せISの性能を持ってすれば、できないことなどないのだろう。故にこそ、何ができるか正確に把握する必要があるのである。

 

  そういった理由もあり、攻め手側は作戦に対する高い自由度を与えられている。攻め手を演出するアグレッサー側の第一手は、ミサイル潜水艦から射出されたミサイルカプセルだった。

 

  それを最も早く察知したのは哨戒を担当していたフランス軍の『ラファール・リヴァイブ』。海中から深度を上げながら北上する金属反応を二つという報告が、すぐさまこの作戦における司令部を担当する『クイーン・エリザベス』級空母、『プリンス・オブ・ウェールズ』に上げられる。そして報告を吟味した結果が命令として各部隊へと下されていく。

 

  フランス軍の『ラファール・リヴァイブ』がカプセルを追い続ける中、イギリス軍所属のIS小隊が動き出す。

 

  欧州連合の大半の国が量産機として『ラファール・リヴァイブ』を採用している。イギリス軍も同様で腰部アーマーに各種弾倉をセットした、継戦能力を重視したセッティングの三機編成小隊である。撹乱であろうとそうでなかろうと、手を出してアグレッサーの意図を読む為に。

 

 

  「気に入らないな」

 

 

  「はっ?」

 

 

  ぽつりとクリスチーナの口から洩れた言葉。アグレッサーに対する情報不足、それは実戦なら既に諜報面での敗北を喫していることになる。演習とて気持ちのいい状況設定ではない。演習の意図を思えば、妥当な内容かも知れないが。ISコアのデータリンクにより戦況を鑑みながら自分なりに分析を行っていた。

 

  戦闘を行っている部隊からのデータでは、二つのミサイルカプセルはイギリス軍の小隊とコンタクト直前に水面を突破、空中で分解しそれぞれ二機の『ラファール・リヴァイブ』が飛び出す。軍徽章から見るに、ギリシャ空軍か。

 

  四機とも多数の火器を搭載し面の火力を得る為の簡易パッケージを装備しており、速力の面で劣る。

 

  だがイギリスの小隊と比べ数と火力に勝っており、操縦者の練度に差がなければ増援を送る必要が出るだろう。

 

 

  「後手に回るというのは歯痒いものだ、と」

 

 

  「……同感です」

 

 

  情報の不足はいつの時代の戦争にとっても致命傷足り得る。だが今この場に限って言えば、与えられている情報の方が彼女たちの行動を縛り付けていた。

 

  アグレッサーにはイタリア軍が参加しており、そして彼女らは戦場に姿を見せていない。そしてイタリア軍には彼女がいる。嘗て『モント・グロッソ』にて、格闘戦でもってブリュンヒルデと鎬を削った『じゃじゃ馬』。世界最強の五人と仇名されるうちの一人であり、アグレッサー側の切り札であろう存在。彼女が投入されれば、対抗できるのは同じく五人の一人であるクリスチーナしかいない。

 

  されど戦力的に対抗できても、彼女のISではじゃじゃ馬の足についていけない。振り切られた時点で演習の敗北が決定する。だからこそ精鋭の『シュヴァルツェ・ハーゼ』がサポートに着けられた訳だが。

 

  そして数分後、アグレッサーの動きに守り手側は慌ただしく動き出す。

 

  哨戒任務を継続中のフランス軍『ラファール・リヴァイブ』から伝えられた報告、

 

 

  「イタリア海軍所属ミサイル潜水艦を発見、ミサイルカプセルの射出を……え、アレは……『テンペスタ・カルド(熱き大嵐)』を発見!繰り返します、『テンペスタ・カルド』を発見!」

 

 

  イタリアの誇る英雄、世界最速と謳われるヴァルキリーの出陣であった。

 

 

  『テンペスタはこのまま先行したミサイルカプセルと合流するものとみられる……』

 

 

  報告を受けた司令部の判断はクリスチーネの『グラオエ・ヴルカーン・シュレッケン』を中心に、二個小隊を合流させ防衛ラインを構築、迎撃するものだった。突破力に秀でた『テンペスタ・カルド』を止める為に数に頼った弾幕を充てにしたのである。

 

  だが、それにクリスチーナは異を唱えた。若干数を増やしたところで、テンペスタとミサイルカプセルから現われるであろうラファールを同時に止めることは難しいと考えたためである。

 

 

  「……ですので、私と『シュヴァルツェ・ハーゼ』で先行し、相手の合流前に先制すべきかと」

 

 

  ミサイルカプセルで運搬できるISは、サイズ的に二機が限界だろう。実際今イギリス軍と交戦中のギリシャ軍のラファールも二機ずつ収まっていた。

 

 

  「二機が相手なら優位に事を運べます。逃げられたとしても相応のダメージを与えて見せましょう」

 

 

  ヴルカーンの制圧力とツヴァイク二機のサポート、そして合流する予定の機体を後方で網を張らせればラファールに対しては盤石であると判断した。

 

  クリスチーナの具申に対し、司令部の反応も早かった。最高速で戦闘機に迫るISの戦闘に、熟考する時間はない。思慮深さ以上に思い切りの良さが求められる場面は少なくない。その意味では、今回の司令部の面々は優秀だった。

 

  奇しくもこの時、哨戒のラファールが撃墜判定を受け連絡が途絶える。これにより司令部はテンペスタとカプセルの合流はより遅れると判断を下した。

 

  すぐさまクリスチーネの作戦案を元に各部隊に命令が飛ぶ。当然この場の彼女たちにも。

 

 

  「クリスチーネ・ホーエンツォレルン、『グラオエ・ヴルカーン・シュレッケン』、出撃します。『シュヴァルツェ・ハーゼ』、続け」

 

 

  「了解、クラリッサ・ハルフォーフ、『シュヴァルツィエ・シュヴァイク』、出ます」

 

 

  三機のISがアンロック・ユニットと脚部のバーニアを点火、改装輸送艦を飛び出す。

 

  そして数分後、味方の指示に従い遭遇予想ポイントへと到着。ハイパーセンサーによって齎される遥か遠方の光学情報。肉眼をあらゆる面で凌駕する機能は視界に小さく、迫りくるミサイルカプセルを映して出している。

 

 

  「目標を確認、先制します」

 

 

  ヴルカーンの右手に覆い被さるように現れる戦車砲をサイズダウンしたような兵器、炸薬式小型二連装ゲルリッヒ砲。砲身の先端に向かう程口径が小さくなっていくという独特の構造を持つ火砲である。

 

  砲弾の種類が著しく制限され、砲身の寿命の短さという問題点があり、砲弾の発達に伴い長らく戦場から姿を消していた技術だった。

 

  だがISという比較的小型な機動兵器の登場で状況は変化する。炸薬の発射圧を効率よく砲弾に伝える構造故に、同口径の火砲より高い初速と貫通力を得ることができる。火砲の小型化、即ち扱い易さにも繋がる。

 

  そして放たれる砲弾。

 

  爆音と共に放たれた砲弾は、スナイパーライフルの銃弾さながらに遠方を飛翔するミサイルカプセルを打ち抜いた。だが内部への当たり所が良かったのだろう、ミサイルカプセルが分解され二機のラファールが姿を現す。

 

 

  「シュヴァイク、一号、二号、砲撃準備を。タイミングはこちらが指定する」

 

 

  命令の言葉と共にヴルカーンの背中にある一対のアンロック・ユニットの上部装甲の前方部分が外側に向けてパカリと開き、更に後ろにスライドする。露出した部分は規則的にジュース缶が入れられそうなサイズの穴が幾つも開けられている。

 

 

  「拡散弾頭用意」

 

 

  そして穴から頭を出す小型弾頭。空力抵抗を考慮した円筒状のロケット弾であった。ISによるマルチロックオンを開発している国は幾つか存在しているが、完成に至っていない今、ミサイルは面制圧に向かないのである。故に生み出された無誘導兵器。

 

 

  「発射」

 

 

  発射される、左右計12発の小型ロケット弾。それは発射前に設定された時間を経過した時点で先端部分が展開、内蔵されたクレイモアが大量のベアリング弾を吐き出した。

 

  放出されたベアリング弾はショットガンなどの散弾と違い、ランダムに飛び散るものではない。ロケットにある装置で規則性を持って発射されており、若干の誤差は免れないものの、決まった範囲に決まった数が放たれる、敢えて弾幕の薄いエリアを作って。

 

  当たるなら良し。無数の弾丸で相応のダメージを被ることになる。そして避けたならそこは即ち、

 

 

  「逃げ場などないと知れ、撃て!」

 

 

  砲身の先、寸分違わないということになる。轟音と共に斉射、二発の砲弾が吸い込まれるかのように一機のラファールを殴り飛ばした。

 

  何の構造的特色もない純粋なタングステン合金芯弾はラファールのシールドエネルギーを大幅に削り取る。放たれた砲弾が演習モードのデータでなく実弾だったならば装甲の一部も削り取っていたかも知れない。

 

  そしてヴルカーンの砲撃と同時に、ツヴァイク二機の砲撃も放たれた。大型レールカノンの磁力加速による徹甲弾はもう片方のラファールを襲った。

 

  ダメージにバランスを崩しながらも、二機は体勢を立て直すと牽制射を行いながら三機を突破しようとする。真っ当に戦う気はないようだった。そしてクラリッサ達は敢えて二機を見逃した。それが最上位階級者であるクリスチーネの判断であり、その理由を正しく理解しているからである。

 

  二機のラファールは後方に集結中の味方と任せればいい。脅威は前方より異常な速度で向かってくるIS反応。

 

 

  「AICの準備を」

 

 

  「了解、受け止めます」

 

 

  クラリッサ達はクリスチーネより前に出る。高速で直進を続けるISを止める為に。そしてハイパーセンサーから送られてきた光学情報に、クラリッサ達は若干の驚愕を覚えた。資料で知ってはいたが、実際に目にするとやはり驚く。

 

  迫ってくるIS.それは人型には程遠く。長く鋭く前に伸びた機首、四つの翼を持ち、バーニアの方向を後部に集中した構造。正面から見て上二本の翼が長い、平らなXの字を思わせる形状。それは正に、人々が思い描く、未来の戦闘機のような姿だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。