世界は急変する。
そんなことは生まれた時から知っている。
避難用のトラックの中で生まれたらしい俺に故郷と呼べるものはない。
アラガミに父と母を喰い殺されたらしい俺に肉親と呼べるものはない。
そしてあの日、家族と思っていた孤児院の皆も喰い殺されてしまった。
世界は急変する…いやこれこそが世界なのか。
ある日、フェンリルの紋章を背中に着けた黒服が数人、俺が住処にしているボロボロのバラックへやって来た。
最初は、あぁ最近隠れて暴れすぎたからな、罰金とか言われても無一文だしどうでもいいか、なんてぼぅっと考えていた。
しかし黒服たちは眉一つ動かさずに予想だにしなかったことを言った。
「貴方の遺伝子に我々が持つ神機への適性が発見されました」
…あぁ、ゴッドイーターになれってことか。
確かに予想はしなかった。でもだからといって驚きもしなかった。
昨日まで元気にしていた人がその翌日には神様の贄になっていることが日常になった世界。
これぐらいの事に驚くような、そんな余裕はカケラもなかった。
それから黒服は極東支部だとか検査だとか色々言っていたけど、全部聞いていなかった。
どうだっていい。
ゴッドイーターになれる。だからどうした。
両親やみんなの仇を取るだとか、これから良い暮らしができるだとか、ましてや世界を守るだとか、そんなことは微塵にも思わなかった。
ただ来いと言われたから行く。
「…私たちからは以上です。よろしいですか?神代守人さん」
「…はい」
俺は何も持っていなかった。
それは元々から持っていなかったのか。
それとも何かに奪われてしまったからか。
どちらにしろ結果に変わりはない。
家族と友は喰われた。
金がなく、食う物に困る生活では、とても頑丈な体などではない。
特別何かの才能を見出したことも、見出されたこともなく
なにより、こうやって生きていこうという希望も信念も活力もない。
ただ、何となく生きているだけの存在。
ただ、死んでいないだけの有機物。
それが俺であり、神代守人である。
いつの間にやら黒服達が乗ってきた自動車に乗せられ、
気がついたら住処にしていたバラックは遥か後方に過ぎ去っていた。
感慨も郷愁もなく、過ぎ去っていく風景。
ただただ、俺はこれからどういう風に死ぬんだろうということを漠然と考えていた。
もう、どうだって良いのだ。
そして、この時を境にして、俺は気がつかないままに
大きな混乱の真っ只中に飲み込まれていくことになる。
プロローグ〈了〉